0005 ご令嬢、蜜の返礼には甘いもの
生産チートなるか、、、
アポートが使えるようになったミリアは、休憩がてら庭で椅子に座ってお茶を飲んでいた。
ちょうどおやつの時間である。
そこへウィルが清々しい笑顔を浮かべてやってきたので声をかける。
「ちょうどいいタイミングですね。ウィルお兄様も一緒にお茶にしませんか。」
「今日もミリアは天使のように可愛いね。うん、お茶にしよう。キッチンからおやつももらってきたよ。」
「嬉しいです。今日のおやつは何かなー」
「少し暑くなってきたからね、シルヴィいわくさっぱりしたおやつだと言っていたよ。」
ミリアが庭でお茶をするようになってからというもの、どうやって見つかっているのかわからないが、毎日どこからともなくウィルがおかしを持って現れるので、最近ではミリアがお茶を準備して、ウィルがおやつを持ってくるのが日課となっていた。
なお、ミリアにお茶に誘われるというのがいいらしく、毎日ミリアは形の上ではウィルをお茶に誘うのだ。
10歳になったウィルは毎日のように午前中は家庭教師との勉強や剣の稽古、合間にこうしてミリアと一緒にお茶をして、そのあとはリヒトの仕事を見に行ったり手伝ったりするのである。
かぶせてあった覆いをキースが外すと、そこにはミリアがシルヴィに教えたビクトリアンケーキといくつかのフルーツが添えてあった。
キースがミリアの分とウィルの分を綺麗に準備してゆく。
「お兄様、とても美味しいです」
「ミリアを見ているだけで、美味しいものを食べた気持ちになるよ。ケーキもなかなか美味しいね。」
「はい!この間に挟まっているフルーツジャムがさっぱりしていてとても食べやすいのです。むううう、幸せ。」
そういって笑顔で食べるミリアを、優しそうな笑みでながめているとウィルも幸せな気持ちになるのであった。
(ああ、この天使、絶対他の男にこんな笑顔を見せてやるものか。しかしマーティは要注意だな。まったく。)
ただ、笑顔に見惚れているだけで危険人物扱いをされるマーティ。哀れなり。
「ミリア、今日はどんな魔法を練習していたの?」
「今日はアポートという魔法を練習してなんとか使えるようになりましたよ!まだ練習は必要ですが。」
「ミリアは練習してすぐに使えるようになるなんてすごいね。どんな魔法か見せてくれる?」
「ダメですお兄様。今日の魔法は少し特別なので、夕飯のときにみんなに見せるまでは秘密なのです。ふふ。」
「そうなの?じゃあ夕飯を楽しみにしているよ。」
満面の笑みでミリアにそう言われればウィルは笑顔でわかったとうなずくのであった。
フェルデンツ伯爵家では夕飯を家族みんな揃ってたべることになっている。
そこではいろいろなことが話されるのであるが、最近では毎日のように魔法を覚えるミリアのその日習得した新しい魔法を披露する場にもなっているのだ。
「それとね今日は出入りしている商人のマルクがうちにやってくる日だからミリアも一緒に会ってみる?新しい商品を持ってくるって言ってたし面白いとおもうよ。まだ会ったことなかったよね?」
「はい、まだ直接お会いしたことはないので、私も参加したいですウィルお兄様!」
(商人!これはとても楽しみだ。もしかしたらいろいろと取り寄せてもらえるかもしれないし。それにお兄様と一緒に飲むお茶会の茶葉も面白いものを揃えられたら嬉しいな。ふふふふ)
「ならおやつを食べたら向かおうか。ここへくる時にクロエがお菓子の準備をしていたからもう到着しているころだとおもうよ。
クロエとはメイドの一人で主にウィルの周りの世話をしているが、来客がある場合などはその準備も担当していることが多い。
ケーキを食べて少ししたころ、ウィルがミリアに声をかける。
「ではそろそろ応接室へ向かおうか。」
コンコンコン
「ウィリアム様とミリア様をおつれしました。」
キースがそう言って扉をあけた。
中ではリヒトがソファに座り、その向かいに大柄な男性と男の子が一緒に座っていた。
「ちょうどよかった。マルクに紹介しようと思ってミリアの話をしていたところだったんだよ。ウィル、ミリア、こちらへおいで。マルクもエドもウィルとはいつも顔を合わせているだろうから、今日はミリアを紹介しようと思っていたんだよ。」
「ミリアです。はじめまして。」
「こちらこそはじめましてミリアお嬢様。イザベラ商会会頭のマルクです。お見知りおきを。そしてこちらが息子のエドです。」
「はじめましてミリアお嬢様」
「やあエド、そんなに緊張しなくてもミリアは君にはあげないから安心したまえ。」
すこし偉そうにそういうウィルはエドとも知り合いのようである。
