0013 ご令嬢、剣術試合観戦と新しい魔道具
収穫祭当日、フェルデンツ伯爵領軍に所属する兵士たちのやる気は最高潮であった。
「野郎ども!準備はいいか!今日勝てばノアール特注装備を作ってもらえるぞ!」
「「「おおおおおおおおおお!!!!!!」」」
ものすごい叫び声の聞こえてきたここは、収穫祭特設ステージの裏である。
当初は優勝者だけの特典として特注装備を作ることになっていたのであるが、トーナメント戦となったので、4位までは作ることにした。
そもそもこの剣術大会は、収穫祭の余興的なものとして準備されていたのであるが、ミリアが上位4名までに装備品を作るといったところ、軍に所属するものたちから、ほぼ全員参加希望と殺到したためにその後2日間で予選が行われ、勝ち残った上位16名による本戦が収穫祭に行われることとなったのであった。
その白熱ぶりに、ミリアも面白がって決勝戦用に魔法で観客席を設置した特設会場まで準備してしまったのであるから、その力のいれようがわかるものであろう。今回は剣術大会であるから、観客席には念のため対物理用のシールドを張ってあるのである。これで観戦も安全だというものである。ちなみにこのシールドは設置型になっており、特定のエリアをてドーム状に覆うことができるものである。
今回のものは広範囲を覆うことに集中したために、大型になってしまったのであるが、小型化して持ち運びに便利になるようにしたいと考えている。
さて、朝から始まったこの本戦では午前中に上位4名が確定するまでに至り、午後に準決勝と決勝戦が行われる。
ランク付けのために、3位決定戦も決勝戦の前に行われることとなった。
準決勝からはミリアも観戦することになったので、昼食を食べてから剣術大会の会場へと、ウィルとともに向かった。
「ミリア、とても楽しそうだね。」
「そうなのですお兄様、どんな方に装備を作ることになるのかとても楽しみで楽しみで。」
「ミリアは強い男が好きなのかい?」
「そうですね、強い男性は好ましいと思います。」
ウィルは隣でそうか、強い男性が、、、などとつぶやいているが、
(ハイスペックな男性に装備させるなんて結構なデータが取れそうで面白そうだし。)
と、ミリアの思考はいつも通り実験のことにしか向いていないのであった。
さてまずは、準決勝Aブロックはアレス対カインである。
剣術大会であるが、盾の装備はみな『ノアールの盾』である。すでにここまで浸透しているのだ。
参加兵の家族や、兵士たちや、農民や商人など様々な参会者で満席の観客席からはすごい熱気である。
身体強化の魔法を使い、剣術を行うため、このクラスになってくる、何もせずに目で追っているだけではうまく理解できない。
即興でミリアは動体視力を強化する魔道具を観客席で開発して、ウィルに若干苦笑いされつつもウィルと自分の分を作った。
ものすごい速度での剣の打ち合いのあと、最後はカインの剣を見極めて受けていた、最終的にはアレスの一撃でカインが降参することとなった。
「お兄様、アレスはとても早いですね。普通に見ていては何が起きているのかわからないところでした。」
「ああ、アレスの剣は早いし、正確で重い。早くて重い剣を両立させているというとんでもない男だからね。」
「お兄様詳しいのですね。」
「アレスは軍で師団長職についているからね。お母様と一緒に討伐をすることも多いし、何度か指導してもらったこともあるよ。」
次に、Bブロックはテッド対グレで準決勝が行われた。
先ほどの剛速のアレスの剣と比べて、何を撃ち込まれても受け流しているグレの防御がとても硬い。
テッドも的確に剣を打ち込んでいるものの、決定打に欠けるようだ。
その後、テッドの剣を受け流して体勢を崩させたグレに剣を弾かれてテッドが降参した。
「こちらの試合もとても見応えがありましたね、お兄さま」
(さっきのアレスの剣もすごかったけど、グレの防御がめちゃくちゃすごい!あの盾あんなふうに弾いたりしても使えるのか。
あれだと、魔物相手にするなら、痺れたり、眠ったりするような効果を盾につけてもいいかもな)
