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29話 決闘準備

Tips:決闘について

ローズ学園に限らず、幅広い層の貴族が入園している学園ではもめ事が発生した際、貴族同士の上下関係によって一方的な譲歩に陥ってしまう事態が予想される。

それを防ぐために設立されたのがこの決闘という仕組みである。


決闘は両者の合意の上で執り行われ、当然ながら幾つかのルールが存在する。

1対1での木剣を使用した模擬戦を行い、勝利した方の求める条件を絶対とする。ここに権力を介入させようとした場合、運が良ければ謹慎処分、悪ければ退学になる可能性すらあり得る。

また外部からの魔法による支援を防ぐため、決闘が行われる半径10mの円上に簡易的な結界が貼られ、審判を務める実技の授業で使用される魔導具が判定を出すまで解除されず、その間に無理やり結界を破ろうとした生徒も権力を介入させようとした時と同様の処分を受ける。


ただしあくまでこれは近接系スキル同士での話であり、片方が補助系スキルだった場合のみに限り、代理人を用意することが出来る。

ちなみに魔法系スキルの場合は木剣の代わりに杖を使用し、魔法の使用も許可されている為魔法系スキルに決闘を申し込むことはそうそうない。


また決闘は最優先で開催され、その間の授業は免除される。というか大抵全員が観戦しに来るので、最早授業どころではないからと言うのが正しいか。



――――――――――――



ビスタさんの机に置かれていた紙には、クリス・ヴァ―ミリアが私に対して決闘を申し込む胸の事が書かれていた。

向こうの要求は今後一切の自身を含む上級貴族に対する無礼な行動を慎むこと。こちらが勝利した場合はヴァ―ミリア家の資産の1割の譲渡に加え、ビスタさんへの謝罪、また実力派閥への継続的な支援を約束するとの事だ。


詰まる所、向こうが勝てば私は奴の言いなりになり、私が勝てば向こうは資産の一部と共にプライド的なやつを捨てるらしい。

正直割に合わない気がするが…


とはいえ、昼食時のあの醜い心を許せないという気持ちもある。

ビスタさんに対し特別な感情を持っているわけでは無いが、少なくとも彼には恩義がある。決闘を受けたくないのは山々だが、それ以上に奴をこのままのさばらせておくと言うのもあまり良い気がしない。



ペンに魔力を込めて、契約書にサインをする。


最も普及されている概念魔法がこの契約書であり、魔力を込めて書いた文章は執筆者にとっての宣誓文となり、その紙の保有する魔力が消滅しない限り「宣誓文に反する行動を取れない」という効果が持続される。

魔力の込められたインクは魔力が尽きるまで消えることが無く、また燃やすことも出来ない。

また神獣とごく一部の人間を除き、誰も知らない術式の中に「死後も魂レベルで拘束し続ける契約書」なるものがあるが、今はもう失われてしまっている。


決闘に関する契約書は学園独自のものとなっており、決闘を申し込む側が学園にある契約書の元本を記入すると、同意のサイン部分のみ送受信するコピーの契約書が相手用に作成される。

簡単に言えば元本と署名用である。




とはいえ、だ。

あの性格だと絶対汚い手を使ってくるだろう事は予想が付く。

木剣に爆弾でも仕掛けてくるか、それか人ごみに紛れてどこからか石でも飛んでくる可能性も捨てがたい。

私の知る限りでは魔力・物理両方に対応できる結界は存在せず、どちらか片方にしか効力を発揮できない。


また過去に決闘の最中に命に関わる事故が発生したことがあり戦術クラス以上の魔法の使用は禁止されているが、装備の質による差を無くすために防具の着用もアミュレットの使用も出来ない。

その為動作クラスの魔法でも当たり所によっては即死の可能性だって十分あり得る。




何ともまぁガバガバな闘技場である。

ただ契約書をくまなく見て抜け穴がない事も確認し、きちんと「決闘中の両者の魔法の行使を禁止する」と明記されているため魔法に関しては大丈夫だろう。その上ルールに「木剣はその場で渡される」と書かれているので木剣への細工も難しくなる。


ともあれ、ただでさえ相手の力が未知数であるのだから油断は禁物だ、気を引き締めていこう。











「(ところで何で私何も知らない人から決闘を挑まれなきゃいけないんだろう…)」


つい勢いでサインをしてしまったが、冷静に考えてみると私の立場上スキルがバレるのはまずいのでは…?

というか、明日テストなんだけど………どうしよう………





それと、契約書ともう一枚。


『急用ができちゃって今日は外泊して来るから、僕の事は気にしないで明日のテストに励んでね。』


と書かれた手紙が置いてあった。

まぁ明日に決闘を申し込まれてるので、受けられないんだけどね。


急用なら仕方がないなと思いながら、晩御飯を食べに寮の食堂へ行くついでに教員さんにビスタさんが今日は急用で外泊することを伝えた。

当然ながら寮生が外泊するには外出理由などを細かに記した書類を提出しなくてはならない為、教員さんは物凄く怒っているようだ。

―――――――――――












もしこの時、私の勘、乃ちネガティブな感情を基に構成された危機感知能力が正常に働いていれば、十中八九これが罠だと予測は出来ていた。

ただでさえビスタさんにしていたことは非常にみみっちいことなのに、何故奴がリーダー格として君臨出来ているのか、少しでも考えれば分かる事だった。


夏季休暇中にビスタさんと話をしていた際に聞いた情報、学園内の派閥争い、そして中等部三年生の主席のみが入ることが許されると噂されている学園地下の謎の空間。


奴はただ短気な悪役を演じているに過ぎなかった。私がこの決闘に乗るよう、わざと挑発してきていたのだ。

そう、全ては貴族派閥のトップ、メイ・クラウン氏の為に。

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