53話 力の理由
それから、僅か2分後。
「………クソ…………強すぎるだろ…コイツ………………」
「ううう…………痛い…痛い………痛い……痛い………」
「………」
それは、最早蹂躙と呼べるほど一方的な展開だった。
魔法による強化のお陰か、今まで授業などで見てきたロットさんの動きとはまるで違う、超高速の不可避の打撃。
しかもその速度の中で、関節部や顎、股間等の弱点を的確に叩いている。半数以上が開始1分足らずで逃げ出そうとしたが、背中を向ける間もなく倒されて行った。
「(加勢する暇さえなかった………)」
一応こちらに来た2人は私が倒したが、残りの13人は全員彼女が倒してしまった。
速度という点で見れば「錆の邂逅」で一番足の速かったエンフォーサーさえ超えるのではないかと思えるレベル。怪物と言うのは思いもよらない所に潜んでいた。と言うか、ここまで強ければわざわざこんな所にいなくてもエース協会、しかも結構上のポストに就くことだってできるのではないのか。
ともあれ彼女が敵でなくて本当に良かった。
「お~い、カーリー、どこだ~い。
あ、いたいた。全くもう、どこうろついてたん………
えっ何この状況」
流石の観察眼に長けたビスタさんも、女子生徒二人を囲むようにして十数人の男子が倒れているという状況は想像しえなかったらしい。
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一先ず事情を説明し、寮に居た風紀委員の3年の人達に連行させてもらった。夜分遅くに申し訳ないが、文句なら襲ってきた奴らに言って欲しい。
「さて、それじゃぁ私は戻るわね。また明日会いましょう。」
「はい! 今日はありがとうございました!」
何から何まで世話になってばかりだなぁ……。
今度、お菓子でも贈ろうかな。ちょっと奮発して良いお茶菓子…の前にまずは情報収集から始めなきゃ。
ちなみにその後部屋に戻り今日の出来事を話したら、ビスタさんが物凄く落ち込んでいた。
「い、いつの間にそんな仲に……… 最近カーリーに仲間外れにされてる気がするなぁ………。ご飯も別々に食べるようになっちゃったし……あまり話さなくなっちゃったし………派閥の会合にも全然来てくれないし……グスン。」
前半はともかく後半は耳が痛い。もう行かなくなってから1ヶ月は経過している。ビスタさんを始め、クラスの他2~3名の人達も着々と力を付け、今ではあの時戦ったクリス・ヴァ―ミリアにさえ勝てそうな程である。
…目の前でロットさんという明確な目標ができた以上、私もそろそろ現実と向き合う必要があるのだろう。
胸が締め付けられるような気持ちだ。まだ葛藤は残っているらしい。
「そうだ! 今度三人で北区にある喫茶店でご飯食べない? 僕ロットさんと話した事ほとんどないからさ、色々お話したいな~って思って。」
こう見えても彼、私が編入してきた時は結構ナイーブな性格だったのだが、描写をしていないだけでこの二か月余りでかなり明るい性格になった。現在クラスでは年明けに行うらしい学園祭なる催しの準備に勤しんでおり、彼はクラスの監督兼責任者として取り組んでいる。
他にも本ばかり読んでいた休憩時間は、何人ものクラスメイトと囲んでお喋りをしているなど、最初の頃とは想像もつかない程の成長ぶりである。
スランプに陥りジェラシーを丸出しにしている私とは真逆の存在だった。
「
……………………………………嫌。」
「え?」
「ううん、何でもない。それよりどんな店か聞かせて! ご飯は美味しい? 値段はどれくらい? 紅茶のおかわりは?―――― 」
来てほしいのか来てほしくないのかどっちなのか、私にはわからない。
今の私には、葛藤を葛藤のまま残さないでいる為の勇気が無い。
【そんなんだから、みんなお前に愛想を尽かすんだよ】
って、昔は何度も言われたな。
あの日以来、全く聞こえなくなったけど。
―――――――――――
10数分後、ロット宅前。
「ちょっと関節外したり骨を砕くだけで動けなくなるなんて、人間ってやっぱり脆いわね。それにロット、あなたも。鍛えている方なんでしょうけど、せめて準備運動くらいは耐えなさい。」
顔の青白さや思うように動かない体を無視してそう言いながら、玄関をくぐる。
人格が入れ替わり、ロットの人格が表に出てくる。張り詰めていた表情は一瞬にして瓦解し、脱力で気の抜けるような顔になる。
そして無理をし過ぎた体が限界を迎え、倒れそうになる瞬間、出迎えてくれたピリスがそっと支えた。
「ピ、ピリス………ありがとう……ただいま。」
「お嬢、無理はせんといてくだせぇや。ソイツの力は欠片でさえも人間には扱いきれない代物なんですから。」
「でも、こうでもしなきゃアイツに勝てないから………今のうちに慣らしておかないと………やっと足跡が見えるようになって、噂として広まり始めたんだから、後は力さえあれば…」
「…………………はぁ、しゃーない。体治したら、次の訓練はソイツに戦わせな。」
「でも、そんなことしたらピリスが…………」
「安心しなお嬢。こんな体だが、魔人もどき程度ならどうにかなる。流石にモノホンはキツイけどな。」
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数日前の外出許可日、クレセントのある場所にて。
「どうぞ。今の手持ちの中で最高純度の魔結晶です。」
「助かる。ヴァ―ミリア。」
「バカ息子のせいで家まで焼く羽目になりましたから、もうそろそろ貯蓄が切れそうですけどね。…ほんとにすみません。うちのバカ息子が余計な事をしなければ「ああなる」ことも無かったのに……」
「アイボリー曰くどの道そうなる「運命」だったそうだ。お主が気に病むことは無い。それに、「金」から我の力さえ取り戻せればアレは用済みよ。」
「(その割にはやけに悲しそうな表情をしてますけどね……バレバレですよ)
………それと、その彼女でも扱えそうな代物がある工房のリストです。剣よりも格闘技がメインと聞いたので、個人的には少々値は張りますが「DAWNAtelier」がオススメです。魔機の技術を基に、多機能型の武器を多く揃えてあります。オーダーメイドでも金貨1000枚もあれば十分購入できるでしょう。
いくらアイボリー氏のような「心象武器」の条件を満たしているとはいえ流石に素手じゃアレですし…」
「兆候が見られた以上、後は我の力を取り戻せられれば抽出は出来る。それまでの辛抱だな。
よし。引き続き情報収集を頼む。」
「了解しました。
…最後にもう一つ。ナルダ様もお気づきかと思いますが、ローズ学園には魔人が約5体、半人半魔が1体、更に人間のコミュニティでも噂になっている「吸血鬼」も活動状態にあります。彼女のスキルが使えない今、諱を読み取ることが出来るのは契約魔法か貴方の魔法しかない以上、なるべく奴らと敵対するのは避けてください。」
「(生徒会とやらの面子の五人が純粋種、そして恐らくだが近頃カーリーと交流しているロットとかいうあの少女が半人半魔か。道理で魔界の香りが薄いわけだ。
………………ならば、あのレイナとかいう奴は何者だ…? 人間ではないとは思うが、かと言って魔人や天使のような魔力も感じさせなかった。我と同じ「端末」でも無いとなると………)」




