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君はjunkie   作者: ケシゴム
第三章
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大人のズルさ

 放課後、俺達は申請書を携え担任の高橋先生の元を訪れた。


「えっ! 先生それどういう事ですか!」


 四人全員で職員室へ入り、胸を張って申請書を提出した俺達だったが、案の定先生の返事は良いものでは無かった。

 これに一番期待に胸膨らませていた理香が噛みつく。


「約束通り四人集めたんですよ! なんで麻雀部が駄目なんですか!」

「ごめんね佐藤さん。やっぱり学校で麻雀はあんまり良くないみたいなの」

「どういう事ですか!」


 学校としてはやはりまだ麻雀には良いイメージが無いらしい。しかしそれは俺にとってはただの偏見でしかなかった。

 確かに噂ではマンション麻雀や超高レートの雀荘があり、一晩で何千万という額が動いたとか、やくざが抗争の代わりにそれぞれ打ち手を出し合い何億も賭けたとかいう話はある。だがそれはあくまで噂で漫画や小説の世界の話だ。

 何より三人と言ったのをわざわざ四人にまで増やし、約束を守った理香が怒るのは当然だった。


「前に野球部とかが部室で隠れて賭け麻雀とかしてたらしくて、そういうのあったからうちの高校では駄目なの」

「私はそんなつもりで麻雀部を作ろうとしているわけじゃないんですよ先生! 私はプロになりたいくらい本気で麻雀してるんですよ! なのになんで駄目なんですか!」

「ごめんなさいね」


 職員室にも関わらず大声を出す理香の怒りは先生も理解しているようで、一切そのことには触れず謝る姿に、先生には決定権は無いのだと分かった。しかし今の理香にはそれを感じ取れるような冷静さは無く、怒りに任せ先生に詰め寄る。


「ごめんなさいって先生! じゃあなんで最初から駄目だって言わなかったんですか! 優樹も舞もテンパイ君も皆忙しい中でも麻雀部に入ってくれるって言ってくれたんですよ! 先生の言ってることは私だけじゃなく三人にだって迷惑かけたんですよ!」


 小説家を目指す舞ちゃん、手品師を目指しているであろう天満、そしてプロ雀士どころかそれ以上の物を夢見ている理香。そんな三人には時間は途轍もなく貴重だ。理香が自分だけじゃなく仲間の事も考え怒っているのだと分かると、大人のはずの先生の方が子どもに見えた。そして、特に忙しくない俺まで入れて貰えているという流れ弾は胸に深く突き刺さった。


「ごめんなさいね佐藤さん。それでも決まりは決まりなの」


 出た! 困った時の決まり文句! 駄目だこの先生。


 先生にはどうしようも無いのかもしれないが、全く本心で語らない上、これだけ理香に詰め寄られても一切椅子から立ち上がらずに話を終わらせようとする態度には正直イラっと来た。それは俺だけでなく舞ちゃんや天満も同じだったようで、特に舞ちゃんの目が怖かった。そして当然理香に油を注ぐ。


「決まりって誰が決めたんですか!」

「誰ってわけじゃないわよ佐藤さん。みんなで決めた事なの」


 みんなって……


「みんなって何よ! 先生私の事馬鹿にしてんの!」


 サンキュ理香。そうだもっと言ってやれ!


「そ、そーゆうわけじゃないわよ佐藤さん。確かに最初に言わなかった先生も悪いけど、先生は別に佐藤さん達を馬鹿にしてるわけじゃないのよ」

「じゃあ何なんですか! この紙に書いた三人の名前見てから言って下さい!」


 最高潮に達したのか、理香は机の上の申請書を叩き先生に俺達の直筆の名前を見せ睨む。それは今までの言葉以上の圧があり、さすがの先生も唇をぐっと噤いだ。それを見て理香はさらに攻める。


「ここに書かれた名前は……」

「おい! お前達いい加減にしろ! ここは職員室だぞ!」


 ここからが面白くなると思った矢先、高橋先生の事でも好きなのか、体育の山崎が無駄に声を荒げ邪魔をしに来た。それに理香がイラついたのか、チンピラ並みの声を零す。


「あ?」


 理香怖ぇ~。そしてそれ以上に舞ちゃんの睨みも超怖ぇ~。何? 山崎ってもう女子に嫌われてるの?


