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君はjunkie   作者: ケシゴム
第七章
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青春 ③

 恋愛無知の霧崎をやっとの思いで説得する事に成功し、遂にまともに家路につく事が出来た。しかし今度は俺が理香を好きな事を知った霧崎が、知恵も無いのにやたらと熱く絡むようになっていた。


「いっそ佐藤に告白するのが正解なんじゃないのか?」

「い、いや……それはちょっと……」

「何故だ!?」

「何故って言われても、理香は全然俺に興味無いみたいだし……」

「そんなわけはない! 聞けば最初に佐藤が声を掛けたのはお前らしいじゃないか? それは少なからずともお前に興味があったからだろ?」

「そ、それは……」


 霧崎としては本気で俺の事を応援しているのだろうが、やたらと熱いせいか正直有難迷惑だった。それでもその心意気は有難く、無下には出来なかった。


「それに新垣はどうする! 新垣は間違いなくお前のことが好きだ! そんな新垣だぞ? お前がこのまま何もしなくてもいずれ新垣から告白されるぞ? その時お前はどうするんだ!」


 穏やかに問いかけたり、突然火でも吹いたかのように声を荒げたり、何が霧崎をそうさせるのかは知らないが、まるで熱血ドラマの主人公のような霧崎には色々と接し辛かった。でも彼は本気。良い奴であることは間違いないようで、親身になってアドバイスをくれるため、こっちも本心で語るしかなかった。


「どうするって言われても……」

「お前まさか、新垣に告白されたら付き合う気なのか!?」

「そ、それは! ……違うとも言えない……」

「バッキャロー!」


 “バチンっ!”


「あだっ!」


 霧崎が本気だからこっちも嘘偽りの無い今の気持ちを伝えた。それは友としての礼儀だったのだが、まさか本当に平手打ちが飛んでくるとは思ってもみなかった。


「お前は本当にそれでいいのか! 己の気持ちを裏切ってまで信念を曲げるのか! お前は佐藤の事が本当に好きなのか!」

「おおおい! あんまり大きな声で言うんじゃねぇよ!」


 こいつのこのキャラクターなら平手どころかグーが飛んでくるかもしれないという危機感はあった。だから突然殴られても頭に来るどころか“あ、やっぱりね”という諦めくらいしか感じなかった。だが例え人通りの無い住宅街でも、まさか俺が理香を好きな事を大声で叫んだ事にはイラっと来た。そこで咄嗟に黙らせるために襟首を掴んだ。


「離せ!」

「おい! ちょっ! あだっ!」


 別に俺は喧嘩をするために襟首を掴んだわけではないのに、霧崎は熱血教師のように俺の手首を掴み、無駄に投げ飛ばした。そして倒れた俺の胸倉を掴み言う。


「俺はお前を見損なったぞ宮川! お前はもっと骨のある奴だと思っていた! お前はそんな奴じゃないだろ! しっかりしろ!」


 もう何なのこの人? 男なら好きでなくとも舞ちゃんを抱きしめろとか言ったり、自分の気持ちに真っすぐ生きろとか言ったり、人の好きな人の名前大声で叫んだり、俺の名前叫んだり、もうほんと何なの? お陰でこの辺に住む小学生に宮川って人は佐藤って人が好きなんだって知られちゃったよ!


 彼はどうやら幼少期より野球ばっかりしていたせいで哀しい化け物になってしまったようだった。でも迷惑は掛けるが良い奴であることに変わりは無いようで、あんまり関わり合いになりたくない人物だった。


「明日、佐藤に告白しろ!」

「な、なんでだよ!? さっきも言ったけど……」

「うるさいっ!」


 うるさいってこいつ小学生かよ!


