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君はjunkie   作者: ケシゴム
第四章
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スネ夫

「舞ちゃん!」


 怒って部屋を出て行ってしまった舞ちゃんを追い掛けると、やっと玄関で捕まえることができた。だが舞ちゃんの怒りは理香たちだけでなく俺にも向けられているようで、チラリと見ると知らぬ顔で背を向けた。


「ごめん舞ちゃん! だからちょっと待って!」


 正直自分だけは中立的な位置にいると思っていた為、まさか舞ちゃんが俺に対してまで矛先を向けているとは思っていなかった。それでも理由はどうあれ、あの場にいて何もしなかったのは事実。舞ちゃんが怒るのは当然だった。

 そこでとにかく話だけでもしなければマズイと思い、慌てて舞ちゃんの前へ出て止めた。


「ごめん! ほんとごめん! だから話だけでも聞いて!」


 前へ出て止めると舞ちゃんは眉間に皺を寄せ不快感を露わにした。しかしやはりあの場においては俺はそれほど干渉しているわけではなかったようで、舞ちゃんは足を止めた。


「今さら謝ってももう遅いよ! こっちだって忙しいのになんで皆ふざけてんの!」


 忙しいという言葉に、何故舞ちゃんがあの程度の事でここまで腹を立てたのかが分かった。

 

「別に理香達だってふざけていたわけじゃないよ? ただやっと部室が手に入ったのが嬉しくてああなっただけだよ? だから別に舞ちゃんから時間を奪うためにあんなことしたわけじゃないよ?」

 

 恐らく舞ちゃんにとっては小説を書くという時間は何物にも代えられない大切な物だ。それを理解した上で出来るだけ穏やかに喋り、舞ちゃんを刺激しないよう言葉を選んだ。

 それが功を奏したのか、舞ちゃんは怒鳴り返しては来ずムッとした表情を見せた。

 

「理香や天満だって麻雀のプロや手品師目指してるの知ってるでしょう? そんな二人だよ? 自分たちだってあんなことに無駄な時間使っている暇なんて無いはずだよ?」


 天満が手品師になりたいのかどうか本当の所は知らないが、舞ちゃんを納得させるにはこれが一番説得力があると思った。


「そんな事くらい分かってる!」


 やはり舞ちゃんもあの二人からは同じような臭いを感じていたらしく、相変わらず怒ってはいるが徐々に態度が変化してきた。

 ただその時、ふて腐ったように頬を膨らませそっぽを向く幼稚な姿はとても愛らしかった。


「じゃあそう怒んないでよ? 確かに天満の態度は悪かったけど、戻ったらアイツに重い物一杯持たせるからさ?」


 チャンスだと思った。舞ちゃん自身も自分が熱くなり過ぎていたのを自覚したようで、上手く合わせれば落ち着かせられるかもしれないと思ったからだ。


「リイチの事はもう良いよ。あいつ昔っからズルいから」


 あ、やっぱそうなんだ……


「そうなんだ? まぁ確かに俺もそう感じる」

「でしょう? リイチって勉強は出来るけどズルいからあんまり友達いないんだよ?」

「そ、そうなんだ……」


 天満の事はもう良いと言っておきながら悪口を言い始めた舞ちゃんは、なんだかんだ言ってもやはりあの場での天満の態度が気に入らなかったようだ。しかし今は舞ちゃんの機嫌を直す事が優先されるため、しばらく天満の悪口を聞く事にした。


「そうだよ。その上家だってお金持ちでさ、東京行って有名なマジシャンの手品見て来ただとか、トランプ飾る四万もするショーケース三つも自分の部屋にあるだとか自慢ばっかりしてさ、ほんとスネ夫みたいなとこあるんだよ?」


 確かにスネ夫っぽい。だけどなんか違う……だけど舞ちゃんが天満が嫌いなのは良く分かった。


「それにさ、お小遣いだって月一万貰ってるらしいんだよ? ズルくない?」


 あ、そっちなの? 舞ちゃんが天満嫌いなの家が金持ちだからなの? でも話を合わせなければ……


「た、確かに一万はズルい」

「でしょう? 私なんて千円だよ?」

 

 あっぶねぇ! 危うく俺でさえ三千円しか貰えてないのにって言いそうになった! ……えっ!? 舞ちゃん家って貧乏だったの!?


 見た目からは庭付きの一軒家に住み、料理の上手そうな綺麗なお母さんと、日曜日には愛車を洗車してそうなお父さんがいて、犬とか猫のペットがいるような感じに見えた舞ちゃんからの千円には衝撃が走った。


「そ、そうなんだ……で、でも高一なら普通それくらいだと思うよ?」

「そうなの?」

「う、うん。俺でも二千円くらいだから……」


 悪く言えば憐れみ。舞ちゃんがどういった家庭で育って来たのかは知らないが、少なくとも俺よりは辛い人生を歩んでいると思うとサバを読んでしまった。


「へぇ~。宮川君家も大変なんだ……」

「ま、まぁね。父さん普通の水道やだから……」

「そうなんだ……」


 これは事実。家の父さんはキノコや亀を倒しながらお姫様を救いになど行けないしがない配管工。

 しかし俺の父親がスーパーマリオでは無い事実が気持ちを落ち着かせたのか、一息吐くと舞ちゃんはやっと表情を柔らかくさせた。


「じゃあ戻ろっか宮川君?」

「え? あ、うん」


 落ち着きを取り戻せば理香達とは違い普通の高校生の舞ちゃんは、自分から戻ろうと言ってくれた。この辺が理香と天満とは違う。


「あ、でも、私がリイチの悪口言ってたの……まぁそれは良いや」


 あ、それは良いんだ……


「とにかく戻ろう。早く片付けなきゃ何にも始まらないもんね?」

「そうだね。戻ろっか」

「うん」


 こうして舞ちゃんの機嫌を直す事ができ、俺達は片付けるため部室へと戻ったのだが、なかなかどうして舞ちゃんという女子は難しいようで、戻った途端今度は違う理由で理香に喰いかかった。