製作意欲がかきたてられて興奮気味のミリアである。
「今のも素晴らしい剣術だったね。ちなみに今回勝ったグレも師団を率いているんだよ。」
そしてウィルにいろいろと解説してもらている間に若干の休憩を挟んでテッドとカインの3位決定戦が行われることとなった。
なかなか拮抗した戦いであったが、最後はカインの一撃でテッドの防御を崩して終了した。
そのあとはすぐに決勝戦が始まった。
始めの合図があったが、アレスとグレは睨み合ったまま、双方一歩も動かない。
かなり緊迫した空気が流れている。観客もみなしんとして試合を注目している。
その後急に空気が変わり、グレがアレスに仕掛けた。一撃目は弾かれ、剣の打ち合いが始まった。
そしてその速度はだんだんと速くなってゆく。
「す、すごいですわ。」
(魔法で身体強化しているとは言え、ここまで速く打ち合えるなんて。)
そして、最後はまた静寂が訪れた。剣戟による音もやみ、アレスがグレに剣をむけている。
グレが降参すると、客席では大きな歓声があがった。
「結果はアレスの勝ちでしたが、なかなかに見応えのある試合でしたわね。」
「本当に、二人ともとても剣先が本当にとても早いし、パワーもあるからね。実に面白い試合だったよ。」
こうして、剣術大会は幕を閉じた。
そのあとは、本来の収穫祭に戻り、お祭り騒ぎだったようだ。
兵たちは治安維持の巡回にもどり、酔っ払いの対処やお祭りにつきもののイザコザの対応に追われたのであった。
ミリアとウィルは二人とも剣術大会のあとは少し収穫祭を見てから、屋敷へと戻ったのであった。
後日、剣術大会の勝者4人へ約束の景品としてコカトリスの羽毛布団とダウンジャケット、
それから『ノアールの盾』の優先権と特注装備の進呈のために伯爵家の屋敷へと呼び出された。
ミリアとしては、彼ら4人のために盾を作ることはなんの問題もなかったのでしれっと、4人分の盾を作ってすでにローズとリヒトに預けている。
なので、優先権ではなく、盾の進呈となったのであった。
そして、特注装備である。事前に4人の希望する装備は聞いていたので、それらの試作品をこの数日で作っておいた。
あとは、実際に使ってもらってデータをとって、改良していくのみである。ミリアはルンルンの準備万端で待っていたのであった。
「今回の剣術大会は実にすばらしいものであった。今後も精進し伯爵領の領民を守っていってほしい。」
リヒトが激励とともに景品を進呈すれば4人とも嬉しそうに恭しく受け取るのであった。
そしてここからが4人にとっての本番である。ここからは軍関連を取り仕切っているローズが説明と今後についての話をする。
「まず、4人ともお疲れ様。旦那様から与えられた景品は大事に取り扱ってね。それから、『ノアールの盾』だけれど、これは製作者の好意で4人分追加に作ってもらったので、それらも貸与ではなく進呈となりました。今後も領民を守るために精進してください。」
ここまでで、4人ともとても驚いた顔をしていた。なにせ、こういった軍の装備は基本的に貸与が通常なのである。
それを4人分優先権ではなく進呈となったので、自分のものとして使うことができるようになったのだ。
「「「「ありがとうございます。」」」」
4人とも直立不動で謝意を述べた。
「それで、『ノアール特注装備』なのだけれど、事前に聞いていた内容で準備してあります。」
アレスは速度を活かすために装備が軽くなる魔道具。グレは守りをさらに固めるために受けた攻撃を弾き返す魔道具。
カインはバランス型だが魔力が少ないので、身体強化の魔法を継続して使える魔道具。そしてテッドは斥候の能力を活かすために、隠密に動けるようにする魔道具をそれぞれ依頼していた。本来魔道具とはそれほど早く製作できるものではないので、すでに4人は驚きを隠せない。そしてその魔道具の実態はさらに驚愕に値するものであった。
まずアレスに羽のモチーフが意識された腕輪を渡す。
