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32話 それは意外にも

こういうやつの対処法は知っている。

人間、誰しも不可侵の領域が存在する。自我(エゴ)と呼ばれるそれは、その人にとっての自分自身その者であり、要するに一番大事なモノだ。


時折自分自身がいくら傷つこうが構わない人間がいるが、そいつは必ず別の何かに自我をすり替えている。

例えば宗教、家族、友人、etc…


一見頭のおかしいように見えるこいつも、どこかに自我を隠し持ってやがる。それさえ見つけてしまえばこっちのものだ。



「はぁ~………仕方がねぇなあ。思い出させてやるよ、お前の立場を。」




そう言ってビスタの学生証を奴の目の前に落とす。

学生証は学園に入るための文字通りのパスポートであり、これが無ければ学園全域に展開されている結界に弾かれてしまう。

また神獣との契約に近いシステムで登録されているので、本人が持っていないと意味が無い。必然的に「借りた」というのは「奪った」と同義である。


詰まる所俺がそれを持っているという事は、「ビスタの身柄はこちらが握っている」と伝えている事になる。

園則では当然ながら生徒同士の殺し合いは禁止されているが、死なない程度に痛めつける事は問題ない。乃ち「事実上の死」、寝たきりや植物状態でも生命活動さえ停止しなければ問題ないのだ。


いくら奴が平然を装うと、最初に学生証を見せた時の反応は覆せない。





「もしお前が降参しないなら、俺にも考えがあるんだぜぇ~?

ん~どうしよっかな~。とりあえず指没収は確定として~この際だから歯とか行ってみる? 歯ってさァ~、ヤク使わずに直に傷つけるとマジで痛いらしいぜ。」


『っ………このっ…!!!』


「おっいいねいいねぇ!!!その顔その眼その気迫!!!

やっと人間らしくなってきたじゃねぇか!」




怒りのままに繰り出される拳を、剣の腹で適切にガードしていく。

威力は大したものだ。事実数発受け止めただけでも腕が僅かに痺れている、昨日の実技の授業でも相手を投げ飛ばしたと聞く。

だがまだまだ未熟、元々素手で闘うスタイルではないのもあるだろうが、その体に秘められている潜在的な筋力を振り回しているに過ぎない。


冷静さを欠いた攻撃など最早敵ではない。

会場を盛り上げさせる為に何発か好きに打たせてやるが、そろそろ潮時だ。


「そらそらそら!! ……お?」


奴の手が止まる。

がくりとうなだれた後、まるで魔力が切れた魔機のようにぴくりとも動かなくなった。


ついに諦めたかと思い、木剣を振り上げた瞬間――




俺は宙を舞っていた。

――――――――――――


「――――――――あ」


ピシリ、と、突然視界が割れた。

唸り続けていた頭痛が限界を超え、意識を精神世界へ引きずり込む。

体力の限界とは違う、認識の限界。


内と外を隔てる「境目」がズレた。



世界が暗転し、黒く黒く塗りつぶされる。




どれだけの時が経っただろうか。

一瞬の様にも永劫の様にも感じる。

恐らく現実世界では一秒たりとも経過していないだろう。


やがて、黒は形を持ち、流動する。


次の瞬間、私はあの霧の中にいた。



そして、当然のようにそこには、もう一人の私がいる。









『よう、また会ったな。』



私の姿で、私の声で。

唯一あの時と違う点があるとすれば、ローズ学園の制服を着ている事だろうか。

とことん私の姿を模して来る。



「もう一人の…私……?」



だがあれは、確かにあの霧の中で倒した。

シンの動きを模した私、「憧れ」の私は、私自身の手で打ち倒したはずだ。


それに、ここは何だ…?

現実じゃない事は分かる、体も服も綺麗になっているからだ。

だが妙に感覚は鋭敏だ。




「結局……あなたは一体誰なんですか。」



『私はお前、お前は私。光と影の関係と言えば分かるか?

お前が在る事が、私の存在理由だ。』



解答に変わりは無かった。



『お前が自分を弱いと思えば、私は強いお前を演じる。お前が自分を強いと思えば、私は弱いお前を演じる。だがどちらもお前であることには変わりは無い。

私は成さずべくして為る、非ずべくして在る存在、お前という私がある以上、私はお前の中にあり続ける。ナルダ様の作った「境目」の揺らいだ空間のみ、私はお前の外に出られる。』



言葉は難しいが、理解はできる。

ざっくり言うとアレは真逆の私であり、私が起きてる間は動けないと。

本当に鏡みたいだな。

でもこの空間は? ナルダ様が弄ったわけでも無いし、突然意識が吸い込まれたから何が何だか…



『いいや、気付いているだろう?

感情の欠落、やむを得ずに施した処置。

私はお前の影、お前と対極に為る。しかし、お前は対極に位置する感情を失ってしまった。つまり、私は私でいられなくなった。お前の影という役割を失った。』




もう一人の私の口元がにぃと歪む。



『だから私は「産み出された」。成らぬべくして為るのでは無く、為るべくして成る為に。

私はお前の影。でも、もうただの影じゃない。』








『お前の失った感情を持った、勝手に動く影だ。』

今日で夏季休暇が終わるので明日から投稿がまた遅れます。

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