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36話 生存競争

☆前回のあらすじ☆

・まだまだ狂うよカーリーさん

・普通に強いよファーディ先生

・ワンパンされたよワイバーン



・来るのが遅いよナルダ様

これは例の事件の後の話。

不幸中の幸いに、事件の一連による負傷者はワイバーンの処理を合わせても十数人にとどまっていたようだ。


クリス・ヴァ―ミリアは決闘外での暴行が発覚し謹慎処分、おまけに勝手に資産の1割を手放したことで親族全員から白い目で見られることとなった。

何で退学じゃないんだと思うが、実際あいつ本人が手を出した事は殆ど無く、証拠が見つかったとしてもお金のやり取りでアイツだけは減罰されるだろう。

僕を散々殴った奴の手下達は漏れなく退学処分を受け、奴の不正も相まって貴族派閥はそこそこな痛手を負ったらしい。



まぁ奴については正直どうでもいい。真っ先に助けに来てくれたフリスト君が取り巻きをボコってくれたし、これまでの報いを公的に受けた以上あまりグチグチ言うつもりも無い。


問題は彼女だ。

人質にとられていた僕はどうやら殺される寸前だったようで、そのことが原因で彼女に許容量をはるかに超えたストレスがかかり、精神に異常をきたしたらしい。そしてそれに連られて脳がオーバーフローを起こし、肉体の限界を超えた魔力の回転が起こり、修復と破損が絶えず繰り返された。

ファーディ先生が何とか抑える最中、突如ワイバーンの方へ攻撃し出した瞬間義妹さんが到着し、二人共々意識を失った。



それから医務室に運び込まれ、約30分後に義妹さんは目が覚めたけど、2時間経過した今も未だに彼女は眠ったままだ。それも酷く魘されて。


―――――――――――

魔力を非活性化させる薬を飲ませ、少しは落ち着いたようだ。意識が途絶えても尚魔力が体内をぐるぐる回っており、肉体の到る所が修復が間に合わず破損を始めていたところだったらしい。そもそもポーションや魔法に頼らずに自己再生が追いついている時点でおかしいのだが。


場所は個別治療室。ベッドには彼女が寝ており、その周りに僕と義妹さん、ファーディ先生が座っている。

僕も結構傷が酷いらしく、他の個人治療室で寝ていた方が良いと言われたが、彼女の容態が心配なので無理して診に来ている。



「さて………と。ビスタ、ぶっちゃけお前も部外者みたいなもんだからできれば少し席を外してもらいたいんだが………まぁお前なら下手にバラさないからいいか。」


あたぼうよ。僕みたいな下級貴族が生き残るためにはとにかく情報が必要なのだ。情報は秘匿されればされるほど価値がある。


先生は義妹さんに向き直り、防音の結界を張るよう頼んだ。

義妹さんの魔法行使は初めてみたが、かなりの腕前だった。詳細は省くがひたすら無駄のない術式であり、素人の僕から見てもその完璧さは理解できた。


「よし。それじゃぁちゃっちゃと本題に行こうか。

まずはナル・ベルファス、お前だ。


率直に聞くが、お前人間じゃないな? 神獣の使い以上の上位存在ってところか。」





!!!!!!!!!!!!!????????????????




「え、は? え?

ど、でういうくぉとですか!!??!??!??  あ゛ぁ゛痛だだだだだだだだだだだだだぁぁぁぁ!!!!」



つい興奮して叫んでしまった。

傷が開き、緩やかで強烈な痛みが体の内側から全身へ駆け巡る。

つらい。



「お前はしばらく黙ってな。


元冒険者の勘ってやつだが、お前の持つ魔力は()()()()()。純度100%の蒸留水みたいな奴だ。

俺が今まで見てきた中で一番綺麗な魔力を持ってた奴は、クラブ協会の<圧搾(スクイーザー)>だが、それでもまだ完璧な『純粋な魔力』という物は出来ていない。何が言いたいかと言うと、人間業じゃない事をごく普通にやっているって話だ。」



『まぁ、打ち明けるなら話が解る人間がベストか。

少なくとも「中身」は中らずと雖も遠からずだが、この肉体はそこで寝ているバカを基に造られたものだ。差異は髪色くらいなものだな。

要するに身体はただの人間だよ。魔結晶の投与で成長促進くらいはできるがね。』



え、えぇ………? 彼女を基に造ったって言ったって、人体の模作なんて噂に聞く「黄の開闢」でも無理なんじゃないの…?

ならなおさら確かに義妹さんが人間じゃないって事も頷けるか。なんか体弄れるみたいだし…

うん、まあ「そういうこと」にしておこう。一々疑問を挟んでは話が進まないし。



「魂のレベルで、か。まあいい、本題はそこじゃない。

カーリーだ。入学早々やらかしてくれたわけだが、昨日放課後で話したときはあんなイカレた感じは欠片も無かった。それにあれだけ暴れてたのに、お前が魔法らしきものをかけたら一瞬で寝やがった。

教えてくれ、アイツに今何が起こっている?」



確かに、観に来ていた友達から話を聞いたところによると、彼女はまるで魔物のような、いや魔物よりも酷い狂い方をしていたらしい。かれこれ2週間ちょい彼女と過ごしてきたわけだがそんな様子は見たことが無いし、何より彼女自身が戦闘が嫌いだと言っていた。

痛みや戦闘に悦びを感じるなど、到底あり得ないはずだ。




『…そうだな、現状言えることは、彼女は今精神世界、早い話夢の中で自分自身の悪意と、肉体の主導権を争って戦っている。魘されているのはそのためだ。』



悪意。

思い返してみれば、彼女の言動からはネガティブな感情が一切感じられなかった。楽しい、嬉しい以外は知らないように、昨日の昼クリスと対峙した時も「怒り」とものが感じられなかった。

言葉も、呼吸も、発汗も、何一つ至って正常。まるでさも当然かのように対応していて、怒りや焦りを見せない、それ程の修羅場を潜ってきたと勝手に思い込んでいた。



『元来、人間で無かった私はともかく君達にはそれぞれ「善意」と「悪意」が生まれた時点で備わっている。数十年程前にハート協会の人間心理学部門の設立者が唱えた「性善説」があるが、実証はともかく少なくとも魔法の世界においてはそれは違う。善悪はどちらかが欠けていることなどあり得ない両儀的存在なのだ。』



「へぇ~、「事実は小説よりも奇なり」とはよく言ったものだな。

それで、本来なら共存するはずの善意と悪意とやらが争ってると。」



そう、彼女も紛れも無い人間であるならば、善意と悪意が両立できていなければならない。主導権を求めて争うことなどあり得ないはずだ。




『だがある事件が起きた。耳に挟んだことが無いかね? 約2週間前に全滅したという辺境の村の事を。』


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