オレ達問題児ですか?もっと頑張れや!
「ロートさん、遊び人と戦争屋で、どうやったらあのタイムがでると思いますか?」
カテリアは考えが纏まらないままにクラスメートに助言を求めた。
「どう考えても君の方が適任だろ。君にわからないのに、僕にわかる訳ないじゃないか」
「ええ。地組以外にはわからないでしょう。ですが、複数の知恵を合わせれば食らいつける可能性はあります」
それなら何故ロートにだけ聞いたかというと、ダンジョンへの進入回数の問題だったりする。魔物討伐の経験があったり、優秀なジョブに就いてたりもするが、ダンジョンに進入した経験が有るものは非常に少ない。
「防諜は?」
「後手後手に回っている現状、役にはたたないでしょう。彼方の初手で致命傷、あとは当初の予定通りに動ければ彼方の勝ちです。聞かれたところで対応を変えるとは思えません」
それを踏まえた上で話をする。
「まず、ピートが気づかないとなると定石から外れた手段だ。能力的に可能か不可能かは置いておくとして、事前に説明もしていない事から、ピートも気がつかなかった手段だ」
それ以前に、今まで1分を切る人間がいないことから普通の生徒には考えつかない手段である。
「そして相手が遊び人なら、如何様しかないだろ。それも、ルール違反にはなっていない適度の」
ロートは決してバカではない。真綿で首を絞められ続けても気がつかないだろうが、明確な驚異に対しては直ぐに反応できる。対応ができるかは能力と相性次第だが。
「1番考えられるのは転移系統の魔法だが、始めてのマーキングしてない迷宮にいきなり飛ぶのは自殺行為らしい。もっとも、そういった技能を持っているかは疑問だか」
戦争屋にそんな技能はない。遊び人は遊びの一種と言いながらやりかねないが。実際に遊び人の技能の中には幾つかある。あるのだが、前提条件の方でロートが言ったような無理が生じるし、そういった他の技能持ちが使わないとは思えない。
「10秒を切るんだから、壁がなくても階段まで一直線でいけるか不明だな」
「それです」
そこでカテリアは思いつく。
「カオスさんはおそらく、一直線に2階へ向かいました」
「壁を通り抜けても間に合わないぞ」
「いえ、階段に向かった訳ではないんです」
「どういうことだ?」
ロートは未だ理解できていない。
「穴を掘って、一直線に真下へ降りたはずです」
それが彼女の導きだした結論。
「ダンジョンの壁や地面は簡単に破壊できないぞ」
例えば、地上からだと山を更地にするような魔法でも、ダンジョンを壊すことができない。なので地上では使えない破壊魔法を存分に使う事ができる。壊すとなると困難極まりない。
「しかし遊び人には【落とし穴】がありますよね。他にも【戦争屋】の地形を変更するスキル等も有効です」
そういう意味ではヴィンを先鋒に指名したのはファインプレーだった。ただし、中途半端な戦力でこられると正攻法で負けてしまう可能性が出てくるため、ピートをきってしまったが。
「他に地面を変化させられそうなジョブは何かありますか?」
「思い浮かぶのは錬金術師だな。地面を武器や盾にしたりする人を見たことがある」
「アシャさんも錬金術師ですが、主に薬草や魔法媒体の専攻なので、教えてもできなかったかもしれませんね」
だとすると彼方の切り札は決定だ。
「では此方から出すのは彼女か」
「そうですね。【傀儡師】に地面からゴーレムをつくって貰いましょう」
一方、地組の錬金術師はというと
「何を作っているんですか?」
リーンはケイの手元を見ながらたずねた。他のクラスメート達も気になって彼を取り囲んで見ている。
「カメラがいるんだよね?白黒なら作れるから、今作っているよ」
「あっれー?材料が足りないんではなかったでしたっけー?」
入学式の前にそんな事を言ってた気がする。因みにそれから色々あったが、まだ入学式のあった日の昼である。ケイに採取する時間はない。
「ああ、それなら」
ちらりとクラスメートの方を向く。
「オレ、材料の一つをトレード用に持ってた」
「僕も」
「私も」
次々と答えるクラスメート達。だけでなく、
「カメラは無理だけど録音機の材料はあったなー」
「カラー写真に使えそうな材料らしいんで譲った」
そんなクラスメートを見て何か持ってたかなーっとリーンは荷物の中を思い浮かべた。ちなみにカオスとヴィンは魔石を出会ったその日に渡している。そして既に自動弓に組み込まれていて、カオスは試射まで行っていた。
カオスが提供したクラス全体での攻略による恩恵を1番受けているのはケイだろう。ケイの生産技量向上が全体の戦力向上に大きく寄与するので、彼へ支援をするのは賢い手段といえる。もっとも、それだけの価値が彼にあるからなのだが。
「戦えないなら戦えないなりに情報や小道具くらいは準備するものだ。遊びに来ているわけではないのだからな」
とは後日この話を聞いカオスのコメント。遊び人なのに遊ばねーのかと、ヴィンからツッコミが入ったが些細なことである。
地に足ついてるなーっとクラスメートを見ながらリーンは感心していた。
「それはそうと、予測通りですね。カテリアさん達は私達を見てますよ。厳密にはケイさんですけど」
「じゃあ負ける可能性がでて来たね。僕のルート開発はそんなに早くないから」
「なので負けても大丈夫ですよ。3戦目で勝てばいいので」
互いにショートカットが可能な人員はいない。つまり、真っ向勝負。そして確実に勝てる人材を配置する。奇策で動揺を誘って本命は力ずくというのは作戦として間違いではない。
「じゃあ写真を撮ってみようか。地面破壊の瞬間でも撮る?」
「記事には面白いですね」
中盤の勝負は地組が2分11秒という通常であればあり得ないタイムを出し、天組が1分23秒というやはり通常ではあり得ないタイムで競り勝った。これで1勝1敗。そしてこの日の勝負は終了し、残りの生徒達は翌日挑戦することになる。
独り言
戦闘技能がないのに冒険者学校へ行く人は、主に生産職の人。フルメタルな錬金術師とかは戦闘職だけど、錬金術師の多くはアイテムを作る生産職。
生産職が冒険者学校に行く理由は、素材採取能力の育成及び自衛手段の確保。加えて同業者との交流、未来の顧客の確保といったコネを作る側面もある。なので賄賂や生成物は用意しておくもの。レギオンの作成という集団での行動はコネを作りやすいので、願ったり叶ったり。
戦闘職としても優秀なアイテムを生産できる者とのコネは重要。よって、コネを理解していない人はレギオンに加入する価値を見いだせない。生徒はともかく、教師はそれでいいのか?