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46話 ようこそ実力主義の派閥へ

魔法とは異なる怪しげな術を使い、大貴族相手に刃を平然と向け、興味以外に行動理念を持たないレイナ・モータルという存在。

嫌な予感はぷんぷんしていた。この人について行くと絶対ロクな事にはならない事は確信していた。


しかしあれ程の事件を起こし、上流貴族の御子息一人に精神病を患わせて(謹慎が解けてもなお登校拒否している模様)、ついでに自業自得とはいえ軽く金貨数千枚はぶんどっておきながら私やナルダ様、ビスタさんが通常通りの学園生活に戻れるはずも無かった。


ちなみに金貨はギルドバンクに預けてある。額が額なので手数料で結構取られた。ちくしょう





学園の中でもかなり派閥争いが少ない私のクラスは例外的に何事もなく済んでいたが、移動教室等で廊下を歩く際には貴族派閥の人達に睨まれ、登下校中に何度か襲撃にも遭い、挙句の果てには寮にまで押しかけてくる始末。日を追うごとにエスカレートしていく様はまさに人間の醜さの体現である。

特にご飯に泥水をぶっかけられたのは非常に腹が立った。いくら一番安い例のメニューとはいえ、リーゼ村を飛び出してすぐの頃は野草で飢えを凌いでいた私にとって、食べ物を粗末に扱うのは絶対に許されない行為である。別に泥水程度なら味はあまり落ちないし、腹痛になる心配も無いからいいのだが、掃除用などの生活排水だったら間違いなく食べれたものでは無くなっていただろう。



何とも陰湿的でいやらしく、非生産的な行動であろうか。

時間、思考、資源、それらをただ浪費するだけというのはあまりにも虚しい。


という事で我慢ならなかった私は1週間後、ビスタさんとともに実力派閥に入ることになった。




ここで軽く両派閥について説明する。


私達が入った実力派閥とは、文字通り座学や実技などの成績を基に優劣をつける、民主主義的な思想を持つ者達の集まりであり、レイナさんが

「血青が能無しのクセに偉そうにしてるのは面白くないから」

という理由で去年に設立したコミュニティである。(当時はレイナさんはまだ初等部だったはずだが…)

あくまでただのコミュニティであり、決して校則などに記載があるわけでは無いが、既にメンバーは中等部約660人中200人以上が入っており、その殆どが中小貴族や非貴族である。


活動内容としてはレイナさんの自室こと謎の空き部屋、その更に奥の部屋での戦闘訓練を予定が合う人達で毎日行っている。

まるでどこかのファンタジー小説にでも出てきそうな程便利な部屋で、開ける度に入ってきた人数に応じて自動的に部屋のサイズが変わったり、どこからともなく訓練用の的や木人が出現したり、カモフラージュとして埃っぽい倉庫になったりと不思議な場所である。


最終目標は毎年度年明けに行われる「生徒会総選挙」において、この学園独自のルールである決戦投票ならぬ決戦試合(文字通り)に勝利し、生徒会長の座を奪う事である。


「現在のローズ学園は世俗にまみれた貴族主義が蔓延っており、生徒の命よりも自分の立場を優先する不埒な輩がトップを握っている。協会との癒着を切り、優れた人材のみを生み出さなければこの国の発展は望めない。」

とのことだ。

現に貴族優遇制度が採られており、大貴族に優先的に協会への推薦枠が回ってくるらしい。また協会の方でも同様に上層部の席の大半を貴族が占めており、最早数々の色付きを生み出した「泡影の茶会」が居た時代は過ぎ去り、衰退の一途を辿っている。

それを是正するための第一歩がこの実力派閥である。らしい。







そして敵である貴族派閥。

文字通り貴族たちの集まりであり、一部の物好きを除けばこの学園の大貴族は全てこれに属している。

学園成立から存在し、選ばれし血統である大貴族のみが世にはばかるべきであるという上層部が腐敗した原因である思想の下に集まっている。


メンバー自体は中初合わせて60人弱と少ないが、クリス・ヴァ―ミリアのように金と権力にたかる部下を従えているのが殆どであるため、実際は追加で200人程である。ちなみに残りの100人ちょいは派閥争いに興味の無いorビスタさんのように巻き込まれたくない無所属の人達だ。


しかし一見すると七光りで支離滅裂な彼らの主張も全く筋が無いわけでは無い。現に名を挙げたクリスのように、中等部二年の段階でBランク冒険者に匹敵する実力を持っていたり、メイ・クラウンのように総合的にAランク冒険者でも上位に位置する力を持っていたりと、有名家系が強豪を次々と生み出している事は事実である。

