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君はjunkie   作者: ケシゴム
第八章
38/48

直感

「リーチ!」

「ロンッ! トイトイ、ドラ三!」


 理香の連続和了で火が点いた俺は、既に勝ち負けにだけ拘るようになっていた。その闘志は集中力を高め、東四局を終える頃には自分でも最高潮に達していると分かるほど読みが冴えていた。だが……


「理香。これって何点?」

「満貫だから八千点だよマイ」

「よし! じゃあ霧崎君八千点頂戴?」

「あ、あぁ……」


 理香へ一矢報いるため覚醒に近い冴えを見せる俺だったが、世の中漫画のような事など然う然うあるわけもなく、主人公の如し活躍を見せていたのは舞ちゃんだった。それでも俺が冴えているのは本当で、今回の上りだってドラと八索を見事に鳴かせアシストしていた。だけど俺だけ未だに焼き鳥!(あがり無し)


「よし! これで大分点差が縮まったね宮川君!」

「う、うん……この調子で頑張ろう!」

「うん!」


 この勝負初の直撃により、一時は四万点以上あった差が二万点ほどに縮まった。そして局もいよいよ南場へと突入した。それは思っていた以上に白熱した戦いとなり、勝負の行く末は誰にも分からないものとなっていた。


 けれど何故だか無性に腑に落ちなかった。現在ペアでの持ち点は理香達が五万九千六百点に対しこちらが四万四百点と迫りかなり良い勝負をしているが、個人別では、一位の理香が五万千百点。二位の舞ちゃんが三万二千六百点となり、三位の霧崎が八千五百点。そして四位の俺が七千八百点となっていて、俺と霧崎の勝負のはずだったのに何故か当の本人たちがビリ争いをしているという状況だったからだ。


 確かに舞ちゃんをサポートしているから俺がビリなのは納得がいくが……いや、やっぱ納得がいかない! これどう考えてもおかしいよね! これ漫画だったら絶対打ち切りだよね! 


 例え漫画でなくとも普通こういう戦いでは俺達が主人公にならなければならないのに、全く空気を読めない理香と舞ちゃんペアのお陰で、俺もそうだが霧崎も既にコタコタ状態だった。


 それでも最後までやらなければならない対局は、再び圧殺の理香の親番となり始まった。


 絶好調の理香は賽の目を五と出し自山から配牌が配られた。すると理香の怨念でも憑りついたのか、俺が持って来た四牌は全てバラバラの字牌だった。そしてさらに霧崎の山にかかるとさらに五牌増え、字牌勢ぞろいの手牌となった。ただ霧崎君の情けなのか、字風の西と北だけが対子となり、なんか知らんけど友情を感じた。


 “七萬、一索、五筒、九筒、東、南、西、西、北、北、白、発、中”


 これを見た時、国士無双を狙うという考えは全く無く、即本日二回目の九種九牌(鳴きが無い第一ツモ時点で、手牌に一・九字牌が九種類以上持っていると流局に出来るルール)で流そうと思った。というのも、何故か知らんけど舞ちゃんはやたらと一、九牌を暗刻にするし、俺がこれだけ字牌を固めているという事は間違いなく理香は中張牌(二から八までの数牌)の好形だからだ。そのうえドラは理香に味方するように五萬だし、第一打で理香は既に三索を捨てる始末。もう泣きそうだった。


 そんな中舞ちゃんが一打目にいきなりドラを切ったのを見て、俺だけでなく理香までもが眉を顰めた。


「マイ、それドラだよ?」


 理香なりの探りなのか、それともただ単にまだ素人の舞ちゃんへの気遣いなのかは分からないが、理香は勝負中にも関わらず首を傾げるように訊いた。


「うん知ってるよ」


 舞ちゃんはそれだけ言うと視線を手牌に戻した。


「そうなんだ……だったらいいや」


 これには理香も当てが外れたようで、そう答えるだけだった。この舞ちゃんの堂々とした態度に、九種九牌で手を晒すのをやめた。


 おそらく舞ちゃんの手は清一色(一色の数牌だけで作る役)か四暗刻(暗刻を四つ揃える役満)が見えている。

 舞ちゃんはまだピンフも良く理解出来ておらず、どの役が鳴いたら付かないかまでは熟知していない。そんな舞ちゃんがいきなりど真ん中の牌を捨てるからには、誰から見ても一目で分かる役しかない。ここは舞ちゃんに任せるしかなかった。

 そこで七萬から切り出し、あわよくば国士を狙いつつ、いつでも舞ちゃんをサポートできる体制を取った。


 そんな中で唯一霧崎君だけはこの事態には気付いていないようで、普段通り不要な字牌である北から切り出した。


 霧崎! もう気を付けてよ! 俺お前とビリ争いするのやだよ?


