14 森林にて
極限まで脱力し、湧き上がる何かを拳を通じて重装備の鎧の内側へ通す。
不思議な手ごたえと共に、重装備が仰向けに倒れた。
「(よし、後は…っ)」
後ろの2人を倒そうと振り向いた時だった。
一瞬、世界が歪んだ。
そこで視たのは、城塞と言わんばかりにそびえたつ無機質な長方形の建物
が並び、赤い煙に覆われている街のような光景。
楽団員のような多椀の怪物たちが暴れ、ある者たちは黒の、ある者たちは白の、または朱の装いを纏った者たちが、それらと戦っている。
彼らの得物は非常に滑らかな片刃剣や両手剣、セスタス、はたまた父さんがダンジョンで見つけてきた「ジュウ」と呼ばれる遺物によく似たものまで多岐にわたる。
そして、多椀の怪物が楽器に指を――――
「(……っ!!)」
その続きを見ることなく、現実に引き戻された。
呆けている男の顎に、すぐさま肘を曲げて遠心力を利用した拳をめり込ませる。
私の体が、私の知らない動きをする。
ナルダ様の力を与えられ、進化した<共感>の能力。
私の過去、刃と拳を交えた人の技術、そこからあらゆる技術を抽出し、最適解を導き出す。
尤も最後の部分は私の判断に委ねられるため未知の状況に対してはあまり有効ではない。使えることと使いこなすことは別物なのだ。
でも、少なくともこの技術は記憶にないし、刃を交えたこの男たちのそれとも違う。
これは一体誰の記憶…?
――――――――――――――――――
結局、気絶した首謀者を置いて男たちは逃げていった。
初心者狩りを懸念した引退した冒険者達が自警団となって見回りをしているらしく、騒ぎを聞きつけてやってきたのだ。
活動資金はどうしているとか、ギルドの反応はどうだとか思ったが、特筆すべきことではないので割愛する。
とりあえず首謀者の男はライセンスはく奪…とまでは行かないが、ある程度の謹慎処分は下るらしい。
レシェル村では冒険者の処分なんて聞いたことがない話だが、こちらではそこら辺がスムーズに進んでおり、意識の違いが伺える。
それでもそんなリスクを引き替えてまでニュービ―を狩る必要があるのかと思うが、恐らくは最近ギルドが処分を導入したばかりか、もしくは嫉妬深い連中なのだろう。
もう一度言うが、自分の事で精一杯だった私にとっては、理解しがたい感覚だ。
そして、しばらく歩いた後に、目的のダンジョンまでやってきた。
ダンジョン名はゲイザー森林。
うっそうと生い茂った森であり、昼間でも日光が届きにくく明かりは必須。踏破した冒険者達によってルートが決められたが、そこから外れれば帰れる保証は無い。
燃やせばいいじゃんと思うかもしれないが、一応ダンジョンなので、魔力による自己修復機能が備わっている。
またそもそもダンジョンに潜る主な目的は、ダンジョンの中心部にある魔結晶、そして魔法の力を得た武器の確保であり、ダンジョンを破壊すると武器に付与する分や結晶となる分の魔力が無くなってしまうので、ダンジョンの破壊は特例を除いて禁止されている。
ランプに火を灯し、森の中を歩く。
陽が当たらない為じめじめとした空気が漂い、嫌な感じがする。
第六感と言うのか、私の勘は当たりやすいのがこの職業での辛い所だ。
「しっかしくらいな~」
「ですね、一応<共感>の機能は健在なので使ってはいるんですが、どうも反応が悪いです。」
時々ランプを持っていない左手で木にペタペタと触り、<共感>もとい<共鳴>を使っている。
全く聞こえないという程ではないが、どことなくノイズがかかり、声が掠れて聞こえる。
「…まぁあの森に比べたら随分聞こえますよ、ほら。」
野蛮な気配を読み取り、そちらに意識を集中させる。
水のような流体形が、中心部のコアである赤い球体を中心に形成されている。周囲の魔力を吸収し、時間はかかるが無限に増殖する魔物。
ご存知、スライムだ。
ダンジョンのランクが高くなると、纏う液体が酸になったりマグマになったりして大変だが、このゲイザー森林はランクD、つまり一番低い為その心配は無い。