「アレスから説明しますが、依頼のように装備を軽くするだけでは、打ち込みのパワー不足になると思われるので、登録した魔力保有者の魔力を感知したときにはその物の身にまとう装備を軽くするようになっていて、他社の魔力を感知した場合はその魔力の箇所にぶつかった際、二乗の力で相手にエネルギーが向かうそうです。進化形態もあるそうなので、とりあえず今言ったことを意識して使ってみてから、改良点や、フィードバックがほしいそうよ。」
アレスは驚愕で目を見開いている。
アレスを放置してグレの魔道具の説明へと移る。渡された形は盾をイメージした腕輪である。
「次にグレだけれど、そのまま反射させるのはつまらないので、受けた力を二乗して相手に返す魔道具って言ってたわ。『ノアールの盾』と違って、そのまま受けたエネルギーをうち返すことになるから、それに対してグレへの反動も若干あるそうよ。そのあたりはアレスと一緒で進化形態があるから使ってからフィードバックが欲しいと言ってたわ。」
放心しているグレを置いて次へと進む。
「カインの魔道具は魔力を補うことに特化させたそうだから、これを経由して身体強化を使えば持久力もあがるかもしれないって言ってたわ。最後にテッドの魔道具だけれど、この魔道具を使えば、かなり隠密に行動できるようになるって言ってたわ。魔力を隠して、存在を希薄にさせるらしいの。」
そう言って、最後は二人まとめて一気に説明する。
いわく、カインとテッドはそれを使ってみてから、今後の方針と発展をどうするか考えたいとのこと。
ノアールからの言伝だと言ってローズが説明を締め括った。
そして4人はローズからさらなる爆弾発言を聞くこととなった。
「とゆうことで、今日から4人とも私の直轄として兵たちを持ってもらいます。アレスとグレは今までどおり引き続き師団を持ってもらうけれど、専門ごとでちょっとメンバーを変える予定。そしてカインとテッドの2人にもそれぞれ専門の師団を持ってもらうので、そのつもりでね!また、後日、使用感とかフィードバックとか聞くから実際に使っておいてね。あ、大事なこと忘れてたわ。アレスとグレのは受けた相手がかなり辛いだろうから、まずはそれを誰かに装備してもらって自分で打ち込んで体感してみて。多分アレスとグレお互いで使ってみるといいって言ってたわね。」
そう言うとローズとリヒトは部屋から先に退出した。
4人はまだ衝撃から立ち直っていないようであったが持ち直したのはアレスとグレであった。
「とりあえず試してみるかグレ」
「ああ、そうだな。説明聞いただけではなんとも。使ってみるしかないな。」
と言って軍の訓練場へと向かうのであった。
「テッドはどうするっすか?訓練場でためしてから?」
「ああ、そうしてみるよ。カインもそうするだろう?では向かうか。」
そうして残っていた二人も部屋を出て訓練場へと向かった。
カインとテッドが到着した時点ですでにアレスとグレによって訓練場は一部破壊され、それをみた2人は頷き合って、自主的に外で実際に試してみることにしたのであった。
後日、笑顔のローズにアレスとグレはきっちり絞られたのであった。
ローズ 「最近ちょっとミリアちゃんの魔道具が軍事に偏りすぎているのが気になるわ。」
リヒト「大丈夫さ、ここは辺境だしね、それにせっかく元気になったんだし、今は好きなことをさせてあげよう。」
ミリア「本日は、これを中心に3kmがふき飛ぶ爆弾を開発したのでその実験をおこないます。では3、2、、」
「「ぎゃあああああああああああ」」
その日アレスとグレの二人ともげっそりした表情で出勤してきたとか。
「「あれは悪魔だ、あれならローズ様とハンネス様の訓練のほうが、、」」
そろいも揃って悪夢をみたアレスとグレであった。
ローズ「あらあら、二人揃ってどうしたのです?」
ミリア「お母様、今日もお二人には装備のお話が。」
「「。。。。。」」
正夢になるのか!?がんばれ、アレス、グレ!
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豆腐メンタルなので、絹ごしのごとく優しくあつかっていただけると嬉しいです。
いいことはモチベーションに繋がる単純な作者です。




