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君はjunkie   作者: ケシゴム
第七章
28/48

ステップアップ

 六月に入ると気の早い蝉が鳴き始め、少しずつ夏へ向けた気温に変わって来た。この頃にはクラスの生徒ともだいぶ打ち解け、他クラスの生徒とも友達になるようになった。それは夢縫部にも言えた事で舞ちゃんや天満はもちろん、霧崎の事も知るようになり、かなり仲良くなっていた。


「おい宮川。お前の夢はなんだ?」


 霧崎君には特に気に入られたようで、今日も彼は俺を気に掛ける。


「おめー何回聞くんだよ! まだねーっていってんだろ!」

「ならこれを読め」

「それもいいって何回言えば分かんだよオメー!」


 霧崎君はここ最近痴呆でも入って来たのか、毎日のように俺に夢は何だと訊き、無いと答えると何故か自己啓発本を読ませようとして来る。


「お前もそろそろ夢を持て。でないと夢縫部にいる意味が無いだろ?」

「それはオメーも同じだろ! お前こそ夢は見つかったのかよ!」

「いや、まだだ。だが何かは見え始めて来た」

「何かってなんだよ?」

「何かだ」

「…………」

「だからお前もこれを読め」

「それはいらねぇって言ってんだろ!」


 霧崎は基本悪いやつではない。だがクソ真面目というか何というかクソ真面目の上に、執拗とも呼べる執念のようなものを持っていて、俺に高圧的な態度で夢を強要してくる。


「いや、お前には必要なはずだ。だから読め」

「だからいらねぇって言ってんだろ! そんな気持ち悪い本! あっ、ちょっ、顔に押し付けんな!」

「いいから読め」

「や、やめろ! ぶっ飛ばすぞおめー!」

「やってみろ」

「こんにゃろー!」


 最近ずっとこんな感じで、俺は霧崎君が嫌いである。そこにいつもの感じで理香が入ってくる。


「ちょっとまた喧嘩してんの二人とも? 暇だったら麻雀しよう?」


 理香も最近ワンステップ進んだというか、かなり部室の雰囲気にも慣れ、一人で麻雀戦術本を読んだり牌譜を見ながら牌を並べたりして勉強している。それでも隙あらば麻雀の面子を探していた。


「俺は暇じゃねーよ! それなら暇してる霧崎とやれ!」


 現在俺は舞ちゃんに頼まれたミニチュアハウスの制作に追われていた。舞ちゃんもまた新たなステージへと向かう為、資料として五千円もしたというミニチュアハウスを購入した。これは次回作の、森の中にある小さな家を舞台にした作品のイメージを膨らませるために必要なのらしいのだが、舞ちゃん自体がこういった物は苦手らしく俺が手伝う事になった。というか、天満と霧崎は男ながらもプラモデルを作った事が無いという化石的人種だった為俺しかいなかった。ミニ四駆くらい通って来いよ!


「え~。優樹それいつ完成するの? 最近ずっとそればっかりで全然麻雀しないじゃん」

「いつってまだまだ掛かるよ! これ終わるまでは霧崎で我慢しろ!」


 霧崎はそれなりに麻雀が打てる。だがそれなりだ。スジ(二三で待つなら一と四、三四という待ちなら二と五という形に対する守備の知識)や捨て牌から相手の手役を何となく読めるくらいは打てるが、自分の手ばかりに気が行って場況を読めない。

 その為断トツのトップがいても全く協力的に打つ事も無いし、絞り(鳴かれないよう切る牌に気を付ける)もほとんどせず、あまりレベルの高い戦いは出来ない。その為理香からしたら霧崎では物足りないのか俺を誘う。


 本来ならそれは大いに喜ばしい事なのだが、「俺プラモデルくらいなら簡単に作れるよ」と言ってしまった手前、出来るだけ早く楽しみにしている舞ちゃんの為にも手を止めるわけにはいかなかった。ちなみに製作開始してもう五日目。


「え~! ……じゃあ霧崎君麻雀しよう?」

「……あぁ、構わない」


 理香にボコボコにされるのは本当は嫌なのだろう。固まったように逡巡する霧崎にそう思った。


「じゃあ早く座って座って」

「あぁ」


 頑張れ霧崎! 自己啓発本をお勧めするほどのお前ならきっと頑張れるはずだ!


