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オレ達問題児ですか?早すぎじゃねぇーか。


「よく穴を掘るなんて思い付きましたね」


 1日目終了後、互いの健闘を称えてリーダー同士がデブリーフィングをしていた。敵どーしで何話してんだよとはヴィンのコメントであったが、互いに蹴落とす相手ではなく、むしろ切磋琢磨しあう関係なので二人は真面目に情報を共有していく。なら勝負に決着がついてからでいーだろーがとヴィンでなくても思うのだが、変なところも真面目な2人に後回しという考えは存在しない。



「ダンジョンの壁とか床とか、簡単には壊れないんですけどね。戦士の力業(ちからわざ)や、魔法使いの攻撃魔法等では無理です」


「なので《破壊》以外の目的で壁や床を対象にすればいいと気がついた。実際、落とし穴で下の階に逃げるのは有効だからな。錬金術師が地面を武器に変化させるケースもある。流石にダンジョン貫通は珍しいが、できない事はない」



 それだけなら話は楽である。が、ルール違反と言われる可能性もある。事実、イチャモンをつけられた。


「そしてカオスさんの奇策を無効にさせないために録音機を使用する。よく録音機なんて持っている人がいましたね。かなり高価ですよ」



「ところがどっこい、それブラフ」


 カオスはニヤリと笑いながら録音機と称した空っぽの箱をカテリアに見せた。


「では、どうなされたのですか」


『声帯模写を使ったのさ』


 カオスは自身の口調のままシド用務員の声を真似た。


『そして腹話術』


 その声色のまま唇を動かさずに続けた。


「どっちも遊び人の技能だ」


 どちらかと言えば詐欺師の技能ではなかろうかとカテリアは考えたがスルーする事にした。まあ今回は嘘を言った訳ではないので、問題はない。



「あとはリーンが記録したセリフそのままに読めばいい。多少の抑揚やリズムの違いは録音機の音が悪いからと誤魔化せる。だから、予定ならバレないはずだったんだよなぁ」


「偽証が判明した理由を教えて頂けますか?」


 カテリアにとってもバレる理由がわからない。なので今後の参考にするためにも聞いてみる。


「シド用務員、異国の言語を使ってたんだよ。自動翻訳の魔法は録音機に通用しないから、そこからバレた」


 カオスもカテリアも、そしてケイやその他の地組のクラスメートも流石にそこまで魔法や道具に精通している訳ではなかった。


「今回は録音機を持ってくることを条件に御咎(おとが)め無しにしてもらった。なのでケイに指示を出していたところさ」


 本人も作りたがっていたので丁度いい。期限がつくのが問題だろうが、彼の仕事の早さなら問題ないだろう。カオスはそんな甘過ぎる皮算用をしていた。


「錬金術師の仕事ではないですよね。できない事もないのでしょうし、適性は1番ありそうですけど」


 賢者の石や魂の錬成を目指す錬金術師が普通なので、録音機のような雑貨や自動弓のような武器を作ろうとするケイは少数派である。


「そうだな。材料になりそうな物があったら、優先的に回さないとな」


 戦闘職でなくとも、ある程度簡単に扱える自動弓を揃えたらそこそこの戦力になる。技能でなく装備で戦うという方針になるわけだ。なので、キーマンはケイ・クロムウェル。そして彼の装備で身を固めた兵が指揮官ヴィン・テトムの指揮の下に行動する。

 ヴィンの代わりの指揮官は探せるし鍛えれるだろうが、ケイの代わりはおそらくいない。少なくとも1年やケイの知人の範囲に同類はいない。そういう事を考えながら工作室の扉を開ける。


『…………録音機動作確認中、動作確認中、動作確認中』


 カオス達の目の前にあった木の箱から、ケイの声が聞こえていた。早くね?

 追加で説明するなら、ケイのチームがゴールしてから、まだ一時間も経っていない。


「20回目、音に問題なしと」


 手元の紙に回数を記録していく。そしてゼンマイを巻いて


『録音機動作確認中、動作確認中、動作確認中…………』


 確認の途中、カオス達に気がついたケイはあっさりと言う。


「あ、最低限の機能を持つ録音機は完成してるよ。今耐久テスト中」


「早!」


 普段、驚かせる側のカオスが驚いている。


「使い方の説明をする?」


「ああ。頼む」


 カオスやカテリアの知っている録音機と形が違うので、しっかりと説明を求める。


「ここのゼンマイを回すと音を録音機が稼働する。そうすると録音部分に記録する。記録したのは再現機で音を再現させる。こっちもセットしてゼンマイ回しだね」


 現状の手回し式のペースが一定しない録音機から、一定のペースを維持する録音機に進化していた。

 


