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7.彼氏

「はあー、つかれたー」

「お帰りなさいませ清華様」

「ただいま」

この間の出来事から、はや十日たった。私は願い事をなにに使えば私が幸せになれるのか考えたが、一向にいいアイデアは思い付かない。

「どうしました、清華様。少々疲れているようでございますが」

「ああ、ごめんわかっちゃった? いや、二つ目の願いなににしようか迷っててさ」

「まあまだ焦らなくても、七十日以上ありますし」

「でもあと二つってなると、そろそろ一つ叶えてもらってもいい頃だと思うの。それに、このまま考えなかったら、期限前日とかに急いで適当なの決めてもったいない使い方しちゃいそうなのよね、私なら」

とにかく、急いで決める必要はないが、あんまり悠長にしている時間もないということだ。

「そういえば清華様、あの本読ませていただきましたよ」

「? なあに、あの本って?」

「この前清華様にかしていただいた本でございます。たいへん興味深い話でございました」

「ああ、あの本ね! 思い出したわ。面白かったのならよかったわ」

「もしよければ他の本も貸していただけませんか? 暇で暇で仕方がないのです」

「いいわよ、といってもほとんど売っちゃったから私のお気に入りのものしか残ってないのよね。それでよかったら押し入れに入ってるから好きなように読んで構わないわ」

「ありがとうございます」

「それから、そうね。私もまた本が読みたいし、今度本屋でも行こうかしら。あなたも一緒にどう?」

「よろしければ御一緒させていただきます」

「じゃあ決まりね。今度の日曜日は本屋さんに行きましょう。それだったら時間もあるし、久しぶりに渋谷ぐらいまで行こうかしら」

「渋谷ですか、なぜです?」

「······私だってカッコいい男の人と渋谷とか歩きたいの!」

「おほめいただき光栄でございます」

「別にほめてなんかないわっ。勘違いしないでっ」


一日いちにちの単調なリズムをぬけて、あっという間に日曜日になった。

私は朝から気合いが入っていた。普段は薄く表面だけしかしない化粧も、いつもの五倍時間をかけたし、服もまあくんが一番似合ってると言ってくれたものを選んだ。よしっ、これで準備万端。あとは出掛けるだけだ。

「さあ、まあくん。行くわよっ」

「朝から元気ですね、清華様」

「まあくん、言ったでしょ。今日は『様』はつけないの。今日だけはまあくんは私の彼氏なの!」

「はいはい、わかりましたよ、清華」

「······うー···」

やっぱりこの呼び方は慣れないなぁ。今まで真面目一筋で生きてきたので、彼氏はおろか男友達さえも片手で足りるほどしかいないのだ。


今日のプランは特に決めていない。今が朝の九時だから向こうに着いて十一時半ぐらい。それからお昼を食べて、本屋さんに行って······。数えだしたらきりがないほどやりたいことはたくさんある。おまけに今日はまあくんと一緒なのだ。いつも女友達と行くばっかりで、今まで入れなかったお店もちょっとだけ覗いてみたい。

財布にいつもより多めにお札をいれて家を出る。駅まで歩く時間だけでも楽しすぎて笑みがこぼれる。

「ねえまあくん、どこか行きたいところとかある?」

「清華が行きたいところならどこでもいいですよ」

「ちょっとストップ。敬語もなしにして。誰がみてもあなたは私の彼氏だって思われるようにするの。あと、自分のことは『俺』でお願いね」

「はぁ、わかったよ、清華」

「あと、どこでもいいっていう答えもなし。あなた、案外女心が分からないのね。私はあなたが行きたいところに行きたいの。どこでもいいからどこか提案して」

「そうだなあ、でも俺、あんまり渋谷のことしらないから、清華にエスコートしてもらいたいな」

「え、そっそう。わわ分かったわ」

予想外の返答に言葉がつまる。一緒に暮らす期間が長いのでつい忘れてしまいそうだが、まあくんはとてもイケメンなのだ。

「とっ、とにかくはやく駅へ向かうわよ」

「え、今日は電車乗るの?」

「当たり前でしょ。せっかくの休日なんだし、疲れたくないでしょ」

「俺、電車乗るの始めてだよ」

確かにまあくんが来てから私も一回も電車に乗ってない。それだけ摂生していたということだ。

でも、今日は違う。もしかしたら一生に一度のことかもしれないし、そうでなかったとしてもそう滅多に現れるチャンスじゃない。今日贅沢をしなくていつするというのだ。

歩いていると、私たちの前にも歩いているカップルらしき人を発見した。やはり休日だけあって二人で出掛ける人は多いようだ。

「ねえまあくん···お願いがあるんだけど···」

「ん? なに、清華」

「手、繋いでもいい?」

「ああ、なんだ、そんなこと。あの二人が羨ましくなったの?」

まあくんはいたずらっぽく笑って、私の手をとってくれた。

「ちっ、違うから」

「え?」

「この方がカップルみたいに見えるかなと思っただけだから」

そう、断じて羨ましくなったわけではない。

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