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君はjunkie   作者: ケシゴム
第四章
15/48

必然

「ここが今日から麻雀同好会の部屋だ」


 翌日、同好会として認められた俺達は、教頭先生に二階の一室に案内された。


「ここは昔演劇部が倉庫として使っていた部屋で物は山積みだが、片付ければかなり広い部屋だからしばらくはここを使っていてくれ」

「はい。ありがとう御座います」


 急遽と言うより、新設の同好会の為良い場所は無かったようで、中に入ると与えられた部屋は思った以上に埃っぽくゴミゴミしていた。それでもやっと部屋が手に入ると、今までとは違う新鮮味があった。


「こういった小さな物はこの燃えないゴミと燃えるごみの袋に分けて用務員さんの所に持って行ってくれ。大きなゴミは用務員さんに聞いて、指示に従って処分してくれ」

「はい、分かりました」


 指定のゴミ袋を受け取る理香も部室を手に入れた事が嬉しいのか、明るい表情でしっかりとした返事をする。しかし段ボールやら木材の大道具のゴミの山を見ると、多分校長先生はこの部屋を片付けさせるために俺達に明け渡した気がして仕方が無かった。


「では鍵は渡しておくよ」

「はい」

「帰宅するときには必ず職員室へ戻すように」

「はい、分かりました」

「では私は戻るから、後は君たちに任せるよ」

「はい。ありがとう御座いました教頭先生」


 そう言うと教頭先生も忙しいのか、鍵を理香に渡し普通に部屋を出て行ってしまった。


 教頭先生―! これ全部俺達だけで片付けるの!? 俺達の事本当に認めてくれたんだよね!?


 昨日の感じだと、教頭先生は意外と優しく、『じゃあ仕方ない。どれ私も少し手伝おう』とか言ってくれるような良い人に見えたのだが、やっぱり冷たい人だったようで、今後の付き合い方には気を付けようと思った。


「じゃあ早速掃除しましょう!」


 そんな事は気にしない理香は、遂に手に入れた部室に喜び、一声上げるとゴミの山をかき分け進み窓を開けた。すると風が吹き込み一気に埃が舞った。


「うわっ!」


 舞い上がる埃は古臭く、体に悪影響をもたらしそうな勢いだった。それでも風が吹き抜けると、春草の良い匂いと共に透き通った空気が部屋に流れ込んできた。


「さぁ始めるわよ皆!」

「うん!」


 そして腰に手を当て太陽を背に張り切る理香はとても眩しく見えた。

 そんな理香の明るい表情が昨日からずっと納得していなさそうだった舞ちゃんと天満にもやる気を与え、早速全員で片付けを始めたのだが……


「じゃあ理香、先ずは大きいゴミから廊下に出そうか?」

「ちょっと待ってマイ。僕は先に袋に入る小さな物から片付けた方が良いと思うよ?」

「でも先にスペース作らないと四人いても狭いよリイチ?」

「まぁ……そうだけど……」

「じゃあこうしよう? リイチと宮川君で大きいゴミを廊下に出して?」

「えっ! なんで僕たちが!?」

「だって男子なんだからしょうがないでしょ?」

「まぁ……でもそれならみんなで先ずは出そうよ?」

「分担作業の方が早いでしょ?」


 開始早々いきなり天満と舞ちゃんが揉めだした。俺としては早く片付くならどうでも良いのだが、どうやら力仕事はしたくない天満にとっては不服らしい。

 そんな二人を他所に、理香は先ずは物色を始めたようで、今度はそれに気付いた舞ちゃんと理香が揉めだす。


「ちょっと理香! 何漁ってんの! 片付けしないと終わんないよ?!」

「えっ、でも見てこれ。これとか使えそうじゃない?」


 何に使えるのかは知らないが、理香は木か何かで作られた剣と盾を持ち言う。


「そんなの何に使う気なのよ? とにかく片付けが先よ。遊んでたらいつ終わるか分かんないわよ?」

「分かってるわよ。でももしかしたら使える物とかあったら困るじゃない?」

「その時はその時よ! とにかく早く片付けましょ!」

「分かってるって」


 舞ちゃんは意外と神経質のようで、こういう作業をさせると周りの人の動きまで気になるタイプのようだった。しかし元から人に従わないタイプが多い我が同好会では舞ちゃんの怒りなどどこ吹く風で、この隙に天満は袋を手に持ち適当にゴミを詰め始めた。

 その音に気付いた舞ちゃんが、今度は天満に喰って掛かる。


「ちょっとリイチ! リイチは宮川君と大きいゴミ出してって言ったでしょ!」

「わ、分かってるよ……」

「じゃあなんで袋にごみ入れてんの! それにリイチの持ってる袋燃えないゴミの袋でしょ! リイチちゃんと見てやってる?」


 重い物は持たない、指示に従わない、袋を預けてもきちんと仕分けしない。舞ちゃんがこれだけ怒っている中でも平然と身勝手な事をする天満のずる賢さには恐れ入った。というかもうワザととしか言いようがない所業に、こいつどんだけ舞ちゃんの事嫌いなんだ? と思ってしまった。

