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19 それは突然に

結局、その少女はどこかへ行ってしまった。

<共鳴>でただの行き倒れであったことが分かったので携帯食料を上げた所、一瞬にして完食し、そのまますたすたとどこかへ行ってしまった。


またがっついてる時に異形の右腕はどんどん小さくなっていき、終いには普通の腕と何ら変わりない状態にまで変化していた。所謂半人半獣の亜人、獣人の中でも外面ではなく内面に獣を宿す珍しいタイプらしい。

そもそも私は実物の獣人を見たことが無いからわからないが。


「結局何だったのでしょうか…」

「さぁな、もしかしたら流されたのではなく、自らの意思でここへ来たのかもしれぬ。」

「不思議な子ですね~。」

「異分子NO.1のお主が言うか。」







「(ならば何故この地域に来れた…? 移動系の魔法は座標を設定しなければ飛べない、先に行きたい場所へあらかじめ魔力のパスを通しておく必要がある。それに距離と質量が大きくなればなるほど消費魔力量も大きくなっていく、まして土地レベルで魔力が異なる場所から送るなど、いくらこの姿とはいえ我が感知しないはずはないのだが…)」



「行きますよ~ナル様~」

「う、うむ。」


―――――――――――――――――――――


さて、それから特に目立った事件も無く二週間が過ぎた。

クエストも当然ながら依頼人ありきなので全て受理済みの日もあり、そんな日は農家の方の手伝いをした。


雑草を抜いたり水を撒いたり、他にも剪定をして強い芽だけを残したりと、農業も意外と奥が深くかった。ただ村の端の方にある農地だったため井戸からかなり離れており、水運びの作業がとてもきつかったのは印象に残っている。久々に重労働をしたのもあるが、最近は荷物持ちをやらなくなったからだろう。

何だかんだ非冒険者より筋力があると言うのは、精神面的なギャップが大きい。



他には今泊まっている宿で、帳簿付けや掃除などのお手伝いをしたり、<裁縫(ウェーバー)>のスキル保持者の方に裁縫を教えてもらったりと、やっぱり冒険者じゃなくて便利屋(フィクサー)に改名した方がいいんじゃないかなって思う。






そして事件は起こる。

丁度ナルダ様が何故か受付さんから魔結晶を貰ってホクホクしていたとある昼下がりの事である。




突如として村の中央にある教会の鐘が鳴った。

神獣がいる中での教会の存在意義はと思うが、不思議な現象を何でも神格化するのが人間の性なので、特に触れないでおく。


とにかく、その鐘は今まで決まった時間にしか鳴らず、日が出ている間の時計の役割しか果たしてこなかった。(ちなみに「錆の邂逅」時代にその手の知識は得ている)

しかしそれが普段は鳴らないときに鳴っているという事はそれすなわち村への襲撃を意味する。




代表的な例は盗賊団だろう。

村々への人的被害の大半はこの盗賊団によるものだ。


いくら協会が絶大的な権力を得ているとはいえ、当然ながらはみ出し者は出てくる。まして12歳まで生き残れば誰もが必ずスキルを得ることができる、誰もが権力に抗う力を持つことができてしまうのだ。


また「エース協会管轄公認自治組織『ダイヤ協会』」という警備に特化させた組織もあるが、影響範囲は王都を始めとした貨幣の流れが良い所、つまりお偉いさん方の周りであり、一言で言えばお雇いガードマンである。


そして初めこそ小規模だったはずの盗賊団は芽を摘み取られることなく少しずつその勢力を拡大し、やがて易々と手をつけられない程巨大化してしまった。


結果中小の村々は発展する前に高確率で盗賊団の襲撃を受けることになり、そのほとんどが奴らの食い物にされてしまい、村人達は盗賊に殺されるか、都市部に移動してインフレーションによる困窮に苦しむか、もしくは盗賊団の仲間入りかのどれかというのも、盗賊団が膨れ上がる要因の1つだろう。いっそのこと根絶やしにすれば協会から公的な討伐隊が結成されるだろうに。