つまり言い換えれば大貴族を優遇するとより優秀な人材を多く世に放ちやすくなり、最終的に国益につながる。だから中小貴族が出世する必要は無いという事らしい。


実際にクラスの中で最も上位の貴族であるフリスト君の戦いっぷりをみたり、クリス・ヴァ―ミリアと戦った身としては痛いほどよくわかる。

奴らは強いし、金銭的なバックアップも充実している。

血統主義は人間の可能性という多様性を潰す極めて短絡的なイデオロギーだと私は思うが、これ程までに人数が増えるのには理由があるのだ。


活動内容などはよくわかっていない。






さて、話を戻そう。

派閥に入ったからどうこうというわけでは無い。何しろリーダーが気紛れな人物である以上、これと言った指示が出ているわけでは無いのだ。


しかしコミュニティに入るという事とは実質その後ろ盾を得ている事であり、下手に手出しをされなくなる。

私がこの学園に編入して来る前に派閥争いで大きな事件が起きており、それが原因で貴族派閥の連中は迂闊に手を出さなくなったらしい。一体何をしでかしたのやら。


結果として無所属の中小貴族がクリスのような人間の格好の獲物となり、いじめにあう。争いを避けるビスタさんの性格は最悪の選択肢を選んでしまっていたらしい。





そうして、実力派閥であることを示すバッヂを付けて生活を始めた。

それからというもの貴族たちによる被害は目に見えて減少していき、精々が目の敵にされる程度にまで治まっていった。

バッヂは効果てきめんだったようだ。


結局部活には入らず(魔機を推しまくっていたリオンさんは凄くがっかりしていたが…)、放課後は例の謎の部屋で他の実力派閥の子と模擬戦をするようになった。


しばらく戦ってみてわかった事だが、やはりクリス・ヴァ―ミリアはかなり強い部類であったことが分かった。勿論身体能力や技術が私より上の人は何人かいるのだが、どうも奴のような気迫が感じられなかった。

当然と言えば当然だが、彼らは命を懸けた殺し合いをしているわけでは無い。技術的にはBランク冒険者に近しいが、精神力の面では私ですら未熟と思えてしまう程だった。


これでは貴族派閥に勝つことはできない。

後はあれ以来全く姿を見せない例のレイナさんがどれくらい強いかだが…


―――――――――――――


某日、ヴァ―ミリア邸、地下にて。



「怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い」



シリウスウッドの暗室の隅で、クリス・ヴァ―ミリアは一人うずくまっていた。

思い浮かべるのはあの編入生との決闘。いついかなる時もあの狂気じみた姿が浮かんでくる。


食べ物も最低限しか喉を通らず、排泄も殆どできなくなっているため体内の毒素を全く排出できず、肌はボロボロで所々膿が黄色く腫れた見るも無残な姿へと変り果てた。



「怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い」



暗闇の隅で一人ブツブツと唱え続ける中、突然異変は起きた。



『クリス・ヴァ―ミリア、そこにいるか?』



食事を運んでくれる執事とは違う声。

凛とした空気をはらんだ女性の声だった。

まともに食事を摂っていないせいで、記憶喪失に成りかけているクリスには誰の声かはわからなかったが、寧ろその方が良かったのかもしれない。




『生きているなら返事をしろ、貴様にはまだ仕事がある。』




「……………………」


何も答えられなかった。

答える気力が沸かない。


何も返事をせず20秒が経過しようとした瞬間、



バゴォォォォォォォォォォォォォォォォン!!!!!!!!!!!



と物凄い騒音を立て、ドアが形を保ったまま真っ直ぐ壁に向かって飛んでいった。ドアの直線上に居たら間違いなく壁サンドになる所だっただろう。



「ひいいいいいいいいいいいいいいいいぃぃぃぃぃぃ!!!!!!!」



突然の騒音に頭を抱え、子供のように震えるクリス・ヴァ―ミリア。

ここまで精神が摩耗していると、もう彼は日常には戻ってこれないだろう。




「良い素材だ。貴様には勿体無いくらいだな。」



金色の髪をなびかせながら、生徒会専用の真っ白な制服を身に付け、まるで人形のような凛々しい顔を持つ女性。如何にも「美」という言葉が似合う人物。

琴線の取れた張り詰めたような躰は圧倒的なまでに鍛え抜かれており、不必要な筋肉さえ削ぎ落とした完全なる人体の理想形。そして溢れんばかりの圧倒的な魔力量は、ある種のアニマ(背光)すら感じさせる。


荒々しい手段とは正反対に、花のように美しい足取りで室内に入る女性。

生徒会長、メイ・クラウン、その人である。














「昨晩午後11時頃、大貴族であるヴァ―ミリア家の邸宅が全焼し、当主のジェグラス・ヴァ―ミリア(46)と、奥さんのダリア・ヴァ―ミリア(42)の焼死体が発見された。また現場からは煤のシリウスウッドが見つかっており、ダイヤ協会は事件性の疑いがあると見て……………………」

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