「録音部分は一回きりだから、繰り返しする場合は取り替える必要がある」


 それは他の録音機も同様である。


「原理は風の魔石に金剛石の破片を組み合わせて、微弱な振動を増幅して封音板…………真鍮の板に刻む。


 再生時は封音板の微妙な凸凹を風の魔石に読み取らせ、増幅して音に変える」


 と、原理を説明する。


「私が知っている録音機より小型ですね。音も安定していますし」


 それは針を横向きに突き刺したドラムロール型で、ケイの発明品は下に針を落とすレコード型だからである。加えてゼンマイという一定のリズムなのも要因である。


「リーンにも言われたね。加えるなら、同じ原理を用いた別物とも言われたよ。だから特許を申請しようと思う」


「これでケイは大金持ちか」


「おめでとうございます。これで一生遊んで暮らせますね」


 それくらいの発明品である。商人としての考えがあれば、一生遊べるだけの収入は予測できる。


「え?何で」


 しかし本人にそんなつもりはない。


「特許を申請するんだよな」


「そうだよ。無料解放の特許」


 それは『こんなの作りました。こうやって作れます。お金は取りませんから、お前らもこれを特許にするなよ』というものである。商人としては考えられないことだ。が、職人としては話は別。


「フリーにしてレシピを広げれば、もっと良い音なものとか、もっと小型な物を誰かが作って競争になるかもしれないでしょ。それに、色々な人に使って欲しいし」


「…………誰かが高品質低価格な物を作ったらどうするんだ?」


「もっと高品質低価格な物を作る」


 究極の職人気質。これ、組織として雇うには苦労するなとカオスもカテリアも思ったが、世界のためにはそれでいいのかもしれない。


「他に質問は?」



「金剛石は物凄い高級品ですよね?代用品は考えなかったのですか?」


 今度はカテリアが聞いた。


「別に固ければ何でもいいんだけどね。金剛石なら作れるから使っただけだし」


 作れるのですか?かなり驚愕していた。


「よく作ろうとしましたね。色々な方が挑戦し、失敗してきたのですよ。いったい、何からできているんですか?」


「これについては完全に失敗の賜物」


 ケイは金剛石を作ろうと思った訳ではない。


「よく燃える燃料が欲しくて炭を改造しようと、純化しておもいっきり圧縮したら、何故か金剛石(ダイヤモンド)ができた」


 異世界の化学式では共にCであるので、納得できないことはない。ただし、そういった理屈を知らない者達からすれば、何故植物から鉱石ができるのか全くわからない。



「金剛石だから、当然燃えない。だから、失敗作だよ」


 燃えないのは通常の温度での話で、800度くらいなら燃える。本来の燃料としての用途から外れる上に、簡単にはその温度に上昇しないので、燃えないと言っても問題ない。ほとんどの者は金剛石が燃える事を知らないのも、燃えないと言ってしまった理由の1つである。逆に言えば、今まで大火事等で金剛石が行方不明になった時、犯人不明により火事場泥棒のせいにされてきたともいう。


