0002 ご令嬢、イケメン執事とご対面につづく情報整理
ちょっとシリアス回デス。
「お嬢さま、失礼します。お加減はいかがですか」
入室してきた相手に天蓋カーテンの外から声をかけられたが、緊張で体が動かない。
黙っていると、声の主は慣れた手つきでおろされていた天蓋をまとめてゆく。
すると、部屋が明るくなり、見渡せるようになった。
男はいかにも執事といった風貌。
黒髪をオールバックで撫で付けたしゅっとした出立。そしてイケメン。大事なのでもう一度言うが、イケメンである。
あまりのイケメンぷりに声が出せず、目だけで男の動作を追っていると、
「ミリアお嬢様、失礼します」
と言って手をわたしの額にあててきた。
なんだこいついきなり人のパーソナルスペースに!
と思って怒ろうとしたが、男の表情をみるに心配そうにしているので思いとどまった。何よりも今の状況にパニックだ。こんなリアルな感覚で人に額を触られるなんて何年ぶりなのかわからない。しかもイケメン。
「熱はだいぶ下がったようですね、ポムムをお持ちしましたが、召し上がれそうですか」
そう聞かれると私のお腹がまたもやぐううっとなった。
すると、フっと笑って男は左手を伸ばすと空間からトレイにのった小ぶりの器とフォークをとりだした。
(え、今空間からとりだした?)
そしてそのトレイを浮かせたまま、
「失礼します」
と言って優しくわたしの上半身を抱き起こした。
さっきは緊張で体が動かなかったが、そもそも熱があったようで、身体を動かそうにもダルさがあり、うまく力が入らない。
口元にフォークに刺さった瑞々しい果物がよせられた。
反射的に口を開けると口の中に甘酸っぱい香が広がった。
そして喉がとてもかわいていたことにも気がついた。
「おいしい、、、」
ふと溢れた声に、一瞬男は驚いた表情をしたがその表情はすぐに微笑みに変わった。
あまりにもお腹が空いていたのと、おいしかったことで、器に入っていた果物はすぐになくなってしまった。
食べ終わると彼はまたその器をなにもない空間へと片付けてしまった。
(ステルス機能ではなさそうだし、もしかして魔法?)
お腹に少し食べ物が入ったこともあってか少し落ち着くことができた。
目の前にはまだ執事がいる。
(さてと。)
状況を整理すると、このリアルな味覚や感覚から考えてフルダイブ中だとは考え辛い。だとすると転生?
ファンタジーとしての転生はよく題材として扱われていた。
これはリアルのわたしの身体ではないし、アバターでもない。
でもこうして生きているとゆうことは転生で間違いないだろう。
そう考えると自分が死んだと言うことが事実としてスッと受け入れられた。
元の体の死因は色々考えられるが、それはおいておくとして。
ミリアとよばれたわたしは一体何者なのか。
それが問題だ。
少し落ち着いて整理できたところで、まずは現状把握のために、黙ってわたしからの言葉をまつ、執事に声をかけた。
「それで、今日は何月何日で、わたしはどれくらい眠っていたのかしら?」
そう言った瞬間、頭痛とともに大量の情報が流れ込んできてそのまま気を失った。
夢の中で、いろいろな記憶と出会った。
そして、いろいろなことを思い出した。
高円寺凛としての自分のこと、ミリアとしてのわたしのこと、その全てが混ざり合って頭の中に流れ込んでくる。そして、その混ざり合いが落ち着いたころ目を覚ました。
魔力が多く、うまく制御できていなかったのは凛の人格を思い出せなかったから。凛としては死んですぐのような気がするけれど、実はもうミリアとして4年ちょっと生きているということ。そして、凛とミリアの人格が統一されたことで魂が追いつき、魔力が制御できるようにもなった。
ミリアとしてずっとあったなにか足りない違和感はきっと凛としての魂が休眠状態だったから。
そして、いろいろな現状と問題を理解することができた。混乱よりも、元ある場所に戻ったことで違和感と気持ちが落ち着いたような気がする。
ミリアとして生きてきたのでこの世界については少し理解できたがそれはミリアが子どもとして理解しただけの情報。自分の状況も理解することができた。
さて、魔法のある世界でわたしはなにを始めようか。
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