22話 編入初日
その後散らばっていた荷物を急いで片付け、彼女を部屋に招き入れた。
普段はドアを少し開ける程度なので特に気にしなかったが、流石に同居人相手にそれはマズいので、少し廊下に待たせるハメになったが何とか片付けることができた。
彼女の荷物まとめを手伝ったあと、貰い物のお菓子をテーブルに置いて
自己紹介をした。
彼女の名前はカーリーと言うらしい。
カーリー・ベルファス。
名前も苗字もどこかで聞いたことがある気がするが、思い出せないので特に重要な事ではないはずだと思う。
現役の冒険者であり、ランクはB、ギルドの依頼仲介人から推薦され、招待状を手配してもらったそうだ。
今週で第一期が終わるので、二週間ほどの夏休みの後の第二期から編入生として授業に参加するとのことだ。
ちなみに僕の部屋が選ばれたのは、この前僕と相部屋だった人が協会からのスカウトを受け学園を中退してしまい、一人分空いていたからだろう。
スキルは<直感>なるスキルらしい。どうも「良い予感」とか「嫌な予感」をスキルが訴えてくるとか。サポーターとしては理想のスキルだろう。予感という曖昧な基準とはいえ、リスクが少しでも減るのはありがたいと思う。実際のところはわからないが。
性格は見た所比較的内気…だと思うが、少しずつ自信が付いてきているようにも思える。最近何か良いことでもあったのだろうか。
少し肩が強張っているが、初めての場所に初めての相手となると強張るのも無理はない。実際僕も少し緊張している。
父親の事を誇りに思っており、冒険者を目指したのも父親への憧れから来ているようだ。また義妹も一緒に編入するらしく、よく似ているからすぐわかるらしい。白髪だから間違えることは無いだろう。
この際だから僕の詳細についても少し話そう。
先程彼女が言った通り、僕の名前はビスタ。ビスタ・ファルド。
しがない下級貴族だ。没落と言うわけでも無いが、これと言って名を馳せた者でも無い。
ただ、周りより少し裕福な家系だっただけの事だ。
年齢は16。誕生日は春なのでカーリーとは同い年という事になる。
スキルは<剣舞>、振った剣の勢いを殺さず方向だけを変えるスキル。下手に動かそうとすると剣や体に負荷がかかるが、勢いが死にきらない方向、例えばV字のように切っ先に合わせて使う事で、連撃を高速で繰り出すことができる。
また試してみた所剣に限らず長い棒状のものであれば何でも良いようで、少し丈夫な木の枝でも発動できた。
司祭の言っている事はあまり正しくはないと思う。
コースは普通科であり、学業、実技、魔法どれも平均的な課数を受講している。
ちなみに成績はどれも平均点より少し上くらいで、実技の模擬戦は勝率6割4分くらいと中々高い程度だ。なお僕の学年には3人ほど化け物が居て、そいつらがいつも上位を寡占しているので、僕の成績では特に目立つことはまず無い。
中でも実技専攻のそのトップが本当に化け物なのだが、その話は後々話そう。
趣味は読書で休憩時間にはいつも本を読んでいる。放課後はいつも図書館に行って、10冊くらい借りて帰る。そして次の日にはまた10冊と、正に本の虫という表現がピッタリ当てはまる。
自慢じゃないが、図書館にある本のうち7割くらいは既読済みである。
最近の好みは詩集であり、数百年前、詩を詠むことが流行っていた時期の名残を読んでいる。
一通り話し終えたと思われるタイミングで、天井から声が聞こえた。
『就寝時間です。生徒たちは速やかに寝床に付くように。起きてたら10分毎にペナルティですよ!!!』
各部屋に設置されたアナウンスようの魔響結晶が、就寝時間を告げているのだ。当然ながら睡眠妨害にならないよう時間より前に明かりを消した部屋には鳴らない仕組みになっている。
就寝時間の22時、気付いたらもうそんな時間になっていた。
「えーっと…それじゃぁ今日はここまでかな。ベッドはあれを使ってね、起床時間は7時だから、それまでに。」
