04 言えなかったさようなら
音がしたのは父さんの部屋からだった。
危ないからという理由で一度も入らせてもらえなかった場所。
今は鍵がドアノブごと壊されているから入ることができるが、本来なら父さんに一人前になった事を認められてから入りたかった場所。
期待を込めて扉を開ける。
「………」
しかし、そこには予想より斜め下の光景があった。
ホコリと瓦礫まみれでぐちゃぐちゃしており、空っぽの棚は倒れ、書類が散乱し、ぶちまけられたインクが固まっている。
「ひどい…………」
たまにしか帰って来なかったけど、この場所は父さんにとって大事な居場所だったはずだ。
私のせいで、こんなことに…………本当にごめんなさい。
…落ち込んでいても仕方がない。
瓦礫をかき分け、父さんが残したものを探し始めた。
それから30分ほど経っただろうか。
これと言ったものは見つからなかった。
何しろ私自身もこの部屋は初見でどこに何があるのかわからない。それにこの惨状、砂漠の中で宝石を探すようなものだ。
それに求める錠前がどんなものなのかも分からなかったというのも大きな要因だろう。
本当に何も残っていないのか… それとも全て盗られてしまったのか…
「……いや、もしかしたら…………」
そこで、ふと思いつく。
私の<共感>は触れた物体を中心とした意思を感じることができる。
例えば床にある棘の罠は、床に触れればその下からトゲトゲした殺意を感じる。
壁に仕掛けられた炎を噴き出す罠は、壁に触れれば燃え上がるような感情を読み取れる。
しかし、ただ1つだけ例外が存在する。
それが概念魔法だ。
魔法使いや魔力という言葉があるように、この世界には魔法が存在する。
動作、戦術、軍隊、国家と規模はそれぞれだが、どれも突き詰めればスキルと差はあまりないものばかりだ。
国家クラスの魔法となれば話は別だが。
そして、これらの系統には含まれない特殊な魔法として、件の「概念魔法」というものがある。
ギルドで使用されている見た目の倍以上を収納できる魔法鞄を始めとし、王都の金庫で使用されている物理的に破壊できず、専用の鍵を使わないと開かない魔法錠、地方から地方までの瞬間移動を可能にする魔法門等々、様々な魔法が込められた道具、魔導具に使用されてきた。
現在は失われた魔法であり、必然的に魔導具の価値は高騰している。
閑話休題、<共感>は、この概念魔法には反応しないのだ。
正しくは魔導具と言った方がいいかもしれない。
「錆の邂逅」がAランクに昇格する要因となった難関ダンジョンでは、この概念魔法を用いた罠が仕掛けられており、扉を開閉する度フロアの繋がりが切り替わり無限に続く迷宮が広がっていた。
そしてこれまで何度も<共感>で読み取れた意思が、その扉からは何も感じなかったのだ。
たとえ何の変哲もないただの岩でさえ何かを感じ取ることができたというのに、まるで音を吸収していると言わんばかりに周りの音さえ聞こえなかった。
そこで私は父さんの部屋を物色しながら<共感>を発動し続けた。
<魔力譲渡>と同じで常に発動しているわけでは無いので、発動を維持するのは中々に骨が折れる作業だったが、お陰で見つけることができた。
「あった………!!」
一ヵ所だけ聞こえなかった場所、それはひっくり返された机の引き出しだった。
持ってかれていないところを見るに、家から持ち出せない魔法でも掛けられているのだろうか。
先程の解錠でどうやって外れたのかはわからないが、鍵は開いていた。
中に入っていたのは一枚の手紙。
『カーリーへ。
この手紙を読んでいるという事は、恐らく父さんはもう死んでいるだろう。そして、お前が立派に育ったという事でもある。
さよならを言えないかもしれないから、ここに記しておく。
仕事であまり帰って来れなかったけど、父さんはお前に出会えて本当に幸せだった。どれだけ辛いことがあっても、お前の事を思えば乗り越えられてきた。
お前は私の宝物だ。誰から何を言われようと、父さんが保証する。
お前には父さんでさえ見抜けなかった才能がある。
だから胸を張って生きてくれ。父さんからの最後のお願いだ。
さようなら。そして、ありがとう。
父さんより』
一つ、二つ、雫が手紙を濡らす。
溢れる涙を止めることはできなかった。
短いながらも父さんの想いがつまった手紙は、次々と私の中で父さんとの思い出を呼び起こしていった。
笑い、喜び、怒り、悲しみ、そして最後はやっぱり笑い。
父さんとの思い出は、どれも笑顔でいっぱいだった。
そして零した涙に応えるように、手紙の最後に文章が浮かんできた。
どこかで聞いた、「涙には魔力が宿る」というものかもしれない。
『P.S. この引き出しに入っている石を持って、ナルダの森に行ってほしい。道は石が示してくれる。』
読んで下さりありがとうございます!
用語や世界観の説明は要所要所に入れる予定ですので、わからない単語は次話をお待ちください。
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