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8.酒癖

結局その日デートから帰ってきたのは夜の九時を過ぎてからだった。まあくんといると不思議な安心感があり、気になってたけど普段は行けなかったオシャレなお店とか、ちょっと高いレストランとか、とにかく目がついたところには遠慮なく入っていけた。辺りが暗くなっていることにも気づかず、次はどこに行こうかしらと迷っていると、まあくんがさすがにそろそろ、と言ってお開きとなった。

こんな楽しい休日は始めてだ。これならずっとまあくんが家にいてもいいかもしれない。


さて、ちゃぶ台の上には先ほど帰り際にコンビニで買ってきた缶ビールが二本たっている。本当に久しぶりのお酒だ。今まで忘れていた感覚を取り戻した感じがして、やっぱりお酒はおいしいと感嘆する。

一方のまあくんはというと、どうやらお酒は初めて見たらしい。ジュースの一種よ、と半分本当で半分嘘の知識を教えると、恐る恐る口をつけ始めた。私もあまりお酒に強いタチではないので、一本目でだいぶ酔いがまわっていたが、続けて二本目に手を伸ばす。

一口だけ飲んだまあくんが顔をしかめている。でもまあ、最初は人間でもそんなもんだ。すぐに慣れるだろう。

「はぁ、疲れちゃったなぁー、私。ねーえ、まあくん? こっち来て」

「なんでございますか、清華様」

「もう! まだ敬語禁止! 今日は一日中まあくんは私の彼氏なの!」

「ああ、ごめんごめん清華。それで、そっちに行けばいいの?」

「ねえはやく来てー。おそーい」

「はいはい、今行くよ」

まあくんが来た瞬間、私はまあくんに寄りかかった。こういうことを一度してみたかったのだ。

「ちょ、ちょっと清華、重いから」

「あ、ひどーい。重いだなんて」

「あ、いや、違う、違うから。清華が重いんじゃなくて、その、重力が、重いんだよ」

「もうしーらない。ふんだ」

そう言う言葉とは裏腹に私の顔はにやけてしまう。慌てるまあくんかわいい! こんなまあくんは始めて見た。

「ねえごめんて清華ぁ。許してよー」

「だーめ。もう許してあげなーい」

そう言って私はビールに手を伸ばす。あれ? もう二本目もなくなってしまった。四本買ってきてあるが、まあくんはもう飲まなそうだし、最後の一本もいただくとしよう。

はぁー幸せ。彼氏とイチャイチャしながら飲む酒がこんなに旨いものだとは知らなかった。

「ねえまあくん」

「ん? どうしたの?」

「キス、しましょ」

「えっ? いやぁそれはダメだよ。キスなんて」

「なによう、イヤだっていうの?」

「とにかく、キスはダメだよ、キスは。一生後悔するよ?」

「イヤ、絶対後悔なんてしないから。だからお願い。私とキスして」

「ごめん清華。これだけは絶対にできないんだ。頼むから分かって?」

「分かんないよ、なんでなの。あなたは私の彼氏なのよ」

「······分かった。理由をいうよ」

「うん」

「悪魔はね、人間とキスしちゃいけないんだ」

「え?」

「昔ね、人間に恋して世界にかえって来なくなっちゃった悪魔がいたんだ。それで一匹だけならよかったんだけど、そんな悪魔がたくさん出ちゃったもんだから、恋の第一段階のキスを人間としちゃいけなくなっちゃったんだよ」

「でも、ちょっとぐらいいいじゃない······」

「清華! これだけは本当にだめなんだよ。分かってくれよ」

いつになく語気を強めたまあくんに思わず後ずさる。まあくんがここまでいうのだから絶対にしちゃいけないのだろう。

「ご、ごめん······。そんなルールがあったなんて知らなかったの。ホントにごめんね」

「いいよいいよ。それに、これでさっきのとあいこだね」

そう言って微笑むまあくんのかっこよさといったら、他のどんな人でも比べ物にならないほどだ。しかもその笑顔が私のためだけに用意されているのだから。これでキスできないだなんてもったいなさすぎる。

「じゃあせめて、今日は一緒の布団で寝よ? それならいいでしょ?」

「うーん、まあそれはだめだとはいわれてないけど······」

「ならいいじゃない」

「うん、それぐらいなら大丈夫だろう」

「やったあ。ありがとう、まあくん」

嬉しくってまたお酒をあおる。ふう、あれ、ちょっと目の前がぼやけてきた? まあくんのほうをみる。あはは、顔のパーツがバラバラだ。とってもおかしい。あははははははは······。

「き、清華? 大丈夫? ちょっと目がおかしいんだけど」

「へ? 私? なぁにいってんのよ。おかしいのはあなたでしょぉ?」

「ちょっと清華、飲み過ぎだよ。ねえ清華、聞いてる? ねえってば」

「······」

「寝てるし······」


あれ? もう朝? うう、頭が痛い。なんかズキズキする。というか昨日寝た記憶ないんだけど。

なにがあったんだっけ。お酒を飲んで、まあくんに甘えて、またお酒を飲んで、キスを断られて、さらにお酒を飲んで······。どうやらこの辺りで記憶が途切れているようだ。

「清華様、よく寝られましたか?」

やばい、今になってすっごい恥ずかしい。昨日の私、どうかしちゃってた。まあくんと合わせる顔もない。

「昨日はとても可愛らしかったですよ、清華様」

もうまあくんとなんか話したくない。

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