 霧崎は意外と良いやつで、夢縫部に入ってからは俺以外の皆と協力的だ。天満の手品を見ては客目線でアドバイスしたり、舞ちゃんの小説を読んでは読者目線でアドバイスしたり、理香の麻雀に付き合ったりと、アドバイザー的な立場で頑張っている。

 皆も霧崎には助けられているようで、今では夢縫部に無くてはならない存在となりつつあった。


 しかし彼はプラモデルが作れない! 舞ちゃんがミニチュアハウスを持って来たときは、「微力ながら協力しよう」などと言っていた霧崎だったが、俺でさえ苦戦するレベルに当然ミニ四駆すら作った事の無い霧崎は、四つのパーツを組み合わせるだけの椅子ですら破壊と創造を繰り返すだけだった。って言うかコレどんだけ難しいんだよ! 対象年齢十四歳以上って書いてあるけど、それってプロを目指している十四歳以上の事だよね! 接着剤は伸びてベトベトくっ付くし、針金切って曲げてピンセットで作るってもう遊びのレベルじゃないよ!

 

 そんなこんなで、ちっちゃな家具一つ作るのに一時間も二時間も掛かっている俺は、連日霧崎の「お前の夢は何だ?」と細かい作業の連続に頭を悩ませる日々が続いていた。


「調子はどう? 宮川君?」


 霧崎のせいで声を荒げたのが原因か、舞ちゃんが申し訳なさそうに様子を見に来た。


「え? あぁ舞ちゃん。まだこれだけ……」


 昨日見せた家具よりお洒落な椅子が二つしか増えていないが、俺なりの成果を見せた。


「結構細かい物多くて……この調子なら後二週間くらい掛かりそう……ごめんね」

「ホントに!? 宮川君って凄いね!」

「えっ! で、でも、二週間だよ? それに俺じゃあんまり綺麗に作れなくって……」

「良いよ良いよ別に気にしないで。これでも十分凄いよ!」

「あ、ありがとう舞ちゃん」


 てっきり「二週間も!?」っと怒られるかと思っていたが、舞ちゃんは喜ぶように褒めてくれた。

 それは接着剤が糸を引いたり、針金細工がぐにゃぐにゃだったりしていてとても褒められるような完成度ではない俺からしたらとても嬉しかった。


 舞ちゃんは思っていたよりも人に優しい。今まで、特に天満に対する態度からズバズバ言う性格なのかと思っていたが、知れば知るほど普通の女子と変らない性格だと知った。そして意外と男っぽいサバサバしたところもあり、今まで出会ってきたどの女子よりも話しやすかった。

 その為今では筒中高校において舞ちゃんは一番の友達と呼んでも良かった。


「でもあんまり無理しなくても良いんだよ? それ使うのって次の作品だから」

「う、うん、分かってる。だけど出来るだけ早く作った方がいいでしょ? 舞ちゃんだってイメージ膨らませる時間は多い方がいいしさ」

「まぁそれはそうだけど……だったらさ、時間掛かっても良いから小人が使ってるってイメージしながら作って?」

「分かった。出来るだけ頑張ってみる」

「ありがとう宮川君。じゃあゆっくり頑張ってね」

「うん」


 本当に舞ちゃんは言葉の選び方が上手い。ああ言って貰えればこっちだって心に余裕ができ、制作意欲が沸いてくる。柔らかい笑みで席へ戻る舞ちゃんには、理香とは違う愛情を感じた。


「おい天満! ハートの六!」


 舞ちゃんのお陰で一息付けた。そこで気分転換に天満にちょっかいを出した。


「あ、ちょっと待って! ……はいハートの六!」


 手の中でトランプをパラパラさせていた天満は、いきなりの奇襲にも随分慣れた物で、持っていたトランプとは別のトランプをポケットから出し、そこから適当に掴んだ場所からあっという間にハートの六を出した。


 今天満がハートの六を取り出したトランプの束は、自分で決めた順番で組んであるらしい。それは他の人から見たらバラバラに見えるという物だ。その為天満からしたら何枚目に何があるのかは分かっているから簡単なのだろうが、適当に掴んだ場所から指定のトランプを簡単に出す辺りはさすがだ。


