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君はjunkie   作者: ケシゴム
第七章
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天下取りの相

 自然公園の飲食店で昼食を済ますと、午後からも俺達は写真撮影の続きを始めた。しかし相変わらず森で遊びたい理香が霧崎と天満を連れて行ってしまったため、昼からも俺は舞ちゃんと二人きりだった。


「舞ちゃん気を付けて? ほら手?」

「うん。ありがとう宮川君」


 昼からは蛍が生息しているという小川の周りで撮影をしていた。ここには綺麗な清流に足場となる岩があり、その上を飛び回るというアスレチックがあった。

 初めは脇を歩き撮影していた俺達だったが、より近い位置で小川の流れを撮影したいという舞ちゃんの要望で岩の上を移動する事になり、あまり運動が得意ではない舞ちゃんをサポートするため手を繋ぐようになっていた。


「ねぇ宮川君?」

「何?」

「今気付いたんだけど、もしかして宮川君って両方の手ますかけじゃない?」

「ますかけ?」


 全く聞き慣れない言葉に首を傾げた。すると舞ちゃんは繋いだ手を放し俺の掌を覗いた。


「これ! 宮川君の手相ってさ、こうやって横に一本の線出来てるでしょ? これますかけ線って言って珍しい手相なんだよ!」


 手を掴み、優しく指で線をなぞる舞ちゃんにドキッとした。


「へ、へぇ~、そうなんだ。で、でもそれがどうしたの?」

「これってね、天下取りの相って言って、両手にますかけ線がある人は天下取れる素質があるらしいんだよ!」

「そうなの!? でもこれって普通じゃないの?」


 たしかに昔母親にそんな事を言われた記憶はあったが、今までずっと自分の手相は普通だと思っていた。それを褒められるととても嬉しかった。


「普通じゃないよ! ますかけ線って片手にある人で百人に数人らしくって、両手にある人は千人に一人くらいしかいないらしんだよ!」

「マジで!?」

「うん!」


 なんか知らんけどまるで神に選ばれた感がしてとても誇らしかった。だけど手相!


「そしてね、この手相は徳川家康とか豊臣秀吉とか織田信長も持ってたらしくって、一度掴んだ物は離さないって言われるほど強運の持ち主らしいんだよ!」

「おお! ……お……おぉ……」


 強運と聞いて信ぴょう性が一気に薄まった。何故なら俺はどちらかと言えば運が無い! もし本当にますかけ線とやらが天下を掴む手相なら、俺が毎回掴む字牌の群れは何なの?


「でもね、宮川君。実は私も左手だけだけどますかけ線あるんだよ?」

「そ、そうなの?」

「ほら」


 俺には全然有難みを感じなくとも、舞ちゃんにとっては違うようで、ちょっと照れるように左手を見せた。


「ホントだ」


 小さく柔らかい舞ちゃんの手には俺と同じく横一文字の手相があり、綺麗な肌色をしていた。その手は正に女の子の手であり、今までこの手を握っていたのかと思うと堪らなかった。


「宮川君とお揃いだね」


 この言葉には告白されたかのような衝撃が胸に走った。


「そ、そそそうだね?」


 ししししか~し! 俺は理香の事が好きで、たたた確かにま、ままま舞ちゃんはかかか可愛いいいいいとは思うが付き合うわけにはいかず、めちゃめちゃ嬉しいが何気無い感じで話を合わせた。


「じゃあさ、お互いますかけどうし手を繋ごう? 私左手だからこっちに立つね?」


 ままままさか舞ちゃんはおおおおお俺の事がすすす好きなのか! 落ち着くんだ俺! 多分舞ちゃんの事だからジンクスとか占いとかそんな感じだ! だだだだからここは落ち着くんだ俺! そうだ! 霧崎のようにカッコ良く対応すれば良いだけのことだ!


「あ、あぁ。しし、しっかり握るんだ」


 落ち着け俺! 今のじゃまるでAVだ! 俺のポティンシャルはどうなってんだ!


