オレ達問題児ですか?テメェだけじゃねぇけどな。
未だに入学式翌日の午前中である。
「は?5分でクリア?」
2日目、ダンジョンに挑戦してなんとかクリアしたりクリアできなかったりを繰り返し、最後の生徒による挑戦が始まった。両クラスの面々が勝負の結果を待ちながら揃い踏みしていた。そしてその最後の組がリヒアとヒヨワードのペアだったのだが、あっという間に終わってしまった。
「晴れる屋店員ならありえるのか?」
通常はあり得ないタイムだが、カオスは常識の外にいる人達に心当たりがある。そしてカオスの呟きを聞いて天組の数人が納得せざるをえない。
「リヒアさんは晴れる屋の店員でしたか。それならこの結果も……」
「納得できるか!」
納得するカテリアに憤慨するロート。特にロートは14分というかなりの好タイムである。天組地組の選手以外のタイムと比較すれば、断トツに速い。ただ、比較対象がおかしいだけで。
「ですが晴れる屋の店員ならダンジョンの壁を通り抜けて真っ直ぐ進んでも違和感がないのですが」
「晴れる屋の店員は幽霊か何かなのか!?そしてそこ頷くな!」
ボケか本気かわからないカテリアの感想にロートは突っ込んだ。なお、カオス始め晴れる屋を知っている者達は、さもありなんと頷いていたが。
蛇足だが、量子力学の世界では限りなく低い確率で人間でも壁を通り抜けれるため、あり得ない話とは言いきれない。どのくらいの確率かというと、0でないけど0として扱う確率より遥かに低い確率を何乗も繰り返したくらいの確率で。
「加えるなら魔法やスキルを使わずにできそうなんだ。そこが彼処の住人のヤバいところだ」
好き勝手言っているが、晴れる屋在籍のリヒアは自分達には無理だと知っている。店長ならできるかもしれないとは思っていたが、カオス達の晴れる屋に対する偏見と似たようなものである。
「お前の中で晴れる屋は化け物しかいねーのかよ?」
カオスの補足にヴィンは呆れている。
「どっちかというとビックリ箱だな。見た目は普通なのに、油断していると変なモノが飛び出すと言う意味で」
ある意味、化け物より質が悪かった。
「けど、どーやったんだ?貫通した訳じゃねーんだろ?」
ヴィンが質問する。
「ヒヨワードを背負って、全速力で最短経路を駆けた」
なので1番軽いヒヨワードが相方だった。そしてその結果が強い揺れによるグロッキーである。途中で気絶して、今も眼を覚まさない。まあ気絶していなければ吐いていただろうが。
「どーすりゃ階段の場所が解かんだよ?」
「風の流れと音の反響だ」
要するに、エコーロケーション。この世界では知られていないので、それだけじゃわかんねーよとヴィンが思っても不思議はない。まあ盲目の人には理解できる可能性はあるが。しかし、
「成る程、それなら頑張れば私達でも……」
「流石に無理だ」
ロートはキッパリ断言する。
「しかし彼処の住人ならわかりそうなんだよな」
それでも通用するのが晴れる屋の店員である。ヴィンもロートも考えるのを止めたが、正解である。なお、ケイは一連のやり取りの間に、何か応用できそうな事があったのかメモをとっている。異世界には物に超音波をぶつけて内部が壊れてないか調べたり、地面にぶつけて空洞を探知したりする手法もあるので、そういった機具が発明される可能性はある。
「ところでヒヨワードはどーすんだ?回復使いがへばってんぞ」
多分、大丈夫じゃない。白目を剥いて気絶している。
「地組には他に治癒魔法の使い手もいないし、道具を使って起こすには勿体ない。天組から融通して貰うのもありだろうが、流石に真っ向勝負の結果の負傷を直してくれは図々しいな。だからこのまま寝かせておこう。そっちの方が回復も早いだろうしな」
ちなみに彼がリヒアの相方に選ばれたのは、体重が1番軽いからである。彼をを背負って壁を蹴りながら高速で移動を続けた結果がこのタイム。正攻法では最速の記録更新である。人を荷物の様に扱うのを正攻法と言うかどうかの議論は置いておくとして。
