寝取られて強くなる!!…誰かこのスキル引き取ってください
「あぁ……またスキルが増えやがった……また彼女を寝取られたのか俺は……」
寝ている最中に頭に響くスキル獲得のファンファーレ、俺にはそれが呪いの音に聞こえてくる。こんなことになったのも俺が取得したスキル「隠しスキル:NTR」のせいだ……今度のスキル数は四つ……何人でやってるんだか。
前の彼女が束縛を嫌って別れてから、今度は割と自由にさせていたのに……もうよくわかんない……。
この世界では一人一つ……多くても最大で三つ……十歳になった時の行う儀式で誰でもスキルが与えられる。神様から賜ったそのスキルを成長させ、それぞれが人生を生きていくことになる。
スキルは才能の具現化とも言われているが、何故スキルが与えられるのかはわかっていない。神様から地上に住む者の慈悲とも、単に神様が人間で楽しむためとも、様々な説が流れている。
俺のスキルを考えると……後者のような気がする。
俺はスキルを貰ったがそれはありふれた平々凡々な「剣の才能」と言うものだった。だから、それを鍛えて冒険者にでもなるのだろうと考えていたのだが、問題はもう一つのスキル……『隠しスキル:NTR』と言う名のスキルだ。
『自身の恋人が他者に奪われた場合、対象に関わった者からスキルを奪う。逆に他者の恋人を奪った場合、他者にスキルを一つ奪われる。奪われるスキルはランダムとなる』
これである。
思春期真っ只中の男子には、いささか他人には打ち明けづらい内容だし、下手なこと言ったら変な渾名をつけられて揶揄われたり、いじめられたりする……。だから俺はこのことをひた隠しにして、いつしかこのスキルについては何も気にしなくなった。
それから数年……俺は色んな女性とお付き合いする機会に恵まれ……そのほとんどを他人に奪われた。
学校でいい雰囲気になった真面目な女の子、慰めてくれた事務員のお姉さん、少し天然な所のある年下の女の子、学園の才女とまで言われた天才魔術師……色んな女の子と付き合っては他人に奪われるという事を繰り返した。しかも決まって俺が肉体関係を結ぶ前にだ。
今回はどうなんだろう。確か「昔の仲間と会ったから飲んで来るね」とか言ってたから、その昔の仲間とやらが相手かな?
……またフラれるのか……と思いつつ、俺はその日はそのまま不貞寝した。
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「で、アンタ、またフラれたの?」
「そうだよ……畜生……あーあー……何が悪かったんだか」
今俺は、やたらと露出度の高い服を身につけた一人の女性と差し向かいで昼飯を食っている。下は太腿も露わにしたショートパンツ、上はビキニ状の胸当てだけを付けた……俺の幼馴染みだ。彼女は唯一俺の隠しスキルの存在を知っている。
いつもいつも、俺がフラれるタイミングで何故か現れてこうやって一緒に飲んでいる。本当、どこからか覗いているんじゃないかってタイミングで現れる。今の俺にはそれが救いだけど……。
寝取られた彼女は二人の男とあっさり去って行った。彼等の方が自分を気持ち良くしてくれると捨て台詞を残して、俺の買ってやった装備を身に着けたまま……まぁ、もうどうでもいいけどね……。
隠して付き合いを継続しようとされるよりはまだマシだと、無理矢理ポジティブに考える。
「フラれたんなら、今は一人なんでしょ? 気晴らしに私達の依頼を手伝ってくれない? あたしもアンタがいると楽できて嬉しいしさ」
「どうせ暇だし……いいよ。付き合ってやる。結構な大物なのか?」
「なんか、はぐれのドラゴンが出た可能性があるんだってさ。町に着く前に討伐してほしいって」
ドラゴンか……その程度の相手なら……気晴らしにはちょどいいかな……。ちょうど暴れたい気分だった俺は彼女の依頼を手伝うことにした。