「サイズとか純度の問題で装飾品には向かないときたら、妥当な用途だと思うよ。何故か黒ずんでいるし。要因を取り除けば綺麗なのができるかもしれないけど。


 だけどこれでも十分に硬いから、こういうことには使うのなら問題ないよ」


 失敗作に用途ができたとなれば上々である。



「石を宝石や貴金属に変えようと、錬金術師は昔から研究してきたと聞いたのですが、まさか炭からできるとは思いもよりませんでした」


「自分もビックリだよ。値段が崩れそうだから誰にも言ってないけど」


 正解である。そして透明度の問題もあって売ってはいない。


「で、これが録音機を改造してできた物。そろそろなんだけどね」


 何かが組み込まれた蓋が開いた箱をみせる。


「向こうの準備が未だっぽいから説説明するね。こういうのを使うの」



 と見せたのは2つの粘土の塊。


「こっちを引っ張ると」


 ビローンと片方の粘土を引っ張るともう片方も同じように引っ張られた。


「モノマネン土だな。2つ以上に分けると、全てが同じ動きをする」


 悪戯で使うカオスは知っていた。その他の用途としては、文字を遠くへ送るのにも使われる。


「全く同じ動きをする性質と、録音機で理解した音の性質を利用して作ったのがこれ。もう準備も終わってるころなんだけど、失敗したかな?」



 なんて言う事を言っているうちに、


『こちら準備完了。ケイ、聞こえっか?』


 箱から飛び出したのヴィンの言葉。


「聞こえるよ。成功みたいだね」


『これ、すげーな。ケイの声が本当に聞こえっぞ。成功だな』


『通信魔法と違って複数人に同時に伝えられるのは便利ですね』


 箱からヴィンとリーンの声が聞こえた。加えるなら、通信魔法は使える人同士でしか通信できない。


「何だこれは?」


「若干の魔力は感じますが、魔法を発動したような気配はありませんね」


『その声はカオスか?すげーな。ケイ以外の声も聞こえっぞ』


『もう1人はカテリアさんですかね?』


 この会話も聞き取れたようだ。


「録音機の状況を見学にきたらしいよ」


『そーいやーんなもん作ってたな』


『遠距離会話装置が凄くて忘れてましたね。あっという間に作ってそちらも驚きましたけど』


 ポカーンとするカオス、カテリア組という希少な状況を作り出したケイは更に説明する。


「遠距離会話装置と名付けた発明品。今、屋上と会話している」


『複数人の声を拾えて複数人に伝えられる。メリットでけーぞ』


「後は魔力の無効された空間を挟んで試してみたいけどね。そこはダンジョンで試せるかな?」


『通信魔法妨害の結界を張ってみます』


「了解。張ったら呼んで」


 ポカーンとする見学者。それで聞こえたら軍事作戦の根本から変わる。


『張りました。聞こえますか?』


「聞こえるよ。そっちはどう?」


『バッチリきこえます!』



 とんでもない発明品が完成していた。現状、通信を妨害できる手段は存在しない。


「協力ありがとう。帰って大丈夫だよ」


『了解。これからどーすんだ?』


「特許の申請かな」


 当然無料開放である。


『遠距離会話装置の特許は止めとけ。軍事利用されたら世界がひっくり返んぞ』


 とは言うものの、単純な仕組みなので国に戻ったら使おうとするヴィンだった。


「通信魔法が使えない身としては、出回って欲しいんだけどね」


『いや、これモノマネン土の株の分しか通話できねぇだろ。複数人に使い分ける方法を考えねーと、通信魔法でいいってことになんぞ』


 何か作るより魔法を使った方が早いという、明確で単純な理由によって技術の進歩は遅い。逆に言えば、魔法で代用できない事に関しての技術の進歩はそこそこある。録音機や印刷機がそれであるように。


「了解。何か考えとく」


 そして思いつくんだろうな。カオスもヴィンもそう思ったが何も言わないでいた。


『次は印刷機を作りましょう!印刷機を!』


「了解。じゃあ作ろうか」


 そして直ぐに作るんだろうな。設計図を引っ張りだしているケイを見ながら


「1年で1番凄いのって、ケイさんじゃないんでしょうか?」


「オレもそんな気がしてきた」


 そんな感想を抱くクラス代表の2人だった。



 余談だが、材料不足で完成したのは白黒の印刷機という名の複写機で、リーンの顎が外れるの事となる。よって彼女の作った新聞記事は写真付きで大量印刷されるという類のみないものにされる。なお、本人はカラーの複写機が作りたかった模様。



ケイ・クロムウェル

【未来に生きる】【発明家】



独り言


落とし穴で下の階に逃げる

ローグ系だとモンスターハウスや泥棒で有効。1つ先か1つ前のフロアに行くので、前へ戻る場合は無限に稼ぎができる。そんなに都合の良い落とし穴はあまり見つからないが。



炭より魔力の炎を持続させた方が高火力、安定もある。他にも火の魔力がこもった魔石というファンタジーな手段もある。なのでそんな燃料を作ろうとする錬金術師はいない。





 電気とか電子とか全く使ってない電話。有線を飛び越えてファンタジーを用いた一品。或いは、糸の無い糸電話。誰か作りそうなものだが。

 文字を書くことで遠方に情報を伝える事も可能。此方は比較的メジャーな手段。通信魔法が使えない状況下で用いられる。


 電話と録音機、よく似た原理が使われている。蓄音機も電話も19世紀の発明。魔法等のファンタジーで代用できた電話と違って録音機は代用できなかったので発明も早い。


 初期の電話は一対一対応。特定の人にしかかけられない。なので交換手に中継してもらう必要がある。原理としては交換手に全ての一対一対応電話の片割れを持たせて、交換手にかけられた電話から交換手がかけて欲しい電話にかけて繋げるというもの。

 交換手が自動化されてきたのは1900年頃から。原理を調べた結果、ケイは発想で作れるところまできている。


 なお、複写機は18世紀。これまた魔法による代替手段がないため、印刷機までは発展している。逆に魔法で代用可能な銃の発明(火縄銃は15世紀)はない。一方、19世紀地球だと機関銃が開発されていた。クロスボウ(自動弓)は魔法を使えない状態での遠距離攻撃として有効。弓より熟練度を必要としない等の理由でそこそこ使用されている。地球の20世紀後半でも使われていた。主に物を飛ばす用途で。



 ちなみによく似た原理というと、カラーコピー機とカラーのカメラがあげられる。こちらは20世紀後半の技術。



 未来に生きる発明家。当時最新の発明品から百年くらい未来にできるであろう発明を作っている。大雑把にいうと、地球でいう1800年初頭くらいの文明から1900年前半、物によっては後半くらいの文明まで飛んでいる。以降の電子を制御する手段とかが重要になる現代文明は流石に厳しいが、魔法で補えるところは補っているので、別の手段を使いそう。


 なお、カメラと録音機があるということは、音声付き動画作成、映画の発明まで時間の問題。


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