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君はjunkie   作者: ケシゴム
第八章
43/48

オーラス

 ここから全視点になります。

 複雑に絡み合った思惑が交錯する対局は、紆余曲折を繰り返し、次第に純度を増しながらいよいよオーラスを迎えた。

 そこには既に穢れの無いただ勝つという意思が交差し、どこかの街の、どこかの高校の若人たちは、麻雀の神に愛され始めた。


 霧崎が振った賽子は七を示し、対面である舞の積んだ山からの取り出しで南四局は始まった。オーラスを迎えた時点で既に霧崎には連荘するなどという考えは頭になく、自らの上りで終わらせるという想いに、実質上これがオールラストとなる最終局だった。


 それはここまでの軌跡を描いて来た優樹たち全員も同じ想いとなり、卓に着いていない天満でさえ誰かの和了の声以外では終局はあり得ないと予感するほどだった。


 そんな覚悟を乗せた戦いは、ドラが三索となり、親である霧崎の五萬打ちで始まった。そして誰一人副露の声を上げず六巡目を経過する頃には、霧崎が索子、理香が萬子、舞が筒子、そして優樹が字牌を集め始めた事により、場には異様な捨て牌が広がった。

 しかしそんな中でもやはり勢いの差は出始め、ホンイツを見ながら上りを目指す優樹、霧崎、舞に比べ、一色手だけに絞った理香が一シャンテン一番乗りを果たした。


“よし! これで一萬を引けば九蓮聴牌! でもマイも霧崎君もまだ字牌の重なりを待ってる。優樹は今度こそ間違いなく字一色を狙ってるし、二人が字牌を切る前に聴牌しないと”


 最終戦、理香には既に点差など関係無かった。理香の中ではいくら点棒で勝っていても、雀士として優樹に勝ちたかったからだ。

 その思いが九蓮宝橙を目前にしてさらに集中力を高めた。


 その理香に続くのが舞だった。同順七筒を引き寄せた舞は二シャンテンにこぎつけ、字牌を余した。


“よし! ピンズ来た! でも宮川君が欲しがってる字牌が分かんない。ここで失敗したらまた理香にやられるから絶対間違えられない”


 舞には確かに自身の上りで勝負を決めたい思いはあった。だが舞は“面前なら清一色は確か跳満だった気がする”というほどまだ得点計算ができず、その上まだ二シャンテンにも関わらず、“あれ? これって今どうなってんの?”という状態になりつつあり、舞としては正直手牌を三枚ずつに分けて確認したくなり始めていた。


 そんな不確かな知識と、例えトイレで聞こえて来た“優樹は理香が好き”という言葉を聞いても信じる心が、最後はやはり優樹に決めて欲しいという願いとなっていた。

 それでも今の舞には優樹の手牌など予知する事など敵わず、適当に掴んだ西を打った。


 それを受けて優樹。


“くっ! さっきの失敗もあるし、この手じゃカンはできない! でも字牌を余した。舞ちゃんはもう聴牌が近い。こうなったら舞ちゃんがホンイツじゃない事を願うしかない!”


 この時優樹の手は、国士崩れからホンイツ七対子へと向かっている最中だった。それでも場の空気を読む事に長ける優樹は、後々理香と霧崎に対し危険となる牌から切り出し手を進めていた為、理香でさえ大物手を狙っているという錯覚をさせるほどだった。


 舞の必死の思いも届かず西をスルーした優樹は、山に手を伸ばした。


“くそっ! 北か! せめて東を持って来いよ!


 優樹は東が好きだった。それは東場なら役牌になるし、親が好きだからだ。その為優樹は例え南場で親でなくても、東が対子となると心が弾んだ。


“で、でもこれで北も暗刻(三枚)になった。後は中を鳴ければ、トイトイ、中、北、ホンイツで跳満に届く!”


 舞の想いとの僅かなすれ違いにより、逆転への道が見えた優樹だったが、この時まだ三シャンテン。

 

 そこへ霧崎のツモ。


 霧崎はツモると小さく息を吐いた。


“駄目か。どうやら俺にはもう出番は無いようだ……”


 配牌こそ良かった霧崎だが、その後のツモは伸びず未だ三シャンテンだった。


“それでも最後まで諦めるわけにはいかない。佐藤にばかり頼らず、最後くらいは俺が決める!”