「一体どうしたんですか高橋先生? 何か問題でもありましたか?」

「え、えぇ……少し」


 さすが早くも一年女子に嫌われているだけあって、あれだけ理香が騒ぎ絶対に内容は分かっているはずなのに、山崎は我が麻雀部が誇るアタッカー二人の睨みも無視していきなり高橋先生にすり寄っていった。


「もういいです! 皆行きましょ! ありがとう御座いました!」

「あっ! 佐藤さん!」


 山崎は相当嫌われているようで、彼が参戦してきた途端理香は近くにもいたくないのか、突然そう言うと申請書を持ち立ち去ってしまい、俺達も後に続くしかなかった。

 そして、これだけ無礼に立ち去ったにも関わらず高橋先生が一切追い掛けてこなかった事には後味が悪かった。


 職員室を出た理香はまだ怒り冷めやらぬ様子で、それを察してか誰一人口を開かず後を追うしかなかった。俺としてもあれだけ頑張って麻雀部を作ろうとしていた理香の気持ちを思うととても声を掛けられる筈も無く、悔しい気持ちより寂しさの方が大きかった。のだが、職員室を出て間もなく理香が足を止めた場所を見て、思わず声が出てしまった。


「おい理香! お前何しようとしてんだよ!」

「高橋先生じゃ話にならないから、直接校長先生にコレを渡すのよ」


 理香が足を止めたのはまさかの校長室の前だった。その狂気たるやテロリストの勢いだった。


「お前マジで言ってんのか!? 下手したら退学になるぞ!?」

「なるわけないじゃない。もしこれで退学になったらTwitterに書いて拡散してやるから安心して」


 全然安心できねぇ! 俺まだ約束のパソコンも手に入ってないのに退学は嫌だよ!?


「ちょっと待てよ! それならせめて同好会くらいからでも良いからもう一回高橋先生にお願いに行こうぜ!」


 もうそれは部活では無いが、俺達は真面目に麻雀を競技として活動していますという小さな実績を上げて行けば、今は無理でもそのうち認めて貰える可能性は十分ある。それなのに怒りに任せ退学のリスクを負ってまで校長室に乗り込もうとする理香にはさすがについて行けなかった。


「じゃあ宮川君はここで抜ければ?」

「え?」


 理香の行動について行けないのは二人も同じだと思っていた為、まさかの舞ちゃんの言葉には耳を疑った。


「これはもう麻雀部とかいう話の問題じゃないんだよ。私達は夢を追う人たちが集まった部を作ろうとしてんだよ? 分かる? 私だけじゃない、理香やリイチや宮川君だって今まで夢を叶える為に費やした時間を馬鹿にされてんのと同じなんだよ? ここで先生の言いなりになってたら一生夢なんて叶えられないんだよ?」


 舞ちゃんは俺達が小説を読み、感想をくれたお礼として申請書にサインしてくれたとばかり思っていた。だがそうでは無かった。舞ちゃんは夢縫部に自分の夢も託し、覚悟を決めていた。

 強い瞳で睨む舞ちゃんの想いを知り、理香が俺達のサインを先生に見せた意味が分かった。だけど舞ちゃん。ごめん、俺夢に費やした時間無いや!


 そんな舞ちゃんに感化されたのか、天満が続く。


「そうだね。マイの言う通りだよ。僕だって先生に馬鹿にされるために練習してきたわけじゃないんだよ。僕は別に努力したわけじゃないけど、腱鞘炎になったり指先がひび割れて血が出ても練習してきたのは、何もしてきてない人達に馬鹿にされる為じゃない!」


 それを努力って言うんだよ! ほとんど狂気じゃねぇか!


「そうよ! 優樹だって今まで何のために麻雀打って来たのよ!」


 いやそれは遊びだよ! 別に俺プロ雀士とか目指してねぇし!


「そ、それは……あぁ確かにそうだ……」

「でしょう?」

 

 それでもこんな俺でも仲間として認めてくれている三人には友情を超えた絆を感じた。そしてなんだかんだ言っても、この三人と一緒にいると感じられる温かい時間を失いたくなく、合わせるように答えた。たが、俺はプロ雀士を目指しているわけではないが、今まで麻雀で得て来た経験は理香達と同じく、誰かに馬鹿にされるためじゃない事だけは確かだった。


「あぁ」

「じゃあ決まりね。私達は夢縫部として校長先生に話しに行くわ。それで良いみんな?」


 さっきまで一人で校長室に乗り込もうとしていた理香だったが、舞ちゃんのお陰で冷静さを取り戻し全員で直談判に向かうと確認する姿は、夢縫部の部長として相応しかった。


 全員が力強く頷くと、理香は校長室の扉をノックした。


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