「は、はい!」
「おやすみなさい。」
「お、おやすみなさい。」
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それから2週間が経った。
僕が学園に行っている間は初等部の寮に行って妹さんと話したり、冒険者の仕事をこなしているそうだ。血まみれの洗濯物をみて絶句したのは記憶に新しい。
お昼は学園の食堂を利用していて、僕と同じ下級貴族の子達と上手くなじめているようだが、お偉いさん方はあまり芳しくないようだ。
いや~しかし彼女が初めてここのご飯を食べた時の表情と言ったらもう…その場全員が確実に、言いようのない高揚感を得た事は間違いなかっただろう。
夏休みの間は編入生用の事前課題を解いており、座学の知識も中々に高かった。いやむしろ僕より上かもしれない。マズいな、教えなきゃいけない立場なのに早速教えてもらう事になりそうだぞ…
ちなみに夏休みも特に予定は入っていないので、図書館に行って勉強を兼ねて読書をしていた。
公舎には入れないが、図書館は開けてあるので嬉しい。
だがお偉いさん方はともかく、友達もみんな遊びに行く中で一人だけ勉強してるのは孤独で辛い。彼女も正式に園生になるまでは補助金が出ないので、仕事に忙しく誘うわけにも行かない。
何ともやりきれない。
それでも彼女と色んな話ができたのは幸いだった。
冒険者の経験はどれも興味深く、資料と現場ではまるで違うという事がひしひしと伝わってきた。特に興味を引いたのはやはり概念魔法についてだろうか。ランダムな扉と繋がる迷宮は、是非クラブ協会に入会できたら調べてみたい。願望で終わらないようにしないとな…
また彼女の妹とも話そうとしたが、警戒心MAXで避けられてしまった。
相当頭が良いと聞いていたので、彼女でも知りえなかった「色付き」の話を知ってるかもしれないと思ったのだが……残念……
ともあれこの2週間で彼女と大分仲良くなれた気がする。
最初こそ強張っていた肩と表情も、今や大分柔らかくなっている。それに彼女と話しているとなんだか心がぽかぽかする気がするのも一役買っているのかもしれない。
12から17までの間の、幼さがまだ捨てきれていない彼女の笑顔は、長らく失っていた共感する力を取り戻してくれるようだった。
ああ、楽しい。
こんなに楽しかった夏休みは、初等部の時以来だろうか。
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そんな夏休みも終わり、ついに始業日がやってきた。
始業式を終え、編入生達の学園見学も終わり、いよいよ授業が始まる。
4限目の授業は実技であり、それぞれ近接、魔法、補助、生産のスキルに分類されたクラス分けで各々授業内容が異なり、僕と彼女のスキルは近接に分類されている。
何故サポーター向けのスキル(だと思う)はずの彼女のスキルが近接扱いになっているのはわからないが、一緒に授業を受けられるのは嬉しかった。
編入早々物騒な授業で申し訳ないと思いつつ、彼女の実力がどんなものか楽しみな自分も居る。何だかんだ僕も他と変わらず脳筋なのだろう。
体育着に着替え、体育館に集合する。
流石にこの時期に外では熱く、授業中に死人が出てはひとたまりも無いのでそこら辺には気を配っているらしい。
できれば初夏の時からそうして欲しかった。
魔法系の奴らは一年通して専用の演習場だし、補助や生産に至ってはそもそも公舎から出ないし、羨ましい限りだ。
近接スキルのクラスは模擬戦がメイン。技術は戦闘から身に付けると言うのがここの教育のスタンスらしい。
木剣で勝負し班に分かれてリーグ戦を行う。班の相手は基本ランダムだが、たまに先生の気紛れで変わることもある。
そして今日もまた気紛れが発動したらしい。
「んー…じゃぁビスタ、お前が編入生と組め。」
「は、はい!!」
