表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
君はjunkie   作者: ケシゴム
第八章
39/48

休憩

「ロン。満貫」

「あ……」


 南一局一本場。先ほどの華麗な躱しで勢いを得たはずの俺達だったが、ここに来て舞ちゃんが霧崎へ放銃した。これにより二万点を切る点差まで詰め寄っていたのが一気に三万点を超え、親番は残すものの局も残り僅かとなった。

 

 これにはさすがの舞ちゃんも事態の重さを知ったようで、一気に表情が暗くなったのが分かった。


「ご、ごめん……宮川君……」

「いいよ別に気にしなくて」

「で、でも……」


 本心では全然大丈夫じゃなかった。しかし俺以上にショックを受ける舞ちゃんを見ているとありったけの嘘を付くしかなかった。


「まだ舞ちゃんと俺の親番もあるしさ、これくらいならなんとかなるよ」

「……うん」


 なるわけがなかった。まだ俺がそこそこ上がれる状態なら苦しいで済んだかもしれないが、未だノー和了ではほぼ決定的だった。

 それは舞ちゃんも分かっているようで、まるで魂が抜けたかのようだった。


「わ、悪い。ちょっとトイレタイム」


 かなりのダメージを負った今の舞ちゃんの状態では、このまま次局へ突入すればさらなる惨事を招きかねない。そこで休憩を申し出た。すると理香達も理解してくれたようで、対局は一時休憩となった。

 

「――ごめんね宮川君、わたしのせいで……」


 部室を出て二人きりになると、舞ちゃんは悔しそうな表情を見せ言った。それは既に誰が好きだとかは関係無く、勝負を壊した事への雀士としての悔やみのようだった。


「別に気にしなくても良いよ舞ちゃん。舞ちゃんは勝つために戦ってるんだから何も問題無いよ」


 勝負は常に非情だ。特に麻雀のように不確定要素が多い競技なら尚のことだ。


「それにまだ舞ちゃんと俺の親も残ってるし、大丈夫だよ」


 正直気休めだった。この先俺達の親が残っていても、舞ちゃんならまだしも俺が連荘(親番が続く)できる可能性はゼロに近く、例え舞ちゃんが連荘したとしても、理香達から点棒をもぎ取れる保証はない。

 実質ここから逆転するのは無理に近かった。


「……うん」


 そんな事くらいは舞ちゃんも分かっているようで、俯いたまま返事をする。その姿はまるで泣いているようで、下らないプライドで舞ちゃんを巻き込んだことを悔やんだ。だが……


「私……宮川君のそういう所好き」

「え?」


 全く予期していなかった言葉に、何を言っているのか理解できなかった。


「宮川君っていつも誰かの事気にしてるよね。なのにいつも見返り求めないし……だから私……宮川君のそういう所好き」


 あ~らら……どうしたもんかね~……


 俯き、はにかみながら頬を染める舞ちゃんには正直胸が三回くらいキュンとした。それは甘く透き通る匂いがする、ピンク色の世界、いや、もう舞ちゃんと裸でベッドの中にでもいるようなエロと青春とエロスとエロに包まれた感覚がした。そして知る、俺不純!


 この感覚には、このまま舞ちゃんを抱きしめて「付き合おう!」となってしまってもいいような気がした。しかしそれと同時に、もし今目の前にいるのが舞ちゃんではなく理香だったらと思うと、やっぱりまだ決着していないままではどう転んでも後悔しかしないと思った。

 

 告白した舞ちゃんと未だ答えの出ない俺。それぞれの思惑は違えど沈黙が出来た廊下には他の部活の生徒の声が何処からか響き、それがまた居た堪れなかった。


「と、とにかく先ずは勝とう。これが終わらなきゃなんにも始まんないから」

「うん」

 

 このまま舞ちゃんの傍にいるとますます迷いそうだった。そこで理由を付けて少しでも舞ちゃんから離れる事にした。


「じゃあ俺、トイレ行って顔洗ってくる。舞ちゃんもそうした方が良いよ。少しは気持ちが落ち着くと思うから」

「分かった。ありがとう宮川君」


 そう返す舞ちゃんの笑顔には胸が痛んだ。けれど今は胸の痛みよりも、舞ちゃんと離れられるという安堵の方が大きかった。なのにやっと舞ちゃんから離れられてホッとするのも束の間、トイレに入ると何故か揉めている霧崎と天満に出くわした。


