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君はjunkie   作者: ケシゴム
第二章
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生贄

 天満が麻雀部に加わり数日が過ぎた。この頃にはもう理香と天満には確執は無くなり、俺達は普通に仲良くなっていた。というか、結局理香からトランプを奪った事を気に病んだ天満が麻雀部に入部すると言った時に、全く一万円を受け取ろうとしない理香に対しお詫びとして麻雀トランプをプレゼントしただけで機嫌が直った。


 その変わりっぷりと来たら、それまで天満の事を「安パイ君安パイ君」馬鹿にしていたとは思えないほどで、“理香ってマジで麻雀牌プレゼントしたら結婚してくれんじゃねぇの?”と思うほどだった。

 それでも好きな人が誰かの悪口をずっと言っているよりは全然マシで、ある意味で理香が麻雀トランプ如きで機嫌を直す麻雀狂で良かったと思った。


 しかし麻雀狂とトランプマニアが揃ってしまった事で、麻雀部設立へ向けての活動は著しく低下してしまった。それと言うのも、天満が加わって以降理香は執拗に「誰か紹介して?」と天満に迫るようになったからだ。

 恐らく理香の中では未だにテンパイ君イコール麻雀の化身と思っているらしい。


 さらに、それに加え理香が麻雀、天満がトランプについて勝手に熱く語るせいで、ここ数日はただ三人で集まってくっちゃべっているだけだった。っていうか喋ってるのは理香と天満だけ。


 そんなこんなでもう麻雀部設立は絶望的な状況だったが、とうとう理香の「誰か紹介して?」に嫌気がさした天満が、小学校からの幼馴染の“新垣舞”ちゃんと言う子を生贄として差し出した事で、僅かながら希望の光が差し込んだ。


「あの人だよ」

「どれ?」

「あの窓際の席で何か書いてる眼鏡の女子」

「あ~、あのショートカットの子の事?」

「そう」


 昼食を済ませると早速天満を捕まえ、三人でBクラスにいるという天満が差し出した生贄の姿を確認しに来ていた。


「どれ? ちょっと俺にも見せてくんない?」


 良く分からんが、何故か扉から隠れるように中を覗くデブっちょと理香のせいで、何故か俺だけが蚊帳の外だった。と言うか理香と天満は、ジャンルは違えど狂っている面では同じ人種の為意外と気が合うようで、ちょっと天満に嫉妬してしまいそうなほど仲が良かった。だけど話は全然かみ合わない。


「あれよあれ」

「いやあれって言われても……」


 理香は基本アホの為、全く中が覗けていない俺に対しても普通に中を指さし、見たでしょう? 的に言う。


「も~、やる気あるの優樹?」


 やる気あるのって言われてもねぇ……まず俺入れてくんない?


「そんなところでボ~っと突っ立ってないで早くこっち来なさいよ!」


 いやボ~っとしてるわけじゃないから! お前らのせいで見えないんだよ!


「もー何やってんの! 早く!」

「え……あ、引っ張んなよ!」


 基本せっかちでもある理香は、なんだかんだ言っても俺の事を仲間だと思っていてくれているようで、中を覗かせる為手を引っ張りしゃがませ、自分の体の下に俺を入れて中を覗かせた。


 はっ! 今俺の頭の上に理香のおっぱいが! 


 超興奮する状況だった。背中には理香の腰辺りが当たり、ちょっと目線を落とせば理香の生足がすぐそこに! それこそもう少し姿勢を落とせば理香のパンツが見えるんじゃないかと思えるほどの超至近距離に、半分理香を抱いているような感覚だった。

 だがしかし! 目線を少し右にずらすとそこには天満の股間があり、破壊的だった。


「分かる優樹? あの窓際の眼鏡の子よ?」

「え? ……あ、あぁ。見えた」


 天よりの祝福と、眼前に立ちはだかる地獄絵図のせいで全く中を見る余裕が無く、理香の声で慌てて確認した。

 すると昼休み中にも関わらず一人ぼっちで席に着き、黙々とノートを取る眼鏡を掛けたショートカットの女の子が見えた。


 あ、結構可愛い!


「どう思う優樹? あの子打てそう(麻雀が強そう)?」

「え?」


 理香は人を麻雀が出来るか出来ないかでしか目視出来ないのか、まるでバトル漫画のキャラクターのような事を訊く。


「い、いや……ちょっと分かんねぇわ……理香はどう思うんだよ?」

「なんか魅力を感じないわね」

「そ、そう……」


 それは名前に麻雀要素が入ってないからだろ? こいつ人の顔が麻雀牌に見えてんじゃないの?