「いいか良く聞け。心っていうのは嫌な事ばかり逃げて楽な選択だけをしているとどんどん腐る。特に人の気持ちっていうのは裏返ると取り返しのつかない事になる。そんな心で例え新垣と付き合っても、お前は将来必ず新垣を裏切る。お前だってそれは分かってるんじゃないのか?」


 霧崎もどうやらコミュ障的な所があるようで、言っている事は鬱陶しかった。けれど熱い言葉に込められた意味は伝わった。


 俺自身このまま舞ちゃんと付き合うというのは悪い話ではないと思う一方、ここで理香を好きでいる事を諦めたとしても、ハッピーエンドなんて迎えられないと思っていた。それは俺だけでなく、俺を好きになってくれた舞ちゃんにも、なんとかして好きになってもらおうとアピールしていた理香にも言えた事だった。いや、もし俺が霧崎の言う通り楽な選択を選べば、今目の前で怒鳴り散らす霧崎も、夢縫部を彩ってくれた天満にも、俺達を認めてくれた教頭先生や教頭先生だけでなく、俺が関わった全ての人を裏切るような気がした。

 それでも……


「それは分かってるよ……でもやっぱ理香に告白するのはやめにしない?」

「…………」


 全ての人を裏切る事はやはりできなかった。だがやっぱり理香に振られるのはそれ以上に出来なかった。……だってそうじゃん? 振られたらもう俺学校行けないじゃん?


「バッキャロー! お前それでも漢か!」

「そ、そんな事言われても……」


 理香に告白するくらいなら、俺は今まで関わった全ての人を裏切るを選ぶ。俺が理香に告白するを選ぶとしたら、親知らずを麻酔無しで抜くの二択しかない! (※ 優樹の親知らずは水平埋没智歯)


「お、お前だって理香に告白しろっていきなり言われたら困るだろ?」


 とにかくこの場を凌ぐために咄嗟に出た言い訳だった。しかしこれが良からぬ事態を招く。


「そ、それは困る! 俺が佐藤に告白する理由が無い! 別に俺は佐藤が好きなわけじゃない!」

「いやそういう事じゃないから!」


 霧崎君はむっつりスケベでもあるが基本イケメンでもある為、全く意味を理解してはいないが男らしかった。だがアホでもある為とんでもない事を言い始める。


「だが新垣になら告白できる!」

「何でだよ!?」


 ドドドどうした霧崎―! こいつ死ぬ気か!?


「新垣は俺の事が好きなんだろ? なら漢として応えなくてはならないだろ!」

「お、おお落ち着け霧崎! それはあくまで俺の予想だって言ったろ! も、もし外れてたらお前死ぬぞ!」

「そんな事は分かっている! だがお前が言い出した事だろ!」


 何を!? 何俺のせいにしてんのこいつ!?


「ここまで関わったんだ、俺だって最後まで付き合わせてもらう!」

「えっ!?」


 何!? 何に付き合わせてもらうの!?


 もう告白やらなんやらで、霧崎が何に、誰と付き合うのか全く理解できなかった。


「だから宮川。明日告白するぞ!」

「やだよ!」


 何が悲しくて霧崎と心中しなければならない! 死ぬなら霧崎一人で逝ってもらいたい!


「お前ここまで来てまだそんな事を言ってるのか! なら俺は明日、佐藤にお前が好きな事を伝えるぞ!」

「冗談だろ!?」

「冗談じゃない! お前このままだと新垣と付き合うつもりなんだろ!」

「い、いや……それは……」


 正直舞ちゃんとなら付き合っても良い。しかし理香を忘れるのは嫌だ。こんな土壇場でも完全否定できない自分というのもなかなか酷かった。


「何故だ!」

「何故って言われても……俺も決めかねてんだよ……」

「決めかねるってなんだ! 佐藤か新垣かって事か!」  

「ち、違うよ! そういう意味じゃない!」

「じゃあなんだ!」

「夢縫部を辞めるか辞めないかだよ……」

「はぁ? それは今関係無いだろ!」


 舞ちゃんをフッて理香を取るか、理香を諦めて舞ちゃんと付き合うか。そんな答えの出ない選択をしているうちに、それならいっそ両方諦めて夢縫部を去ってしまえば一番楽だと思った。


「あるよ。お前の言う事は分かる。だから、それなら両方諦めた方が丸く収まるだろ?」

「何を言ってるんだお前!? じゃあ新垣の気持ちはどうなる!」

「いやそれなんだけどさ、よくよく考えたら舞ちゃんが俺の事好きなの憶測だろ? 違ったらお前どうする気だ?」

「お前ここに来てそれを言うのか!? なら今までの俺達のやり取りは何だったんだ!?」

「それはオメーが勝手に熱くなってたせいだろ!」


 すっかり霧崎のペースに流されて熱くなっていたが、諦めるが出て来た事で冷静さが戻った。それでも霧崎君にとってはここでの中断はあり得ない話だったらしく、一人熱血ドラマを続ける。


