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52話 解け始める壁

流石に話の流れが飛び過ぎていて理解が及ばなかったので、手短に説明してもらった。


どうやら二重人格と言う説は正しいようで、家の外と中で人格が切り替わるようだ。そんな限定的な………

そして家の中での人格は外での人格と比べて当然と言えば当然だが対人経験が全くと言っていいほど無く、唯一家の中に招いた幼馴染である「クラウス&ユミナ」の店員さんの言葉に従い、「接点を持ったらまずは友達から」だそうだ。


人格ごとの記憶は共有しているが、もう片方にとっては夢みたいなもので、やはり肌で体感しないとわからないらしく、家の中の人格がここまで人間慣れしていないのもそれが原因だろう。


更に家の中の人格、もとい家内ロットさんは意外にも寂しがり屋なようで、外の人格、つまりいつものロットさんが私と仲良くしているのを見て、なんやかんやで意思表示をして私を家の中まで連れてきてもらった……と言うわけである。



「いいですよ。私で良ければ。」



「ほんとぉ!!? よかったぁぁぁ~!!!!!!!」




不安そうな顔から一変、ぱっとした嬉しそうな表情に変化し、その身体能力を生かしてその場で跳躍し、テーブルを飛び越し抱き着いてきた。



「おわっぷ!!!??」



予想外の行動に反応できず、ソファごと二人まとめて後ろに倒れてしまう。何とまぁ慎重なのか大胆なのかよくわからない性格である。だが私はそういうのは何となく好みではある。


「ねねね、今度から、カーリーって呼んでいいかな!! 私の事もロットでいいからさ!!!」


「い、良いですよ………   でもロットさんを呼び捨てにするのは少し畏れ多いので、ちゃん付で呼ばせてもらいますね。




                  だからちょっと力緩めて………」




い、痛い……

彼女も近接系スキルホルダーの一人であることは間違いないので、本気で抱きしめられると本当に痛いのである。


ロットちゃん、ロットさん、ロット。う~ん、違和感。ナル様とナルダ様みたく発言時のみ変更するか。

…そういやロットさんの家名って何だろう……………

*


10分程抱き着いたまま離れず、ピリスさんがベリィと剥がしてようやく落ち着いて席に着いた。

まだちょっとひりひりする……………可哀想だから言わないけど………



それからしばらく互いの趣味など、深い部分の話をした。

あくまで引き継げるのはエピソードだけなので外の人格のロットさんについてはあまりわからなかったが、家内ロットさんの好き嫌いや、得意な事等を色々知ることが出来た。



「私はね、実は魔物肉が結構好きなんだ。流石に堂々と食べるわけには行かないけど、よくピリスに持って来させてるの。彼女、本職は冒険者だけど料理が凄い上手だから、良い部位を厳選して使ってくれてるの。」


「どんな魔物が好きなんですか?」


「亜人種も良いけど、やっぱりディノボア(魔猪)(魔力で凶暴化したイノシシ)かな。特にこの時期は冬を乗り越えるために沢山脂肪を蓄えるから、脂がのっててかなり美味しいわ。街ではゲテモノ食と揶揄されているけど、普通に家畜を超えるくらいね。」


