0023 ご令嬢、旅路を楽しむ
フェルデンツ家を乗せた馬車はいくつかの領を経由し、王都へ向かう。
馬車の内側であるが、空間魔法でミリアが拡張しているので、馬車の箱自体よりもかなり広い造りになっている。外から内側が見えないことをいいことに好き放題に改造した結果だ。
小さめのリビングとそこにソファが設置されており、くつろぐことができるようになっている。
そして、奥の扉を開けると廊下があり、キッチンと各寝室とシャワーブースとトイレがついた部屋が設置されているのだ。一応ダイニングルームも作ってあるのだが、食事は外でも食べられるようにアウトドア用の机や椅子もミリアが準備してある。さすがにストレージを使っているところを見られるのは憚られたので、倉庫用の部屋も設置した。食料庫もある。
今回一緒についてくる使用人はキースとクロエ、料理人はシルヴィだったので、ある程度ミリアの規格外っぷりはわかっているはずであったが、馬車を作った段階ですぐに準備のために案内された馬車の中が想像とはあまりにも異なっていたのでとても驚いていた。
当日一番驚いたのはミリアを除く伯爵家の面々であった。
ここまでミリアは自分が空間魔法を使えることはバレていると思いつつも、おおっぴらにしていなかったのである。
馬車に乗った面々はそろって、
「「「「さすがミリア(ちゃん)天使!!!!!!」」」」
と、満面の笑みであった。
ミリアも喜んでもらえたことでとても嬉しそうである。
各部屋に案内したころには、最近では魔法の技術に、ミリアの次に家の中で詳しくなっていたウィルの笑顔が若干引き攣っていたが、それでもみんなは驚きと楽しそうに馬車の中をみてまわった。
そしてウィルが一番驚いていたことは馬車がまったく揺れないことである。
「ミリア、そいえば馬車がまったく揺れていないようなんだけれど。」
「ウィルお兄様は気が付きましたか?ふふ。サスペンションも考えたのですが、そんなことよりも空間を別のところに移してしまえばそもそも揺れる必要がないので、空間ごと別のところに作ってあるのです。」
「それってただの拡張じゃなくて、空間そのものを別の場所に作ってしまったってことなのかい?」
「そうです。なので実はこのまま屋敷に繋げてしまうこともできるんですけれど、そうするとせっかくの旅が楽しくなくなってしまうので。秘密ですよ。お兄様。」
そう言って笑うミリアの笑顔が一瞬年上のお姉さんに見えたウィルは少し照れている。
(今のミリアの笑顔、、、可愛すぎだろ。)
乗った当初は興奮でいろいろと騒いでいたが、落ち着いてからは各々好きに過ごしているようだ。
どうゆう仕組みなのか、今の外の景色をみることのできる窓も設置されているし、覆いを外せばリビングの天窓からも光が入ってくるようになっている。
外の景色を眺めながらお茶を飲んだり、ミリアがこの旅のために作ったチェスなどをしてすごしている。
ウィルとオリバーがはまっているようで何度も戦略を考えながら長い間差しあっているようだ。
「面白いゲームね、あの2人を静かに集中させるなんて、ミリアちゃんはやっぱり天使なのかしら。ふふふ。」
ローズはすこぶる機嫌がいいった。
時々、外に面白いものが現れたときには皆で魔獣狩りを行ったりもした。本来は別馬車で護衛をつけて走るべきなのであるが、ローズがオリバーとウィルに稽古をつけながら王都へ向かうということで、今回護衛と言える護衛にはキースしかいない。それに王都への街道沿いは流通もあるので定期的に危険な魔獣は駆除されているのである。警戒すべきは盗賊などの輩であるが、ミリアの改造した馬車に追いつける速度を出すことのできる馬車を奴らが持っている可能性は低いだろうし、伯爵家の紋章の入った馬車を狙ったとあれば、捕縛されてしまえば極刑は免れない。
そんなこんなで、時々停車しながらもほとんど車内泊ですごすことができたおかげで、通常の日程よりも5日ほど早く王都につきそうな速度である。この馬車ならばもっと早く到着することも可能であったが、伯爵領以外をみたことのないミリアのために少しゆっくりとした日程で進んでいるのである。
王都に隣接する領までやってくると、それまでとはうって変わってのどかな風景から、荒んだ家屋もちらほらとみられるようになってきた。
見られる人びとの格好もほかと比べて貧相である。
「ママ、急にこのあたりの人びとはどうしたのですか?」
「ミリアちゃんは差に気がついたのね。ここはいろいろとあったのよ。」
「パパが話してあげよう。ここはリッチモンド公爵領でね、もともとは侯爵だったんだけれど、現国王を決めるときの派閥争いで、現国王派についたわけだ。そして国王が即位してから、空席になっていた公爵位とその領地をついでリッチモンド公爵領になったんだよ。ただ、元々は前レノックス公爵の土地だったからね、その後何年も経つんだけれど、領民とリッチモンド公爵との折り合いが悪くてね。そんなわけで今もこういう状況なのだよ。」
かなり端折っていたが、空席になっていた公爵位は負けた弟派についていただろうし、粛清されたことなどが簡単に察せられたミリアは、やはり、国王との謁見を断っておいてよかったと改めて思ったのであった。
この公爵領を越えればいよいよ王都ベリエに到着する。
「ふむ、この部屋の内装も大丈夫そうね。あれ、あの壁の下の方にあるピラピラなんだろ。」
ミリアが見ているとゴソゴソと壁の下のピラピラから何かの頭がでてきた。
「きゃあ、え、ルシフェル?」
「人の顔を見て悲鳴をあげるとは失礼な娘であるな。」
「まさかそんなところからでてくるとは思ってなかったんだもの。」
「そんなところとはなんだ。これはれっきとしたキャットドアであるぞ。」
「いやそんなドヤってされても。それでいつそんなものつけたのよ。というか、そのキャットドアいったいどこに繋がっているの?」
(まさか、魔界とかじゃないわよね、、、)
「もちろんキッチンだ。」
「食いしん坊かよ!」
本日も平和です。
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小説を読んでいただきありがとうございます!
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