「こんな天使がウィル様の妹なのか。やはり天使と悪魔とは対になっているんだな。」
エドは今ので緊張がほぐれたようだ。
そしてウィルとエドがそんな軽口をたたくのを誰も気にしていない様子から、これはいつものことらしい。
「お兄様にも素敵なお友達がいらっしゃったのですね。お兄様ともども、どうぞよろしく。」
「わかる妹君じゃないか。」
「ふむ、ミリアはやらんからなエド。」
「ミリアは誰にもあげないさ。ことわざにもあるように時は金なり。ではそろそろ始めようか。」
さらりとリヒトが言った言葉にのせられた圧にマルクとエドは冷や汗を流すのであった。
「ええ、気を取り直して。本日はいつもの商品とあとは、新しい種類のお茶と布などをお持ちしました。そして珍しく手にはいったこちらの蜜はミリア様とお近づきの印に。」
そういうとマルクは掌に乗るくらいの袋からいくつも商品を取り出していく。
「マルクさんはアイテムボックスを持っているのね。」
「大事な商品を扱いますからね。そんなに入る数は多くないですが、商人なら1つは持ってますよ。」
「とか言ってそれはどこかの貴族が質草にしたものを買い取ったんだろう。ミリア、アイテムボックスはねなかなか手に入るものじゃないんだよ。」
リヒトがそう説明してくれる。
貴族の質草を買えるなんて、財力もさることながら情報網もあなどれないな。マルクはなかなかのやり手らしい。
「この蜜、ワイルドベアの集めるかなりレアなやつじゃないか。」
「そうですよウィルぼっちゃん。お嬢様は甘いものがお好きと聞きましたので。」
「ミリア、これは魔獣の集める蜜で、かなり森の奥深くまで行かないと手に入らないなかなかレアなものだ。市場にもそうそう流通しないだろう。」
「そうなのですねお父様。マルクさんありがとうございます。」
「いえいえ、今日の本題はミリア様からの商談と伺っていますからね。」
「そうだった。ミリア、最近ミリアがシルヴィに渡しているレシピをマルクに売ろうと思ってね。
さっき食べたケーキもそうなんだよ。それでどうだろうマルク?最近王都で砂糖を使った菓子が出回り始めたのは聞いているんだ。」
「先ほどのビクトリアンケーキというのはとても美味しゅうございました。食感も実に新しいお菓子でした。最近やっと王国でも流通量が安定しはじめたばかりの砂糖といえどまだまだ高価ですからね、出来上がりのわかっているレシピならいくらでも買い手がつくでしょう。レシピは先ほどの1種類だけですか?」
「そうだね。ミリアが教えた基本をうちの料理人がレシピとして書き記したものがここにあるよ。」
「伯爵家の料理人が書いたレシピとなればかなりの家がこぞって買うでしょうね。」
「そうだよね、一度だけではなく何度も売れることになるだろうから、そのへんはあとで相談しよう。」
「お父様、あの私も売りたいものがありますの。いくつかほかのレシピも準備したのでこちらも買っていただけますか?」
そういうと扉の方に控えていたキースがアイテムボックスからレシピの紙束をとりだした。
「お嬢様これは、、食べ物ではありませんね。」
「ふふふ。たくさん作りたいものはあるのですけれど、まだまだ追いつかないのでぜひその辺りは専門の方に買っていただいて作っていただこうかと。陶芸やそれに付随する絵付けのレシピなのです。先ほどのレシピのケーキを載せるにもお皿は必要ですから、できれば綺麗な柄で作っていただきたいのです。そしてサンプルはこんな感じでしょうか。」
そういうとおもむろに掌に魔力を集めていくつかモデルとなりえるお皿やティーカップを作ってゆく。
そうなのだ。ミリアはアフタヌーンティを楽しむための食器の製作を委託しようとしているのである。
(器を作ることは簡単なんだけれど、そこに絵を描くのがね、、、せっかくだから絵を描くことを専門にしている人に描いてもらいたいなーあ、でもまって、絵じゃなくてもこれってよくない?それこそ花びらの、、、)
そう考えながら最初は素焼きのような器ばかりだったものが、試しにと、真っ白なカップに花びらの模様のついたものや蔦の模様が描かれたカップやお皿やその他ティーセットに必要なものが一揃い出来上がってしまった。
「こ、、、これは、、、、」
「この白い器はですでに完成された美だ。」
エドもマルクも目の前で作られたいくつもの食器に唖然とするなか、
「「さすがミリアだね。うちの天使」」
親子は息ぴったりにミリアを褒めるのであった。
「ミリア様、、、、これをどうか売ってはいただけないでしょうか。これはすごい芸術品です。」
(あら、、全部委託するつもりだったのに完成品になっちゃった。まあでもこれはこれでいいのか?)
