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君はjunkie   作者: ケシゴム
第六章
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敗北感

 部となり一か月ほど過ぎたある日の事だった。その日俺達はいつものように部活動に励んでいた。ただ少しいつもと違うのは、今日は舞ちゃんと天満も加わって四人で麻雀をしていたくらいだった。


「ロ~ン! ねぇこれ上がれるよね?」

「うん! イッツ―(一気通貫)ドラ二で三千九百点だよ舞!」

「イェ~イ! じゃあ早く払ってリイチ!」

「くっ!」


 この頃になると天満も舞ちゃんも大体ルールを覚え、なんとなくだが役も知るようになってきた。だが二人の仲は相変わらずで、天満を直撃した舞ちゃんは鬼の首でも取ったかのように喜ぶ。


「じゃあ次次! もう一回リイチから上がってビリにしてやる」

「たまたまの癖に調子に乗らない方が良いよマイ。もしかしたら次は僕に振り込むかもしれないんだから」

「それは上がってから言ってよ?」

「くっ!」


 少し前なら気まずくなるような会話だが、まだまだ俺にさえ敵わずラス争いを繰り広げる二人は子供のようで、和気あいあいと麻雀をしていた。というかもう慣れた。


 そんな中だった。突然ノックが聞こえると一人の男子生徒が部室に入って来た。


「あ、あの。夢縫部に入部したいんだが、見学させて貰えないか?」


 サラサラヘアーにキリリとした眼つき、整った顔立ち、体つきは細いがしっかりとした逞しさがあり、伸びた姿勢はスポーツ万能そうに見える。そしてネクタイを取りボタンを外した首元が少し悪さを演出し、カリスマ性を感じさせる。

 そんなちょっとジャニーズに入れそうな感じの彼が入部したいと言ってきたのには違和感がした。


「えっ! Dクラスの霧崎君でしょ!? な、なんで!?」


 どういう関係かは知らないが、舞ちゃんは彼の事を知っていた。ただその表情は明らかに喜びが滲み出ていて、俺の目からも舞ちゃんは霧崎という彼に好意を抱いているのが分かった。


「君が部長か?」

「えっ……ううん。部長はこっちの子……」

「そうか」


 どうやらイケメンだから舞ちゃんは知っていたようで、霧崎君は淡々と話を進める。舞ちゃん轟沈!


「では改めて頼む。俺は霧崎慎吾という者だが、夢縫部の見学をさせてほしい。いいか?」

「うん、良いよ。私は佐藤理香って言うの。霧崎君って何年生?」

「一年だ」

「そうなんだ! じゃあよろしくね」

「あぁ、よろしく」


 てっきり上級生かと思っていたが、同じ学年だと知るとなんだかホッとした。そして同じ一年生でもまだ彼の事を知らなかった事に、まだまだ自分は学校に馴染んでいないのだなと呑気に思った。


「でね、霧崎君。次がオーラスだからちょっと待ってて貰える?」

「あぁ構わない。ただ一つだけ良いか?」

「何?」

「夢縫部は夢を追う者の集まりだと聞いてきたんだが、何故麻雀をしているんだ?」

「え?」


 霧崎君の言う事は御尤もだった。最近ではようやく学校中に知れ渡った夢縫部だが、元が麻雀同好会だったという事は知られていないし、普段はそれぞれが自由に時間を使って活動している為、噂とは大分違う雰囲気に戸惑っているようだった。というか理香もまるでいつも通りという感じで待っていろと言ったのが余計悪い。普通直ぐに止めて部の説明とかしない?


「あぁこれ? 今日はみんな暇だから私達に付き合ってくれてるの」


 さすが理香。別に舞ちゃん達は暇じゃないよ?


「私達? 全員部員じゃないのか?」

「え? ここにいる四人は夢縫部だよ? なんで?」


 理香は多分天才の分類に入る人材ゆえ、色々と初対面の相手に対し言葉が足りない。そのためまともな人間の霧崎君にとっては意味が通じない。


「あ、いや……ここには手品が出来る天満君や、国語の先生たちも認めるほど小説が上手い新垣さんという人物がいると聞いて来たんだが……」


 これを聞いて舞ちゃんが歯を見せて笑い、天満はふうふう言い始める。同じ次元の実力を持つ二人だが、何故か勝者と敗者に見えるのは何故だろう……


「え? いるよ? こっちの眼鏡の男子がテンパイ君。で、こっちの下家の子が舞ちゃんだよ?」

「え? テンパイ……?」

「そう、テンパイ君」

「あ、あぁそうか……俺の勘違いだったようだ。活動を続けてくれ」

「分かった。じゃあ皆続きしよう!」


 理香―! 今完全に理香の言葉足らずで霧崎君諦めちゃったんだよ!? お前それで良いの?


