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26話 放課後

同時刻、ローズ学園中等部職員室にて。


「失礼します。」



先鋭的なアートが刻まれた窓ガラスの戸を開け、中に入る。

薬液の匂い、魔力の残滓、40を越える人間がここに集まっている。

ついでに言えばここは普通科の教員達の職員室であり、他にも魔法科や座学専門の特進科、体術等の戦闘専門の兵士科でそれぞれ人数も部屋も違う。

学園の地図もあるにはあるのだが玄関に1つしか無いので、<共鳴>を駆使してファーディ先生の「痕跡」を辿り、何とか目的地に着くことができた。

絶対誰か迷子になるだろこれ…



「(……やっぱり「声」が薄い………)」



あの日以来、<共鳴>の調子があまり良くない。多分私の異常と何か関係があるのだろう。あの光景の記憶をナルダ様に消してもらった時、一緒に私の感情が一部薄れてしまった。


五感は正常に動いているが、昼間のそれも今までであれば何の疑問も持たなかったはずが、少しオーバーリアクションのように感じている。

要するに「何をそんなに」と冷めてしまっているのだ。


何故かはわからない、だが確実に喪失感は残っている。次に何が消えてしまうのか、いつ消えてしまうのか、もう戻って来ないのか、そしてこの喪失への恐怖すら消えてしまう可能性。最も強く、古い恐怖とは未知への恐怖と言われているが、正にその通りだろう。




ナルダ様曰く、記憶改変の影響で一時的に感情や性格に変化が起きる可能性があるらしいが、いつになったら元に戻るのだろうか。





通り過ぎる先生たちに会釈をしながら、ファーディ先生の下へ向かった。

小さな椅子にドカッと腰を下ろして足を組んでいた。他の先生とは一線を画す圧倒的存在感、私は苦手だ。村長を思い出す。



「おっ、来たか。」

「遅くなってしまいすみません。」

「気にするな、俺は本当に早く来てほしいなら時間を指定する。

…まぁ、せっかく来て何だが、少し場所を移すか。」



授業の時のぶっきらぼうな態度とは打って変わって、言葉に少し温かみを感じる。<共鳴>からも、授業中に感じられた怒りや苛立ちといった感情は感じていないようだ。

仕事とオフで性格が変わるのだろうか…



移動した先は小さな小部屋で、机に向かい合って一組の椅子が置かれていた。どこかでこの光景を見た事があるが、多分気のせいだろう。


「ん、座れ。」


勧められるままに、反対側の椅子に腰かける。

殺風景な部屋だが不思議と悪い気はしない、<共鳴>がこの場所から読み取った思いはどれもスッキリとした爽やかな感覚だった。

となると、ここは相談所のような所だろうか。


「さて、何から聞くやら………

そうだな、まずはオーソドックスにお前の父親について聞こうか。

お前の父親、俗にいうなら「白の慈悲」がかれこれ3年間、少なくとも俺がこっち(学園)に来る前から姿を見せなくなった。挙句の果てには死んだなんて噂まで流れてる始末だが…何か知っていないか?」




ん? 

えっ、父さん「色付き」なの!?

確かにさ、父さんは「有名なSランクパーティのリーダー」とは聞いていたし、「白の慈悲」の特徴もちょっと父さんに似ている所はあったけどさ…



…詰まる所、私も父さんの事はあまり知らない。「色付き」である事さえも知らなかったくらいだし、今どこにいるのか、どうなってるのかなんてむしろ私が知りたいくらいだ。


ちなみに、私と父さん、母さんは公には家名を名乗らない事にしている。名の知れた家族持ちの冒険者は大体そうなのだが、家族を仕事に巻き込まない為に、家名や家族関係は同じパーティメンバーや信頼できる間柄にしか伝えないのが一般的なのだ。

ギルドの登録の際も家名を書く必要は無く、下の名が被る場合に備えて基本的に呼び出し等は登録時・昇格時に各ギルドで受け取れるバッヂやカードに記載された番号で処理される。なおバッヂはAランクとSランクしか無いので、必然的に大多数の冒険者の身分証はカードとなる。


閑話休題、私が父さんの娘である事は村の人達を除いて殆ど知られておらず、また村の人達も元冒険者の村長を除いては誰も父さんの職業について知らない。



「いえ、何も知りません。私は父さんがSランクの冒険者であること以外、何も知りませんでした。「色付き」というのも今初めて知りましたし…」


「……オイオイ、本当に何も言ってないんだな………」


――――――――――――――

それからある程度の情報交換をした。

勿論ナルダ様の正体や私が契約者である事、私とナルダ様の関係についてはシャルラッハさん以外には言えないし、私のスキルについてもそこに結びつくので詳しく話すことはできなかったが、<共鳴>で嘘をついていないことや、悪意は感じられなかったので8割方正直に話した。




今回の成果で、ある程度の人間関係が把握できた。

シャルラッハさんと父さんは元々同じパーティに所属しており、おまけに母さんや「金」も入った大物揃いのパーティだった。

やがて父さんと母さんが結婚し、ある者は協会に入り、ある者は他のパーティにスカウトされ、またある者は国外へ旅に出て、結局そのパーティは解散した。


後は私も知る通りだった。

4年前のある日、私が冒険者になる少し前の事、突如として「金」が失踪、その後父さんも行方不明、他界したという噂が流れ、母さんが衰弱死してしまった。








「………………」


一通り聞いてみると、何とも因果深い話だろうか。示し合わせたかのように、「錆の邂逅」をクビになった後に出会った人たちが、悉く父さんたちと関わりがある人物だった。いや、この際だから言ってしまうが、もしかしたら私が「錆の邂逅」に入る事さえ偶然では無かったのかもしれない。


一体父さんはどこまで手を回していたのだろうか…



「さて、少し長話しすぎたか。気を付けて帰れよ。」

「はい。色々ありがとうございました。」

「おう。…………そうだ、ここだけの話なんだが、ちょっといいか?」

――――――――――――


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