 舞ちゃんが博徒の化身と化しつつある前では、霧崎がこの中では一番の弱者だった。ちなみに二番目が俺。


 舞ちゃんのドラ切りで一気に空気が張り詰めた次順、理香はきっちり対応し俺と同じ七萬を切った。しかしその切りは手を捨てたわけでは無そうで、牌を絞りながら上りに向かうという意思を感じた。そしてそれと同時に理香も相当手が早そうだと思った。


 麻雀は基本不要な牌を捨てながら手を進める。そうなると扱い辛い単独の字牌や端の一・九牌から処理するのが効率的だ。そのためそれ以外の牌から切り出すにはそれなりの事情がある。

 例えば今のように舞ちゃんが何かしらの牌を集めたがっているのが分かっているのなら、鳴かれないよう絞りをかけたり、もしくは先に処理する。しかし絶好調の今の理香のような場合、既に手がまとまっており不要となる牌がそれしかないという事もある。 

 今さらながら自分のクソッ手を見て、やはり九種九牌で流しておくべきだと思った。


 だが今の乙女パワー全開の舞ちゃんには杞憂などとは無縁のようで、三巡目にして理香の捨てた九索に鳴きの声を上げた。


「カンッ!」


 かなりの勝負手のようで、舞ちゃんは迷わず声を上げると勢いよく牌を縁に揃えた。その姿はまるで哭きの竜のようで、とても頼もしかった。しかしこの鳴きで一瞬にして俺の国士無双が消滅したのにはがっかり来た。ちなみにカンドラ表示牌は一筒。


 それでもこの時点で舞ちゃんが索子を集めているのだと分かると場には歪みが生じ、こちらに有利な状況が訪れた。

 理香は下家の舞ちゃんを警戒し字牌や索子が切り辛くなり手が遅れ、俺も色が分かった為残す牌に悩まなくて済むようになった。そして霧崎も一応警戒しているようで、字牌は切るが索子は切らなくなり、舞ちゃんは場を支配していた。


 これならいける!  


 後は舞ちゃんから索子が零れるのを待つだけだった。舞ちゃんが索子を余し出せば後は適当に索子をバラ切りして鳴かせ、最悪俺が振り込んでもペアでの点棒の動きはなく理香の親が流れるだけでこちらには損害は出ない。正にこの局は俺達が取ったような物だったのだが……


「リーチ」

「リーチ!」


 迎えた七巡目、霧崎と理香から合わせたかのように同時にリーチが掛った。これにはさすがにイカサマでもしてるんじゃないかと思った。何故なら河にはまだ索子は理香が最初に切った三索と舞ちゃんが鳴いた九索しか見えておらず、二人ともがそんなに都合よく手が出来るとは思えなかったからだ。

 それでもこういう事が良くあるのが麻雀。クソみたいな現実だが受け入れるしかなかった。


 しかしここでも男気ならぬ乙女パワーを発揮したのが舞ちゃんだった。元々オリを知らないとも言えるが、全く怖れを知らない舞ちゃんはツモって来た牌を確認すると一切逡巡せず、生牌の中を普通に切った。


 これにはヒヤッとした。舞ちゃんが索子を集めている以上、混一色も警戒されている。そうなると残していた中が待ちになった可能性もあるからだ。

 けれどそういう事も無いのが麻雀。打たれた中にロンの声は掛からなかった。そして俺の安パイも増え、ある意味強烈な一打となった。

 

 舞ちゃんの強打のお陰か霧崎も理香も一発でツモれず、次巡舞ちゃんはいよいよ六索を切り出し通した。


 来た! 後は舞ちゃんへ差し込……む……


 もう猶予は残されていなかった。とにかく一刻も早く舞ちゃんに上がらせるほか道は残されていなかった。しかし既にリーチを掛けている霧崎と理香がいるうえ、二人とも全く索子を捨てていないという状況では振り込みもアシストも出来るような状況では無く、やっぱり舞ちゃんに自分でどうにかしてもらうしかなかった。


 そんな中だった。霧崎が西を捨てたのを見た瞬間直感が働いた。


「ポンッ!」


 この西だけは絶対に鳴かなければならないという命令だった。

 この鳴きにどういった意味があるのかは分からない。だが長年麻雀をしていると時折神がかった直感が働く時がある。それは啓示と言っても過言ではなく、正解を導き出す。そして今回の直感も間違いはなかったようで、ツモ番がずれ再び霧崎がツモ切ると逡巡した理香の声が掛かった。


「……ロ、ロン。三万六千……」


 リーチ、平和、タンヤオ、一盃口、ドラ七。カンドラ裏ドラが全て乗った超ド級の三倍満だった。


 あっぶねぇ! もし鳴かなかったらツモられてた!


 自分で言うのもなんだが超ファインプレーだった。もしあのまま理香がツモ上りを決めていれば二万四千点を奪われ終わっていた。しかし霧崎からの上りなら得点に変動はない。その上理香の勝負手も躱せ、実質ぶっ飛んだ霧崎にも精神的なダメージを与えられた。


 これにより流れはこちらに傾くはずだった……


 出来ているのはここまでです。この続きはまた後日投稿致します。

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