「ところで、シド用務員が後ろをつけてんだと思ったが、どーなんだ?」
ヴィンは話題を変えた。
「途中までついてきていた。途中で気配が消えたが、最後、先にゴールにいた」
なんで正規の先生じゃないのこの人。他の先生より能力は上でしょ。
「転移系の道具か何かか?」
「空間の揺らぎは感じなかったから、多分遠回りで先回りされたはずだ」
わかるんだ、空間の揺らぎ。考えるのを放棄した一堂は話題を変える。
「そういやケイのとこは予定より時間かかってんな。何かやったのか?」
再度話題を変える。
「それはこれです!」
しかし応えたのはリーンだった。彼女は紙の束を取り出し、皆に一枚ずつ配る。
「これは……新聞か?」
カオスとヴィンが顔をひきつらす。
「……赤と青の二色がついた写真なんて初めて見ました。しかも混ざって色々な紫もありますし」
「……写真って印刷する事ができたのか」
何故ケイは冒険者学校にいるのだろうか?カテリアとロートが未知の技術に戦いていた。
「完璧なカラーじゃないから未完成だけどね。まあ材料さえあれば問題なく完成しそうだけど」
ケイは事も無げに言った。実際、黄色を焼き付けたらカラー写真及びカラープリンタとしての体裁は完成する。最終的には色の微妙な調整や黒の追加等が残っているが、原理は既に完成していると言ってよい。
「そういえばカメラを2つ使ってたな」
シド用務員が割り込んできた。
「試作だったんで、念のため白黒カメラを用意してたんですよ。結果的に必要ありませんでしたが」
実に用意周到である。
「わざわざ二ヶ所掘りましたものね」
とはリーンの言葉。
「聞き捨てならないわね。本気なら2戦目で決着がついたとでも言いたいのかしら?」
不真面目さにカテリアはキレかかっている。
「勝負より新聞の方が重要です!」
「発明品の御披露目としては丁度いいと思った」
勝負なんかどうでもいいとばかりに力を注いでいた。まあ、カオスや他のクラスメートも3戦目で勝つ予定でいたから、目くじらを立てる必要はなかった訳だし、地面貫通組の中では遅いだけで正攻法擬き最速のリヒアより早い訳だし。それで通用するのはクラス内だけで、カテリアが納得できるはずが
「真面目にやった結果なら仕方がないわね」
カテリアは納得した。彼女も彼女でずれている。カオスを真面目と称すだけの事はある。
「そういうタイプか。けっこうチグハグな人種だな」
「カオス以外にも納得できる奴がいんのか」
シド用務員は納得し、ヴィンは色々諦めた。
「話は変わりますけど、シド用務員がいた世界には、どんな武器とか道具があったんですか?」
これはまずい。むしろ推奨する性質のカオスは思ったが、止める理由が不自然だから諦めた。
「そうだな。武器だと銃だな。刀もロマンはあるが」
シド用務員は遠くない未来に後悔する事となる。それを予見できたのはカオスだけである。
「物質を気体に変え、体積を増やして、その勢いで弾を飛ばすのね」
「複数の金属、性質が違う薄い物を重ね合わせるのか」
しっかり質問しながらノートに記入していく様は優等生にしか思えない。真面目ねとカテリアは思っていたが、
「……そいつぁ、歴史が変わんな」
ヴィンの呟いた言葉に本当の意味で気がついたのは、銃によって戦争がどのように変容してきたかを把握しているシド用務員だけだった。
「個人の力量より装備が重要という説明だと、確かに戦術は大きく変わるだろうな」
「いや、政略から変わんだろ。短期間の訓練で一流の戦士になんだぞ。簡単に数を揃えれんし、戦場から英雄が要らねーようになっちまう」
ヴィンがそう言うならそうなのだろう。広い視野という点においてこの友人は自分より広く遠くまで見渡せる。だから本当に政略から変わるのだろう。逆にヴィンからしてみれば、カオスはよくそんな些細な綻びに気がつくなと、発想の切り替えについては頼もしく思っている。彼等の視点は顕微鏡と望遠鏡の違いみたいなもので、肉眼視点の普通の人からすれば、どちらも凄いで結論がつく。
