表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
君はjunkie   作者: ケシゴム
第九章
45/48

想像と現実

「理香。俺はお前も好きだ!」


 霧崎との勝負に勝てば、理香を好きな事は知られず今まで通りの生活が続くと思っていた。だが阿保の霧崎が勝負前に舞ちゃんに告白し、舞ちゃんが俺に告白した事で話はややこしくなり、果ては天満にまで俺が理香を好きな事を知られてしまった。

 これにより今まで通りという訳にはいかなくなってしまった。


 しかし悪い事ばかりだけではなかった。それは舞ちゃんの事も好きだったのだと気付かされた事だった。 


 そんな俺が出した答えがこれだった。


 これは別にやけくそになったわけでも、あわよくば二人ともOKしてくれて華やかな学生生活を送りたいとかいう邪な気持ちでこんなことをしたわけではない。


 俺はやっぱり理香の事が好きで、ずっと一緒にいたいしもっと近づきたい。

 舞ちゃんの事だって好きだ。舞ちゃんは俺の事を想ってくれるし、一緒にいると幸せな気持ちになれる。それにここで理香を諦めて舞ちゃんと付き合うのはなんだか理香を裏切った気持ちになるし、逆に理香を選べば舞ちゃんを裏切った気持ちになる。

 だから俺は両方に告白する事を選んだ。


 まぁ確かにこんなことをすればある意味で舞ちゃんを裏切った事になるが、それはそれを含めて俺だからしょうがないじゃん。


 という事で、理香と舞ちゃんだけでなく、天満や霧崎に幻滅されようが気持ち悪がられようが自分が後悔しない選択をした。

 それは覚悟を決めた答えであり、諦めに似た感情もあり、心の重荷が取れたような清々しい答えだった。そしてこれで全て丸く収まるような感じがする答えだった。なのに!


 俺が理香、舞ちゃんの両方に告白すると全員が凍り付いたように動かなくなり、それが解けたと思うと誰も声を発しないのに正にざわざわというような音が聞こえて来そうなほど部室内がざわつき始めた。


 えっ!? お、おお俺の考えだったら「何言ってんのよ優樹!」って理香がツッコミ入れてくれて、舞ちゃんと天満が生ごみでも見るような蔑む表情して、霧崎が険しい顔で俺を睨んで、でも結局は「あんた馬鹿!」とか理香が言ってくれるお陰で俺だけが悪者になってなんとかなると思ってたのに! えっ!? 何これ!? 俺ってもしかしてとんでもない大罪犯した!?


 全く予想していない事態に俺の心の中もざわつき始める。そして俺が犯した罪は思ったよりも大罪だったらしく、不安になった俺が無意識に指をもじもじしてキョロキョロし始めても誰一人声を発せず、遂には全員がざわざわになってしまった。


 その時間は正に地獄だった。まるで超怖い伯父さん家に行ってお気に入りの壺を割ってしまって、それが置かれたテーブルを挟んで座っているくらい気まずかった。

 

 そんな時間はしばらく続いた。そしてそんな時間がしばらく続いてしまったせいで誰しもがどうすれば良いのか良く分からなくなり、責めるわけでも怒るわけでもなく最終的にはただ黙って全員が俺を見つめるという最悪の事態を招いた。


 あわわわわ! どどどどうすれば良いの!? 誰か助けてー!

 

 ただただ息苦しかった。そして汗だくで熱を持った手が不快だった。


「あ……お……俺、帰るわ……」


 おそらく本能が理性を上回ったのだろう、無意識に声が出て何か不思議な力にでも操られたかのように体がふわっと立ち上がった。そして勝手に足が出口へ向かって動き出した。その時俺は神を感じた。


「ちょっと待ちなさいよ! あんた勝手にどこ行くのよ!」


 理香の怒号で神が消えた。


「え……いや……その……」


 俺は今人生で最大の危殆に瀕しているようで、下顎が上り唇が尖がり何故か左上の蛍光灯にばかり目が行く。指は一体何が目的なのか不明だがしきりに絡まり合おうとする。


「か、帰ろうかと……思って……」

「…………」


 再び沈黙が訪れた。ただ先ほどと違うのは、全員の眼つきが怖い。


 えっ! ……お、俺殺されるんじゃないの!?