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「はぁ……何が悪かったのかなあ……」
「戦闘中にため息つかないの。ほら、そっち行ったよ」
「はいよ……はぁ……前の彼女に束縛しすぎって言われたから今回はそんなことしなかったのに……」
「だから今回のはやめとけって言ったのに……どうせあんたの金目当てだったのよ」
露出の多い服で戦闘しながら、彼女は周囲の魔物を倒していく。魔物はあっちに主に行っていて、俺は基本的に取りこぼした魔物を倒すくらいだ。
そんな風に魔物を倒しながら目の保養をしつつ歩いていると、遠くから女性の悲鳴が聞こえて来た。
「あれ? なんか悲鳴が聞こえない?」
「聞こえるねえ……行ってみるか……」
気乗りしないまま聞こえて悲鳴の元に行くと……そこには俺の元彼女達がいた。彼女達は目の前にいる巨大な魔物……ドラゴンの前でへたり込んでいた。あぁ、本当にいたよドラゴン。
大きさもそこまでじゃ無いし、強くはなさそうだな……彼女達でも十分に対処はできるだろう……普通は。
「なんでよ、なんで私の矢がこんなに弱いのよ?! いや、来ないで!!」
「助け……回復を……」
「回復魔法が弱い……こんな事今までなかったのに……」
彼等はドラゴンを前に逃げようとしているのだが、パニックによって動けなくなっていた。そりゃ、いきなりスキルが使えなくなってたらパニックにもなるよな。なんせ、見た目も何も変わらないでスキルだけが使えなくなってるんだから。
獲物を前にしたドラゴンは、舌なめずりしながら彼女達に徐々に近づいて行ってる。ありゃ食べる気だな。
「どうする? すぐに助ける?」
「いや……あいつらが逃げられる時間だけ稼いでおこう……あいつらに見られたくないしな」
「見殺しにしないだけ、優しいよね」
「本当に優しいなら、すぐに助けてるよ」
もはやどうでもいい存在だが、元彼女のよしみだ。逃げられるだけの時間は稼ぐと、俺は近くにある石を拾うと思い切りドラゴンへと投げつける。勢いのついた石は一直線にドラゴンへと向かうと、その固い鱗を貫通して皮膚へと到達する。
確かこの投擲術のスキルは……忍者の女の子のスキルだったっけ……彼女を気に入った棟梁とやらに奪われたけど……あぁ、思い出したくない。
「今のうちに逃げなさい!!」
ドラゴンの注意がこちらに向いたその瞬間に、幼馴染は彼女達に向かって叫ぶ。
彼等はこちらを見ようともせずにほうぼうの体で逃げ出す。動けない仲間を助ける程度の情はまだ持ち合わせていたようで、その場には俺と幼馴染以外は誰も居なくなった。
「んじゃ、憂さ晴らしも兼ねて全力でやるわ」
「了解。全身あったほうがお金になるから、一撃でやってくれると助かるわ」
「そっか」
一言だけ返すと、俺はドラゴンの前に姿を現す。ドラゴンは新たに出てきた獲物である俺を見ると、一気にその口を開いて俺を噛み殺そうとしてきた。俺はその大きな牙を両手で抑え込み、ドラゴンの動きを止めた。
……俺のスキルは……恋人だけからスキルを奪うだけではなく「関係者」全員からスキルを奪う。
学生程度から奪ったスキルならばここまではできないのだが、幸か不幸か俺から彼女を奪った関係者の中には相応の実力者が多数含まれていた。
ドラゴンも締め落とすことができると豪語する格闘家、実力を認められギルドのマスターになった隻眼の戦士、この世に斬れない物は無いという剣士、全ての魔法を扱える魔法を極めた魔導士、暗殺者集団と言われる忍者の棟梁……。
全員が外面は良くて、女なんてより取り見取りの選び放題で、好き勝手に生きてきて、裏では気に入った女を奪うことに対して何の躊躇いも持たない様な奴らだった。
