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君はjunkie   作者: ケシゴム
第二章
8/48

「あ、あのさマイ。ちょっと良い?」

「ん? どうしたのリイチ?」

「実はさ、マイにちょっと相談があるんだけど……」

「相談?」


 舞ちゃんを麻雀部に誘う為Bクラスに突入した俺達は、早速天満が幼馴染だという事を利用してコンタクトを試みた。


「う、うん……実は僕ね、この人たちと麻雀部を作ろうかと思ってるんだ」

「え? 手品部じゃなくて?」

「う、うん……」


 思っていたより舞ちゃんは社交的で、明るい表情で気軽に天満と会話している所を見ると、根暗眼鏡っ子という感じはしなかった。逆におどおどする天満の方が根暗に見えるくらいだった。


「へぇ~。それで私に人数合わせに麻雀部入れって事?」

「えっ……あ、うん」


 天満が相手だからか、はたまたコミュニケーション能力が高いからなのか、舞ちゃんはこれからぐだぐだと始まるであろうはずだった手順をすっ飛ばしてくれた。

 その賢さ溢れる知性と相手の心中を読み取る能力は、麻雀部には相応しい人材だった。何より今現在頭のおかしな奴らの集まりである我が麻雀部には、是非とも欲しい常識人だった。


「ごめんリイチ。私そんなに暇じゃないんだよね。だから別の人当たってくれない?」

「え……」


 話が早いのは助かるが決断も早いようで、舞ちゃんは全くこっちにチャンスなど与えてくれない。その速さたるや疾風の如しで、強烈な言葉に早くも脱落者を出してしまう。


「そうなんだ……それなら仕方ないね」


 天満諦めるの早ぇから! 何? お前舞ちゃんに虐められてたの?


 元から気弱な事は知っていたが、超根性の無い天満の引き下がりの速さには呆気に取られた。しかしここで既に舞ちゃんに興味津々の理香が活路を開くため前へ出る。


「ねぇ? 新垣さんだよね? 私Cクラスの佐藤理香って言うんだけど、ちょっとだけ話してもいい?」

「え? う、うん」


 意外な事に礼儀は知っているようで、理香は普通に舞ちゃんに話しかけた。これには今までの奇行のせいか、理香が普通の煌びやかな女子に見えた。


 あ……理香って普通にしてれば普通に可愛い……


「テンパイ……天満君から聞いたんだけど、新垣さんってなんか研究かなんかしてるんだって?」

「え? 別に私研究とかはしてないけど?」

「え? でも新垣さん何かノートに論文みたいの書いてるってテンパ……天満君言ってたよ?」


 多分理香なりの距離の詰め方なのだろうが、こいつどんだけ天満の事テンパイって間違うんだよ! もうツッコまれるまでテンパイで押し通せよ!


「あ~それ? 別に論文じゃないよ。私小説家になるのが夢だから、その、何……小説書いてただけ」

「えっ! そうなんだ! 凄いね!」


 自分の夢を語る舞ちゃんは少し恥ずかしいのか、照れるように手をモジモジさせながら笑みを零す。その仕草表情は理香とは違う可愛さがあり、是非とも我が麻雀部に入って欲しいと思うほどだった。


「べ、別に凄くないよ~。まだ一次選考くらいしか通らないし」


 一次選考がどのくらい凄いかは全く分からないが、ちょっと自慢するかのように答えさせた理香は、もしかしたらこのままイケる! という期待を持たせてくれた。のだが……


「えっ! じゃあもしかして阿佐田哲也の麻雀放浪記とか書いてるの!?」

「え?」


 え?


「伝説の雀鬼・桜井章一伝とか!」

「え?」


 書いてるわけねぇだろ! こいつどっからでも麻雀に持ってくな! 天才か!


 やっぱりただの麻雀馬鹿だったようで、理香は小説と聞き勝手に麻雀物の小説だと決め込み瞳を輝かせる。 

 このいつものパターンにより、もう絶対舞ちゃんは無理だと諦めるしかなかった。だがさすがは常識人だけあって、舞ちゃんはそんな理香相手でもきちんと対応する。しかしそれがまた悪かった。


「ねぇ違うの?」

「ごめん。私が書いてるのは基本恋愛ものだから。でも、阿佐田哲也の麻雀放浪記は読んだよ」

「えっ! じゃあもう私達友達だね!」

「え……」


 理香―! お前は麻雀ちょっとでも関わってれば人類皆兄弟なのかー!