 個人としてはここまで点差を付けられてしまった霧崎は、奇跡でも起こらなければ自身が上がれるとは思ってはいなかった。しかし生来の熱い性格が己を鼓舞し、運命に立ち向かう道を選ばせ手を曲げさせた。

 

 霧崎はここから手なりでの上りを目指すため索子を切った。それは諦めにも似た選択であったが、全てを知らない対局者には大きなプレッシャーを与えた。


“来た! 霧崎君は一シャンテン! でも仲間だけど私だって負けるわけにはいかないわ! こっちだって九蓮よ!”

“霧崎君が索子を切ったって事はもう聴牌!? でも最後なんだからリーチくらい掛けてくれてもいいのに……まぁとにかくもう索子は切れない。早く字牌を切って宮川君に鳴かせないと! ……あれ? 霧崎君字牌ほとんど切ってない! ど、どうしよう……お願い宮川君!”

“聴牌? いや、これだけ落ちてる霧崎だ、一枚余しの聴牌はない。おそらく降りも見て理香をサポートするために筒子と字牌を絞るつもりだ。こいつやっぱり強い!”


 霧崎の河に並んだたった一枚の牌により、三者三様の想いが渦めく。そしてここから急速に場が動き始めると思われた。しかし天がこの戦いを惜しむかのように、ただ一人を除いてその後数巡硬直を見せる。


“来い! 一萬! 優樹ももう来てる! もう時間が無い!”

“あ~良かった。筒子じゃなくて。これ以上筒子だらけになったらもう私訳分からないよ! 宮川君も字牌切り始めたし、来るなら字牌来て!”

“染めは諦めたがドラは三枚ある。これを活かして勝負できる! テンパったら迷わずリーチだ!”


 理香、舞、霧崎は上りに向けて力強く牌を引いていく。だが突然流れが変わったかのように有効な牌は引けず、河を埋めていく。そんな中優樹だけは順調に手を進めていた。


“これじゃ全然足りない。鳴いて無理矢理トイトイを付けるか? この捨て牌ならホンイツも読まれてる可能性もあるけど、もうそれくらいしか……さっきの舞ちゃんの中はやっぱり鳴いとくべきだった!”


 優樹はこの時、三伍八八九筒、西西西、北北北、中中だった。二巡前に舞が中を切った時はまだ猶予はあると思い面前を目指した優樹だったが、煮詰まりつつある場に焦りを感じ始めていた。

 そこへ優樹のツモ番。


“九筒……”


 順調に手を進めていた優樹だが、ここに来て再び七対子への変化も見える九筒を引いた事により、経験上この手はこれ以上伸びないのだと悟った。それは理香達に勝つ事はできないという事であり、優樹は諦めるように伍筒を静かに置いた。


 そんな事を知る由もない霧崎は、やっと手牌とツモがかみ合ったのか、ここで萬子が重なり塔子となり、二シャンテンへと手を進める。それに比べ未だ有効牌が引けない理香はツモ切りを繰り返す。そして舞。


“うわっ! 筒子来ちゃった!? どうしようこれ……”


 一二二二三三四伍六七七八南。ここへ九筒を持って来た舞は完全に理解不能だった。もしこれが普段の遊びなら舞は迷うことなく南を切っていた。だが今は自分の将来を揺るがすほど大きな影響をもたらす状況ゆえ、チョンボなどという下手は絶対に出来なかった。

 そこで舞は少しでも理解出来るよう七筒を選んだ。


“こ、これならなんとかわかる。イ、イッツーホンイツでも多分跳満!”


 条件が付くオーラス。今まで優樹を頼もしく引っ張り場を作って来た舞だったが、ここに来て経験の足りなさが浮き彫りとなり、ポンコツだった。

 それでも今の状況では、それすらも大きな影響をもたらした。


“聴牌? いや、マイならリーチするはず。それにマイはホンイツ臭いからヤミ(闇テンパイ 聴牌していてもリーチを掛けない事)にはできないはず”

“新垣も来たか。最期も新垣に決められれば、俺は勝っても新垣と付き合う資格はない! なんとしても最後は俺の上りで終わらせる!”


 敵方である理香、霧崎には舞の逃げは強気の攻めに見えた。それほど舞の活躍は二人に大きな印象を与えていた。しかしここまでずっと舞を気に掛けていた優樹だけは異変に気付いた。


“ん? なんだ舞ちゃんのこの切り? ……あ! もしかして舞ちゃん……”


 平和主義者の優樹は、常に周りを気にして調和を大切にする性分だった。そんな性格が知らず知らず相手の心中を察する能力を高め、特に負の感情に対しては超直感を発揮する事があった。

 その読みは正確で、この時優樹は舞が筒子だらけになって何が何だか分からなくなり、清一色を嫌ったのだと理解した。しかし優しい優樹は、それと同時に『仕方ないよね』と納得し、舞を責める事など一切思わなかった。

