33話 小さな陰
☆前回のあらすじ☆
・ボコられるカーリーさん
・ブチギレるカーリーさん
・復活した偽カーリーさん(何で復活したかは次回か次々回にナルダ様が御説明して下さいます。)
嗚呼、恐ろしき哉――――――
その光景は誰が見ても異質だった。
淡く光り、風も無くうねる紅の髪。
魔法に疎い者でもすぐにわかるほどの、圧倒的な魔力の集積量。
その朱い眼が煌いた瞬間、彼女は光と同化した。
観客たちの目に映ったのは、精々が淡く光る髪の残光だろう。
目にも止まらぬなど生ぬるい。音を置き去りにした彼女の動きを、誰も視ることは敵わなかった。
行為自体はは単純明快。
ただ振り降ろされた木剣目掛けて拳を振っただけである。
しかし彼女の持つ潜在的な肉体のポテンシャルが、急速に活性化した魔力の回転速度に適合し、人の身に余るエネルギーを呼び起こした。
拳から放たれたエネルギーは、クリスの持っていた木剣を塵一つ残さず消し飛ばし、空を翔け雲に穴を開けた。
発生した衝撃波ですら決闘管理会の人達が結界を張るのが一瞬でも遅れていたら、ただでは済まない状態になっていた。
そしてクリス本人も、急いで<瞬足>で距離を取らなければ即死は免れなかっただろう。あまりに強力な風圧によって空中に放り出されたが、これでも直撃は避けているのだ。
「グ………がはッ、ゲホッ、………クソ、ほんとに人間かよコイツ………」
かろうじて意識は残っていた為空中で身を翻し、着地に成功した。
とはいえそれでも相当なダメージを負ったらしく、足がガク付きそうになった。
物理と魔法の相乗効果、加えてあれだけのエネルギーを秘めていながら、拳が止まって完全に打ち放たれるまで衝撃波も何も発生しなかった。
つまり、俺の<瞬足>と同じ理論という事になる。
それに最初こそパリィをしてきたものの攻め一端受け一端の及び腰だった奴の気迫が、今までにない悪寒を感じる程に増大している。
まるで人格が入れ替わったみたいに。
だがあまりに強大な力を使ったがゆえに、奴の腕は最早原型をとどめていない程ぐちゃぐちゃになっている。複雑骨折なんてものじゃぁない、中身が粉々になっていてもおかしくない状態だ。
つまり奴の四肢が先か、俺の体が先かのチキンレース。無論そうなる事を想定して小型のポーションを制服に忍ばせてある。回復は厳しいが、意識を保つことくらいなら可能だ。
我慢比べなら受けてたってやる…!!
そう思っていたところに、異様な光景が更に襲いかかる。
『ガッ………グギア……アア、ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!! あああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああ!!!!!!』
髪が纏っていた朱い靄のような魔力が、ぐちゃぐちゃになった右腕に集約し、肉と骨が混ざり合う音とともに元のカタチへ戻っていく。
ボロ雑巾のような腕があり得ない方向に曲がり、そして戻る度、奴の体がビクンと揺れ、目線があらぬ方へ向き、痛々しい叫び声をあげる。
完全にイカレてしまっているようにしか見えないが、あれでも痛覚がまだ残っているのだ。
腕を修復する度どこか別の個所が異常をきたし、血管が破裂する。過剰なまでの魔力の回転に、肉体が付いてこれていないのだ。
腕が完全に治る頃には、出血、修復の繰り返しが始まっていた。
『フハ、ハハハ、アハハハアギッハハハハハハハ!!!!!!』
痛みで理性が吹き飛んだのか、はたまたあれが奴の本性か。
血まみれの顔で、奴は笑っていた。
『ハハハハハハハハハハハハハハアグァッハハハッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!』
噴水の様に血を飛び散らせながら、ゆっくりと近寄ってくる。
一歩一歩足を進める度に、圧倒的な恐怖が体中を駆け巡る。
思春期の少女とは思えない、あまりに悍ましい光景。
誰もが異常だと分かってはいても、ただ立ち尽くすのみだった。
否、止めようにも死に匹敵するリスクが付きまとい、止められないと言った方が正しいか。
「(あ、焦るな、シンキングはクールに、ハートはヒートに。
理性がまだ残っているのなら、人質に価値はある。俺がこの伝達用の魔導具にチョットでも魔力を流してしまえば、ビスタの奴を殺すことが出来る。)
う、動くんじゃねぇ!!! それ以上こっちに近づけば、コイツの命は無いと思え!!!」
そう言ってしれっと拾っておいたビスタの学生証を突き出す。
校則違反を宣言しているようなものだが、今は命が優先。使える手は何でも使っておく。
これで効果があればまだ勝利の余地はある。無ければ……
『ハ……………………………… …………ビ…スタ……さん?…』
「そ、そうだ!! 奴の命は俺が握っている!!! お前が関わってしまったせいで、奴は死ぬんだ!!!! だから―――」
反応している。という事は理性はまだ残っているか。
あれだけエグイ状態になっておきながらまだ理性があるのは逆に怖いが、不幸中の幸いだ。
言葉が通じればいくらでも懐柔のしようがある。
だから、それ以上近づくな―――そう言おうとした瞬間―――――
『 そ れ が ぁ ? 』
奴は、笑ったままだった。
――――――嗚呼、恐怖たれ、怖畏たれ、畏敬たれ、敬賛たれ。
百三十一万 八千の針は厄災を産むに易し。
そろそろざまぁ要素を入れないとタグ詐欺になっちゃうので、クリス君は最初の獲物になってもらおうと思います。
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