「(じゅるり)」



等々と言った平和的な会話が続いた。家内ロットさんも大分饒舌になってきて、外の人格と遜色ない振る舞いを見せていた。慣れと言うものだろうか。


いつの間にかすっかり外は暗くなり、時刻は18時を過ぎていた。



「っと、確か寮の門限は19時だから、そろそろ時間かしら。ごめんなさいね、こんな遅くまで付き合わせちゃって。」


「いえいえ、私もとても楽しかったです。」


「ほんと!? えへへ~………」



…訂正する。社交性が未熟と言うより子供っぽい。そして外の人格とはやはりかけ離れている。まぁそのギャップが面白いと言えば面白いのだが。



「せっかくだから寮まで送っていくわ。」


「大丈夫ですよ、道順はちゃんと覚えてますから。」


「ピリスがご飯作り終えるまで暇なの、だからお願い!」


「わ、分かりましたから頭上げてください~!!」


――――――――


という事で現在絶賛帰宅中である。

ロットさんの中身もすっかり外の人格に入れ替わり、言葉や態度に冷静さが戻っている。

ちなみに、こちらはあまり自分の事を話したがらないようで、特筆すべき情報は引き出せなかった。



そうして二人で話しながら歩いている最中、ふとロットさんの足が止まる。




「…………」




「どうしました?    …………………っ!!?」






一歩遅れて私も気付く。

何者かの視線を感じる。それも一人や二人では無い、その数凡そ十五人ほどである。前八人、後ろ七人。



「これだけの人数を用意するなんて、やけに用意周到ね。という事は狙いはカーリー、貴女、と言うかその冒険者カードね。多分。」


「に、逃げた方が良くないですか? 流石にあの人数を相手にするのは厳しくないですかね………」



何とも弱気な言葉だろうか。とはいえ無理も無い。

何故なら視線の方向から一瞬光が差したからだ。

暗闇の中に光るモノ、つまりは金属を意味する。鎧なんて仰々しいものを付けて隠密するわけでもあるまいし、恐らくは金属製の武器であることが伺える。

対してこちらは木剣がそれぞれ一本ずつ。それもしばらく打ち込みに使っているので耐久面に不安が残る。



「問題ないわ、剣と魔法の併用に十分慣れた貴女なら、素人が何人束になって掛かってこようと倒せるわ。



………………さて、いつまで隠れているのかしら。早く出て来たらどう?」




『ちっ、バレてたか。』



木々や建物の陰から何人もの生徒たちが出てくる。暗くてよく見えないが、貴族派閥のバッヂを付けているのが何人かいた。派閥争いの尖兵…………にしては数が多すぎる。やはり私がぶんどったヴァ―ミリア家の資金が狙いなのだろう。

上級貴族の資産の一割ともなれば、中小貴族であればライバルを簡単に出し抜くことが出来る。なんとも欲深い人間達だろうか。


そして予想通り鉄製の剣を数名、ガントレットやダガーもついでに何人か居た。殺すこともいとわないとは、外道な。





「へっへっ、クリスの野郎もバカだねぇ。始めっからこうすりゃ良かったんだよ。」

「そうそう、俺らの目的、分かってんだろ? 早う冒険者カード渡した方が早く帰れるぜ?」

「15人で山分けしても金貨数百枚は手に入る………こんな楽な仕事他に無ぇぜ。ありがとなぁ、カーリーちゃんよぉ!!」



(ちなみに上の二人は30話で魔法陣を設置して妨害しようとしていた貴族派閥、と言うよりその金と権力にたかる中貴族の子息である。)


すっかり囲まれてしまい、逃げることはできない。

と言うか結構先のところからも集まってきているように、どの道逃げ道はとっくに封鎖されていたことになる。

倒すしかない…こいつ等全員…!!



「ま、とりあえず私が手本を見せるわ。[エンハンス・スプリント]!!!」




丁度互いに、いざ戦闘準備という状態だった。実技の授業では互いに剣を構えた状態で始まるから、ここの生徒はアンブッシュを避けたがるため、奇襲に弱いと前にロットさんが言っていた気がする。実際に奇襲を受けた時はまだ学園のやり方に慣れていなかったから何とか反応できたが、今ではすっかり鈍ってしまっているだろう。


木剣を取り出そうとした瞬間、既に抜刀していたロットさんが消える。


「えっ?」






「ふっ!!!」


「さて、大人しくカードを………… ごぶおぉっ!!!??」



否、消えたのではない。

これが[エンハンス・スプリント]の効力、股関節から下に掛けて血流を活発化させることで、魔力量によってはスキルに匹敵さえする驚異的な脚力を生み出すことが出来る。


油断していた男の一人に<縮地>並の速度で瞬時に間合いに踏み込み、脇腹に木剣を振り降ろす。

メキメキメキ…という音が聞こえる。当たった箇所から察するにあばら骨が3本程折れただろう。どうやら彼女の言っていた通りであり、ものの見事に奇襲(?)が決まる。



「あっ、あがあああああああああああああっ!!!!!!!!

痛ええええええええええええええええええ!!!!!!ちくしょおおおおおおおおおおおおおお胸がああああああああああああ!!!!!!」



向こうにとっては幸いなことに、この時間帯にこの道を通るのは私達だけであるためどれだけ大声を出しても問題ないが、かなりの絶叫を揚げる。


「こっ、この野郎!!!!」



前後から男たちが一斉に襲いかかってくる。


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