05 ナルダの森
ナルダの森。
それはリーゼ村の近くにある森で、ダンジョンと呼ぶには保有魔力量が少なく、生まれる魔物も他所と比べて非常に弱い。
そのためリーゼ村で冒険者を志望している少年少女が、聖抜の日の後の腕試しとして挑戦されている。
またとある言い伝えにより、概念魔法により封鎖されている道がある。
村の子供達に絶対に入らないよう厳しく言いつけているが、たまに入ってしまい、一日後森の入口に倒れていたなんてことがある。
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引き出しにあった石は、まるで方位磁石のようだった。
生産が難しく貴重品の為シンが使っているのを見た事しかないが、使い方はほとんど一緒だ。
なけなしの携帯食料を食べながら、森に辿り着く。
それと同時に、円形の石に自動で進むべき方角へ光が灯る。
時間は日の入り、一人で森に入るのは正直言ってかなり怖いが、やるしかない。
父さんの部屋を探している間しかランタンを付けていなかったが、燃料はあまり余裕が無い。
一時間以内に終わらせる必要があるだろう。
覚悟を決めて森の中へ足を踏み入れる。
石が示す方角へ道なりに。
私自身ビビりという程ではないが怖いの痛いのは嫌なので、無茶ぶりされても問題ない様にこの森には何度か下見に来たことがある。
伐採などで道が変わっていなければ、迷う事は無いだろう。
しばらく歩いた所で、足音が聞こえた。
木の陰に隠れて息を潜める。
足音の主は小鬼。
ダンジョンなどで魔力によって自然発生したオリジナルのゴブリンは、他の魔物に比べて非常に貧弱で知能も低い方だ。
しかし奴らの本領はその繁殖力にある。
別種の雌とつがいになる事で、その種のポテンシャルを引き継いだ亜種を生み出す。
人間との配合は、身体能力が強化されたホブゴブリン。
馬との配合は、脚力に特化したゴブランナー。
スライム(!!!)との配合は、スライムの特性を引き継いだゴブリム。
などなど。
配合を繰り返す度段々と繁殖力は落ちてくるが、その分かなり強力になる。
我々人間が個の存続を優先するよう進化したのに対し、ゴブリンは種の存続を優先するよう進化したのだ。
雄しかいない場合は生存を優先するが、もし他種の雌を見かけたら…
なおその存続方法の都合上、ゴブリンは雄しか存在しない。
ガッデム。
そしてもう一つ特徴がある。
「(ランタンを閉じて…と。 さて、<共感>。)」
背後の木に手をあて、<共感>を発動する。
遺憾なく効果は発揮され、木の向こう側から嫌な気配をいくつか感じた。
そう、ゴブリンは単体では弱い。その弱さを数でカバーしているのだ。
冒険者はそれぞれの役割分担を加味して4人パーティが主流であり、それ以上は統率が難しくなっていくが、奴らは最低で4匹で群れる。
この数というアドバンテージは加速度的に増大し、1匹2匹がやられても器官として問題なく機能してしまう。
おまけに知能は低いわりに野性的であるため行動が読みづらく、対処の困難さに拍車をかけている。
そのダンジョンの保有魔力量、もといランクで数は変わるが、多い時は10匹とかに当たったこともある。
食糧確保とか大変だろうにと思うが、個よりも種を選ぶなら納得がいく。
飢餓状態では共喰いも辞さないのだろうか。嫌な光景だ。
このように低く見られがちなゴブリンだが、侮れない存在なのだ。
正確性はかなり落ちるが、<迷宮地図>と<敵対感知>を足して2で割ったような能力。
駆け出しの頃はよくこうやって遮蔽物から敵の感知をしていたものだ。
最近は魔導具のような罠や扉、壁が多くなった上その制限の無い<迷宮地図>の加入により殆ど活躍の機会に恵まれなかったが、シンが言っていたように初めの1年は結構役立てていたのだ。
「(数は……3、いや2。)」
群れる数、乃ち生まれてくる数はランクで決まってくる。
このナルダの森はランク圏外、もといダンジョンもどきの為多くて4がせいぜいというところだ。
先程の説明もあくまでランクC以上のダンジョンの基準なので、このナルダの森がいかに安全かよくわかるだろう。
こちらの装備は帯刀しているショートソードが一本、作業用の小型ナイフが2本。問題は無い。
足元の石を投げて、木にぶつかり音が鳴ったと同時に反対方向から飛び出す。
基本的に閉所暮らしのゴブリンはあまり視力が良くない代わりに聴覚・嗅覚に特化している。
そのため隠れ通すことは難しいので聴覚と低い知能を利用した不意打ちに出た。
「……っせいっ!」
石の音に気をとられ一瞬反応が遅れた隙に、まずは1体目の首を斬り飛ばす。
暗くてよく見えないが、<共感>で位置は把握しているので関係ない。
相方がやられたことに気が付いた向こうも、腰に付けていた短剣を抜刀し、斬りかかってくる。
しかしリーチはこちらが圧倒的に有利、1匹目を斬った勢いを殺さず2匹目の腕を斬る。
そして敢無く落下するゴブリンの喉元へナイフを―――――
「……ふぅ。」
やはり戦闘は怖い。死ぬかもしれないと思うと、心臓がバクバクする。
<剣聖>や<見切り>だったら正面から一瞬で片づけられるのに…
なおこれまで散々「無能」という言葉を強調してきたが、あくまで同世代に比べて成長がかなり遅いと言うだけで、3年間の経験はこの程度の魔物相手ならご覧のように倒すことができる。
それでも普通の戦闘向きのスキルを発芽させた新人冒険者には3ヶ月もかからず追い抜かされる程度のものだ。
悔しくて何度も涙を流した。
そして装備含めた総重量60kgの私を軽々と殴り飛ばしたリガードさんが、この血気盛んな村で村長たらしめる理由もよくわかるだろう。
ちなみに3年間冒険者を最前線で生き続けられれば、Bランク程度のリーダーには間違いなくなる事ができる。
「錆の邂逅」のリーダーであるシンは28らしい。ついでに既婚者とのこと。
昇進が早すぎないかと思うかもしれないが、平均寿命が50歳前後なのでトータルでは妥当なのだ。
納刀し、移動を再開する。
先程方位磁石のようだと言ったが、訂正させてもらう。
ただ単にゴールの方角を示すだけでなく、行くべきルートも加味した方角になっている。
これなら無理な近道もないため安心だ。
「……………」
ある程度進んだところでふと足を止める。
その理由は、眼前のしめ縄にあった。
子供の頃、何度も母さんから入ってはいけないと言われた場所。
その目印であるしめ縄。
「『ナルダ様の御膝下』………ここを通れって言うの…?」
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毎度宣伝するのもアレですし、既にブクマしていただいた方々にも迷惑ですので、宣伝定型文ではなく直筆にしようと思います。それと一気読み(と言ってもまだ5話ですが)を主流としている方々も一々宣伝されてはうっとおしいと思いますので、最新話より前の後書きの宣伝は編集で消しておきます。代わりに一言コメントでも添えて。
今後とも静かなオーk…静謐の楽団をよろしくお願いします。