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オレ達問題児ですか?山火事にしてねーぞ。

「あー、糞。なんで襲われるかなぁ?」


 薄い緑のボサボサ頭にダークブラウンの瞳の少年、ケイ・クロムウェルはけだるそうに呟く。


 呟きながらも、馬車の中から手に持った重そうな連射式自働弓のハンドルを回して矢をばら蒔き、襲いかかる魔狼の群れを追い払っている。変わり種ではあるものの、錬金術師と呼ばれる人である。本来は切った張ったとは異なる立場の人間なので、戦士のような体つきであろうと命中率は低い。



「決まってんだろーが。このタイミングで考えられんのは2つ。


 たまたまか、冒険者学校の入学試験か。んで、御者のおっさんに動揺が無さすぎっから、試験だ」


 御者をぶん殴って気絶させ、馬車を動かしているのはオールバックの白い髪に赤い瞳、八重歯が鋭い悪役顔の少年、ヴィン・テトムである。


 普段から不機嫌そうな顔で、今も不機嫌そうだが、これは素である。


「成る程。しかしこれは良い武器だな」


 同じく連射式自働弓で魔狼を射いているのは、長めの金髪が天を衝いていてどのくらい時間をかけてセットしているのか疑問な少年。攻撃力が不足気味で倒せてはいないが、複数発当てれば行動不能まで追い込めている。


 金髪の少年は黒いめを煌めかせて笑いながら戦っている。名はカオス・スティングマン。


 此方は初めて扱ったために、徐々に命中率が上がっており、百発中九十八発くらい当たっている。



 カオスは練習が終わったと次の手段に入る。


『凍てつく波動を纏え』


 カオスは呪文を唱えた。


((氷の付与術式?))


 残り2人は詠唱から術式を読み取る。威力はないが、武器に氷の魔力を加える簡単な魔術である。


 氷な魔力を帯びた矢が次々に


魔狼を貫き凍てつかせていく。一撃で次々と動きを封じていく。



『留まらぬ意志を纏え』


((今度は風?))


 矢が魔狼に刺さった瞬間、風が拡散し、ずたぼろに切り裂く。威力は氷の方が高く、拡散し複数に影響を与える風の方が大量の敵に対しては優秀である。



 地は今回の足留めには向かない、そして炎は


「炎は最後の手段な」


「残念」


 ヴィンの釘が素直に刺さった。山火事になる恐れがあるからだ。


「新しいオモチャをもらったガキみたいだな」


 ケイがカオスに対して忌憚ない意見を述べる。


「否定はしないさ。自働弓、それも連射式なんて普段使う機会はないしな。それを作れる君は凄いな」


「え?本当にガキのメンタルなの?」


 ケイの核心を突いた言葉だが、未来のヴィンならツッコミをいれる。テメーが言うなと。


 誰かが持っているからオレも欲しいから、誰かのより強い方が良いから、昔からそんな考えのケイもガキのメンタルだった。ただし、駄々っ子にならないのは自分で作って自分で強化させるという強い意志が、良くも悪くも普通のガキとは違った面である。嫉妬が向上心に変わる良い例である。


 そういう意味ではケイとカオスは似た者同士であるが、カオスは未だケイの本質を知らない。



「ふっ!子供心を忘れないと言ってくれ!」


 馬車の中で2人が魔狼を射殺しながらも心暖まる会話をしている一方、


「お前らそんな会話するならもっと狙って射てや!」


「錬金術師に射撃センスを期待してもねぇ」


 ケイは狙った場所に飛ばせる器用さはあるものの、狙った場所から動かれては当たるものも当たらない。本来はケイが使うような武器ではないのだ。むしろ、彼に関しては適性の無い無駄に性能の高い武器を自作しているのがおかしい。だから今回の様に、誰かに武器を貸す事で真価を発揮する。当人に自覚はないが。