「今日も絶好調だな」

「うん!」


 親指を立て合い、グッドで天満と意思の疎通をすると大分気晴らしになった。そこで再びピンセットを持ち、細かい部品と向かい合った。


「ロ~ン! 一万二千!」

「くっ!」


 丁度そのタイミングで理香の跳満が炸裂したようで、部室に大きな声が響いた。


「も~霧崎君守りが甘いよ~? もうちょっと相手の捨て牌とかに気を付けた方が良いよ?」

「わ、分かっている……」


 それを聞いて舞ちゃんや天満にも笑みが零れ、霧崎今日もボコボコという空気に部室は今日も和やかさに包まれた。だが今日はいつもと違い、珍しく舞ちゃんが声を上げた。


「ねぇ私も混ぜて?」

「えっ! 良いよ舞! 一緒にやろう!」


 それを聞いて今度は天満も声を上げる。


「じゃあ僕も入れて?」

「うん良いよテンパイ君! じゃあ早くみんな座って!」


 今日は俺以外全員機嫌が良いのか、久しぶりに卓が埋まった。これには理香も大いに喜び、笑顔を振りまき物凄い勢いで点棒を戻す。それを見て麻雀がしたくなった俺に、理香が声を掛ける。


「じゃあ優樹もこっち来て」

「え? 来てって、もう四人いるだろ?」

「そうじゃなくって、優樹は舞やテンパイ君に教えてあげて?」

「え? ……仕方ねぇな」


 本来ならそんな事をしていないでミニチュアハウスを作らなければならないのだが、部長の命令とあらば仕方が無い。そう思い、泣く泣く、本当に泣く泣くミニチュアハウスを諦め麻雀に加わった。


「じゃあみんな早く引いて引いて!」


 久しぶりの四麻に直ぐにでも始めたい理香は、場所決めの牌を引けと急かす。それを受けて皆が牌を引く。


「やったー! じゃあ私ここ~!」


 相変わらず引きが強い理香は東を引き、子供のような声を上げ今座っているいつもの特等席を選んだ。

 

「じゃあ座って座って!」


 席が決まると理香は嬉しそうな顔で牌を混ぜ始める。その表情はクリスマスプレゼントを貰った子供のようで、それだけで幸せな気持ちになれる。そして誰よりも先に山を積み上げると天満や舞ちゃんの手伝いをする姿に、理香は本当に麻雀が好きなのだと教えられる。


「じゃあ……はい! テンパイ君振って!」

「う、うん」

「……七! じゃあ舞が親! ささっ、舞振って!」

「う、うん」

「九! じゃあ舞の山から!」


 早く打ちたい理香はとにかく急かす。しかしこれにはみんな慣れた物で、誰一人文句を言わない。それどころか子供のようにはしゃぐ理香にみんな温かい表情になる。


「じゃあ舞切っていいよ~」

「ちょっと待って! まだ並べ終わってないから!」

「分かった! じゃあゆっくりで良いよ~」


 四麻は久しぶりだが、霧崎が加わり五人となった夢縫部は部活らしくなり始め、それぞれが馴染んできた。そして霧崎というアドバイザーとランクアップを目指し始めた理香達。夢縫部はまだまだ大きくなる可能性を秘めていた。


 そんな中で、未だ俺だけが夢のゆの字も見つけられずにいた……


 前回のくそったれ発言により決別した彼についてですが、最近何を伝えたかったのかが分かりました。おそらく彼は、”仕事とはお客様が第一”だという事を伝えたかったのだと思いました。それが分かると作文と変らないと言った理由にはしっくりきました。それは全ての仕事にとって当たり前の事であり真理です。ですがよくよく考えると、作家のお客様は読者様ではなく出版社だと思うとやっぱり彼とは決別です。やっぱり面白いと思ってもらえる読者様こそ神様です。


 ちなみに、今回の話は夢縫部の日常を描くための話だったのですが、この話だけで一週間ほど掛かりました。プロットが無くてもなんとかなる私ですが、特に意味の持たない話は書けないようです。つまらなさ全開で書いた話なので、もしそれが伝わりましたらある意味私の勝ちです。

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