そんな中、リーンは録音機を取り出した。それが何か知らない生徒はきょとんとしていたが、
「待て、昨日の今日だよな?」
シド用務員が確認する。この世界の録音機とは明らかに違うが、ミニサイズのレコードっぽいそれが録音機だと理解してしまった。
「理論を聞いて作りたかったから、作りました」
何か問題でもと本気で疑問に思っているケイに対して、軽い頭痛で頭を押さえるシド用務員だった。
『★▲◯◇✕……』
「うわ、本当に違う言語に聞こえますね」
「へー。こうなるんだ。どうにかして改造できないかな?」
そんなケイの一言に、改造するんだろうなと、ケイを理解し始めた人達は思った。
「何日かかると思う?俺は10日を予測してるが」
「刀と銃に1日ずつ使って2日、作って改良点を見つけて更に2日、そこからだから計5日でどーだ?」
いや、それは早すぎだとリーンを除くクラスメートとカテリアを除く天組は思ったが、
「同時並行なら1日で作れませんか?」
「流石に1日は解決策を探すのではないでしょうか?だから3日ですかね?」
通信機を見ている2人はもっと早い予想をしていた。だから何故早くなるのか、ロートでなくても疑問だった。そんな中、話題の人は何を言うかというと、
「1度やってみたい事はあるけど、どう考えても材料が足りないんから、多分もっとかかるよ」
ああ、そういう問題があったか。いや、そういう問題なのか?ケイの一言に対する一堂の感想は2つに割れた。どちらがどちらの感想を抱いたかは解りきったことである。
「昨日の今日でもう対策考えてたのか?実際はどうなるか確認してないのに」
わりかし非常識も想定内で納めがちなシド用務員だが、それでも予想外だった。ぶっちゃけ、落とし穴は想定内だし、録音機もあり得るとまでは考えてた。声帯模写は想定外だが。そして録音機を今日持ってくるまで考えてたのだが、既に対策を考えているとは思わなかった。加えるなら、持ってくるなら天組側、地組は持ってない事がわかっていたから。だから地組が取り出したのは予想外だった。
「?カオスが言うならそうなんでしょ?だったら通訳魔法で音が変換される訳ではないと判断したから、そこから対策を考えるに決まってますよ」
言いたいのはそういう意味では無いのだが、シド用務員は訂正するのを諦めた。
青一色の写真、赤一色の写真、黄色一色の写真を撮って一枚の写真に合成するのがカラー写真(初期)の大雑把な説明。カラープリンタも似たようなもん(実際には三色だと綺麗な黒を作れないため、追加で黒色の四色を重ねているが)。ケイはこの内赤と青だけの写真を作って合成している。
銃の運用について、ヴィンは恐ろしい事に尾張のうつけと同じような視点で考えている。聞いただけの武器の性質で、なんでそこまでわかんねん?
因みに銃を用いた兵士運用のための基本的戦略は潤沢な装備の武装集団による集団戦法。それを可能にするのはいい武器を集める財力と、それを運用する多くの兵士を集める事。ようは富国強兵政策。
一対一とか単騎駆けとかが意味をなさなくなる。というより、尾張のうつけは一対一を要求した敵将に集団で射ちまくってたような。
後をついだ秀吉も基本政略は同じ事をやったのに、徳川~。なんで武家に一対一のための武芸仕込むねん?文化的には悪くないんだが、軍事的には退化している。それが改善されるのは幕末、高杉晋作の奇兵隊となる。
対極はドラクエとかFFとか大概のRPGに置ける少数精鋭。この世界がどちらの世界に近いかは言わずもがな。
録音機の改良点……というより、通訳魔法の理論の問題。例えば日本語で話した場合、アメリカ人には英語で、中国人には中国語で聞こえるはずである。どう考えても喋った音が変換されている訳ではない。翻訳魔法(受信)なら音を変化させている可能性はあるのだが、シド用務員のは送信側。ケイは通訳魔法とは何かから考えて、可能性として◯◯があると考えての対策。ケイの的外れな可能性もあるが、下手な鉄砲も数射てば中る。




