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57話 特異体

特異体は2種類存在する。

ダンジョンや未踏の地の奥深くに眠る野生のモノ。

もう一つが、未知のメカニズムで「なった」モノ。


前者は主に七罪や三大欲求などの生命の本質に沿った特性を持ち、後者は多種多様な(と言っても数自体が数えられる程度しか存在しない以上断言はできないが)モノのビジョンに沿った特性を有する。


これまでに確認された野生種は鳥、草花、■■の3つ。そして変異種はドラゴン、アンデット、石像の3つ。


どうして「なった」のかは前述の通り未解明のままだが、分かっている事は幾つかある。

その一つとして、特異体はどれも異常なまでの魔力を有し、また周囲の魔力を絶えず吸収し続けているのにも関わらず、依然として魔力の過剰摂取による自家中毒を起こさない。そして魔法を使用しない。

つまり、常に魔力を消費し続けている。魔法よりも、もっと原始的な方法でである。


報告書に記載したように、魔力とは現実改変を行うためのリソースであり、魔法文字は術者に指向性を持たせることで、その効率を飛躍的に向上させる記号である。

ここから推測するに、特異体は「核」を中心に()()()「設計図」に基づいたその肉体を魔力で改変、再構築していると思われる。


その設計図とは元となった存在が特異体と成る原因なのではないか。

力、不死、栄光。どれも「存在はするが成し得ない」モノだ。詰まる所、特異体の元となった存在は人間なのではないかと私は予想する。事実確認された変異種は全て元が人間であり、亜人や魔物と言った多種族が変異したという報告は無い。あるいは、野生種が人間以外が確認できない未踏の地で変異した姿かもしれないが。


しかしその場合疑問点が生じる。上記のような、所謂「願望」や「憧れ」の姿を取る、つまり理想に対する現実というギャップへの嫉妬や絶望がトリガーとなる事はある程度予測がつくのだが、であれば何故こうも数が少ないのだろうか。


少なくともこの国には巨大な格差が存在する。所謂「路地裏」と呼ばれるスラム街では、毎日のように抗争が起こり、そこの住民は今日を生きていくのに精一杯であり、常に勝者と敗者がそこには存在する。

生を奪われるという屈辱、自分の生まれに対する怒り、境遇に対する憎悪、嫉妬、強欲、飢え、驕り、怠惰、強姦。

変異するに足る条件は満たしているはずだが、依然としてそのような報告は為されていない。つまり、更なる条件が存在するという結論に帰結する。

それが血統や年齢、体質と言った先天的要素による物なのか、それとも状況や記憶、感応と言った後天的要素による物なのかは定かではないが、そこには規則性が存在することは間違いないだろう。



―――――――――――






カチッ





【………………】



支えを失ったカーリーの体が、放心状態のロットの体に抱き着くように倒れ、同時にロットが膝から崩れ落ちる。

その瞬間、周囲に飛び散ったカーリーの血が、肉が、一斉にロットの元に集まり、群れを成していく。


黒い魔力が彼女を包み、やがてそれは何かを模っていく。

あるいは刺突剣(フルーレ)

あるいは(カイトシールド)

あるいは全身鎧(フルプレート)

あるいは小手(ガントレット)

あるいは首なし馬(ヘッドレス・ホース)


4mはあろうその巨体からは、ありとあらゆる隙間から血のような、しかし粘着性の無い赤い水が、まるで涙のようにとめどなく溢れ続ける。

特徴的なのはその頭部であろう。まるで首なし騎士(デュラハン)のように、首から上が存在せず、代わりに本来それがあるべき場所は青白い炎が火種も無く灯っていた。馬も同様である。


真っ黒な首なし馬に跨る、赤い水を流し続ける真っ黒な首なし騎士。

その腕の中に、守るべきお姫様(カーリー)を抱えながら。



*




「はぁ……………駄犬、貴様には心底失望したぞ。」



パチンと生徒会長が指を鳴らすと、彼女の足元に即席の魔法陣が描かれる。


それは下級悪魔の召喚術式。

魔界の生物を下僕として召喚する魔法であり、消費した魔力に応じて召喚できる悪魔の強さが上下する。そして召喚される対象によっては人間界にいるものと同じ種族という事があるが、当然魔界の方が魔力濃度が圧倒的に高い為、あらゆる面でそれらを凌駕する。


召喚される悪魔、もとい魔界生物の強さはピンキリであり、魔結晶などの触媒を用いずに人間一人が召喚した場合は一番弱いリトルデーモン(灰色の肌をした膜翼の生えた筋肉質な小人。それでもBランク以上の冒険者でなければ勝つのは厳しい)が召喚され、逆に大人数や高純度の魔結晶を触媒に使うとグレイターデーモン(リトルデーモンの大人版。言わずもがなの戦闘力で、戦闘を生業としているBランクパーティでさえ勝つのは困難)辺りが召喚される。


基本的に召喚魔法は召喚主の命令に従うが、呼び出す対象が強力であればあるほど命令を聞かなくなるリスクが高くなる。勿論、彼女にそんなことなどありはしないが。




呼び出されたのは3体のヘルバウンド。魔力で模られた紫の炎を纏った巨大な狼であり、その巨躯を生かした突進攻撃を得意とする。

人間界のそれは魔力量的にはBランクダンジョンに何体か湧く程度だが、これらも同様に純魔界産であるためあちらとは比べ物にならない強さを発揮する。

魔界内の等級的には下の中である。しかし触媒も無しに人間が同じことをしようとすると、魔導国のエリート、つまり魔法のスペシャリストでさえ体の一部を代償に払う必要があるだろう。悪魔召喚とはそれ程までに強力であり、危険なのだ。