かと言って油断はできない。スライムの増殖するペースは1週間に1回、倍々に増えていく。そしてここの浄化が行われたのは2週間前、つまり1体スライムを見つけたら、あと3体は居ると思った方がいい。
周囲に他に敵がいないことを確認し、ナルダ様にランプを預ける。
スライムはコアを中心に魔力を吸収して粘性のある液体を纏っているため、倒す方法はコアを破壊するか液体を蒸発もしくは凍結させることだけだ。
スライムは元々感覚器官が発達しておらず、餌である魔力にしか反応しない。だから必要以上に近づかなければ向こうも気付かないのだ。
「(スゥー…)」
息を深く吸い込み、酸素を体中に行き渡らせる。
肺を思いっきり膨らませ、腹筋に力を入れる。
確かこれはシンが精神統一に使用していた技法だったか。
剣を構え、目標をセンターに捉え踏み込む。
数は2、増殖したばかりだろうか、はたまたルートがかち合ったか。
こちらに気付くのが一瞬遅れた1体目のスライムのコアを斜めに両断し、続けざまに角度を調整し横薙ぎ。
だが、外れた。
コアを地面スレスレまで下げたのだ。これでは剣が届かない。
スライムの厄介な所としてまず最初に上げられるのは、コアを自由に移動できることだろう。
当然と言えば当然だが、わざわざ流体という外殻を取っ払った姿をして弱点丸出しにしておいて、何の対策も無しに生きていられるわけでも無い。
一応コアを起点に体を保っているので、あまり長時間の移動はできないが、最低でも10秒間は自由に動かせることが報告されている。
そしてもう1つはスライムの持つ腐食性だ。
スライムの体は前述のマグマスライムを除き、必ず腐食性を有している。
特に顕著なのが酸を纏ったアシッドスライムだろう。エンチャントされた武器のように、魔力のコーティングが無ければ武器や防具が瞬く間に溶けてしまう、非常に厄介な性質だ。
倒しにくい、損害が大きい、よく増える。
スライムはどの冒険者層からも嫌われている存在である。
しかしこれらはあくまで物理での話。魔法使い達にとってはスライムは鴨も同然である。
何故なら
「[アイスボルト]」
前方に掲げたナルダ様の人差し指から氷弾が精製され、目で追えない程の速度でスライムを貫通、コアを抜き去り木に打ち付けた。
「われのもりではわかないが、スライムはじゅーぶんてごわい。ゆだんはきんもつだよ」
「あ、ありがとうございます……」
こんなふうに、そもそもコアが避ける暇も、装備が被る腐食液も無いからだ。
――――――――――――――――――
それから私が切り込み、洩らした残りをナルダ様が仕留めるというやり方で、しばらく道なりに進んでいった。
しかし、進みながら気になる事があった。
ダンジョンに入る前にナルダ様が言っていた事だ。
『うん? ここであってるのか?』
と。
結局ここまで特に変わった様子は無かったが、やはり<共感>の部分の力が上手く使えない事が引っかかる。
もしかしたら、この森全体に何らかの概念魔法が…
「それはない。すくなくとも、まほうはかかっておらんよ。」
曲がりなりにも中身は神獣、その見聞は確かなものだろう。
では、単に魔力が濃いから効きにくいだけなのだろうか。
しかし、「錆の邂逅」時代でもこのくらい濃度が高いダンジョンに潜った事はあるが、魔導具を除いて特に使えないと言った事は無かった。
では何故………
考えている間に、森の最深部に到達した。
後は先任者が置いた、魔物がダンジョンの外へ出ない為の結界装置のチェックをしたら、クエスト完了である。
しかし、そこには意外な存在がいた。
Dランクダンジョンなどには居るはずがない、圧倒的な威圧感を纏った異様な存在が。
『よう、久しぶりだな。 ナルダ。』
図書館にハマってしまい、また投稿が遅れてしまいました。
続きを楽しみにしていただいた皆さん、本当に申し訳ありません。
(オズマが運ゲーなのが悪i(殴)
GW中は、ちゃっちゃと課題を片付けてなるべく投稿できるよう頑張ります。