膨れ上がった盗賊団は巨大な呼び水となり、似たような思想を持つはみ出し者を次々と邪の道へ引きずり込んでいった。


ちなみに盗賊団は最低でも一個大隊(300人~)から構成され、指名手配級のものになると元Aランク冒険者がゴロゴロいる師団クラスにまで膨れ上がる。

末恐ろしい。


当然ながらリーゼ村にも何度か盗賊団が来たことがあるが、大抵リガードさんを筆頭に引退した元冒険者の方達がことごとく返り討ちにしてしまっていた。





閑話休題、私もナルダ様を連れてすぐさま鐘のなる方へ向かった。冒険者はギルドに登録した時点で各村の自警団に協力することが義務付けられており、盗賊団を撃退すれば報酬もいくらかギルドから参加者全員に回すようになっているが、ぶっちゃけ割に合わないのが現状である。


関係ない話だが盗賊団の討伐に最も貢献している冒険者には碧色が与えられ、現在の「色付き」は「碧の奉葬」らしい。「そうそう」と読むか、「ぶそう」と読むかは感性に任せる。

何でも一流の職人が鍛えた剣に匹敵する切れ味を誇る魔力の糸を、何本も操って瞬く間に旅団を壊滅させたとか。一対軍では「赤」や「黄」に匹敵する程とのこと。




さて、そのような危機的状況にありながらなぜこうも流暢に説明できているかだが、答えは単純だ。


この村には現在クラブ協会の人員が派遣されている、それ即ち協会の息がこの村にかかっている言っても過言ではないのだ。


その事を知ってもなお襲撃を仕掛けるということは飛びきりの世間知らずか、よほど腕に自信がある者しかおらず、後者であればもっと資金の流通量が多い村を襲った方がお金になるため、わざわざ協会に喧嘩を売るリスクを冒す必要は無い。


またバルガ鉱山という最適な採掘スポットを持っている以上この村も何度か狙われたことがあったというわけで、住人達の焦りを感じさせない手慣れた対応もその理由の一つだろう。



つまり、今この村を襲撃するような奴は十中八九世間知らずの新米盗賊団ということだ。

主にCクラス冒険者の集まりであり、十分村の冒険者だけで対処できるレベルである。




――――――――――――















はずだった。


勿論簡単に撃退できてしまったら事件にはならないだろう。とはいえこうも予想が外れてしまうとちょっと自信が無くなりそうだ。


盗賊団では無かった、いやむしろその方がよかったのかもしれない。

結果論として関係のない盗賊団について長々と説明したが、この世界の情勢についてある程度掴めたと思うので、許してほしい。





私達のいたギルドのある方面では無かった焦りと緊張、そして血の匂いが、進むにつれてどんどん強くなっていく。

悲鳴と叫び声、金属がぶつかる音が聞こえ始めた。


<共鳴>を使わずとも経験で分かる死の香り、背筋が凍るような悪寒を3週間ぶりに感じた。


"あれ"も、「金」と同じ感覚がしたのだ。







相手は大人数ではなく、たったの3人だった。いや、3「体」だ。

しかしその後ろには警備を担当していたはずのクラブ協会の人達の残骸があり、また現在進行形で何人もの冒険者達がやられている。


曰く、蠢く肉塊。

曰く、「」の根源

曰く、「天使」




それを直視した時、私は嘔吐していた。

「錆の邂逅」時代に「ブラッドムーン」でいくつものおぞましい死体のパレードに遭った時や、「黄」の実験の副産物を処理するクエストを受けた時もこれほどの嫌悪感と不快感に包まれることは無かっただろう。



なるほど、こんなものを相手にしては、流石の協会のメンバーとて太刀打ちできまい。

何故危険度的にダンジョンの最奥地にいるようなアレがこの村に来たのかはわからないが、私は確信した。



今日、この村は滅びる。

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