27話 帰路と魔機と変態さん
「はぁ………、疲れた………」
いつも安物の軽い服しか着ていないので、きっちりした制服を着ると生地の重さに少し疲れる。サポーターをしていた時はもっと体力があったはずなのに… やっぱり鍛えなきゃダメかな。
目標は人一人を軽く放り投げてくる人間離れした身体能力を持つ相手、道のりはまだまだ遠そうだ。
地図を見ながら夕日が差した橙色の道を歩く。しっかりと舗装された煉瓦の道でさえも自分に似合わない高級感を出している。思った通り、昔のソルトンのようなガラの悪い貴族たちもいるし、正直やってける気がしないなぁ…
しばらく歩き、やっと寮に辿り着いた。
寮だけでも学園の一施設なだけあってかなりの大きさであり、今でもこっちが学園と言われたら信じてしまいそうだ。まぁ本物は倍以上大きいのだけれど。
時刻は凡そ午後5時30分、門限は7時なので今日は余裕をもって帰って来れた。門限までに帰って来れないとご飯にありつけないので、ここのところ仕事はどれも日帰りでこなせる程度の簡易的なもの(それでも報酬と共に難易度も跳ね上がっている。現にまだ数か所傷が残っており、あまり激しい運動は出来ない)に絞り、日銭を稼ぐ日々であった。
「あらカーリーさん、今日はお早いですのね。ここはどうでしたか? 中々素晴らしい学び舎でしょう?」
「ええ。特にご飯が美味しくて!! ………あ、ごめんなさい、変な顔してしまいました。」
ダンジョン内に発生する魔物は、生命活動を停止するとすぐさま魔力に分解されてしまうが、野生の食物連鎖に組み込まれた、乃ち生殖行為により子孫を残してきた魔物達はその限りでは無い。
その為魔物食は金欠の冒険者達の最後の手段と敬遠されてきたが、見た目こそ紫だったり真っ赤だったりととても食欲をそそるものでは無いが、繊維がしっかりと引き締まっており、非常に歯ごたえのある食感。また秋ごろになると冬を越すために脂肪を蓄えるようになり、ラードに近い甘くて香りのよい油が採れる。味はモノによって様々だが、資源が豊富な地域は魔物も質の良い食料を得ているので、家畜の肉に負けない程の美味を持つ。
当たり外れがあるらしいが、銅貨80枚であれだけ美味しいご飯が食べられるのならかなりお得なメニューだろう。
思い出すだけで表情筋が緩んで涎が出てきてしまった。恥ずかしい。
やはりポジティブな感情は今まで通り薄れては居ない…か…。
「カーリーさんらしいですわね、そう言うところ私好きですわよ。
ところで部活動は見学なさいましたか?」
「あ、まだです。ちょっと用事があったので…」
「あらあらまぁまぁ。協会の支援を受けているだけあってうちの部活動は他と違ってかなり本格的ですから、きっとカーリーさんに合う部活動が見つかるはずですわ。
特におすすめは「魔機製作部」!。直球なネーミングの通り、活動は至極単純、魔機を作って動かすだけ! けれど純度の高い魔結晶をふんだんに使ってあるので、使用している触媒の質が凄く良い! 魔機の出来は触媒の質と直結していると言っても過言ではないですから、本格的な魔機を作ることが出来ちゃうんですの!! 私もこれまで幾つかの魔機を見てきましたけれど、あそこまで純度の高い魔結晶を触媒にした代物は初めてみましたわ!!! 実際に実用化された作品もありますし、学園祭で優秀賞を獲れば、協会への推薦も………」
玄関前でばったり会ったのは、別方向から来た同じクラスのリオンさん。
生粋の魔機ファンで、授業中も先生に隠れてこっそりデザインを描いていたりしているほどで、その熱中ぶりたるや、一度スイッチが入ると凄まじい集中力と身体能力(!?)を手に入れる。夏休みの間、部活がある日は必ず寮内で一番早く起きて、物凄い勢いで朝食を平らげた後、文字通り嵐のような速度で校舎へ走っていった。実技の時に見た動きからは信じられない身のこなし、その速度なんと秒速15m!!(時速48km)
<瞬足>の全速力とほぼ同じ速度なので、如何に恐ろしい事がよくわかるだろう。
私は慣れているから大丈夫だけど、食べてすぐ走るとお腹痛くならないのかな…
両手いっぱいに荷物を抱えているが、恐らく魔機の材料だろう。確か寮の規則で魔機などの物騒なものは持って帰っちゃダメって書いてあったはずだが…
ちなみに先程から登場している「魔機」とは「魔力駆動機構」の通称である。その名の通り魔力を原動力として動く装置であり、動作クラスや戦術クラスの魔法を疑似的に再現するだけのこれまでの魔導具とは異なり、魔力をエネルギーに転換しそれを利用する所までがワンセットになっているのだ。
とはいえ当然ながら普通に魔法を使った方が魔力消費は安く済むし、ある程度の純度の魔力結晶を用いないとろくに動かないなんてザラらしい。
「黄」の使用している装備も大まかなくくりで言えば魔機に該当する。
他にも「魔導強化外骨格」、通称ぱわーどすーつなるものが発売されている。
普通科では週1で魔機の授業があるが、あくまで使い方とちょっとした仕組みだけであり、作り方等は魔法科、しかも魔機専攻でなければ授業を受けられない。魔機とはそれ程までに専門的な分野となっているのだ。
ついでに彼女の話によれば、魔機部は触媒以外は材料の調達含め一から作るとのことなので、そこまで踏み込むと当然専門知識が必要になってくるはずだが… そう言えば今日の6時間目の基礎魔法学、彼女の席が空いてたような…………まさかね………
靴箱に靴を入れて、スリッパに履き替え、魔力のランプに照らされながら、赤いカーペットの上を歩く。
よくよく見てみると、ランプの一つ一つにも薔薇を模したような細かな模様が刻まれており、職人の粋な計らいを感じられる。
エントランスを右へ曲がり、そのまま真っ直ぐ進んだ先にある階段を昇り、更に少し歩くと私とビスタさんの部屋がある。
「ただいま……」
かれこれこの部屋に住み始めてからはや二週間、実家のようなふんわりした空気とも、「錆の邂逅」のパーティホームのような血の匂いとも違う、ピンと張り詰めた高級な空気には未だに慣れない。
慣れない、実感が沸かない、信じられないの三連コンボが続いているが、振り返っても本当に私の人生って波乱万丈だなぁ……
ビスタさんはテストがあるから早く帰ると言っていたので、恐らく今は勉強中。静かにドアノブに手を回し、キィ…という音とともにそっと中に入る。
「ん…? 何この紙……?
はぁ…………………シン、あなたもこういうのに遭ったって事なんですか…………」
―――――――――――――――




