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君はjunkie   作者: ケシゴム
第三章
11/48

類は友を呼ぶ

 舞ちゃんの入部が決まり約束の一週間が過ぎた。


「おはよう。はいこれ。約束通り入部届けにサインしたよ」


 有言実行の舞ちゃんは約束を守り、朝礼前にも関わらず俺達の教室まで入部届を持って来てくれた。


「おはよう舞ちゃん」

「おはよう舞。ありがとうね。でもまだ夢縫部は無いから、こっちの申請書に名前書いてもらえる?」

「え? あ、そうかゴメン。そうだったね。じゃあここに書けば良いの?」

「うん。お願い」


 何でも知ってそうな賢い舞ちゃんが部活設立の方法を知らなかった姿を見て、とても親近感が沸いた。

 実際ここ一週間約束通り舞ちゃんの書いた小説を読んでいると、思った以上に難しい言葉や多彩な知識、大人びた文法にはとても同い年には感じられなかったからだ。


「はい。これでいい?」

「うん。ありがとう舞。舞って字綺麗だね?」

「え? ま、まぁね。ありがとう。じゃあ私教室に戻るから」


 さすがに小説家を目指しているだけあって、申請書に書かれた舞ちゃんの名前はとても美しかった。それは同じ女子の理香の丸い文字とは違いプロ級だった。ちなみに天満も意外と字が綺麗で、申請書の中で俺の文字が一番汚かった。


「あ、舞、ちょっと待って。ついでにコレ渡しとくね」


 理香は鞄からファイルを取り出すと、それを舞ちゃんに手渡した。


「それ幻命と花桜の感想。私それくらいしか読めなかったけど、一応感想書いたから」

「え! ありがとう理香! わざわざ書類にしてくれたの! ありがとう!」


 幻命と花桜は、舞ちゃんが小説家になろうに投稿していた作品名だ。二作品とも堅苦しい題名と十八万文字を超える大作の為、俺は完全に避けていた。


 やっべ! まさか書類にまとめてくるとは思ってなかったよ! 口で適当に言えばいいかと思ってた!


「リイチも昨日持って来てくれたけど、別に口で言ってくれても良かったんだよ? ほんとにありがとう!」

「私あんまり記憶力無いから、こうやって何かに書かないと忘れちゃうんだよね? でもその分言いたい事全部書いたから安心して」

「うん! ちゃんと辛口で書いてくれた?」

「もちろん! あ、でも、良い点も書いてあるから」

「ありがとう!」


 やっべ~……俺今日帰ったらすぐに作らなきゃ……


 理香と天満は思った以上に社会適合性が高いようで、サラリーマン並みの対応に自分の乏しさを恥じた。


「じゃあ私教室戻るね! また昼にでも来るから!」

「うん! じゃあまたね」

「うん!」


 そしてかなり人が出来ているのか、まだ一向に感想を提出する気配の無い俺に対し一切咎める事無く笑顔で教室に戻る舞ちゃんに、心苦しかった。

 そんな舞ちゃんの姿が教室から見えなくなると、仕事には厳しいのか理香からの叱責が飛ぶ。


「ねぇ優樹?」

「な、何?」

「あんたちゃんと舞の小説読んだの?」

「あ、あぁ。ちゃんと読んだよ。一つだけだけど……」

「ふ~ん。何読んだの?」

「黒猫ミイアと白猫シャロン……」


 黒猫ミイアと白猫シャロンは、全部十五万文字と言っていた中で唯一八万文字ほどしかなかった作品だ。それでも小説なんて大嫌いな俺からしたら超大作と変らない量で、昨日なんとか読み終える事が出来た。


