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君はjunkie   作者: ケシゴム
第六章
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将棋

 霧崎君の入部を拒む理香が挑んだ将棋は、俺達が見守る中一時間を超える長丁場になった。理香も霧崎君もある程度将棋を知っているようで、ほとんど将棋を知らない俺からしたらどうなっているのかは良く分からないが、序盤から霧崎君の駒を取っていく理香が優勢に見えた。


「……くっ!」


 そんな中、当然と言っちゃなんだが、最初に苦しそうな声を上げたのは理香だった。盤上では既に終盤なのか、両者の王は隅っこに寄りかなり守りは薄く、ひっくり返った駒が赤く盤上を彩る。そこへ放たれた霧崎君の銀が理香の王の斜め後ろに打たれ唸るのを見ると、“あぁ多分理香は負けるんだな”と分かった。


 理香は俺から見ても尋常じゃない麻雀の腕を持ち、今まで本気では打ったことは無くてもプレッシャーを感じるほど強く、麻雀勝負になれば並みの打ち手相手ならほぼ百パーセント勝つ。しかし愛するが故にプライドがあるのか、その舞台では戦おうとはしない。


 かなり勿体ない性格だが、必死になって頭を悩ませて盤を見つめるそんな理香に、なんだか温かい気持ちになった。


 ”パチンッ!“


 しばらく盤上を見つめた理香は、魂を込めるかのように良い音を響かせ王様を銀から逃がした。


 “バチン”


 当然霧崎君は王を追い詰める為ひっくり返って赤くなった違う駒を近づける。


「……う~ん」


 俺には全くどうなっているのかは分からないが、まだまだ勝機はあるようで理香は顎に手を当て考える。その真剣な眼差しはまるで女流棋士のようで、麻雀の時でさえ見せた事のない表情はもっと見ていたくなるほど惹き付けられた。

 そしてここで驚異の集中力を見せる理香が起死回生の一発を放つ。


 “バチンッ!”


「これでどう!」


 理香は奪った金をまるで麻雀の強打のように勢いよく王と霧崎君の駒の間に打ち下ろした。すると金が王を守る騎士のように見え、俺から見ても堅い守りとなった。が……


 “バチン”


 突然霧崎君が遥か彼方にいた赤い駒を動かし普通に金を取った。


 えっ!? 今のって有りなの!?


 超極悪級の反則にしか見えなかった。確かにさっきから一気に前に進んだり、飛んで行ったりする駒はあったが、この局面で霧崎君の王のそばにあった赤いなんかの駒(角行)が突然最前線に参上できるなんてあり得ない暴挙だった。

 しかしこれはルール上問題無いようで、理香はいよいよ角っちょの最後の隙間に王を逃がした。


 これはさすがに俺でももう理香の負けだと分かった。何故なら理香の王は仲間の駒のせいで逃げ場が無く、追い詰められた最後のマスはまるで棺桶の為に用意されたかのようで、そこにピッタリ格納された王はなんだか安らかそうに見えたからだ。そしてそこに蓋をするように霧崎君が駒を置き「詰みだな」と静かに言うと、やっぱり理香の負けだった。


「苦ッ! 参りました……」


 霧崎君が入部する事が悔しいというより、ただ単に負けた事が悔しいようで、理香は今日一番の「くっ!」を出した。それは正に苦ッと表現するに相応しい表情だった。 


「約束通り霧崎君の入部を認めるわ。入部届けは教頭先生に言って貰って」

「分かった」


 理香が何故霧崎君の入部を拒んだのかは未だに謎だった。というより、多分負けてもうそんな事すら理香は忘れているだろう。だって天満に〇✕で負けたとき以上に悔しがってるもん! 理香って負けず嫌いな癖になんでいつも負け戦ばかり挑むの?


 そんな理香を前に、霧崎君はとんでもない事を言う。


「だが俺はまだ入部すると決めたわけじゃない。だから勘違いしないでくれ」


 超衝撃的な言葉に衝撃が走った。負けた理香はもちろんの事、あの霧崎君が同じ部に入部すると期待していた舞ちゃんにも、“じゃあさっきの将棋はなんだったの!?”と思う俺にも、なんか良く分からんが驚いている天満にも、それぞれ理由は違うがビックリせずにはいられなかった。

 そしてさらに激震が走る。


「あくまで今日はどんな活動をしているのか見学するために来たんだ。だからこの後は普段通りの事を皆してくれ」


 普通の人ならこれだけの戦いを繰り広げたなら、「じゃあ明日にでも来る」とかカッコ良い事を言って今日は帰るだろう。それをまだ入部するかどうかは分からないと言い、且つこの後見学させてくれという霧崎君はある意味逸材としか言いようが無かった。って言うかお前らが長々と将棋してたからもう帰る時間だよ!


「……それは駄目よ。今日はもうそろそろ下校しなきゃいけない時間だから……もし本当に見学したかったらまた明日来てくれない?」


 理香―!


 霧崎君も逸材なら、うちの部長も逸材だった事を忘れていた。さっきまであれだけ悔しそうな顔をしていた理香だが、負けは憎んでも人は憎まないようで普通にお断りを入れた。


「そうか。それは悪かった。じゃあ明日にでもまた来る」


 あ、霧崎君今それ言うんだ……


 そう言うと霧崎君は立ち上がり、カッコ良く去って行った。その姿は漫画とかで良くいるキザでカッコ良いキャラクターのようだった。


 結局後日出直してきた霧崎君は、何度か見学をした後入部した。


 六章は終わりです。七章はまた後日投稿致します。


 昨日担当さんに怒られてから、何故なかなかpvが増えないのか考えました。ですが私はやり方を変えません。彼とは決別です。

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