「喋りながらでも余裕で当たるぞ」


 カオスの方は動きを先読みして、無駄話をしていても十分に当たる。こちら、的当てだと思っている。競争相手がいないのが不満だが。



「山火事にしたら火事から逃げ切れる?」


 ケイにはその程度の案しか残っていない。逆に考えれば、それだけの切り札は残しているということだが。


「てめえら山火事好きだな!オレも大好きだが自信ねぇーし最後の手段な!」


 逆に言えば、逃げ切れると判断すれば山火事にするのを肯定している。しかし未だその時ではない。


 なお、この3人の技能を合わせれば山火事から余裕で逃げ切れた。事前の調整がなく、話し合う時間もないから仕方がないが。



 だからこの状況を打破するのはもう一人、カオスの役割になる。


凍てつく波動を纏え(留まらぬ意志を纏え)


 1つの口から同時に紡がれる全く別の2つの呪文。


「そんなのあるの?」


「同時詠唱ってそういう意味じゃないだろ!」


 どんな有名な魔法使いだってそんな事はしない。記録にも残っていない。故にその効果は未知数。



くらえ(当たれ)!」


 自働弓から放たれる氷と風の力を帯びた矢の連射は、次々と魔狼に刺さり、そこから氷の波動を拡散させ、まとめて魔狼を凍てつかせ、そして切り裂いた。


「はっはっはっ!職業遊び人から(二重会話のスキル、)遊び心をとって(遊び人を代表する)どうするんだ(スキルの1つだぜ)()


 1つの口で話しながら別の話を同時にする。遊び心溢れた無駄に高度な技術である。それを習得しようとする魔法使いは普通はいないため、1人同時詠唱という変態技を使えないだけで。


 逆に言えば、昔から一部の遊び人の切り札としては存在した。したのだが、そもそも遊び人が戦闘に赴く事がほとんどなく、使う機会もなかったため誰も知らないというオチである。



「よし、今度は複数の魔力を帯びた矢を射てるように改造しよう」


 カオスの1人同時詠唱が羨ましいケイだった。そう簡単に作れるものではないが、明日にはできているのが彼のクオリティーだったりする。どのくらいかかるのかワクワクしているカオスが、できたら買おうと思ったヴィンが、明日には出来上がている完成品を見て共に驚くのは確定事項である。



「何で遊び人が冒険者学校に行こうと思ったんだよ?」


 カオスの戦闘能力はわかったものの、別に冒険者学校に行かなくても良いと思ったヴィンは質問した。


「その方が面白いだろ!」


「同意できるか!んなもん!」


「バカな!?」


「バカはお前だ!」


 むしろ、何故同意されると思ったのか?



「そっちの錬金術師はどうなんだ?」


「…………しかし重量を重くなり過ぎると使いにくいし…………方向性が…………あーけど…………」


 件の錬金術師は声の届かない思考の迷宮の中で何かぶつくさ言っていた。


「錬金術師としてその在り方は正しいんだろうが、何で冒険者学校に行くんだ?」


「面白いからだろ!」


「そりゃお前だけだ」





 冒険者学校入学時試験。入学のための移動中の生徒に対してモンスターをけしかける、一種のドッキリである。この3人以外に、違うルートや時間で来る者に対しても、同様な仕掛けを行っている。そしてその対応等から判断して成績を付けるのだが、試験官を速攻で気絶させたのは長い歴史の中で彼等が初めてだった。試験官に魔物の中へ突っ込まさせられる危険な可能性を避けたいとは、実際に気絶させた白髪の男のコメントである。


 因みに残り2名は


『いくら考えなしでも御者を攻撃はしないさ。だから考えがあっての事で、その理由をオレには考えつけない。ならそんな事を考えられる賢い仲間に任すべきだろ?』


『何か意図があったんでしょ。ならそれでいいじゃん』


 彼の行動について好意的に受け止めていた。


『冒険者学校に行くやつ2人いりゃなんとかなるし、最悪山火事にすれば自分だけは助かる自信はあった』


 とは今回の騒動に対するヴィンの最終的なコメントである。



 この時、彼等はまだ知らない。いや、彼等の周囲、教師や先輩達は知らない。学校生活で前代未聞を繰り返し、多大な被害を与える事を。規則の範疇をきっちり守りながら常識を無視するところから、光と闇が混じりあった状態、混沌と呼ばれる事を。そして混沌と称される生徒彼等だけではなく、1クラス全員だと言うことを。そのリーダーの名はカオス(混沌)だという事を。





