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0011.5 執事キース

キースの視点です。

わたくしは、由緒正しきフェルデンツ伯爵家の執事である。わたくしの父もこの伯爵家の主人であるリヒト様にお仕えする家令である。本来ならばわたくしも嫡男のウィリアム様にお仕えしてしかるべきなのであるが、父がまだまだ現役であることと、生まれたころから魔力が多く、魔力操作の不安定なミリア様の側で魔力に当てられないほぼ唯一の使用人ということで、ミリア様専属としてお仕えすることとなった。

と言ってもミリア様は全くと言っていいほどに手がかからなかったので、時間のあるときには父の仕事も少しずつ学んでいた。


ミリアお嬢様はつい数ヶ月前までは本当に大人しい、魔力が多いだけの貴族の小さな守られるべきお嬢様だったのである。


幼いころから聡明でとても静かな子であった。2歳ごろからは時々とても大人びた表情で何か切なそうな表情をされることがあった。

一体あの儚げな表情は何にたいするものなのか。執事として、見守る者としてとても気になったものである。


お嬢様がこれほど元気に変化されたのはほんのここ2,3ヶ月のことである。


この春にあった定期魔力測定の際、ミリア様は少々魔力を暴走させてしまい装置を魔力でぶっ壊した挙句、庭に小さなクレーターができてしまった。

魔力測定の装置自体は子ども用だったために壊れるのはある程度想定内だが、装置を突き破って純粋に魔力だけでクレーターができるとは、さすがにこのときには冷や汗が背中をつたったものである。

そんなことはおくびにも出さずに魔力の暴走したミリアお嬢様をなんとか落ち着かせようと、ゆっくりと声をかけるとミリアお嬢様は泣き出しもせずになんとかおちついて自力で魔力を収めたのである。

しかしまだ子どもの体であるミリアお嬢様には魔力の負担が大きかったらしくその後長らく寝込んでしまった。


そして体調はよくなるどころか、ある日を境に急に熱が高くなり、さらに苦しそうにされていた。

元々身体はあまりお強くない上に、魔力がとても多いため、よく寝込むことはあったのであるが、解熱ポーションでも全然熱が下がらずに、魔石にも魔力を吸い取らせているような状況であった。幸いなことにローズ様やオリバー様が領内の魔物の狩りにいくおかげで、このお屋敷には大量の魔石があるので助かっていた。


本当に幼い頃から、どんなに辛い状況でも泣き言を言わないミリア様。

そんな姿をみている執事のわたくしや家族の皆様としては、

ミリア様のあり方は貴族としてはとても正しいのかもしれないが、とても心配になってしまうのである。


そしてあの夜、わたくしはミリア様が生まれてからこれまでの分の驚きを一度に体験することとなった。

ちょうど様子を見に部屋へ入ったところ、高熱をだしていたミリア様の様子が少しおちついていたのである。

少し様子をみようと声をかけると起きてこちらを見ているのである。珍しいことだと思いつつ、手をあてると、熱も少しさがっているようだったので、とりあえず何か果実でも召し上がっていただこうと、準備しておいたミリアお嬢様の好物であるポムムをアイテムボックスから出した。


じっとしてこちらを見るものだから、つい、出来心で食べさせて差し上げると、パクリとポムムを召し上がったのだ。

そしてお嬢様は

「おいしい、、、」

と、本当に意図せずに発せられた言葉のようであったが、そんな様子にどちらかと言えばこちらの方が驚いたくらいである。


そして、しっかりとわたくしの目を見て、

「それで、今日は何月何日で、わたしはどれくらい眠っていたのかしら?」

とおっしゃった瞬間気を失ってしまわれたのである。


その後はいろいろと大変であった。

お嬢様のことをリヒト様へ報告すると、心配だと言って話の途中で部屋へおしかけようとしたり、

それを止めようとするローズ様も最後まで報告を聞いたところで暴走しそうになったり。

ローズ様は本当に手強いお方である。大抵の場合とても優しそうに微笑んでいらっしゃるのであるが、剣術や武術の面ではリヒト様に比べてとても強いし、どんな状況でも笑顔で対応されるので、暴走するまで、その兆候が全くもって掴めない上に、暴走した段階では誰も手をつけることができないのである。


とまあそんなこともあったが、無事にお嬢様の体調がもどり、魔力の扱いも自由自在にできるようになったのだ。

そして部屋に篭りがちだったお嬢様であるが、ほとんどの時間を庭と図書室ですごすようになられている。

最近ではそれに加えて魔道具の実験のために、訓練場や少し外の森のそばまで言って実際に実験にたちあっていろいろと指示を出すまでになったのである。


そして、以前とは比べ物にならないくらいとても笑顔になられた。


わたくしはと言えば、お嬢様の身の回りのお世話などはそもそもそこまでかからなかったわけであるが、

最近では突拍子もなく新しいものを毎日つくったり、くるくると動き回るので、最初は体調管理もかねてついて回っていたが、今ではほとんど助手のような存在としてミリア様の日々の新しいことを実現するためにお仕えしている。

お嬢様の要求は難しいことも多く、これまでに比べて、比べようもないほどに忙しくなってはいるが、ミリア様がとても幸せそうに過ごしているので、わたくしもとてもやりがいを感じているのである。