 

 多分舞ちゃんは小説の資料として麻雀放浪記を読んだのだろうが、そんな事は理香には関係無いようで、舞ちゃんの事を雀神とでも勘違いしているかのような勢いで羨望の眼差しを向ける。


「ねぇ? 舞ちゃんはイカサマ、ヒラ(イカサマをしない)? どっちの戦いが燃えた?」


 もう理香の中では舞ちゃんはマブダチのようで平然と名前で呼ぶ。そしてそれと同時に舞ちゃんは麻雀仲間でもあるようで、素人には良く分からない話題で盛り上がろうとしている。


 これにはもういい加減止めないと舞ちゃんに迷惑が掛かると思い、止めに入ろうと思った。だが舞ちゃんは理香のようなイカれた相手でもきちんと対応できる常識人のようで、この質問に対してもきちんと受け答えをする。


「そうね……やっぱりイカサマしない方、かな……?」


 ただの読み流しではなくきちんと勉強として読んでいたようで、舞ちゃんは建前として完ぺきな答えを返す。しかし理香にはそんな事も分からないようでさらに火が点く。


「やっぱりそうだよね! イカサマでの技量比べの後の『平で勝負だ!』は堪らないよね! あっ! じゃあ雨宮と竜の戦いとかは? あれは凄くなかった?!」


 俺は麻雀放浪記は読んでないから良く分からんが、多分竜とか雨宮って出てこないよね? それ哭きの竜の話だよね?  


「え? あ……うん……ちょっと分からないかな……?」


 さすがの舞ちゃんもこれには対応しきれないのか、困ったように俺達の方へ視線を飛ばした。その眼差しには明らかに助けてくれというメッセージが込められていて、実質上のギブアップ宣言だった。


「え? あれだよあれ? 雨宮が国士無双テンパってさ……」

「理香」

「あれ? 国士じゃなかったっけ?」

「理香」

「あ、ごめん! 今の哭きの竜の話ね。ごめんごめん、いきなり話飛んじゃってごめんね?」

「理香!」

「え? どしたの優樹?」

「どうしたじゃねぇよ! お前どんだけ舞ちゃんに迷惑掛ければ気が済むんだよ!」

「え! 私なんか舞ちゃんに迷惑掛けちゃった?! ごめん舞ちゃん!」


 理香の中では舞ちゃんは麻雀好き確定らしく、注意しても全く何が悪いのか分かっていなかった。それでも舞ちゃんに対しては敬意を払っているようで慌てて頭を下げた。


「う、ううん、大丈夫だよ佐藤さん」


 相当被害を被ったはずの舞ちゃんだったが、余程人が出来ているようで穏やかに理香を許す。ただその表情からは困惑が滲み出ていた。


「ホントに?」

「うん。だから気にしなくても大丈夫だから」


 舞ちゃん。時として怒る事も必要だよ? 特に理香みたいなタイプは上手く付き合わないとヤバイよ?


「ありがとう舞ちゃん! それでね」


 ほら始まった! 


「理香! 俺達はお前の話を舞ちゃんに聞かせるために来たわけじゃないんだぞ! 昼休みが終わっちまうから一回喋るのをやめろ!」

「え! ……う、うん……ごめん……」


 普段の理香はまだ同い年という実感はあるが、熱くなるとまるで園児を前にしているような感覚になる。そうなると好きとか嫌われるとか関係なく、普通に道を踏み外さないよう躾なければならない使命感が湧く。しかしそのたびに理香に好意が湧くのは不思議である。

 

「ごめんね舞ちゃん」

「ううん。良いよ別に気にしてないから」

「そう? ありがとう」


 舞ちゃんが良い人で本当に良かった。これならなんとかなるかもしれない!


「それでさ。改めてお願いするけど、麻雀部作るの手伝ってくれない?」

「それって結局麻雀部入れって事だよね?」

「え? う、うん……」

「さっきも言ったけどさ。私小説書くのに忙しくてそんな時間無いんだよね? だから御免ね。他を当たってもらえる?」

「え……」


 すんなり耳を貸してくれた舞ちゃんに期待は持てたのだが、理香が作り上げた滅茶苦茶な流れのせいで、先ほど舞ちゃんがはっきり無理だと言った事をすっかり忘れていた。

 

 こうなるともう完全に風上は抑えられてしまい、押すに押せない状況が出来上がってしまった。そして天までもが舞ちゃんの味方に付いてしまったようで、ここで昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴り響き、結局俺達は何一つ得る物も無くBクラスを後にするしかなかった。


 この作品はキャラクターに全てを任せるという実験的な物なのですが、困ったことに全然麻雀をしてくれません。この先もチャンスが出てくるのですが、現実でもなかなか麻雀対決が無いようにその流れにいきません。久しぶりにルール確認して、実家から麻雀牌とマット持って来て、ゲームで練習して、点棒計算やどんな風に描こうかと考えていたのに超ビックリです。せめて一回くらいは麻雀してくれないとただの狂人の集まりの物語で終りそうです。

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