 これは後生、混沌の世代と呼ばれる者達の被害が、まだ学園に閉じ込められていた頃の話である。





ステータス

 E 日常生活に支障あり

 D 日常生活で問題なし

 C 冒険者として苦手な分野

 B 冒険者として普通の分野

 A 冒険者として得意な分野


 これ等は年齢によっても変更される。子供は総じて低い、年をとると体力や反応が鈍る等。


レベル

 全ての能力へ補正する数値。経験を積むと上昇するが、敵と戦わなくとも上がる時には上がる。新しい遊びを考えるとか、新発明を作るとか、実験するとか、素振りをするとかでも上昇する時は上昇する。

 この世界では戦闘中にレベルが上がり、新しく覚えたスキルで大逆転とかよく聞く話である。レベルアップして新しく覚えたスキルを使いこなせないで敗北も、よく聞く話である。

一般的兵士   レベル20台

優秀な兵士   レベル30台

国を代表    レベル40台

世界を代表   レベル50台

人類史を代表  レベル60から

規格外     レベル100から



スキル等は判明しているもののみ記載


カオス・スティングマン(入学時)

レベル14

【全てを全力で遊ぶ】【遊び人】

筋力  +C

体力  +C

敏捷  -B


魔力  -B

精神力  A

知力   A


知覚  -A

器用  -A

反応  +A


【遊び】【二重会話】

 二種類の言葉を同時に紡ぐ技法。熟練度次第では喋りながら息を吸ったり、声の音程を変えてハモらせたり、色々応用がきく。本来の使い道は1人デュエットである。


【付与術式】

 武器に魔法の属性を付与するのが一般的な使い方。木の棒に光の魔法を付与して『燃えない松明』として使ったりも可能。武器に回復魔法を付与したものは、拷問やその手のプレイに用いる事もある。


総評

 戦える遊び人。ステータスも軒並み優秀で簡易的な魔法と極まった遊びによる戦闘行動により、戦闘職ではないものの戦闘職と同等の戦闘能力の持ち主。


ヴィン・テトム(入学時)

レベル12

【似合わない思考型な】【???】

筋力  -B

体力  -B

敏捷  +C


魔力   C

精神力 +A

知力  +A


知覚  +B

器用  +B

反応  -B


総評

 口の悪い切れ者。バランスの良い頭脳派。学生の身体能力としては優秀でも年齢の分冒険者平均よりは低い。職業は未だでていないので不明。


ケイ・クロムウェル(入学時)

レベル10

【何かがおかしい】【錬金術師】

筋力  +C

体力  +C

敏捷  -B


魔力  -C

精神力 +B

知力  -A


知覚  +B

器用  +A

反応  +C


【錬金術】【撹拌】

【錬金術】【抽出】

【錬金術】【形成】

 物質を混ぜたり別けたり形を変えたり。木材に石や金属を練り込むということも可能。錬金術の基礎の基礎なので、錬金術師でなくても習得可能。



 変わり種錬金術師。真理の探求や賢者の石といった究極を目指すのではなく、目に写った物をコピーするクラフトマンである、それをいつの間にか改良している人である。錬金術はそのための手段である。あと、細マッチョ。

 因みに、某サイトの未来でヤバい物を作っている。




作者の独り言

軍師というジョブはない。リーダーというジョブもない。



当初予定では山火事予定だった。



リーダーは名字と名前どちらをカオスにするか迷った。



戦闘中に覚醒という要素とレベルという要素を組み込むと、戦闘中にレベルアップするシステムにならざるをえない。



知力が高くて賢いと呼ばれても、賢さの種類は色々とある。この3人は賢いが全て別の方面を向いている。



二重会話は無敵超人の技能。宴会芸なので遊びスキルになった。



【前称号】【後称号】は最近のVenus Bloodから。ただし一般兵限定で。武将の称号に前後はない。

武将の【筋トレはまだまだ続く】や【ソーマカノン発射ァッ!】を始め、『称号』の意味に首を傾げるもの多数。因みに昔は『二つ名』だったが、こちらも辞書を引きたくなる事多数。


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