「それはお譲りします。先ほどのワイルドベアの蜜のお礼です。あともう1セット作りますからそちらは売り物として買ってください。」
そういうと、同じ白でも違った趣のアフタヌーンティーセットが一式できあがったのである。
「あとはお父様とお願いします。」
笑顔でそう言えば、面倒なことはすべて丸投げである。
(作るならもう少し楽して作りたいんだけどな。あ、3Dプリンターにコピーさせる?)
思いつくや、後ろにひかえていたキースに紙とインクをもらって、作ったことのある3Dプリンターを模して設計しはじめるミリア。
(魔道具を作るにはまずは魔石が必要、、、ウィルお兄様持ってるかしら?)
「ウィルお兄様、魔石を持っていますか?」
ミリアの設計図を横から見学していたウィルに声をかける。
「たしか、小さなのは一つポケットに入ってたはず。あ、ほら。」
そう言って魔石を手渡してくれるウィル。
「ありがとうお兄様。うーんこれだと少し足りないでしょうか。」
「ミリア様、どうぞ。」
キースに追加の魔石が欲しいと声をかけようとしたら、対面から設計図を覗き込んでいたエドが素っ気なく大きな魔石を手渡してくれた。
「ありがとうエド」
にこりとエドに感謝を述べると
「ああ、どういたしまして」
と少し照れた様子で答えるのであった。
(ツンデレ属性?微笑ましい。)
内面はアラサーのおば、、、お姉さんなミリアからすればウィルもエドも同じように可愛いと思える対象なのであった。
「初めての魔道具作りーるるる」
無意識に変な歌を歌いながらも手だけはテキパキと準備を進めている。
(魔石に魔力を込めて粉にして、、これを混ぜ込みながら魔力を練り上げて設計図通りにプリンターを作ればいいはず。燃料とコピーするモノの原料になる魔力は外部の魔力を吸い込めるスキームにすれば、スイッチ一つで楽々自動コピー、ふふふ。)
小物を一つ一つコピーするのは面倒だからと、いそいそといきなり大型の機械作り上げるミリア。エドにもらった大きな魔石もあったので大きなプリンターを作ることができたのだ。
「ミリア、これは魔道具、、、だよね?いつのまに魔道具なんて作れるようになったんだい?」
「初めて作ったのよお兄様。昨日魔道具に関する本を読んだの。魔道具を作るのって思ったよりも大変なのですね。」
「いや、そんなにサクサク作られるものじゃあないと思うんだけど。。。」
少し苦笑いのウィルとエドであった。
「そんなことより。では、実演、ぽち!」
自分で効果音をつけてスイッチを入れると、プリンターに先ほど作ったティーセットを写しとらせ、とりあえずテーブルに乗るだけコピーで作らせてみる。
「できた!」
(まだ魔力受け取りスキームに荒いところはあるけれどこれくらいなら許容範囲。)
「「「「そ、そんなに一瞬で、、、」」」」
隣で真剣な商談をしていたハズのリヒトもマルクも子供たちと同じように目を丸くして、机に所狭しと乗ったティーセットに驚くのであった。
その後、テンションの糸が切れたのか、コクリコクリと船を漕ぎ始めたミリアをキースが抱えて部屋を退出し、
商人の本気の商談に疲れ果てた顔をしたリヒトとは対照的にマルクとエドはほくほく顔で軽くなったアイテムボックスにティーセットを詰めて屋敷を後にするのであった。
本日の無意識ミリアによる犠牲者はリヒトお父様でした。
エドにはまだまだ女の子よりも男友達と仲良くしたいお年頃らしいです。(後日談)
なお途中からウィルはミリアを眺めることを楽しんでいたためおしゃべりが疎かになっていたとリヒトに叱られます。
おしゃべりも貴族の大事な武器ですからね。
ちなみに、ミリアが魔道具作りの参考にした本のタイトルは『フェアリの簡単魔道具クッキング』
=======
小説を読んでいただきありがとうございます!
気に入っていただけたら下の☆☆☆☆☆から評価、
コメント、ブクマなどなどよろしくお願いします!
豆腐メンタルなので、絹ごしのごとく優しくあつかっていただけると嬉しいです。
なんでもいいことはモチベーションに繋がる単純な作者です。
甘いものもモチベーション。