「それだけ?」

「あ、あぁ……」

「あんた一週間何やってたの! 何の為に一週間も休みにしてたと思ってんの!」


 舞ちゃんの入部が決まってから、理香は一週間部活設立に関しての活動を休みにした。それは当然舞ちゃんの小説を読むという名目だった。


「だって仕方ないじゃん。俺あんま頭良くないから予習とかしないといけないし……」


 三割は本当。残り七割はゲームにYouTubeにゲーセン。


「それは私だって同じよ! それでもずっと勉強しなきゃなんないレベルなの! それにあんた土日にゲーセンいなかった?」

「え!」

「私ちょっとだけ行ったけど、あんた麻雀オンラインしてたよね? 私三つ隣の台にいたんだけど?」

「え!? い、いや……それは……」


 いたんなら声くらい掛けろよ! っていうか全く気付かなかった!


「で、ちゃんとそれくらいは全部読んだんでしょうね?」

「ま、まぁ……」

「じゃあ感想は?」

「い、いや……口で言えばいいと思って……」

「あんたそんなに記憶力良いの?」

「い、いや……」

「誤字とか脱字何個見つけた?」

「そ、それは……」


 うわ~。理香って怒ると超こぇ~。いつもみたいな幼稚さ無いとマジこぇ~。でも何故だろう、これがどうして悪くない。


「あんた今日は昼までにノートに感想書きなさいよ! じゃないと小指折るわよ!」


 え! 小指折るの!? 理香ってやくざじゃないよね!?


 理香がここまで本気で怒るのはなんとなくだが分かる。それでもまさか小指を折ろうとするほど怒っている事には驚愕だった。それでも悪いのは自分だという認識もある為、俺は昼までに感想を仕上げるのに必死になるしかなかった。


「すみません……昼までには仕上げます」


 

 午前の授業が終わりなんとか感想を書き上げると、昼はみんなで食べる事になり、俺達は校庭に来ていた。

 今日は天気も良く、この時期の校庭は昼食には最高のスポットだった。そんな陽気に他にもたくさんの生徒が寛ぎ、わずかに残る桜がまるで花見会場のようだった。


「あれ? テンパイ君ってお弁当じゃないの?」

「うん。家共働きだから、お母さんあんまり料理とかしなくて……」

「へぇ~、そうなんだ。じゃあ私のおかず少し上げる」

「え? べ、別に良いよ。僕これで足りるから」

「良いから良いから」

「あ、ありがとう」


 一人だけペットボトルのお茶とコンビニのおにぎりを食べる天満は何故かしっくりきた。それでも理香にはやっぱり体格に合わない量に不安を感じたのか、食事が始まってすぐおすそ分けを始めた。それを見て俺と舞ちゃんもおかずを分けた。


「じゃあ私のも上げる」

「えっ」

「じゃあ俺も」

「あ、ありがとう……」


 ホウレン草のお浸し、タラコ、ブロッコリー。おそらくというか絶対みんなが嫌いな物だ。実際俺が上げたホウレン草はあまり好きじゃなかった。

 昼食時の天満は、正に頼れる守護神だった。


「それで理香。もう先生には申請書出したの?」

「ううん、まだ。先生忙しいみたいで休み時間受け取ってくれなかったの。だからお昼食べ終わったら皆で行こう?」


 先生の所へは俺も一緒に行ったが、理香の言う通り『今担当の先生忙しいから後にして』と言われた。だがどちらかと言えば忙しいというより厄介事には関わりたくないという感じがした。

 

「そうなんだ。じゃあ早く食べてみんなで行こう?」

「うん!」


 多分麻雀のイメージは未だに悪いままで、特に教育者の立場からすれば賭博と変らないのかも知れない。だから先生は、というより校長や教頭が反対している可能性があった。実際未だに麻雀にインターハイが無いのが何よりの証拠だった。


 しかし俺達の世代にはもうプロは存在していて、普通にテレビやスカパーで競技として見て来た。それに今の時代パソコンでも手軽にでき、女子高生が麻雀で全国を目指すというアニメもある。