 だが我が同好会では天満は普通だったようで、舞ちゃんがちょっと離れた隙にもう理香はゴミを漁り始めた。


「ちょっと理香! なんでそんなとこ漁ってんのよ!」


 普通あれだけ注意されれば片付けているフリをして漁るようなものだが、理香は全く話を聞いていなかったのか如く段ボールの山の中に狸のように頭を突っ込み弄る。そしてその隙を縫い天満はまたゴミを袋に適当に詰め出す。


「ちょっ! リイチ! リイチは大きいゴミ出してって言ったでしょ!」


 自由人! もうここまで行くと怒ってる舞ちゃんまでもが自由人に見えるよ!


 もう猿の折の中にいるかのような無法状態には正直呆れた。しかしこのままでは舞ちゃんが辞めると言い出しかねない状況に、俺も人肌脱ぐ事にした。


「おい理香! お前一応麻雀同好会の部長だろ! 少しは真面目にやれよ!」

「部長!?」


 どうやら理香の中では部長という響きは天地がひっくり返るほどの衝撃だったようで、段ボールをまき散らしながら驚きの声を上げて飛び出してきた。だが理香が次の一言を放つよりも早く舞ちゃんが怒りの声を上げる。


「ちょっと理香! なんで散らかすの! 本当に片付ける気あんの!」


 限界間近なのか、舞ちゃんの語尾が乱暴になってきたのを聞いて、そろそろ本当にヤバイと思った。しかしそんな事などはお構いなしなのが理香。部長と呼ばれ突然張り切り出した。


「ごめんごめん舞。それよりも早く片付けましょう! とにかくみんな! 先ずは大きい物は廊下に出して! これじゃ狭くて片付けづらいわ!」


 部長! なんで天満と舞ちゃんが揉めたのか知ってる!? なんで今それ言うの!?


 当然この言葉には舞ちゃんは相当不機嫌そうな表情を見せた。


「ほら早くしましょ! テンパイ君そんなのは後よ! 先ずはこの段ボール出して!」

「え……う、うん……」


 天満―! お前なんで理香の言う事は聞くんだよ! お前ら少しは空気を読めよ!


 そんな天満の態度に限界を迎えたのか、舞ちゃんは突然持っていた袋を払うように投げ出し怒りを露わにした。


「もういい! 私帰る!」

「えっ!? どうしたの急に!?」


 一生懸命片付けようとしていた中、さっきまで遊んでいた理香が急に仕切りだし、全く言う事を聞かなかった天満が理香の指示には素直に従うのは誰だって面白くない。それなのに理香は何故舞ちゃんが怒っているのかが分かっていないらしく、驚いたような顔を見せた。


「痛いっ!」


 それがまた腹正しかったのか、舞ちゃんは何も言わず振り返ると、しゃがみこんでいた天満の頭を思い切り一叩きして出て行ってしまった。


「ちょっと舞!? 急にどうしたの!?」


 理由が分からない理香には晴天の霹靂なのか、理由を尋ねるように俺と天満の顔を見た。


「理香。俺が舞ちゃんに謝って来る。だからそれまで二人でここの掃除をしてろ」

「えっ? 謝るって優樹舞に何かしたの?」


 マジかこいつ!? なんで俺のせいにしてんだよ! ……まぁ仕方ないか。


 前々から薄々感じていたが、理香も天満もそうだし、舞ちゃんもどこかコミュ障的なところがあるように感じていた。それはオタクと呼んで良いほどそれぞれが周りを気にせず熱中しているものがあるからだろう。実際三人はまだ他に友達が出来ていないようだった。

 それを知る以上、ここで揉めるのは必然と言えば必然だったのだと思うと、俺がもっとしっかり三人の繋ぎ役をしていれば良かったと後悔した。


「いや。俺がって言うか……こいつが!」

「痛いっ! なんでみんな僕の頭叩くの!?」

「オメーが舞ちゃんの言う事聞かないからだろ!」

「えっ!? 僕のせい!?」

「お前のせいだ!」

「ええっ!?」


 正直天満のあの態度には腹が立っていた。というかポジション的にいじられ役は天満以外いなかった。と言うわけで天満は麻雀同好会ではいじられ役に決定した。


「まぁとにかく、俺が舞ちゃんのとこ行ってくるから理香は気にすんな。だから悪ぃけどちょっとの間天満と二人で片付けしててくれ」

「……分かった。なんかごめんね優樹……」

「良いって。じゃあちょっと行ってくる! 天満! オメーはちゃんとデカイゴミ出しとけよ! じゃないとオメーのトランプ全部遊戯王カードに変えるからな!」

「ええっ!? それはやめてよ!」

「うっせ! じゃあ行ってくる!」

「う、うん。お願いね優樹」

「おう! 任せろ!」


 折角出来た同好会を失うのも、舞ちゃんという友達を失うのも嫌だった。ただそんな想いで舞ちゃんの後を追い掛けた。


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