 

 そんな優しさが天にでも届いたのか、優樹は八筒を引き、九筒、中待ちの四暗刻を聴牌した。


“四暗刻……でももうこの待ちは死んでる”


 中は二枚舞と霧崎が処理しており、九筒は一枚理香が処理していた。そして舞が筒子で染めているのを理解している優樹には、この四暗刻は張りぼての純カラ(待ちが山に残っていない状態)に見えた。何より役満を聴牌した時の高揚感が全く沸き上がらない感覚が間違いないと思わせた。

 事実この時最後の九筒は舞の手の中に納まり、優樹に上りは無かった。


 四暗刻を聴牌した優樹は、手牌を見つめしばしの長考に入った。


“どうする……イチかバチかでリーチするか? それともここから回すか? ……でも”


 舞が繋いでくれた想いに応え最後は自分の手で決めたかった優樹だが、最高まで育った手牌が既に死んでいるという直感が闘志を削いだ。そして罪悪感にも似た想いに駆られ舞の顔を見る事が出来なかった。だがそんな時だった。顔が見られない代わりに目に移った舞の手牌に何かを感じ取った優樹は、力強く牌を切った。


“優樹が字牌を余した! もう字牌は切れない!”

“あ……なんかカッコいい……やっぱり好きになって良かった”

“宮川も聴牌か……でも俺も最後まで押す。でなければ俺は新垣と付き合う資格はない!”


 優樹が選んだのは中だった。それが場をさらに重くした。そしてここから一気に加速していく。


 優樹の中切りを受けた霧崎は、萬子を順子とし一シャンテンへと手を進め、舞は南を重ね三筒を切り聴牌を果たした。


 そしてそこから僅か一巡後。


「カンッ!」


 索子の染めを諦めた霧崎は、四枚目のドラを引き入れ迷わず声を上げた。

 このカンには既にドラに頼ってはいない三人にはそれほど影響を与えなかった。しかしカンドラ表示牌が捲られると全員の視線を集め、嶺上牌で聴牌をした霧崎がリーチを掛けると場はさらに熱を帯びた。


“ドラ八!? 凄い! でもそんな都合よく乗る!? 霧崎君積み込んだじゃないの!? あっ! これ私が積んだ山だ!”

“こいつやっぱただもんじゃねぇ! 伊達にプロ野球選手目指してただけある!”


 優樹と舞にとっては、霧崎がどれほど高い手を上がろうとも自分たちが和了しなければ負けであることに変わりはないのだが、この局面でドラを乗せる霧崎には尊敬の念に似た感情さえ抱かせるほどだった。

 それに対し理香は、一時こそ驚きはしたが、ツモるとドラ八など些細な事になった。


“来た!”


「リーチ!」


 待望の一萬自摸に、間髪入れずのリーチだった。それは全員が聴牌濃厚の場において、初牌となる危険牌の白でさえ躊躇う余地のないほどの勢いだった。


“一萬自摸で九蓮!”


 一一二三三四伍六七八九九九。一、二、四萬待ち。


 四萬は一枚、二萬に関しては三枚が枯れ、見える範囲で既に待ちは一萬二枚、四萬二枚と愚形だったが、ここまでの経緯と自分が最も好きな役の聴牌には理香もリーチを掛けられずにはいられなかった。


 これにより優樹たちは遂に追い詰められ、舞を応援していた天満でさえ目を閉じてしまうほど絶望的な状況が出来た。そしてさらに悪い事に、この時満貫を聴牌していた舞は自身の手が跳満以上ある事に賭け、いつでも和了牌が出れば手牌を倒す決意をしてしまう。


 そんな舞のツモ番。ホンイツ、イッツ―の手では例えツモ上がっても跳満には届かない手構えの舞がツモって来たのは運よく今理香が通した白だった。

 当然舞は白をツモ切った。だが経験不足の舞は、役は足りてる以上、もしこの先萬子や索子を引いたら逃げられないという思いに駆られ、リーチを掛けることをしなかった。

 

 それを見て、理香と霧崎はまだ舞は聴牌していないと自分たちの優位性を確信し、優樹さえもリーチを掛けず共通安パイをツモ切りした事で勝利を確信した。


 そして……


 かなり遅くなり申し訳ありません。それに加え、無理矢理ねじ込んだ形で書いたためかなりの不備があります。

 おそらく年内はこんなペースでこんな感じになってしまいます。

 

 私が生きているうちは最後まで必ず書き上げる所存ですので、ご勘弁願います。

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