35話 亜竜
☆前回のあらすじ☆
・まだちょこっと理性があるよカーリーさん
・でもSAN値0だよカーリーさん
・「狩り」の時間だよ「カーリー」さん やかましいわ。
・お仕置きされるよいたずらっ子さん
ライオ・ファーディは5年ぶりに自分の判断を後悔した。
自分も審判として決闘を観戦していれば、途中で止められたかもしれない。だが時すでに遅し。悪寒が背後から突き刺さり、全速力で駆けてきた頃には既にカーリーが狂ってしまった後だった。
直後、亜竜が追突する。
呪いを受けたかのようにただ見ているだけしかできなかった観客が、ワイバーンの襲来により解き放たれた瞬間、散らすようにその場から逃げて行く。
大多数がパニック状態に陥り、生徒だけでなく新人の教師たちもたまらず会場から飛び出している。
数年に一度、一部の魔物が学園の結界を突破した事例はあったが、ボス級が来たのは流石に初めてなのだ。
よく見るとワイバーンはかなり傷だらけであり、壁に激突したのもあり意に反してここへ来たことが伺える。
『いやだいやだいやだいやだ!!』『助けてぇ!!!!』『お前ら落ち着け!出口はこっちだ!!』『うわああぁぁぁあぁあぁあああああああ!!!』『もうダメだぁ………』
一心不乱に逃げようとする者、恐怖のあまり腰が砕けた者、冷静に非難を促す者。そして生徒に加えて何人かの新人教師達も同じようにパニックになっている。
「(自殺系パニックは無し、なら問題はワイバーンとアイツか……
ワイバーンはまだ良い、激突した衝撃でまだ目を回してやがる。しかしアイツは、あの魔力量は、正直俺でもキツイな…………)」
だが事態は一刻を争う。ファーディは迷う事を許されなかった。
「聞こえている奴だけでいい!!! 建物への被害を無視してそいつとタコ殴りにしろ!!近接組はここにある剣を好きなだけ使え!!生半可な攻撃じゃ全く効かん、一撃一撃をスキルで底上げしろ!!! 魔法組は近接組の援護、タイミングを合わせて雷属性の魔法を叩きこめ!!!場合によっちゃ戦術クラスの魔法も許可するッ!!!」
即座に状況を計算し指示を出す。逃げる生徒たちの中から4名ほどが剣を取りに走り、3名が魔法でワイバーンを攻撃している。神経に効く雷属性の魔法はワイバーンの皮膚を焼くほどの火力は無いが、動きを制限するには十分のはずだ。
無理言って授業に組み入れてもらった魔物の解剖は、生徒たちのメンタルを鍛える役割を十分果たしているようだ。
しかし肝心の教師たちは何をやっている。異常が起きた時点で決闘だろうが中断させるに決まっているだろう。
「やはり非常時のマニュアルは作っておくものだろうが!!! 上層部のクズ共がッ!!!!!!」
悪態を尽きながらカーリーの下へ走る。クリスの野郎は失神寸前だが、まだ逃げようと足を掏っているから大丈夫だろう。
拳が落ちる前についさっき拾った木剣をアイツに向かってブン投げる。
勢いよくカーリーが振り返り、同時に今にも降ろす寸前の拳で横向きに薙ぎ払う。綺麗に木剣にクリーンヒットし、あまりのエネルギーに耐えられず木剣が内部から自壊していく。そして破片が高速で飛び散り壁に突き刺さった。
『あああァ?? ………ケェァヒャハッ!!!!!!!
アヒャヒャヒャヘアァッヒッヒャッヒャッヒャ!!!!!!!!!!!!』
一瞬不機嫌そうな表情を見せたが、こちらを見るや否やすぐに狂喜の顔に戻っていった。昨日の放課後とのギャップに、教師生活を続けて久々に心から驚いた気がする。コイツだけは狂気に飲み込まれることは無いと思っていたのに。
そして次の瞬間には、赤い噴水を飛び散らせながらこちらに超特急で迫ってきていた。
一方その頃、生徒たちはワイバーンに善戦していた。
学園が用意した特別な講師、その道のプロが教えているので、魔法コースの生徒達の扱う魔法はどれも大したものだった。
魔法の発動には予め魔法文字による術式の組み立てが必要不可欠であり、ただむやみに魔力を流せばいいと言う単純なものでは無い。
最初に使いきりで術式を保存できる「スクロール」と言うものが生み出され、その後術式の保存、再使用が可能な「魔録杖」が開発された。
そして熟練の魔法使い達は、宙に魔法文字を指で描くことで即興で魔法を発動することが出来る。今戦っている者たちも例外では無く、0,2秒で属性、形状、威力を描き、即興で魔法を連発している。
また調整もかなり細かく、槍状の雷を放つ[ライトニングスピア]一つにとっても、複数本を同時に射出したり、貫通力を強めた一本に集中させたり、またある程度威力を制限して近接組が持っている鉄剣に向けて放つことで、疑似的な付与魔法まで可能にしている。
有り合わせで作られたパーティにしてはコンビネーションもいい。ワイバーンの行動を予測し、先んじて予備動作の段階で攻撃し行動をキャンセルさせる。
向こうは着実に元々減っていたであろう体力を削り、爪の薙ぎ払いや噛みつき等の攻撃も鈍くなっている。
このままいけるか、そう思っていた。
しかし、追い詰められた時こそ、生物は本領を発揮する。
奴が急に上を向き、次の瞬間その大きな喉元から巨大な魔力がせりあがってくる。
竜の吐息。竜種全体が保有する技であり、体内に秘められた膨大な魔力を炎や氷、毒等の内包する属性のブレスとして打ち出す。
集落の一つや二つなど完全に焼却できる程の威力を有しており、当然この狭い決闘場で放たれてしまうと、どうあがいても死者が出るのは間違いないだろう。
「マズいッ!!!!」
いち早く気付いた近接組の一人が飛び出すが、既に時は遅かった。
魔法の質、タイミングは十分だった。精度もブレが無く、アイツの狂気に精神が負けていない証拠だ。
だが相手が想像以上に強かった。複数人でのスキルを用いた全力攻撃、そしてベテランの魔法使いに匹敵する腕前を持つ者たち、それだけでは一歩足りないのだ。
「クソッ…………!!!」
死ぬ。防具もアミュレットも着けていない状態で竜の吐息を受けてしまうと、確実に死んでしまう。
間に合わない、しかし引き返すことも出来ない。
絶体絶命、彼等は此処で死ぬのだろう。
慈悲も、退路も、希望も無く。
ぎゅっと目をつぶろうとしたその時。
真横を亜音速で赤い化け物が通り過ぎた。
『きっひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひっひひひひひひあっひゃあああああははははははははは!!!!!!!!!!!』
「えっ………!?」
そして次の瞬間、ワイバーンの頭部が爆ぜ、喉元に来ていた魔力が制御を失い暴走。瓦礫と血肉の大爆発を引き起こした。
爆発を一番近くで受けても未だ倒れぬ赤いバケモノだったが、いつの間に現れた白髪の少女が破壊と再生を繰り返す悍ましい肉体に触れて、聞き取れない言語で何かを叫んだ瞬間、二人共々意識を失い、その場で倒れた。
こうして、一連の事件は一旦幕を下ろしたことになる。
大貴族が冒険者相手に敗北したという結果を残して。
決闘編を書くだけで随分時間がかかりました。
次回からはもうちょっとTMPを揚げようと思います。
TMPの「天ぷ」ら。 ………………一応私は平成生まれです。




