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君はjunkie   作者: ケシゴム
第五章
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奇跡

 五日あったゴールデンウィークもいよいよ最終日を迎えた。


 この四日間俺は自問自答しながら中学時代の同級生と遊んだり、仲良くなったばかりの同級生とカラオケなどに行ったりして過ごしていた。だがそれはただ遊んでいたというわけではなく、誰かと話す事によって何かしらの夢が見つかるかもしれないという目的もあった。

 しかし夢などという物は、言うは易しだが行うよりまず見つける事が大変らしく、朝からこうしてノートを出し机に向かい続けても、一向に夢のゆの字も見つからなかった。


 YouTuber、芸能人、ミュージシャン。いくら考えても誰もが憧れる職業ばかりに行き着く。というのも、天満のように手品師を考えてみたが、ちょっとYouTube動画を見ただけでその難しさに、毎日練習しても最低三年は必要になると思いやめ、それなら舞ちゃんのように小説家を目指そうと思い書いてみたが、一時間で二百文字ほどしか書けずその労力の多さに挫折した。それなら得意な麻雀で理香と同じプロ雀士を目指そうと思っても、自分の実力を知る俺には無理だと分かり心が折れた。


 結局夢というのは膨大な努力が必要で、思い立ってすぐ実行したからといっても叶うわけでもない。かと言って努力したからといって必ず叶うものでもない。

 理香達に感化され初めて自分の将来を本気で考えてみて、改めて自分が如何に無駄に生きて来たのかばかり知らされる。


 そんな思いに、晴れ渡る空の下軽快に歌う雀ですら羨ましくなった。


 “ピンポンッ”


 こんな時でもLINEというのは人の気持ちを考えないようで、スマホが鳴った。

 俺としてはゴールデンウィーク最終日という事もあり、今日一日は明日に備え自宅でゆっくりするつもりだった。そこでどうせ下らない遊びの誘いだと思い、断る気でLINEを開いた。


 “優樹ひま?”


 相手は理香だった。それを見て一気にテンションが上がり、直ぐに “暇だよ”と返信した。もしやのデートのお誘いかと胸が膨らんだ。しかし理香の事だから用件は大体予想がついていた。


 “麻雀しよう?”


 やっぱりだった。しかし理香らしいと思うと、嫌な事も忘れ穏やかな気持ちになった。


 “いいよ。どこでする?”

 “じゃあ私んちに来て”

 “家って爺ちゃん家の方だろ?”

 “そう。今帰って来たから家にいる”

 “分かった。すぐ行く”


 帰ってきて直ぐに麻雀をしようと誘ってくる理香は本当に麻雀が好きだ。そう思うと同時にますます理香と離れて行くような気がした。しかし四日ぶりに理香と会えると思うと、念のため虎の子の五千円を財布に入れ、すぐに支度をして家を出た。


 外は天気も良く、ゴールデンウィークらしいさっぱりした気温が心地良い。いつもは学校へ向かうための通学路も、理香に会いに行くために歩くとやけに清々しかった。そして理香の家が近づき、玄関先で私服の理香が俺を待っているのが見えると、この道は何度でも歩きたいと思えるほどだった。


「おはよう理香」

「おはよう優樹」


 白のブラウスに緑と黄色のチェックのスカート、そして水色のスニーカー。私服の理香はとてもお洒落で、制服よりも一層可愛く見えた。ちなみに俺、カーキー色のカーゴパンツに良く分からん英語のプリントが入った長袖シャツ。


「天満と舞ちゃんは?」

「あれ? LINE見て無いの?」

「悪い、歩いてたから気付かなかった」

「あの二人来ないって」

「え? そうなの?」


 良し! あの二人って意外と俺が理香の事好きなの気付いてたのかな? でもありがとう!


「うん。テンパイ君は勉強と買って来たトランプ整理するから無理だって言ってたし、舞ちゃんも新しい小説書き始めたから忙しいって言ってた」

「そうなんだ」


 理由はどうあれ、ありがとう二人とも! 勉強と小説頑張ってね!


 思わぬ、というか多分そうじゃないかとは思っていたが、二人の機転によりゴールデンウィーク最終日に奇跡が起きた。


「じゃあどうする? ゲーセンでも行くか?」


 デートとしてはあまり好ましくない場所だが、あそこならオンライン麻雀があり、上手くいけば「なぁ理香の打ち方見ていていい?」「うん良いよ。じゃあ隣に座りなよ」という展開になり、理香の隣で理香の匂いに包まれながら麻雀の話をして、あわよくば「あ、それ切るの?」「え? こっちの方が良くない? ……あ、ごめん。手が当たっちゃった」的な事になり、「べ、別に良いよ……それだったらこのまま繋いでようか?」「……うん」とかなったりなんかしちゃって!


「いや、それはいい」


 あ、そうですか~! それは残念!


「じゃあどうする?」

「そうね……じゃあ折角だから私の買い物に付き合ってよ」

「えっ!?」


 何たる奇跡! まさかゴールデンウィーク最終日が人生で最高の日になるとは!


「え? 嫌なの?」

「まさか! 行こうぜ! どうせ俺だって暇だったから付き合うよ!」

「良かった。呼び出しておいてごめんね? 昼ごはんくらいは驕るから」


 もしもの為に余分にお金を持って来て良かった! 五千円万歳!


「良いよ良いよ別に! じゃあ早速行こうぜ!」

「うん」

 

 思いもよらぬ形で理香とのデートが実現し、俺達は初めてデートと言えるデートに出掛けた。


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