 常人には麻雀を目の前にした理香という存在は会話をするだけでも苦痛のようで、霧崎君は物凄い速さで会話を切った。それは、もう霧崎君は入部しない! と思わせるほどだった。

 だがこういう時の為に勧誘した舞ちゃんがしっかり役目を果たす。


「ちょっと理香。折角の入部希望者なんだよ? 麻雀やめてちゃんと説明しないと駄目だよ?」

「え~? だってもうオーラスだよ舞? ここまで来たんだから最後までしようよ~? それにラスはテンパイ君だよ? ここで止めたら卑怯だよ? ねぇテンパイ君?」


 理香、どうしても最後まで麻雀がしたい模様。


「う、うん。でもマイがビリで良いって言うなら僕は別に良いけど?」


 天満、何が何でも舞ちゃんには負けたくない模様。


「くぅ……じゃあ分かった! 最後までやりましょう! その代わりこれで霧崎君が入部しないって言ったらリイチのせいだからね!」


 舞ちゃん、どうしても天満には負けたくないし、霧崎君と仲良くなりたい模様。


「だったら今すぐマイが点棒全部僕に渡せばいいんじゃないの?」

「くぅ! うるさいわね! じゃあさっさと始めるわよ! リイチなんてすぐにやっつけてやるから!」

「それは勝ってから言ってよ」

「くぅ!」


 仲が悪い二人は、お客さんが見学しているのも忘れ乱暴に牌を混ぜ始めた。


「ちょっとリイチ! 邪魔しないでよ!」

「別に僕は邪魔してないよ? マイが積むの遅いんだよ」


 そして牌を取り合って幼稚な喧嘩。何故この二人はこれだけ仲が悪いのに未だに同じ部にいるのかは謎だった。


 結局熱くなった二人と、麻雀が出来るのなら何も問題無い理香がいる為、霧崎君を放って置いての続行となった。


 親は俺で迎えたオーラス。ドラは三索。俺の手には相変わらず字牌が七枚あり、西、と白がトイツとなり、二万近く離れた理香を逆転できるような配牌では無かった。そこで白を鳴いての連荘レンチャンを狙おうと思った。


「ポン!」


 しかしここで早く天満を倒し霧崎君と話をしたい舞ちゃんが、天満の捨てた中をいきなり鳴いた。


「ポン!」


 そして今度は理香の捨てた九ピンを鳴く。そしてさらに。


「ポン!」


 天満が捨てた一ピンを鳴く。その姿はまるで哭きの竜のようで、僅か三順でドラを捨てた舞ちゃんはテンパイ濃厚だった。って言うか俺だけまだツモれてないんだけど!


 これに対し理香が動く。


「ポン!」


 舞ちゃんが捨てたドラをトップ目の理香がまさかのポン。これにより場はさらに緊張感が高まる。

 このピンチに天満はツモると少考するが、まだ筋すら知らない天満はなんとなく二ピンを捨てる。


「カンッ!」


 哭きの竜でも降りて来たのか、舞ちゃんからのまさかの発声だった。だが伸びた手は嶺上ツモにはならず、裸単騎となり舞ちゃん十八番の対々和が完成する。そして槓ドラ表示の八萬が捲られる。つーか俺にもツモらせてよ!


 全くゲームには参加させて貰えず完全に舞ちゃんのペースで進む戦況に、全然面白くなかった。そしてもういい加減俺のツモ番が回って来ると思い待っていると、天満が捨てた七索に舞ちゃんの「ロン!」の声が掛かり、順位も変わらず一回もツモれず終わってしまった。


「イェ~イ! 私の勝ち~!」

「くっ!」

「じゃあ理香、早く霧崎君に夢縫部の紹介しよう!」

「え? あ……うん!」  


 こうして俺は二位なのに、悔しそうな声を漏らす天満以上に負けた気がする対局は終了し、理香と舞ちゃんは霧崎君の元へと去ってしまった。それはなんか良く分からんけど物凄い敗北感を与え、そのまま残された卓上がやけに寂しく見えた。


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