「行け。」


召喚主の命令に従い、3体のヘルバウンドは手狭な廊下を三次元的に飛び回りながら、首なし騎士に攻撃を仕掛ける。

ありとあらゆる衝撃の威力を抑える<絶壁(ガーディアンズ)>保有者でさえ、まともに受けたら全身が粉々に吹き飛ぶレベルの突撃。余波でさえ壁や床にヒビを入れる。

ロットも半魔人であるため多少は人間より頑丈ではあるが、それでも無事でいられるはずは無かった。









しかし、ヘルバウンドは1体も首なし騎士の元までたどり着くことが出来なかった。



「………面倒だな。あの数は自動迎撃型か。」



何故ならば、その全てが首なし騎士の足元の黒い塊から飛び出た幾本もの棘に貫かれているからだ。しかもその棘は正確にヘルバウンド達の核、心臓部を捉え、破壊している。


核を破壊されたヘルバウンド達は、魔力の体を保つことが出来ずに霧散してしまう。獣足らしめる鳴き声一つあげる事さえ許されなかった。


しかも、その黒い塊は本体から流れる赤い水によってその範囲を拡大し、床や壁を侵蝕しながらどんどん増殖していく。触れた花は一瞬にして液状化し、塊と同化してしまった。




「(さて、どうするか。このハコモノをにはまだ価値があるから壊したくはないのだがな。あまり派手にやらかすと後処理のルベルグ(広報部委員長)の負担が大きいし、とはいえ時間も掛けてられん。  …………久々にアレを使うか。)」




生徒会長が右手を上げ、何かの準備をしようとした時だった。

スッと、首なし騎士が剣を掲げる。


その瞬間。





天井を突き破り、5mはあろう巨大な両手剣(ツヴァイハンダー)が彼女の上空から落下する。





「っ…!!!!!!」



予想外からの攻撃、そして数十年ぶりに訪れた背筋の寒さに一瞬反応が遅れるが、瞬間移動に等しい速さで回避する。

その剣は一階まで綺麗に突き刺さり、確実に残っていた生徒の何人かが巻き込まれて肉片と化しているだろう。



巨大な剣が魔力へと霧散すると同時に、首なし騎士の周囲をどこからともなく現れた幾本ものフルーレが切っ先を外へ向けながら円を為して回転する。

一部の魔弾使いの間には、発射予定の魔力弾を予め展開し、タイミングに合わせていつでも発射できるようにするという臨機応変な戦闘スタイルがあるが、正にその型だろう。消費魔力量は高いが、防御と攻撃を兼ね備えた理想形だ。



「流石に面倒だな……… ヴァース、来い!!」



会長が叫ぶと、即座に彼女の傍に一人の女性が現れる。

ヴァース・シュツルム。筋肉質な体型、豊満な胸部、黒髪碧眼のその女性は、ビスタの回想にも出てきた風紀部委員長その人である。


彼女もまた会長同様魔人であり、等級こそ及ばないものの全体では上位に位置する。風紀部委員長という事もありその実力は折り紙付きであり、こと戦闘能力に関してのみで言えば、会長さえ上回る力の持ち主である。



「私は魔戒術式で奴を飛ばす。3分間足止めを頼む。」

「承りました。会長。」



会長が屋上へ跳躍すると同時に、ヴァースの手にどこからともなくロングソードが握られる。


やがて騎士を回るフルーレの回転は音速に達し、連続で発射される。

だが、かなりの密度を誇るフルーレの弾丸は、業物のロングソードによっていとも容易く弾き落とされた。


あの巨躯からどうやってそんな速度が出せるのか。余波だけで岩盤を斬り裂きそうな程の剣圧は、常人では目視する事さえ叶わないだろう。



「フン。貴様程度の相手など、3分も必要無い。」


―――――――――――



目が覚めると、薬品の匂いが漂う部屋のベッドの上で横になっていた。



「………………あれ、ここは…………保健室…?

何でこんなところに居るんだろう………………………………。」



必死で頭の中を探り、記憶を手繰り寄せる。

しかし、得られたものはどこか大事な部分が欠けていた。



「(そうだ、確か6限目の授業の後、保健室に運び込まれたんだ。

……………………………でも何があったんだっけ………?)」



立ち上がっても、特に痛む箇所は無い。さほど大きな怪我でも無かったのだろう。



「お、起きたか。()()()()()()()()()()()()()()()()()。多分魔法学の実験とかなんかで魔力使いすぎちゃったんじゃない? 近接コースの生徒に多いんだよそういうの。うちはコース毎に特化させちゃうから、反対のことするのは大変なのよね~。


ほれ、荷物そこに置いてあるから。気を付けて帰りなさい。」

「はい、先生。ありがとうございました。さようなら。」




廊下を歩いていると転びそうになった。

うっかりうっかり。気を付けないと。


「おっとっと……危ない危ない。そうだ、()()()()()()()()()()()()()()()。 ………にしても修理遅いなぁ…かれこれこの学園に入ってからもう4年経つってのに、まだ修理されないなんて。


…………………………………え?」





一瞬、足元に赤い物体が見えたような気がした。

それはまるで人間の―――





「(ゴシゴシゴシ)……………………




…気のせいか。」


もう一度見てみると、そんなものはハナから存在していなかったかのように、いつもの綺麗な穴の空いた床があった。

どうやら相当疲れているらしい。幻覚にしては趣味が悪い。


「嫌なモノ見ちゃったな………。最近派閥の方で張り切りすぎてるからかな、今日は早く寝よう。」

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