「じゃあどういうつもりなの!」

「どうもこうも言った通りだ。別に俺達はふざけているわけじゃない!」

「僕にはそうは見えないけど!」


 ただでさえ面倒な状況なのに、今度は霧崎と天満が揉めているのにはうんざりだった。だからもう完全無視で赤の他人を装い、顔を洗ったら普通にトイレを出る作戦を取った。


「あっ、優樹君! 一体どういうつもりなの!」


 やはり今の状況では赤の他人作戦は通用しなかったようで、洗面所までは辿り着けたが速攻で天満に捕まった。


「なんでいきなり二人してマイをからかうような事したの!」


 この言葉に天満が何故怒っているのか直ぐに理解出来た。

 普段は仲が悪そうに見える二人だが、天満は意外と舞ちゃんを大切に想っている。それは恋心の裏返しかと思っていたが、昨日のフキノトウ事件を思い返してみてもそんな軽い物では無く、もっと強い、妹を想う兄のような感情だ。

 おそらく二人は俺が思うような小学校からの幼馴染というものでは無く、もっと幼い頃から、それこそ家族ぐるみで付き合っているような関係だったのかもしれない。


 普段は俺達には絶対噛みつかない天満が怒りを露わにして迫る姿からは、そんな絆が感じ取れた。


「…………」

「ねぇ! 答えてよ!」


 しかし! 今の俺はそんな温かい感情をぶつけられても面倒臭くて、目を合わすのさえ面倒だった。それこそ出来る事なら今すぐ家に帰って寝たい程面倒だった。

 そんな俺を霧崎が庇う。


「ねぇ!」

「落ち着け天満! 宮川は何も悪くない! 全ては俺に責任がある!」


 これだけゴタゴタした中でも気力十分の霧崎君はここでも霧崎劇場を繰り広げるつもりなのか、力強く言う。


「これは俺が、宮川が佐藤を好きな事を無理矢理教えようとしたのが原因だ! だから宮川は何も悪くない!」


 こいつは突然何を大声で言ってんだよ!? 力入り過ぎて実まで出てんじゃねぇか!


 霧崎としては俺には責任が無いと伝えたかっただけなのだろうが、足りない主役はまさかの理由を口にしてしまった。これには目を丸くする天満以上に俺の方が目を丸くしてしまった。


「え……ちょっと待って……え?」


 夢縫部では一番頭の良い天満でさえ理解が追い付かないのか、さっきまで怒っていたはずが頭をオロオロさせて混乱し始めた。

 

 無理はなかった。俺でさえ今の状況は滅茶苦茶だと思うからだ。それを今まで舞ちゃんを賭けて戦っていると思っていた天満が理解出来ないのは当然だった。


「そういう訳だ天満。だから殴るのなら俺を殴れ!」

「えっ!?」


 思いやりの心が足りない霧崎は、そう言うと軍人の如く左頬を天満へ向け、ここを殴れと差し出した。それは男らしいと言えば男らしかったが、自分の世界へ引き込み混乱させた今の天満に要求する姿は卑怯と言わざるを得なかった。

 

 そんな奴殴っちまえ天満!


「さぁ遠慮するな! お前が新垣を好きな事は良く伝わった! そんなお前を蔑ろにして勝手に話を進めた俺への罰だ! 思い切り来い!」

「えっ!? い、いや……僕は別にそういう意味で……」

「さぁ来い!」


 アホの霧崎君大暴走。全く天満の想いも考えず霧崎劇場を進める。


「ちょっ、ちょっと待ってよ霧崎君……」

「さぁ早く来い!」

「い、いや……その……」

 

 最初から霧崎劇場を気持ち悪がっていた天満だけあって魔法には掛かっていなかったようで、霧崎のキチガイ行動にはついて行けず遂に俺に助けを求めるようにこちらを見た。

 

 正直どうすべきか迷った。俺としては好き勝手やって、挙句に天満にまで理香が好きな事を教えた霧崎には是非とも一発かましてほしかったからだ。しかしそれが出来ない事を知っている以上、仕方なく助けるしかなかった。


「もうそのくらいでいいだろ霧崎」

「…………」


 俺の割り込みには視線を送った霧崎だが、それはプランには無かったようで何も言わない。


「おい! オメーはどれだけ場を乱せば気が済むんだよ!」

「…………」


 これ以上は霧崎に付き合っていられなかった。なのに彼はフラグの立っていないゲームキャラよろしく返答をしない。


「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「……もういいわっ!」


 もう何なのこいつ! 八ビットしか無いの?!