「お前ばっかりずるいぞー!!」「ビスタの癖に生意気だー!」「私もあの子と組みたかったのにー!!!」「えこひいきー!!!」
ブーイングが飛んできた。それも沢山。
彼女、クラスでかなりの人気者であり、さっきは休み時間になるや否やクラスのほぼ全員に囲まれて質問攻めに遭うなど、注目具合が伺える。
仲良いなこのクラス。
さておき、それをルーレットとかじゃなく気まぐれで僕が選ばれたとなると、反感も沸くだろう。
「お? お? 異論か? よし、さっきブーイングかました奴全員構えろ。誰か一人でも俺から一本取ったら聞いてやる。」
途端にしんと静かになった。
実力主義の世界だが、少し大人げないと思います。はい。
「それと、ん~フリストとロットも追加な。」
「「マジですか」」
「マジです。さっきも言ったが、異論は俺に一本取ってから言え。ま、クラウンの嬢ちゃんにも取らせたことは無いがね。」
実技教師ライオ・ファーディ。
元Aランク冒険者だがその実力はSランク級とまで言われており、「赤」の手ほどきを受けたのではないかと噂されている程である。
本人曰くかなりの飽き性で、冒険者に成り立ては良かったものの、Aランクに上がってからは面白いクエストがかなり減ってしまい、飽きてきた所を学園からのお誘いを受けたという。
性格に難ありとはいえ本人の腕前は戦闘面でも教師としても確かで、僕も力の入れ方や足運び、間合いの取り方等色々教えてもらった。
あとクラス内で実技で1番の成績を収めているさっき名前の挙がったフリスト君でさえ片手で軽くあしらっている。
大柄な肉体の割に恐ろしい速度で移動し、一撃一撃が目で追いきれない程速く、重い。僕も去年から大分強くなったとは思うのだが、俄然20秒と持たないままである。
当然複数人で行けば勝てるのではと思い、全員で囲んだこともあったが、悉く一人一人痛い目に遭って終わってしまった。
流石は元ベテラン、その噂は伊達じゃない。
「編入生にゃいきなり模擬戦はキツいかもしれんが、冒険者やってるなら慣れてるよな? ん?」
「は、はい……多分……」
「多分ン~???? 気合が足りねぇぞ!! お前よくそんなんで冒険者続けてこられたな!! 放課後ちょっと職員室こい!!」
「うう………」
そりゃぁビビる、誰だってビビる。
圧が凄いもん…下手したら失禁も吝かではない程の恐怖を感じる。
ただでさえ編入初日で緊張してるはずなのに、更に追い打ちをかける先生。やっぱり性格に難がある。
それでも声が震えるだけで泣かずに済んでいる彼女も彼女で中々に肝が据わっているのだが。いやまぁ涙目だけど。
「ふぃ、後はまぁ適当に組んどいてくれ。ただし前回同じだった組は避けろよ。何度も言うが同じ相手と戦っても何も意味が無ェからな。」
そうして僕の班は僕とカーリーさん、フリスト君とロットさんの二ペアで4人班となった。
二人一組でペアを作り、片方のペアが試合をしている最中はもう片方のペアが魔法による治療の訓練も兼ねて応急処置をしながら観戦する。
試合は三点性で、直撃が入る度に一点加算される。
木剣には保護魔法が掛けられているのでどれだけ荒く使っても壊れない心折設計だ。
判定はそれぞれ手首に付けた小型の魔導具が判断しているようで、先に三点入れられるとブザーがなる仕組みになっているので分かり易い。
先に僕と彼女のペアがやることになり、互いに正面を向いて木剣を構えた。防具も無いので木剣だろうと当たるととても痛い。実技の授業はあまり好きではないんだけどな…
「それじゃ構えて~………」
他はそれぞれの進捗度合いで勝手に進めていいが、一試合目は先生の合図とともに開始される。
その場全員が完全に集中し、体育館に束の間の静寂が訪れる。
汗が一粒頬をたれ、首元まで進む。
そして重みに耐えかねて落ちる雫が地面と衝突する瞬間。
「始めェ!!」
怒号と共に、数多の雄叫びが聞こえる。




