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君はjunkie   作者: ケシゴム
第一章
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プロローグ

「はぁ~……また負けた……」


 俺の名は宮川優樹。四月から地元の高校に通う事になった普通の一般人だ。そんな俺だが一つだけ取り柄がある。それは麻雀だ。と言っても特に強いというわけでもなく、ただ単に小学生から始めたというキャリアがあるだけで、人より優れているというものでは無かった。

  

 そんな俺は入学までの春休み中も少ない小遣いを握りしめ、今日もゲーセンのオンライン麻雀に熱中していた。

 このマージャンゲームは、全国対戦はもちろんプロ雀士までもが参加しており、段位システムや大会などのイベントが盛りだくさんで、俺のように面子を揃えられない人でも気軽に楽しめる本格的な麻雀ゲームだった。


「クソッ! ……もう帰ろう」


 いくら打とうが、いくら好きだからと言っても、麻雀というものは簡単に強くなれるわけではないようで、本日の成績はトップ一回、二位二回、三位二回、ラス一回だった。ちなみに最後は三位だった。

 このように、俺はラスも少ないがトップも少ないという強いんだか弱いんだか分からない実力だった。その為ゲーム内での段位も未だに十段のままで、その先の朱雀やら雀鬼やらの強者が犇めくクラスにはなかなか届かずにいた。


 そんな結果にさすがに集中力が切れ、今日はもう潮時だと思い帰って家でYouTubeでも見て忘れようと席を立った。その時だった。


“ツモ! ゴゴゴゴッ……ドカンッ!”


 隣の台でいつの間にか打っていた客が、派手な演出で豪快な和了を決めた。その音に条件反射的に画面をのぞき込んでしまった。

 すると綺麗にマンズ一色に染められた手が目に入った。そしてあろうことかそこからさらに裏ドラが三つ乗り、三倍満まで化けた。


 おお! 綺麗な手だ!


 麻雀の役は、高得点になればなるほど成立させるのが難しい。そしてさらにそこから描き出される形は美しく芸術的だ。その為自分が和了したわけでなくても、それを見るだけでも胸が躍る。 


 運のある奴は良いね。俺も普通の人並みに運が欲しいよ。

 

 しかし今の心境では素直には褒められる状態ではなく、僻みに似た感情が湧いて来た。


 正直俺は戦術や知識だけならプロクラスの実力がある自信があった。だが俺には運は無かった。麻雀が運だけで勝てる競技ではない事くらいは知っていても、これだけ毎日打っても全く昇格出来ない現実に、そう思わざるを得なかった。

 だから今日も“けっ! 運が良い事を幸運に思うんだな。そしてそれが実力だと勘違いすればいい!”と思いながら、どんな奴が打っていたのかと顔を見た。するとそこには俺と歳が変らないくらいの女子が座っていた。


 後ろに簡易に束ねられた長い黒髪、そこから見える小さな耳。横から見える丸い目は真剣で、カッコ良さすら感じる。一気に惹かれた。


 近代において麻雀はプロが存在するほど確立された競技へと変わった。しかしそれでも未だに麻雀イコール賭博というイメージが残り、良い印象を与えない。

 そんな悪習のせいか、良く来るこのゲーセンの麻雀ゲームを打つ客は煙草をぷかぷかふかしたおっさんや男ばかりで、女性客などほとんど見た事がなかった。


 そんな世界で、同い年くらいの彼女はまるで戦場に降り立った女神の様だった。それこそ良い匂いが漂ってきた錯覚をしてしまうほどに。

 だが俺にはそんな女神を前にしても声を掛ける度胸も無く、彼女がこちらに気付き目が合うと、咄嗟に目線を外しそそくさと店を出るしかなかった。それでも帰り道はずっとあの子の事を思うと、また一つ麻雀が好きになった。


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