 まさかここまでとは思ってはいなかった。確かに俺がした事は非常識極まりないのは分かってる。それでも俺はまだ誰とも付き合ってはいないし、ただ正直に自分の気持ちを打ち明けただけだ。それは「俺はカレーも好きだけどトンカツも好きだ」と言ったと同じようなものだと思っていた。だからこんな殺し屋のアジトに連れてこられたような事態になるとは夢にも思わなかった。


 そんな思いから一刻も早く部室を出たかった俺だが、そんな俺だからこそ心中は見え見えだったようで理香に捕まる。


「ちょっと優樹、一回座って」

「…………」

「…………」

「……はい」


 このまま立っていてもいずれ殺される、しかし座らなければ今殺される。そう思うと、自分の部屋が突然脳裏を過り、起きた時のままの乱雑な布団が見えた。それは儚くとても切ない。だがとても幸せだった。


 座る間部室には俺の衣擦れの音だけで、腰を下ろすと理香は静かな一息をつく。それはVシネマのようだった。


「悪いけど優樹、もう一回言って貰える」


 今のこの空気の中では逃げようとした「帰る」に対してのものなのか、二人に告白した事なのかどちらが正解か分からなかった。それほど今は言葉一つでいつ命を落とすか分からない状況だった。


「……い、いや、実はさ、お、俺、今日用事があって……もう帰らないと……」

「そっちじゃないわよ!」


 でででですよね~……! 


「あんたマイの事が好きなんじゃないの!」

「えっ! ……う、うん……そうだけど……」

「じゃあなんでさっき私の事も好きって言ったのよ! 私関係無いじゃない!」

「えっ!?」


 えっ!? 関係無いの!?


「あんたマイと付き合いたいんでしょ!」

「えっ! ……い、いや……その……付き合うっていうか何というか……」

「あんた何言ってんの! これはあんたがマイと付き合うかどうかの戦いだったんじゃないの!」


 これも全て霧崎が話をややこしくしたせいで、理香には俺の意図が全く通じていなかったようでさらにややこしくなってしまった。

 そんな中だった。ここでやっと舞ちゃんが動いてくれたお陰で流れが変わる。


「ちょっと落ち着きなよ理香。宮川君は、本当は理香の事が好きなのよ」

「え?」

「えっ!?」


 これには焦った。舞ちゃんが一体どういった理由でこんなことを言ったのかは不明だが、まるで理香だけが好きみたいな言い方には悪意を感じた。

 

「ちっ、違うよ舞ちゃん! 俺は舞ちゃんの事だって好きだし、理香の事だって好きだよ! だから俺はふざけて言ったわけじゃないよ!」

「あっ! ごめん宮川君! 私そんな意味で言ったわけじゃないよ!」


 俺が慌てて割って入ると、舞ちゃんも慌てたように謝った。


「ただ、私さっきトイレで聞いちゃったんだ。『宮川君は本当は理香が好きだった』って」

「えっ!」

「で、でも、『最後は二人にぶん殴られる』って言うのも聞こえたから、多分宮川君は私の事も好きなんだって……」


 舞ちゃんはそう言うと恥ずかしそうに頬を赤らめ視線を外した。


「だから、私はそれでも良いよ」

「え?」

「宮川君が理香と私どっちを選ぶかは分からないけど、宮川君には宮川君の権利があるし、私が宮川君の事好きなのは変わらないから……」


 な、なんという事だ! 舞ちゃんがとても愛しく感じる! 


 舞ちゃんなら怒ると思っていた。だけど僅かな言動から俺の気持ちを察し、伝えたい情報を読み取り、さらに受け入れてくれた。そのうえこんな無茶苦茶な中でも俺の権利を守ってくれた。やはり舞ちゃんを好きになって良かった。

 

 そんな舞ちゃんと比べ、納得のいかない理香は治まらない。


「そんなの駄目よ! 優樹はマイが好きなんだからマイと付き合いなさいよ!」


 ええっ!? 理香って俺が告白したのはスルーなの!? って言うかちゃんと聞いてた!?


 理香の発言には、全員が目の前で家が吹き飛んだかのような顔を見せた。そして理香があまりにも現状を認知していない事を悟った全員が俺を擁護し始めた。


「お、落ち着け佐藤。宮川は佐藤の事を好きだと告白したんだぞ?」

「え?」

「そうだよ理香ちゃん! 優樹君はマイも好きだけど理香ちゃんも好きだって言ったんだよ?」

「それは分かってるわよ。でも優樹はマイが好きだし、マイだって優樹が好きなんだから私は関係ないじゃない」


 理香-! 一回落ち着け! 俺も悪いが余計ややこしくなる!


「それとテンパイ君。なんか恥ずかしいから、リカちゃんって呼ぶの止めてもらえる? なんかリカちゃん人形みたいで恥ずかしい。それにもう私達そんな仲じゃないし、理香って呼び捨てで良いよ?」


 それ今いる!? 何でこのタイミングでそれ言ったの!?


「わ、分かった……ごめんね理香ちゃ……り、理香」

「ううん。良いよ。ありがとうテンパイ君」


 理香の強襲により、なんか天満と理香が良い感じになった。


                               NEXT


 困った時のNEXTです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