そんなやつらのスキルが……今は全部俺の中にある。奪われた奴らがどうなったかは興味もないので知らないが、碌な末路は辿っていないだろう。
そのまま俺は困惑するドラゴンを転がすと、腰の剣を抜き斬れない物は無いという剣士のスキルを使用してその首をパンでも斬るように切断する。
確かあいつには……俺と恋人になったばかりの村娘を奪われたんだっけ……なんでスキル使うたびに嫌な気分にならなきゃならないんだ。
「こんなもんでいいかな? 後処理は任せるよ」
「ドラゴン相手に単独でそこまでできる人ってそう居ないよ。やっぱりさ、私達の仲間にならない?」
「遠慮しとくよ……俺のスキルを知ってるのはお前だけだし、仲介してくれれば金には困らないから、二人だけの秘密だな」
「そっか……二人だけの秘密か……」
俺の成果に口笛を吹いて感心した幼馴染の提案を俺は断る。
こんなスキル知られたら、どう扱われるかわからないんだ……隠しておくに越したことはない。今回も、このドラゴン討伐の金さえもらえれば生活には困らない。
それから俺は後始末を幼馴染に任せて町に戻った。ほんの少しだけスカッとしたな……。今日は酒でも飲んですぐに寝ちまうか。
それから数日後……元彼女達が意気消沈している姿を見つけた。
スキルが使えなくなったことで冒険者は引退なのだろう。俺の姿を見つけた元彼女は、俺から目を逸らす。俺も別に話すことは無いのだから、そのまま無視していたのだが……そのタイミングを見計らったのか、幼馴染が俺の元に大量の金貨の詰まった袋を渡してきた。
「はいこれ、アンタの取り分ね」
「随分多いな……四割くらいあるんじゃないのか?」
「五割よ。あとは私たちで貰ったわ、あんたのおかげで楽できたって……顔も知らない誰かさんに、皆感謝してたわよ」
最後の台詞は俺にしか聞こえないように小声で言ってきた。俺が金貨の袋を貰ったことで元彼女はすがるような視線を送ってきたのだが、幼馴染が俺に身体を擦り付けるようにくっついてきたことで、諦めたように項垂れていた。
「しかしアンタさあ、いい加減に女を見る目を養いなさいよ。何回騙されてるのよ。あんな女、金目当てって丸わかりじゃない」
「だって俺のこと好きって……」
「泣くな、女々しいわねほんと……」
腕を組んだまま俺は泣きながら歩く。しばらくすると、隣の彼女はほんの少しだけ頬を染めて俺を上目遣いで見てきた。
「……で? なんでアンタ……私には手を出さないのよ」
「だってお前、自分でビッチって言ってたじゃん……男なんて取っ替え引っ替えだって……彼氏なんて日替わりだって……」
「……言ったっけそんなこと?」
「言ったよ。俺だって流石に幼馴染みからスキル奪いたくないよ……」
「あ……あはは……そうだったんだ……そっかー……。そっかぁ……」
乾いた笑いを浮かべた幼馴染は、複雑な表情を浮かべていた。なんだか溜め息も付いており、がっくりと項垂れる……俺そんなに変なこと言っただろうか。
「それで、今回はどうだったの? 結局、あの元彼女さんとは肉体関係は持てたのかしら……?」
「無理だったよコンチクショウ……」
「あはははは、そっかあ」
幼馴染は嬉しそうに笑う。何が楽しいんだと思いながら、とりあえず俺は当面の生活に困らないだけの金を手にできたから良しとするか。
最近では、このスキルのせいで寝取られるんじゃないかとすら思えてきた。
だからお願いします、まだ見ぬ誰かさん。このスキルを引き取ってください。今なら他の人から奪ったスキルもたっぷりおまけとして付けますから。
俺の心からの願いは、誰に届くことはなく……今日も俺はまた新しい恋を探そうと決意する……。
今度こそ、このスキルが発動しないことを願って。
短編……またこんなニッチな設定の話を……^^;