「俺は諦めんぞ! とにかく明日、俺は佐藤にお前が佐藤を好きな事を伝え、新垣に告白する!」


 そう言うと霧崎は、ノリの悪い俺を見限ったのかやっと手を放した。


 マジかこいつ!? あくまで俺を巻き込む気か!? 諦めんぞってそういう意味なの!?


「ちょっと待てよ! それならお前一人で舞ちゃんに告白すれよ! なんでわざわざ理香に言うんだよ!」


 そう言うとここで霧崎君は待ってましたとばかりに背を向け、放つ。


「お前がしっかりしないからだろ! 俺はこれでもお前が思っている以上にお前を想っているからだ!」


 鬱陶しい奴め!


 お父さんかお母さんかは知らないが、霧崎慎吾という息子を一体何者にしようと教育したのか、鬱陶しい青年へと成長していた。


「とにかくお前は明日までに、佐藤へ告げる言葉を選んでおけ」

「待てよ! じゃ、じゃあこうしよう。明日俺と麻雀で勝負しよう」

「何?」

「それでもしお前が勝てば俺も告白するし、お前も応援する。だ、だけどもし俺が勝ったら、こ、この話は無しにしようぜ?」


 理香か舞ちゃんかはもう二の次だった。とにかく今は霧崎の暴挙を何としてでも止めるのが先決だった。


「断る!」

「何でだよ!?」


 まさかの即答だった。それこそ分かっていましたくらいの勢いだった。


「前にも言ったが、俺は運否天賦で生きてはいない! それにお前と麻雀で戦う意味が分からん!」


 確かにそりゃそうだ。俺と霧崎で理香か舞ちゃんを取り合っているのならまだ分かるが、全然そんな関係じゃない。

 熱くなっているように見えて、実は冷静な霧崎君の返答には、“あれ? こいつ全部演技なんじゃね?”と眉に皺が寄った。


 しかし俺は窮地にこそ真価を発揮するタイプだったようで、咄嗟に上手い切り返しが出た。


「ある! 確かにお前はそうかもしれないけど、俺は運を信じる! だからお前が舞ちゃんに告白するのは勝手だけど、お前が理香に俺が好きな事を言うのだけはやめろ! 俺の中ではまだ天は理香に告白するなって言ってる気がするんだ! でもその時が来たらいつか必ず理香には俺の口から伝える!」


 完全にその場しのぎの口実だった。口から出た言葉には全然舞ちゃんに告白されたらどうしようという内容は無視しているし、結局どうするかなんて全く筋が通っていなかった。何より俺は運なんてウンコくらいしか思ってない。しかし俺の熱意が通じたのか、熱血漢霧崎が逡巡の後応える。


「……分かった。それなら受けよう。その変わり、例えお前が勝っても新垣に告白されても付き合うなよ」

「わ、分かった」

「じゃあ明日、場所は部室だ」

「わ、分かった」


 勝負は受けたがやっぱり筋が通っていないのは気付いているようで、霧崎は何気に条件を付けて来た。それでも熱けりゃ何でも通るのが霧崎らしく、なんか知らんが納得して、まだ空は真昼間だが、まるで刑事ドラマよろしく、夕陽にでも向かって歩くかのように背を向け一人で勝手に帰って行ってくれた。


 七章はここで終わりです。八章はまだ二千文字ほどしか行っていないため未定です。

 最近PVが少しずつ増えていて嬉しい限りです。ですが書けば書くほど自分ではこの話の何処が良いのか分からなくなり、逆にこの物語を読んでいる人の方がおかしいのではないかと思うようになりました。数字でしか読者を知る事の出来ない状況では、もしかしたら全ての読者がAIなのではと思ったりもします。というかAIの方が気が楽です。もしこれが”人”に届いていましたら、こんな物より書店にある文学を読む事をお勧め致します。これを読んでいてもエロと益荒男しかありません。

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