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48話 邂逅/REtardando

ピーーーーーーーー。

手首に装着した魔導具から、制限時間超過のアラームが鳴り響く。

また失敗だ。これで3回連続で登り切れなかったことになる。



実技の授業と言っても色々あり、模擬戦だけでなく今やっているようなボルダリング(壁登り)やパルクールを用いた障害物競走、外部の顧問を雇った剣術の指導、体力作りの為の持久走、はたまた私が編入した頃には終わっていたが夏には水泳(ただし着衣泳)もやるらしい。


そして派閥の人達だけでなく、特別鍛えているわけでも無いクラスの皆にも追いつけなくなっていた。




ボルダリングと言っても、垂直な壁を、ランダムに再出現を繰り返す突起をジャンプで掴みながら、その突起が戻ってしまう前に次の突起へまたジャンプするというさながら地獄のような状態である。


ただ近接系スキルの育成には非常に相性が良い訓練であることは間違いない。

<剣聖>、<剣舞>、両腕の分割思考が可能になる<二刀流(デュアルグレイブ)>、ビスタさんの戦闘スタイルをそのまま型に採ったような超高速斬撃に特化させた<閃撃(ミクロダイブ)>等々攻撃系のスキルホルダー(保有者)は鍛えるべき腕力、持久力、そして剣を振るのに必要不可欠な部位の筋肉を鍛えることが出来る。


<見切り>、<瞬足>、<縮地>、<跳躍>等のフットワークを主とした移動系スキルホルダーは、スキルによる成長が緩い耐久力や腕力は勿論の事、突起から突起へ飛び移る際の跳躍力や、体幹の調整、即座に次の目標へ飛び移る瞬発力が鍛えられる。


それぞれの長所を伸ばし、短所を埋める、こと身体能力の育成には持って来いの訓練だろう。




だが私は一応それなりに足は速いのだが、移動系スキルホルダーのように特別脚力が強いわけでは無く、あくまで鍛えた分だけ補助系スキルの人達より身体能力が高いといった程度であり、前も言ったようにこの程度の代謝が当たり前な近接系スキル界隈に置いて、私の身体能力は最下位レベルだった。

当然スキルを前提とした訓練についていけるわけも無く、何度も落下を繰り返し、他の人達が次々登り切り応援してくれる中、ついぞ半分に達することすら無かった。

他の訓練でもどれもノルマを達成することが出来ず、ファーディ先生から何度も筋トレの刑に課された。



この前の他クラスとの合同授業の時のように、野次や罵声が無いだけまだマシだろうか。全体的に中小貴族が多いクラスで人格者ばかりなのが幸いだった。

でなければ今頃不登校になり、寮を追い出され、ヴァ―ミリアから得た多額の資金目当てに強盗に遭い、そのままクレセントの物価に耐えきれずのたれ死んでいた事だろう。






「不登校、か…………勧められるがままにこの学園に編入させてもらったけど、私は何をするためにここに居るんだろう……………」



更衣室で、汗まみれの体操服を着替えながら考えていたことをポロリとつぶやく。

シャルラッハさんが何故か持っていたローズ学園の招待状のお陰で、2ヶ月程の安寧を私は得ることが出来た。来年の春になるまではだが、編入生用の補助金+学費無料のお陰で働きに出かけなくとも生きることはできる。


だが、結果として多額の資金を得たものの、その反面学園の区域外で冒険者カードを掏られるリスクが格段に増加し、おまけにスキルも失ってしまった。自分の状況に合わない訓練を無理して受けて、型にはまった応用性の乏しい剣術を学び、現実逃避の為に関係ない学問に明け暮れる。



こんな事をして一体何の役に立つのだろうか。

私は協会に入りたいわけじゃ無い。父さんと同じSランク冒険者に成りたいのに。


「(こんな事になるんだったら近くの村でまた冒険者稼業をしてた方がよっぽど強くなれるかもしれないのに……)」








四限目を終え、食堂にて。

いつものようにナルダ様とビスタさんが来たが、今は一人にしてくれと言って、離れててもらった。


妬ましい。ただただ嫉ましい。

良いスキルを持っていたり、特別な生まれだったり、そんな奴らに優しい(励ましの)言葉を掛けてもらう事が耐えられなかった。


お前達は良いよな、そんな言葉さえ出てきそうだった。

多分二人は気付いているだろう。私はただ同情してもらいたいだけだという事を。ただ不遇な人同士で傷を舐め合って、自分を高めることなく、ただ庇護してもらいたいだけだと。


そして、先日ナルダ様が怒った理由もそこにあるのだろう。

「不遇を嘆く暇があるなら、その分前へ進め」と。



わかってる。わかってるさそんな事。

でも前に進んだとしても、どうせ無駄になる。そう諦める自分がいるんだ。どうせあの人より強くなれない、この人に抜かされる、その人の方が良いスキルを持っている。



私は、どうすればいい?









「隣、良いかしら?」





少しおっとりした、なんだか昔を思い出すような声が聞こえる。

顔を上げると、そこには声とは裏腹に鋭い目つきで、綺麗な水色の髪をした女性がトレイを持って立っていた。

容姿を説明していなかったが、彼女が初めての実技の授業の時に同じグループになったロットさんである。


正直彼女が話しかけてきたのは意外だった。何しろ初めて見た時からクールで冷徹な人物という印象が強く、あまりクラスの人達とも話している様子が見られなかったからだ。

詰まる所これが彼女との初対面という事になる。



「あ、ロットさん…………どうぞ。」


「失礼するわね。」



そう言って私の隣に座り、黙々と食べ始めた。

私も食事を再開するが、あまりフォークが動かない。しばらく感じていなかった嫉妬という感情がぐるぐると回り続け、胃腸の動きを阻害しているのだ。



その様子を見ていたのか、ロットさんが手を止めて話しかける。


「……食べないの? 魔物肉、今日はハズレじゃないらしいけど。」



私以外にも数人魔物肉を愛用している貧困者が居るので、恐らくそこから情報を得たのだろう。

それと私が悪食かつ残飯処理係であることは既にクラス中に知られているので、私の異変に気付くことは容易かった。


「あ………いえ、なんだか食欲が湧かなくて………」


「ふ~ん…………」



再びロットさんは食事に戻る。

それからしばらくは会話を交えることは無かったが、彼女が食べ終わり席を立つとき、


「何か思い詰めている事があれば、ハーブティーを飲みなさい。色んな店があるけど、西区にある「クラウス&ユミナ」がオススメよ。」



とだけ言い残して、去って行った。


「は、はぁ…………ありがとうございます……?」



イメージとのギャップに驚いているが、案外優しい人なのかもしれない。ナルダ様が言う通り、<共感>が使えないのなら今までの観念に疑いをかけるべきなのだろうか。


―――――――――

同日、深夜2時、某所。


「本日、カーリー・ベルファスと接触しました。やはり彼女は精神的ストレスを抱えているようです。計画通りこのまま経過観察を続けます。」



『よし。状況が変化し次第、報告せよ。

…フン、中身はどうあれ、所詮『器』はただの人間。「奴」のようなイレギュラーさえなければ容易い事よな。』



「…それと、昨日からズルタスと連絡が取れません。魔力探知はおろか、(ネームタグ)も反応していないです。」



『こちらからの呼びかけにも応じない以上、奴は回帰(ロスト)したと考えて良いだろう。』



「まさか……こちら(人間界)に我々を回帰させられる存在が居るのですか!?」



『どちらにせよ、計画を終えるまで絶対に騒ぎを起こすな。下手に動くと奴の二の舞になりかねん。』



「……………了解しました。」

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