 あくまでシナリオ通り進まないと気が済まない霧崎にはうんざりした。そこでもう彼を放って置いて俺が話をまとめる事にした。


「すまんな天満、全部こいつが言った通りだ」

「えっ! じゃあ優樹君は本当に理香ちゃんの事が好きなの!?」

「う、うん……」

「えっ!? じゃあマイは!?」

「い、いや……それは……」


 実は舞ちゃんの事も好きだとは言えなかった。言えばそれこそ大変な事になる。


「ねぇ! どうなの!」

「い、いや~……」

「ねぇ!」

「す、好きだよ……」


 言っちゃった! だって天満今から相撲でも取るのかと思うほどふぅふぅ言いながら詰め寄って来るんだもん! 


「なっ!? お前何を言ってるんだ宮川! 見損なったぞ!」

「やっぱり! じゃあやっぱりマイを馬鹿にしてるんじゃん! 見損なったよ!」


 くそっ! 結局なんだかんだで一番悪いのが俺みたいになってんじゃん!


「お、落ち着けよ天満、俺が言ってるのは……」

「もういいよ! 今聞いた事全部マイと理香ちゃんに教えるから!」


 そう言うと天満は早速得た情報をリークするためトイレを出ようと背を向けた。


「ちょっちょっちょっ! ちょっと待てよ天満!」


 ただでさえ混沌とした中で、天満が今聞いた事を打ち明ければ全てが壊れる。それこそ最悪の場合学校中に俺の悪名が広がり、退学どころかこの町にさえいられなくなる。

 それだけは絶対に避けるべく、いざとなったら天満を闇に葬るつもりでトイレの入り口を塞いだ。だがそこは優しい天満。熱くはなっているがまだ話を聞いてくれるようで足を止めてくれた。


「何、まだ何かあるの」

「まぁ落ち着けよ天満。確かに自分でも俺が言ってる事が無茶苦茶なのは分かってる。だけど聞いてくれ。俺は舞ちゃんや理香を傷付ける為にこんな事してるわけじゃない。それにまだ勝負の途中だし、せめてこの勝負が終わるまで黙っててくれ」

「終わるまでって、終わったらどうするつもりなのさ!」

「どうもこうも、俺がきちんと理香と舞ちゃんにぶん殴られるよ!」

「はぁ? どういう事?」


 ここまで来た以上どうすべきかは決まっていた。ただその結果はどうなるかは理香達にぶん殴られるくらいしか見当がつかなかった。そんな俺の考えに天満が首を傾げるのは無理もなかった。


「どうもこうも無ぇよ! 言った通りだ! 全部霧崎が悪いけど結局こうなったのは俺のせいだから終わったらきちんと罰は受けるよ。だから勝負が終わるまでは黙っててくれ天満」

「…………」


 今はこれくらいしか言えなかったが熱意は通じたのか、天満は俺を睨むだけだった。そこで駄目押しの一言を加えた。


「そして、俺が舞ちゃん達に殴られた後霧崎をぶん殴る!」

「……分かった。じゃあまだ黙っておく」


 サンキュー天満! 霧崎の前歯全部へし折ってやる!


 こうして霧崎討伐へ協力してくれた天満のお陰で、勝負は次局へと突入する。


 やっと投稿しましたが、また止まります。母親の入院と自分の親知らず四本&他四本の同時抜歯が重なったせいでまだ本調子ではありません。体の方は大分回復したのですが、精神の方が駄目です。全身麻酔の影響か以前より小説を書くのが難しくなり、その反動で何故か遊戯王にハマり出し大変です。誰か助けて!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