 見た目的には背も小さく顔も可愛く、悪く言えば根暗のような感じだが、逆に昼休み中でも独りぼっちを気にする様子も無く机に向かう姿はミステリアス感があり、俺的にはあの子が麻雀部に入ってくれるのなら大歓迎だった。

 

「ねぇテンパイ君?」

「何?」

「あの子って昔っからボッチだったの?」

「うんん。小学校三年生くらいまでは女子の中じゃ運動できて男子とかとも遊んでたけど、いつからだろ……よく覚えてないけど、中学の頃にはもうあんな感じだったよ?」

「そうなんだ。へぇ~……」


 天満の話が本当なら、あの子には何か深い闇のような物を感じた。もしかしたらあの新垣舞ちゃんには心の傷があるのかもしれない。

 そんな俺とは全く違い、な~んにも感じない理香は、何かしら舞ちゃんと麻雀を結び付けようと天満に変な質問をする。


「あの子って勉強できるの?」

「う~ん……まぁこの高校に入れたくらいだから普通だと思う?」


 この高校で普通!? 天満って意外と頭良いの!? デブなのに!


「そうなんだ。じゃあもしかして今あの子牌譜(将棋でいう棋譜)とか書いてるの?!」


 絶対違うはずなのに、理香は自分で麻雀用語を出し勝手にテンションが上がった。理香は独り言でも麻雀に関する言葉を口に出せば一人で盛り上がりそうで怖い。


「多分違うよ。僕も昔もしかしたらトランプの絵とか描いてるかと思って覗いてみた事あるけど、なんかノートに文字がびっしり書いてあって気持ち悪かったんだよ」


 天満は普通に受け答えしているつもりなのだろうが、言っている事は理香とは変わらず、さらっと怖い事を口にした。しかしよく考えると、ある意味この二人の方がよっぽど怖かった。


「それってもしかして呪いとかって事!?」

「ううん。そんな感じじゃなかった。どっちかって言うとなんか論文みたいな感じで、もしかしたらマイは何かの研究か何かしてるのかもしれない」


 理香の質問には一瞬ぞっとしたが、天満が研究と言った事で、昼休み中も一人で熱心に机に向かう眼鏡姿の舞ちゃんがとても賢そうに見えた。

 そんな舞ちゃんとは対照的なのが理香。


「それってまさか麻雀!?」


 お前はどうしても天満に麻雀って言わせたいの!?


「多分違うと思うよ」


 天満あっさり否定。というか何でお前は多分とか言ってんの? 絶対だよ!


「じゃあ確率論とか?」


 急にどうした理香!? 


「和了率と放銃率の割合からの勝率とか、単独のドラを何巡目まで引っ張れば有効牌になり得るとかの?」


 それ結局麻雀の研究! こいつどんだけ舞ちゃんを麻雀狂にしたいんだよ!


「それも違うと思うよ。僕が見たときはグラフとか数式は一切なかったし」


 天満もいい加減はっきり否定しろよ! なんか頭良い事言ってるけどただの馬鹿だからね!


「そうなんだ。な~んだ残念」


 理香は何に残念がってんだよ! 俺達の目的が麻雀部設立だって分かってんの?


 理香にとっては麻雀に興味の無い人間などには用は無いらしく、小さくため息を付くと飽きたように姿勢を戻した。


「戻りましょ?」

「え?」

「残念だけどあの子には期待できそうにないわ」


 理香ってマジでヤバイね! ここまで来て何もしないの!?


 どうやら理香は、タンクトップを着ていないとボディービルダーと認めないタイプらしく、まだ声すら掛けていないのに勝手に見た目だけで舞ちゃんを判断し、諦めるつもり満々だった。


「いやちょっと待って。声くらいは掛けようぜ? 折角見つけたんだから」

「え、でも……それならまだ二年生の“あずま先輩”の方が良いわよ?」

「あずま先輩?」

「そう。東って書いてあずまって読む先輩」


 それって苗字がトンって漢字だからだろ! こいつほんとに名前でしか人判断しねぇな!


「い、いや……一応ここまで来たんだから声くらい掛けてみようぜ? ああいう子は多分一杯本とか読んでるだろうし、もしかしたら麻雀のルール知ってるかもしれないだろ?」


 これ以上理香の考えに付き合っていたら一生麻雀部は設立されない。それどころかそのうち三年生にまで迷惑を掛けてトラブルを起こし、下手をすれば俺達は退学処分になる可能性まである。

 もはやその域に達している理香だけでも危険因子なのに、さらにトランプマニアの天満まで加わった今の状況では、このまま理香に合わせてはいられない。


「え! 確かにその可能性は見落としていたわ! やるじゃない優樹!」


 思慮深くが麻雀の基本なのに、目に見える物でしか物事を判断していない理香には無表情になるしかなかった。それでも何とかして理香の動きをコントロール出来た事で俺達は舞ちゃんとコンタクトを取る事になった。


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