24話 フライサンド
実技の授業を終えたら一旦更衣室で制服に着替えてから、次の準備に入る。とはいえ学園自体が寮を含めて一つの村に匹敵する程の敷地を有しており、当然校舎も物凄く広い。
その為実技の次の授業は10分までなら遅刻が免除されるのだ。ただしその分の授業時間はカットされるので、なるべく遅れないよう重い体に鞭打って移動しなければならない。
午前4限、午後3限の計7時限授業であり、4限目の後はみんな大好きお昼ご飯だ。
何人かの上級貴族の人達は園内に私有地を保有しており、そちらで昼食を摂るらしいがそこまで来ると出資者レベルになるので、当然中級以下の人達とは別の特別コースの授業を受けることになる。と言うか最早それホームスクーリングで良いのでは? 何でここ来てるの?
と言うわけで弁当を持ってきている自宅通学の子はそのまま教室で食事を摂り、他の子や寮生達は食堂へ向かった。
食堂と言っても学園自体が相当な大きさなので、当然各施設の大きさも比例して大きくなっており、体育館程ではないが小型の教会2つ分の大きさはある。
凡そ1200㎡であり、その大きさには度肝を抜かれた。何しろここだけで家の私有地に匹敵する大きさなのだ。金銭面の都合上中等部からの入学だったが、今もまだこのサイズには感服している。
そしてご飯は一食銀貨3枚と非常に安く(都市部では銀貨10枚が基本、他の単価も田舎と比べて15倍程まで膨れ上がっている)、大変リーズナブルなお値段となっている。その上どれも値段からは想像もつかない美味であり、料理人達のレベルの高さがうかがえる。
なお<料理>スキルは無いわけでは無いがごく稀であり、そういうのは王都のような中央の都市部に集められるので、基本的に料理人という仕事は本人の技量とセンスで成り立っている。
スキル至上主義の人達はこれを見てなんていうのか聞いてみたいものだ。
オススメは肉や魚に溶き卵とパン粉を付けて貴重なオリーブ油をたっぷり使いカラッとなるまで揚げた「フライ」を、数種類の野菜とワインをドロドロに溶けるまで何時間も煮込んだ濃厚なソースをかけて、野菜とともにふわふわの白パンで包み込む「フライサンド」。
字面だけ見ても贅沢の極みであり、特に値段を釣り上げているのが特注のワインである。一本で金貨数十枚に匹敵するようなうちじゃ手が出せない高級ワインを使用しており、そのワインの特産地を巡って国家ぐるみで保護している等、力の入れ具合が半端では無いことが伺える。
重厚な香りにほのかな酸味、そして何より他の酒と比べても非常に甘い。材料の葡萄の糖度が非常に高く、それ単体でも高値で取引されているほどであり、更にそれを発酵させたのだから甘さがかなり強烈になっている。
これを10年物のワインビネガーと1:3の割合で合わせて酒気を飛ばすことで、甘さと酸味の奥底に眠る「旨み」だけを引き出すことができる。
流石に物が物だけに週一、かつ先着80個しか用意できないが、生徒一の人気メニューとなっている。食堂の利用生徒が中等部・初等部合わせて凡そ450人、各学年220人前後×6なので約3割が食堂を利用していることになる。
その為少しでも遅れるとすぐに売り切れてしまい、<瞬足>や<縮地>が爆速で食堂に向かい、サンドを食べながら先生に怒られるというのが恒例行事となっている。
今日は全速力で廊下をぶっ飛ばして来たつもりだったが既に長蛇の列ができてしまっていた。
当然みんなその手にあるのはフライサンドの券、とはいえ少しでも急いだのが功を奏し、息が切れ切れの状態で何とか80個目に手に取ることができた。無論一人一個限定である。
背後から凄まじい悪寒を感じつつ、罪悪感に苛まれながら券とお金を払った。ちなみに食券置き場で券を選び受付まで持って行くという形式であり、どのメニューにも大抵10人は並んでいる。
横入り、抜かしは厳禁で、年齢関係なく早い者勝ちなので、必然的に初等生の移動系スキル持ち、中等生の左に同じ、初等生、中等生の順番で食券にありつける(初等部の教室の方が食堂に近い)。
今日も今日とてガチ勢の方々が並んでいたのである。
まだかまだかと待っていた所に、ある人物が声をかけた。
いやにねばついた声、神経を逆撫でするようなイントネーション。
ああ、よりによってこんな日に…
「ビスタくぅ~ん、あとで銀貨あげるからさぁ~、それちょうだァ~い?」
「ク、クリス先輩………」
声を掛けてきたのは上級貴族が一人、クリス。中等部2年の先輩であり、簡潔に言ってしまえば不良である。
貴族派閥の一人であり、入学初日に派閥の誘いを断って以来、かれこれ3ヶ月もの間目を付けられている。
ついでに彼も中々の剣の腕前を備えているらしく、金と力を持った彼をリーダーとして不良集団が出来上がっている状況である。
とはいえ折角苦労して手に入れた数週間ぶりのフライサンド、手放すなんてとても………
「頼むよぉ~、俺それ楽しみにしてたんだよねェ~」
「そんなこと言われても…」
僕だってそうだ、間に合うために全速力で走ってきた。なのに…
「あっれぇ~? 俺に逆らっちゃうわけぇ~?
その気になればお前の家なんて簡単に潰せるんだぜ?」
「そ、そんな………」
先生たちに言おうとも思ったが、同様の脅しをかけられてしまい結局言う事ができていない。先生も中には食堂を利用している人もいるが、調理の音と生徒たちの会話で音が掻き消され、この会話は聞こえていない。
「早くしろ。」
「うう…………ッ」
実質家族を人質にとられているようなもので、ついでに初日の帰り道に彼に集団リンチに遭ったのも加えて、彼には逆らうことができない。何で僕なんだよ、脅してお金を巻き上げるなら他の奴でもいいじゃないか。
良いとこ育ちのボンボン野郎………畜生…………
震える手で恐る恐るフライサンドの食券を差し出そうとしたとき、誰かが僕の手首を掴んだ。
「え………?」
「先輩、今の言葉、もう一度大きな声で言ってもらえませんか?」
そこには、彼女が居た。