「ちょっと理香!」

「あっ! 舞戻ったんだ! さっきはごめんね、なんか色々迷惑掛けたみたいで……」

「ううん。もうそれは良い。でもちょっと言わせて」

「何?」

「私達って夢縫部を目指してたんだよね?」

「え? そうだけど? なんで?」

「じゃあなんで麻雀同好会なの?」

「え?」


 これにはさすがの理香もキョトンとした。それはそうだ。麻雀同好会はまだ部としても認めて貰えていない状況である為、俺としても夢縫部は部として正式に認められた後の話だと思っていたからだ。にも関わらず何故今その話を持ち出したのかは謎だった。


「私達は夢を追う人を応援するために活動するんでしょ? でもこれじゃただの麻雀好きの集まりじゃない?」

「え、いや……まぁそうだけど……」


 理香にとっては突然怒って出て行ったり、帰って来たかと思えば夢縫部の話をする舞ちゃんの言動にはついて行けないのか、何が何だか分からないという顔をしていた。


「だったらさ、今からでも遅くないから夢縫同好会にするって教頭先生のとこ行こう?」

「え?」


 戻って来る時は笑顔を見せるまでに機嫌を直していた舞ちゃんを見ているだけに、この言動にはまるで腹いせのようにさえ感じた。だが理香もやっと舞ちゃんが何を言っているのか理解したようで、やっと会話がかみ合い始める。


「舞何言ってんの? それは部になってからでも良いんじゃないの?」

「駄目よ! それだったら麻雀部にしかならないじゃない!」

「ま、まぁそれはそうだけど……だけど今から変えるって言っても、教頭先生困らない?」

「そんな事無いよ! 別にまだ活動してるわけじゃないし!」

「そう? でも……」


 理香としては麻雀さえ打てれば夢縫部だろうが麻雀部だろうが関係無いようで、声を荒げる舞ちゃんに対し冷静に言葉を返す。


「ねぇ今からでも遅くないから教頭先生のとこ行こう?」

「別に良いけど……でも説明はどうするの? 一応真剣に麻雀してますってテストしてOK貰っちゃったし……」


 確かに。理香が驚異の記憶力を見せる事によって麻雀の素晴らしさと真剣さを認めて貰った以上、今さらそれを変えるとなるとまたそれなりに説得させる材料が必要になる。


「その説明は私がするわ」

「それじゃあどう証明するの?」

「リイチがいるじゃない」

「テンパイ君?」

「そう。リイチ、あんたさっき私の言う事聞かなかったんだから、今から教頭先生に手品披露しなさいよ!」

「えっ!?」


 何となくだが、舞ちゃんが何故夢縫部の話を出したのかが分かった。絶対さっきの腹いせ!


 舞ちゃんは思った以上に根に持つタイプのようで、ここぞとばかりに天満に迫る。


「で、でも、僕今トランプ持ってないよ……」

「リイチならトランプ無くてもいくらでも手品知ってるでしょう?」

「そ、そうだけど……」

「ならやりなさいよ! 私だって小説見せるんだから!」


 今度は対等な交換条件を付ける舞ちゃんのキレは、正に小説家志望と言わざるを得なかった。


 やるな舞ちゃん。今度は逃がさないつもりだ。これからは舞ちゃんを怒らせないようにしよう……

 

 完全に標的にされた天満は小さくなるしかなかった。そこでもう少し虐められたら助けてあげようと思いこの先の展開を期待していたのだが、ここで天満がまさかの返事をする。


「……分かったよ。じゃあ誰か五百円貸して?」


 どうしたテンマーン! お前五百円借りて何に使う気だよ!


 道具も無く、準備も出来ていない天満がやると言った事にも驚いたが、何故か突然五百円を貸せと言った事には騒然とした。


「ちょっ! リイチ! あんた五百円なんか借りてどうする気なのよ! 売店になんてトランプ売ってないわよ! 第一あんたお小遣い一万円貰ってるんでしょ!」


 舞ちゃん激怒。特に一万円の小遣いが気に障った模様。


「えっ!? テンパイ君って一万円もお小遣い貰ってるの!?」


 理香驚愕。やはり一万円の小遣いが気になった模様。


「おい天満! お前まさかそれ使ってバスで逃げようって事じゃないだろな!」


 俺も激おこ。デブの癖にちゃっかり理香と仲良くなって、そのくせ舞ちゃんには生意気な態度取るし、家は金持ち出し、さらっとこの高校に入れるのは普通だとか言って必死に勉強した俺を馬鹿にした事が逆鱗に触れていたから。


「ち、違うよみんな! コイン使った手品に使うんだよ! だ、だから別にそんなつもりじゃないよ……それにお小遣いは関係無いでしょ!」

「あるよ!」

「あるわ!」

「ある!」


 とうとうスネ夫本性を現した天満には全員の矛先が向けられたが、こうして俺達は早くも麻雀同好会の名を変えて貰うため教頭先生の元を訪れる事になる。




「もうテンパイ君はリー棒(リーチ棒 通常は千点棒)全部一万点棒ね!」

「え?」

「あ~気にすんな天満。今の理香の発言は忘れて良い」

「何でよ!」

「それより早く五百円貸してやれよ理香」

「なんで私が!」

「お前一応部長なんだからそれくらい貸してやれよ」

「……分かったわよ…………はいっ!」

「……あ、ごめん。百円じゃなくて五百円玉貸してほしんだけど……」

「…………我がまま言うんじゃないわよ!」

「ええっ!?」


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