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23話 惨敗

にらみ合いを利かせる二人、先に動いたのは僕の方だった。


「はぁッ!!!」


勢いよく踏み込み、両手でしっかりと支えた木剣を全体重をかけて真正面から振り降ろす。

何度も繰り返した動作、しかしその度により速く、強くなっていく。

振り上げ、振り降ろす。たったそれだけの単純な動作、しかしその単純さ故その威力は凄まじいもので、物凄い風圧が発生した。



スキルによる強制的な肉体の使役。

満遍なく剣技をこなせるようになる<剣聖>と異なり、<剣舞>や<見切り>のような自分の意思で発動させるものは、その都度肉体に過度な負担をかける。

<剣舞>で言えば、切っ先を変えるときにかかる慣性を肩から腕にかけて無理矢理押さえつける必要がある。その為全体的に見たステータスが同じだとしても、その偏り具合が全然異なるのだ。


加えてスキルが開花した12の時から如何にこのスキルを活用するかを考察し、辿り着いた結果が一撃必殺だった。

相手が反撃する前に先に倒すという先手必勝のスタンスは予想通りこのスキルとかなり相性が良く、フットワークは要改善だが剣の威力だけは並の冒険者すら超える程にまで強くなった。





そして、ここで相手が採る選択肢は二つ。

避けるか、受け止めるか。


彼女は初日に情報交換をした際に僕のスキルを伝えてあるので、後者を採る可能性が高い。

とはいえ避けるという事も十分選択肢に入ってくる。

何しろ受け止めると言うのもこちらの思うつぼなのだから。



当然横に避けては<剣舞>で無理矢理方向転換された剣が飛んでくるので、体重移動の直後の威力そのままの攻撃を受け止めることはできない。

避けるとしたら後方だろう。

しかし後方へ移動してしまったら反撃を行えない。不用意に踏み出そうものなら急に方向転換してきた剣の射程圏内に入ってしまうからだ。


そして園内の面積にも限りがあるので、試合はそれぞれ範囲を区切ってあり、範囲外に出ても一本とった扱いになる。

その為後方への回避には限りがあり、一度は受け止めなければならない。



しかしそこで受け止める際のデメリットが際立ってくる。

一撃必殺に特化させたこの振り降ろしは同じ<剣舞>、もしくは<剣聖>かつフリスト君のような天性の勘と優れた肉体を持ってしてようやくまともに受け止められるのであり、普通のバランスのとれた<剣聖>やフットワーク重視の<見切り>ではそのまま膝をつきかねない。














二つに一つ、確かに最初の予想は間違いでは無かった。

彼女は避けるという選択肢を採った。

それも右(こちらから見て左)にスウェー。


このまま<剣舞>を発動すれば確実に彼女は受け止めきることができず、また重心がまだ移動しきっていない為回避もままならない。



右脚を重心に<剣舞>を発動し、剣を即座に手の中で回転させ切っ先を横に。そして遠心力により体重を4:6の割合で剣に移し、可能な限り方向転換による威力の削減を抑えた一撃。

試合の範囲は各6m、この一撃で仰け反ったあと、もう一撃加えれば押し出すことができる。


一本取った、そう思った時だった。










「えっ……!!!!?」

瞬間、ぐるんと世界が廻った。

何が起きたのか、理解が追いつかなかったが、とにかく自分が地に足をついていない事だけは確認できた。


かろうじて他に得た情報と言えば、彼女がいつの間にか落としていた木剣を拾う姿だろうか。



「ぶっ…!!!!」

空中で一回転した後、そのまま受け身に失敗し背中を強く打ち付ける。

肺の空気が抜け落ち、酸欠で頭がくらくらする。

何が起こったんだ。確かに僕は<剣舞>を発動して木剣の軌道を曲げたはずだ。躱す余地は無かった筈なのに………


手首の魔導具に1つ目の明かりが灯る。

言い忘れていたが、点を取られる度取られた側の魔導具に光が灯り、3つ付くと負け、という形だ。



―――――――――――――

その後も彼女には全く歯が立たず、久々に完璧な黒星がついて授業は終わった。

<直感>のスキルなのか、彼女自身の経験なのかはわからないが、まるでこちらの手の内を全て見透かされているような感じがした。

<剣舞>という圧倒的な情報アドバンテージを有しているにも関わらず、如何に不意を突こうとも彼女の前では悉く見通されていたのだ。


とはいえ彼女の肉体も特別強いわけじゃ無い…と言うか素質は十分あるのだが、彼女自身がそれに気付いていない為、本来の性能を引き出せていないと言う方が正しいか。

精密性は十分すぎる程であり力の流し方も目を瞠るものであったが、威力に関してはまだまだ僕の方が上だった。


まぁそれすら上回られちゃったら完璧に勝ち目が無くなっちゃうんだけどね…




今日の戦績は、僕と彼女が0-3、フリスト君とロットさんが3-2だった。

ロットさんもいいところまで行っていたのだが、追い込まれたフリスト君の反射速度は凄まじいもので、<見切り>と自身の身軽さを生かしたロットさんの高速攻撃を寸分違わず受け止め切り、渾身の反撃で一本を奪い取った。


正直これでも強すぎると思うが、先生に言わせればまだまだ動きに無駄があるらしい。冒険者ってどんな化け物なんだよ。


―――――――――――――



同日、同刻、某所。

暗室にポツンと置かれた棺、そしてそれを取り囲むように配置された数多の魔法陣。魔法に精通している者であれば、一目で封印の魔法陣であると分かるだろう。何重にも張り巡らされた魔法陣は互いが互いと結びつき、美しいまでの魔力の循環を導いており、そこに外部からの干渉は入る余地が無い。

「遺物」の一つに魔法を弾く手袋があるが、これを原点として造られたと言われても信じてしまうだろう。もしかしたら本当にそうなのかもしれない。



それ程までに封じ込められた存在が強力なのだ。


そして、代々伝わる墓守の一族がそれを守り続けていたのだが、何年も前に最後の当主が亡くなり、全ての情報は闇へ葬り去られたはずだった。



しかしある人間が、その禁断の扉を開けてしまう。

その脅威も、姿も、名前すら忘れられるはずの存在を、再び現世にとどめてしまう。


何しろ封印の魔法を始めとした結界系の魔法は、外部からの影響を防ぐことはできるが、内部からの影響に関してはどうしようもないのだ。

その人間が陣に文字を一つ書き加えただけで、たちまち全ての魔法陣の魔力の流れが齟齬を起こし、消えてしまった。

この世に完璧な物など存在しない。

それはあまりにも完璧に造られており、逆に言えば一ヵ所でも欠けてしまえば効果を無くしてしまう。



そして棺の蓋が開き、禍々しいどす黒い魔力と共に、棺の主人が目を覚ます。


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