39話 下手な真実なら
☆前回のあらすじ☆
・あらすじ入れるの忘れちゃったごめんなさい
・スキルが使えないよカーリーさん
・何とかしてみるビスタくん
・どこでそんなの覚えたのビスタくん
吹き飛ばされ宙に浮く最中、私の胸には不思議な感覚が渦巻いていた。
ぞわぞわするような、むかむかするような。
ただ、寒さだけがそこにあった。震えだけがそこにあった。
ここで私が死ぬことで現実世界で何が起こるかはわからない。
もしかしたら特に外傷も無く戻るかもしれないし、はたまた心停止等で死んでしまうかもしれない。だがロクな状況にはならないという事は直感で理解できた。
受け身も取れずに地面に叩きつけられる。
口の中を嚙み、鉄の味が口いっぱいに広がり、地にぶつかった衝撃で息とともに血が吐きだされる。
立ち上がろうにも意識がふらふらとして力が全然入らない。視界も点滅し光が入って来ない。
二度も経験すれば流石にわかる。これは失神の予兆だ。
『うひっ、うひっ、ひひひひひ……………………
………………はぁ、もぅおわりぃ?』
辛うじて動く耳が、迫る奴の足音と唸り声を拾う。
さっきまであれほど楽しそうに笑い声を上げていた奴が、私がもう起き上がれないと知った途端に至極残念そうな声へと変わる。
『つまらなぁ~い………なあァ!!!!』
「ガッ!!…………」
まるで駄々をこねる子供のように、倒れている私の脇腹を容赦なく蹴り上げる。
気道を詰まらせていた血ごと肺から空気が抜け落ち、酸欠で視界が殆ど視えなくなる。
「ぶっ…………………………ゼヒュー……………ゼヒュー」
無様に地面を転がる事しかできずに、ただひたすら酸素を取り入れるために肺を酷使する。
落ちそうな意識を必死に保ちながら血液と魔力を回そうとするが、あまりの傷の多さ故に魔力のバイパスがつまり、うまく流れない。
『あ~あ、本当にもう終わりかぁ。
ざ~んねん…………………』
本当に私が立てない事を確認すると、先程までの幼稚な口調とは打って変わり、戦闘が始まる前の邪悪さを兼ね備えた冷酷な口調へと戻る。
『だが良い。お前をここで殺せば、この体の支配権は私が握る。
何分久しぶりの肉体だ、愉しみで仕方がないな。』
「そんなこと………させるものか…………」
『喋るな、愚図が。』
容赦なく私の腹部を思いっきり踏みつける。
掠れてきた痛みでもはっきり伝わる衝撃、終わりへのカウントダウンはすぐそばまで迫っていた。
踏みつけた足をぐりぐりと動かし、意味も無く痛めつける。
『結局お前も哀れなものよな。運よく使い勝手が良くなったスキルを自分の力だと思い込み、自ら修練を積もうともしない。
不思議だとは思わなかったのか? <共感>から聞こえてくるのは常に怒りや死への渇望と言ったロクな物じゃないかった事を。
ロクな物はそんなもの使わなくても理解るからな。』
「な…………に……………?」
『あれは七罪や恐怖、憎悪と言った悪意に「共感」するためのスキル、言わば「人間の悪意」を育てるためのスキルだ。心を読むなんて生ぬるいものでは無い、土地や空気からも悪意を吸収する。
その拡張版である<共鳴>も、機能が追加されたとはいえ根本は同じだ。
そして顕現した悪意そのものは、ソレを産み出した人類に対し絶対的な殺戮権限を持つ。どれ程強力なスキルを持とうが、どれ程呪いに耐性を持っていようが、完成したワタシからは逃れられない。
だからナルダはAESとやらに当てられ顕現する一歩手前の状態であった私を、その源であるお前の恐怖心や悪意ごと消したのだ。』
「…………!!!!!!!!」
そんなバカな。
じゃぁ私を人間不信にしてきたあの残酷な言葉の数々は、全部<共感>が勝手に拾ってきたものだとでも言うのか。
あのスキルを得て以来、四六時中自分への悪口が聞こえていた。
グズだのマヌケだの「無能」だの、私を見るや否や誰もが口を揃えてそう言っていたはずだった。
なのに…………
【お前の弱い部分、強い部分、どちらも私は知っている。
故に問おう。何故お前は弱い? 弱いままなんだ?】
【それは違う。お前がそう思っているだけだ。スキルだの、レッテルだの、いつまでそんなものに囚われている。】
【ああ、お前は「無能」じゃない。今のお前を縛っているのはお前自身だ。】
ナルダ様の御膝下、あの霧の中で出会った「憧れ」の私が言っていた言葉を思い出す。
ああ、そういう事だったのか。
私は本当に聞こえる声だけでなく、余計なものまで聞いてしまっていたのか。
だが既に時は遅い。
あと十数秒で彼女の命運を決める戦いに決着が付き、全てが終わるだろう。自らの内に秘められたモノに気付くことも無く。
『まずはあの生意気な青年からだな。
目に見えるようだぞ、お前に好意など持ってしまったが故に巻き込まれ、お前自身の手で殺される時の奴の苦悶の表情が。なんとも哀れな人生よなぁ?』
「っ!!!!!…………………やめろ!!!!! それだけは…!!!」
『黙れ。』
「ぐぁあっ………………!!!!!」
往生際悪くしがみつく私に苛立ちを覚える悪意の権化。
鬱陶しくその木剣を振り上げ、そして。
『喋りすぎたな。
もういい、早く死ね。』
「(…………ビスタさん、ナルダ様、父さん、母さん、シャルラッハさん………
ごめんね………………)」
その剣が落ちる寸前、二人だけの空間に異分子が入り込む。
「カーリー!!!!!!」
―――――――――――
『貴様は………… どうやってここへ来た。
どうやって私の中に入り込んだ。』
ボロボロになっているあの子を踏みつけ、今にも木剣を振り降ろそうとしているもう一人の彼女。
僕が声を掛けると同時にその切っ先がぴたりと止まる。
右手にはいつの間にか木剣が握られており、霧がかかっていた舞台は学園の体育館へと移り変わる。
これが義妹さんが言っていた「精神世界のルール」、多分これは昨日の実技の授業の再現だろう。
「さあね、僕の目的はお前を倒すことだけだ。
手段はどうでもいい。」
怖い。
空気や汗の感触、そして魔力の流れすら存在するというのに、まるで心臓を鷲掴みにされているかのような感覚。
僕に向けられるこれまでに感じた事の無いほどの殺気。
何とか平静を装うとしているが、外から見ればバレバレだろう。
失敗は死そのもの。
遊びや訓練なんかじゃない、本物の殺し合い。
とにかく怖い、ただただひたすらに怖い。
ここから逃げ出したい、自分の命だけは助かりたい。
今までの自分ならそう思っていた。
「(でもさ、あの子の前では、せめて格好良くありたいって思っちゃったんだよ。
だから……)」
僕は逃げない。
そう言おうとする前に既に僕は走り出していた。