「分かった。じゃあよろしくね宮川君」

「う、うん」


 舞ちゃーん! 今のは気持ち悪がって嫌悪感丸出しの顔してよ! そんな素直に手を繋がれたらなんだかめちゃめちゃ自分が汚れちゃった気がするよ!


 危険だからという理由で繋いでいただけでも嬉しかったのに、今度は繋ぐという目的だけで手を繋ぐと全く違った感触がした。それは先ほどのAV発言と相まって、それこそ抱いているような堪らない感触だった。

 そしてこういう意味で強運だったらしく、ますかけ線が威力を発揮する。


「あっ、でもこれだとますかけ線がクロスしてるから、こうやって繋ごう」

「えっ!」


 そう言うと舞ちゃんはまさかの恋人繋ぎに移行した。


 “恋人繋ぎ。お互いの指と指を絡めるように手を繋ぐことをいう。普通の繋ぎ方よりも密着するため、相当親密な関係でなくてはあり得ない繋ぎ方から、恋人同士でもある一定ラインを超えないと実現しない結合”


 そそそんな馬鹿な! まさか手を繋いだだけでここまでの快楽を得られるのか!? まるで絡めた指が舞ちゃんを抱き枕のように抱いている感覚を与えるとは!? 


 柔らかい太もも、温かい肌、唇から漏れる息遣い、甘い香り。もう何か舞ちゃんの体を、女性の体の全てを知ってしまったかのような感触だった。


「じゃあ行こうか?」

「あ……うん」


 舞ちゃんはお姉さんタイプのようで、こんな初心者の俺でも優しくリードしてくれる。それはそれで妹、というか幼児タイプの理香とは異なった悦びを与えてくれる。


「じゃあちょっと疲れちゃったから、さっきのトイレのとこにあった広場で休もうか? あそこなら自販機あるし、ベンチもあるから」

「う、うん」

 

 ここここれはもしやホテルに誘っているのか!? 


 このいやらしい感じで手を繋いだ状態では、その全てがそれにしか感じなかった。そして歩くたびにより強く感じる舞ちゃんの感触がまるで揺れるおっぱいを両手で支えているかのようで、この後自販機に着いたら、「あ、一本分しか買えない。仕方ないね? 一本を二人で飲もう?」的な間接キスを想像させてしまうほどだった。


 しかし自販機に到着しても舞ちゃんは普通に二本買い、普通にベンチに腰掛け、普通にたわいもない話を始め、普通だった。


 こここれは待っているのか!? 俺がホテルに行こうと言うのを!? イケるのか! 今ならイケるのか!?


 余りに普通にする舞ちゃんに、逆に思慮深くなってしまった。そのせいでもう舞ちゃんがなんの話をしているのかなど全く頭に入ってこなかった。ただただ嬉しそうに動く柔らかい唇ばかりを見ていた。

 そんな中だった。本能が何かを察したのかおもむろに目線を送ると、草むらに隠れるようにこちらを覗く理香達三人が目に入った。


「はっ!」

「どうしたの宮川君?」


 丁度死角に入る為舞ちゃんは気付かない。しかし不思議な物で、特に悪い事もしていないのに舞ちゃんに報告するべきではないと思った。


「い、いや……財布落としたかと思って……」

「えっ!?」

「大丈夫だよ舞ちゃん。財布あったから」

「良かった~。っていうか、さっきジュース買う時あったでしょう?」

「あ、あぁ、そうだった……ハハハハハ……」

「もう宮川君ったら」

「ハハハハハ……」

 

 脅かさないでよという感じで軽く小突く舞ちゃんに触れられると、とても心地良かった。だが草むらからスナイパーの如くこちらを覗く理香達を見ると、超居心地が悪かった。っていうか理香とはがっちり目合ってるし!


「それでさ、この間家のミイアがね……」

「そ、そうなんだ……」


 結局理香達は俺達が休憩している間はただこちらを覗くだけで、ひたすらストーカーしているだけだった。


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