18 呼び水
「金」が結界装置を持ち去った事により、ゲイザー森林にとどまらずバルガ村周辺全域がその影響を受けた。
具体的には数kmに渡って魔力濃度が緩やかに上昇し始め、ついに他のダンジョンにまで同様の兆候が見られたため、ギルドが急遽対策を講じ、王都にあるギルド本部から結界装置が届くまでの約1週間、村に衛兵が100人程派遣され、対魔力結界、乃ち結界装置と同じようなモノを展開した。
対魔力結界も専用の装置が必要で、結界装置に比べて広範囲をカバーできる分量産体制が整っていない為、このような緊急時の派遣以外は王都で金庫番をしている。
ちなみに本部とあるが、実際は「エース協会管轄魔導技術推進委員会『クラブ協会』」(以下「クラブ協会」と表記)という魔導具に関するあれこれを開発・取り決めているお偉いさん方からの派遣とのこと。
「金」が現れた事を受付さんが伝えたのかはわからないが、普段は「クラブ協会」のさらに直属、もしくは協会が依頼したどこかしらの機関が出張してくるはずなのだ。
実際魔物が予想外に大量発生した時、近くの浄化専門機関の支部から人員が派遣された話は何度か聞いたことがあり、今回もその類だと思っていた。
国防軍もいるとはいえ、Sランク冒険者達には遠く及ばない事から分かる通り今の人類が繁栄できているのは紛れもなく冒険者という最前線で命を張っている誰かがいるからであり、それら冒険者を管理する協会がいかに権力を持っているのかは想像に難くない。
長ったらしく説明したが、こんな辺鄙な場所に協会直々に人員を寄越したという事は、よっぽどの事態であるということだろう。
しかしそれは今回の話とはあまり関係が無い。何故なら今話している私は時系列的に言えば後の私であり、当時の私は協会という存在すらほとんど無知に等しかった。
いや、少し語弊があるな。(「元」が付くとはいえ)普通のBランク冒険者に協会についての知識を求めると言うのはあまりに酷な事だろう。
何しろ協会へのオファーが来るには少なくともAランクが最低条件で、なおかつそこそこの成績を維持しなければならない。
ダンジョンの浄化は勿論の事、未踏破ダンジョンの開拓、新しい魔導具の開発、またはそれぞれの協会の方針に合わせた技術を持ち合わせていなければならない。(ただし、「技術昂進委員会『ダイヤ協会』」工房部門、またはそれの直属の工房系機関は除く)
精々当時の私が知りうる情報は協会という存在がある事ぐらいだっただろう。一度シンの下へオファーの手紙が届いたことがある。
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閑話休題、そんな非常事態であるにも関わらず、私とナルダ様は予約が取れたバルガ鉱山の浄化を請け負っていた。
そして最深部にて、ここの結界装置は正常に動いていることを確認し、周囲の鉱石を採掘している所である。
無論ピッケルを買う余裕も無い為、とりあえず手持ちのナイフで大雑把に削りだしている状態である。
「ナル様も少しは手伝ってくださいよ~」
「むっ、我に雑用をしろと言うのか? お主は少し我に対する敬意が足りぬようだな。」
「今日の晩御飯抜きですよ」
「む~…見張ってやっておるから我慢せい。
…だからご飯抜きはやめて………」
しかし削りだすとはいえナイフもあまり質が良いものではない為、ヘタに力を加えすぎるとすぐに壊れてしまう。中々に神経を削る作業だった。
とりあえず近くに見えた鉄鉱石、銅鉱石、そして低純度とはいえ魔結晶も採掘できた。
まとめて凡そ銀貨20枚といった所だろうか。浄化クエストの報酬分も含めれば、安物の装備1つぐらいなら買えそうだ。
とりあえず優先順位としてはナルダ様の装備を整えるのが先決だろう。
いくらなんでもリーゼ村で拵てもらった服だけじゃ防御力は期待できない。
子供サイズの装備は基本どの工房もオーダーメイドしか受け付けていない為、手持ちの金額で買えるものと言ったら魔法を微力ながら防いでくれる護符とかだったり、軽い解毒作用がある安い宝石のネックレスとか、そのくらいだろう。
そして食費だ。
「錆の邂逅」では最初こそ資金難に苦しんだことがあったとはいえ、追い出された時はもうSランクにまで上り詰め、入る収入も相当なものとなっていた。
当然私も倹約はしていたものの、金銭感覚が少し庶民離れしてしまっている。
関係ない話ではあるが、3年でSランクにまで昇級した「錆の邂逅」は今見てもやはり飛びぬけている。普通は3年間続けてもBランクが精々だと言うのに。
あと思ったよりナルダ様がよくお召し上がりになる。聞いたところによると食べ物が持つエネルギーを魔力に代えて、肉体の維持に使っているとか
なんとか。詳しいことはわからない。
次に住処。いつまでも宿屋や野宿というわけにも行かない。ボロボロとはいえ我が家があるリーゼ村に冒険者ギルドがない事を呪ったのは何か月ぶりだろうか。
交通機関も発達していない為村々の往復には数時間はかかる。とある冒険者はろくに資金も無しに王都に行こうだなんてご乱心なさっていたらしいが、愚か者の極みである。
空き家はあるとはいえ、小さい物でも購入だけで金貨100枚、更には土地に税金が掛けられ毎月金貨3枚払わなければならない。
更には家具や生活用品を揃えるとなると、相当な額を要求されるだろう。
今後の事を考えると、まだまだ稼ぐ必要がある。
少し気が遠くなりながら、夕暮れの帰り道を歩いている所だった。
突然、<共鳴>が何かを感じ取った。
今まで感じてきた者とは全く別の気配、感覚。
未知の情報は脳裏を刺激し、思わず立ち止まってしまう。
「ん? どうした?」
「……ちょっと寄り道していきません?」
<共鳴>の感覚を頼りに道外れを歩く。
ゲイザー森林のような森林がダンジョンとして発生するように、ここバルガ村周域は森が多い。その為迷子になった挙句野生の魔物に襲われて死亡するという事例が相次ぐため、日が暮れる前には村に戻る、もしくはいくつかポイントが設けられた野営地にテントを建てるのが基本なのだ。
距離はそう遠くない。特に危険な感じでも無い為、ちょっと確認したらすぐ戻れば十分日の入りには間に合うだろう。
「むっ……この魔力………異邦人か。」
「異邦人…ですか。それなら確かに。」
魔法と言うものは本当に不思議で、たまにこうやって海に面していない区域でも流れ者が辿り着いてしまう事がある。
例はあまりないとはいえ、少なくとも過去に何度か事例はあった。
確か父さんのパーティーにも元「流れ者」がいるとかなんとか。
<共鳴>が訴える気配はどんどん強くなっていくが、相変わらず敵意や憎悪等ネガティブな感情は感じられない。寧ろ特に何か考えているわけでは無いような、眠っているような感じ。
そして辿り着く。目的地へ。
「……………」
「ほぅ、異邦人はたまに観るが、斯様な装いは初めてだな。
そして、斯様な異形も。」
案の定、それは寝ていた。
それは少女だった。
それは、黒化した魔物のような右腕を持っていた。
その腕に見覚えがあった。
その服にも既視感はあった。
だってそれは、まるであの光景の