そうそう、キッチンのシルヴィーとはある意味苦労をわかちあえる仲間として日々の情報交換を行っている。シルヴィーのところへは今までにみたこともないようなレシピを持ってミリアお嬢様が訪れるので、その試作の味見をしたり意見を交わしたりするうちにとても仲良くなった。そしてここに庭師のトムもやってきて、三人で仲良くミリア様のレシピを元にした意見交換を行ったりするのである。伯爵家の庭を全面的に任されている庭師のトムはさすが造形美に趣向が深く、味が再現できたものでも見た目の美さの点で思わぬアイデアがでたりするのでとても面白い。

そして今日はお嬢様の新しいレシピと新しい魔道具を持ってキッチンへやってきたのである。お嬢様いわくなれるまでは大変な道具だそうだ。

実際に昨晩の試作段階では何度か実験されていたのであるが、ほとんどが実用に耐えうるか水を使っての実験であったので、今日実際にキッチンで使ってみてその報告を欲しいと言われたのだ。なので、今日はシルヴィとこの新しいレシピを実現する過程に一緒に付き合うことになっている。


「シルヴィ、そろそろ手はあきましたか?」

「ああ、大丈夫だよ。新しいレシピもらってきてくれたの?助かる。」

「今日は、新しい魔道具も一緒に試してほしいとのことなので、作る過程を見学させてもらいますね。」

そうこうしていると、誘っておいたトムもやってきたので、さっそくシルヴィに作ってもらうことにする。


今日作るのはロールケーキである。

まずは、生地を作るところだが、今日は卵の卵白を泡立てるのに、魔道具を使ってもらうことになっている。

この魔道具は少し大きめの掌くらいの長方形の箱の先端部分の下に2本の棒がついていて、上から持つことができるように持ち手がついているのである。

ミリアいわく風魔法を使ってこの棒から指定した範囲に風を高速で循環させることで卵白を泡立てることができるらしい。

しかも通常の手で泡立てるよりも楽に早くできると言うのである。

シルヴィに昨日お嬢様にしてもらった説明をしながらなんとか起動してもらう。

ちなみに注意事項としてこの魔道具を起動しているときは絶対に指を近づけないことと言われている。

先端部分の風の高速回転で指がそれこそぐしゃっといってしまうそうだ。

笑顔でそんなことを言われたキースはしっかりとその注意事項もシルヴィに伝える。


なんとかうまく起動して1分程度で卵白を必要な硬さに泡立てることができた。

上々である。

「さすがミリア様、こんな簡単に卵白が泡立てられるなんて、とても便利な魔道具だ。」

上機嫌にシルヴィが生地の準備をしている間次にこの魔道具を使う際注意されたことについて思い出す。


『卵白みたいに粘り気のあるものだと多分簡単にできるとおもうんだけど、問題はクリームをうまく泡立てられるかだわ。ふふふ。』

なんだか悪巧みをしているような表情で上機嫌に言っていたミリアにもう一つ渡された魔道具がある。

それはキースにとわたされたのであるが、昨日の訓練所での実験のあとで、魔法以外を防ぐための魔道具を考えたらしい。

こっちもできたら実際に使ってみて感想が欲しいとのことだった。


シルヴィが手際良く生地をオーブンに入れたので次はクリームを泡立てるのだ。

シルヴィは疑うこともなく先ほどのようにそのまま魔道具を使おうとしていたので、瞬時に自分とトムの前にこの魔道具の盾を展開する。


シルヴィが魔道具のスイッチを入れた瞬間、バシャっとクリームが四方に飛び散ったのである。

もちろん、トムとキースは展開した盾のおかげで無事であったが、シルヴィは顔にも服にもいろいろなところがクリームまみれになっている。


「キース!ひどい!なんで私も一緒にその盾に入れてくれなかったの!」

「いえ、とっさのことだったもので。」

「たすかったわい。くくく」


トムは存外にいい性格をしているのである。

そんなこんなで騒ぎながらもシルヴィはなんとかクリームの準備を終えて、ロールケーキの試作ができたのであった。


ちょうど出来上がったころに、ウィル様はキッチンへひょっこり現れてロールケーキの味見をした上で、ミリアには黙っておいてねと笑いながら念押ししてまたどこか別のところへすぐ行ってしまった。

そのあとすぐにクロエがやってきて、ウィル様を探しているといいつつも、皆で味見していたロールケーキをこれまた味見してからウィル様を探しに戻っていった。

賑やかな午後のキッチンでの出来事であった。


この出来事をお嬢様にかいつまんで伝えるとやはり想定していた通りだったようで、少しニヤリと笑っていた。

あとは魔道具を使った状況などを細かく説明していたら、キッチンの魔道具も、もらった盾の魔道具もいろいろと改良ができそうだと楽しそうに張り切っていた。


これからも誠心誠意ミリアお嬢様にお仕えしていこうと思う。

キースは意外と若いのですが、落ち着いているので、よく実年齢より年上にみられるタイプです。

仲のいい同僚がシルヴィとトムは、もはやミリアの持ってくる仕事に一緒にかかわるメンバー的なものになりつつありますね。

クロエにも時々参加してもらいたい。


ウィルも相変わらず楽しそうです。

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小説を読んでいただきありがとうございます!

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豆腐メンタルなので、絹ごしのごとく優しくあつかっていただけると嬉しいです。

いいことはモチベーションに繋がる単純な作者です。

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