 そんな温度差に理香は気付いていても知らない顔をしているのか、それともただ単に何も考えていないのか、嬉しそうに笑みを見せる姿に少し寂しさを感じた。


「あ、そうだ。舞ちゃんコレ。黒猫ミイアと白猫シャロンの感想。俺読むの遅いから、渡すの遅れちゃってごめんね」

「良いよ別に。ありがとう! 今読んでも良い?」

「うん」


 舞ちゃんにとっては自分の作品の感想はとても嬉しいプレゼントのようで、受け取ると箸を置いて早速読み始めた。

 それを見守る理香と天満も、嬉しそうに感想を読む舞ちゃんを見つめる姿に、先ほどの嫌な思いなど吹き飛び、夢縫部への期待が高まった。


「……ありがとう宮川君。すっごく為になった」

「ほ、ほんとに?」

「うん! ちゃんと悪いとこは悪いって書いてくれてるもん!」

「そ、そう? そう言ってもらえると嬉しいよ」

「うん!」


 理香に言われた通りちょっと厳しい感想を書いたつもりだったが、読み終えた舞ちゃんは満足したようにお礼を言ってくれた。その瞳を輝かせる姿は理香や天満が麻雀やトランプを語る時と同じで、舞ちゃんは本当に小説が好きなのだと思った。しかし!


「でね。一つ聞いて良い?」

「何?」

「ここの『神山さんがバイオリニストかもしれないって真奈が知るのがちょっと違和感がある』って書いてあるけど、宮川君的にはどんな違和感感じたの?」

「え?」


 黒猫ミイアと白猫シャロンは、飼い猫の黒猫ミイアと会話ができる不思議な力を持つ真奈という女子中学生が小説家を目指しているという話だ。

 ある日向かいの一軒家に小説家だと名乗る神山という男が引っ越してきて、それに惹かれた真奈が、神山家で飼っている白猫のシャロンとミイアを使って距離を縮めていく。そしてなかなか自分のペンネームを言わない神山を調べていく中で、真奈は神山そっくりなバイオリニストを見つけ、それが切っ掛けで小説が嫌いになるのだが、最後は……という感じのストーリーなのだが、俺が一番引っ掛かったのはたまたまYouTubeでオリンポスと名乗る神山そっくりのバイオリニストを知るという場面だった。


「ああそれ?」

「うん」

「だってさ、YouTubeとかって自分が見ないやつってトップに来ないじゃん? なのに別にバイオリン好きでもない真奈がそれを見つけるってちょっと無理あるかなって思って」

「あ、そうか! そうだよね。伏線で神山さん家からオーケストラ聞こえてくるって入れたんだけど、それだけじゃちょっと弱かったんだ」


 あ、そんなシーンあったような気がする。ごめん舞ちゃん! 俺そこまで小説好きじゃないから!


 プロを目指しているだけあって、繊細に話の道筋を付けていた舞ちゃんの実力には感心した。

 

「じゃあさ。実は真奈は小説書く時オーケストラとか聞くって入れたら伝わる?」

「え? ど、どうかな? 俺オーケストラとかも良く分かんないし。どっちかって言ったらトランペットって感じがする……」

「そうか~。じゃあさ、真奈が最初からオリンポスの意味知ってて、そこから連想したみたいな感じならどう?」

「あ……うん。どうかな……?」


 オリンポスは神々の山という意味があるらしく、真奈はそこからさらに神山に疑念を抱く。


「じゃあ真奈のお母さんがバイオリン習ってるとか?」

「え? う、うん……」


 舞ちゃんめっちゃ喋る! もしかしてこの子も理香達と同じ次元の子!? おい! 理香でも天満でも良いから助けろよ! あっ! こいつら読んでない!


 類は友を呼ぶというように、実は舞ちゃんもある意味マニアだったようで、その後昼休みが終わるまで延々質問攻めに合い、結局俺達は放課後先生の元を訪れる事になった。


「それじゃあさ……」


 夢縫部ってヤバイ奴らの集まりなんじゃないの!?


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